「一人会社」とは|副業を法人化するメリット・デメリットを弁護士が解説

「一人会社」とは|副業を法人化するメリット・デメリットを弁護士が解説

公開日:2023/3/8

会社員の方が行う副業は、個人事業として行うケースが大半と思われますが、状況次第では会社を設立する(法人化する)方がよい場合もあります。
社長だけの「一人会社」も設立できるので、法人化のメリット・デメリットを考慮した上で、どのような形で副業を行っていくかを検討しましょう。

今回は「一人会社」の概要と、副業を法人化するメリット・デメリットなどをまとめました。

「一人会社」とは

副業を法人化する際には、「一人会社」と呼ばれる形態がとられることが多いようです。

「一人会社」とは、社長が一人で経営する会社をいいます。他の役員はおらず、従業員も雇わないため、実態は個人事業に等しいというべきでしょう。

ただし、個人事業と一人会社(=法人)では法律・税制上の位置づけが全く異なるため、法人化をきっかけにさまざまな変化が生じます。そのため、両者の違いに着目して検討し、法人化のメリットが大きいと判断した場合には、副業について一人会社を設立するとよいでしょう。

なお、一人会社の派生形として、社長の家族のみが役員や従業員として参画するパターンもあります。この場合は「家族経営」などと呼ぶべきでしょうが、実質的に社長が経営を支配しているのであれば、一人会社とほぼ同じです。

本記事では、一人会社に加えて家族経営も想定しつつ、副業を法人化するメリット・デメリットを紹介します。

副業を法人化するメリット

副業を法人化するメリットとしては、主に以下の3点が挙げられます。
(1)金融機関・取引先に対する信用力がアップする
(2)事業主(社長)の責任が限定される
(3)税金が軽減される場合がある

金融機関・取引先に対する信用力がアップする

一般に、法人は個人事業主よりも信用力が高いため、融資が受けやすく、大口の取引先を獲得しやすいなどのメリットがあります。
副業を拡大して独立したい場合などには、早い段階で法人化するのも有力な選択肢でしょう。

事業主(社長)の責任が限定される

株式会社と合同会社には「有限責任」が採用されており、株主(社員)は会社の債務を支払う義務を負いません(保証している場合を除く)。
会社が万が一不祥事を起こし、他社から多額の損害賠償を請求される事態になっても、有限責任によって社長個人の資産は守られます。

ただし、社長が悪意または重大な過失によって他社に損害を与えた場合、社長個人も損害賠償責任を負う可能性があるのでご注意ください(会社法429条1項)。

税金が軽減される場合がある

個人事業を法人化すると、所得等の状況によっては、納税の負担が軽減される場合があります。

個人所得に対しては、年間所得額に応じて5.105%~45.945%の所得税(復興特別所得税)が課されます。住民税の10%を併せると、トータルの限界税率は最大55.945%です。

これに対して法人の場合、年間所得が800万円以下であればトータルの税率は25%程度、800万円を超えた部分の限界税率も35%程度となります。

個人所得と法人所得の限界税率は、所得が低いうちは個人所得の方が低率です。しかし、ある金額を境に逆転して、所得が高額になると法人所得の方が低率になります。

したがって、副業による所得が一定以上に達した場合には、法人化した方が手元に資金を多く残せる可能性があります。
ただし、将来的に会社から社長などへ退職金を支払う場合には、その段階で所得税・住民税が課税される点に注意が必要です。

副業を法人化する最大のデメリット|税金に関する手間がかなり増える

個人事業を法人化した際、多くの方にとって最大のデメリットとなるのは、税金の申告・納付の手間が大幅に増えることでしょう。

特に、法人税等の確定申告は非常に大変です。税理士に任せることもできますが、依頼費用がかかりますし、社長自身の手間が全くなくなるわけではない点にご注意ください。

法人税等の確定申告は大変

個人事業を法人化した際、一番手間がかかるのが法人税等の確定申告です。法人税等の申告書は、個人の確定申告に比べて量が膨大であり、作成に多大な手間を要します。

さらに法人税等の確定申告は、申告先が複数にわたるのもたいへん面倒です。

個人の確定申告は、原則として所轄の税務署1か所で行えば足ります。住民税については、税務署に確定申告書を提出すれば、自治体への申告は不要です。
これに対して、法人に課される税金は以下のとおり細分化されており、税務署・都道府県税事務所・市町村(税事務所)へ別々に申告・納付しなければなりません。

税目 申告先
国税 法人税、地方法人税、消費税、特別法人事業税 税務署※1
都道府県税 法人都道府県民税、法人事業税 都道府県税事務所
市町村税 法人市町村民税※2 市町村

※1特別法人事業税は国税だが、都道府県税事務所に申告・納付する
※2東京23区の場合、法人市町村民税は法人都民税に一本化されており、都税事務所に申告する

源泉徴収・住民税の特別徴収も発生

また、個人事業を法人化した場合、社長自身を含めた役員・従業員に支払う給与につき、会社に源泉徴収義務が発生します。
さらに、家族経営などで給与を3人以上に支払っている場合は、原則として住民税の特別徴収も必要になります。

法人の税務申告・納付の年間スケジュール

※事業年度1年間、3月決算、源泉所得税と住民税の特別徴収について納期の特例を適用

1月20日 源泉所得税(前年7月~12月分)の納付期限
1月31日 償却資産申告書の提出期限
2月28日 固定資産税・償却資産税(前年第4期分)の納付期限
4月30日 固定資産税・償却資産税(第1期分)の納付期限
5月31日 法人税等・消費税の確定申告・納付期限(決算期の2か月後)
6月10日 住民税特別徴収税額(前年12月~5月分)の納付期限
7月10日 源泉所得税(1月~6月分)の納付期限
7月31日 固定資産税・償却資産税(第2期分)の納付期限
11月30日 法人税等・消費税の中間申告・納付期限(決算期の8か月後)
12月10日 住民税特別徴収税額(6月~11月分)の納付期限
12月31日 固定資産税・償却資産税(第3期分)の納付期限

副業を法人化するその他のデメリット

税務申告・納付の手間が増えること以外に、副業を法人化するデメリットとしては、以下の3点が挙げられます。

(1)社長が常勤の場合、社会保険への加入義務が生じる
(2)税務調査の可能性が上がる
(3)会社のお金は自由に使えない

社長が常勤の場合、社会保険への加入義務が生じる

法人化によって会社の常勤役員となる場合、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入義務が生じます。

副業を法人化した場合、「本業があるから常勤ではなく非常勤だ」と説明できるかもしれません。それでも、社長が会社に対して経常的に労務を提供し、かつ役員報酬が労務の対価として経常的に支払われている場合には、社会保険に強制加入となる可能性があるので注意が必要です。

なお、会社の代表者・役員が社会保険に強制加入となるかどうかは、以下の要素などを考慮して判断されます。
・会社の事業所に定期的に出勤しているかどうか
・会社における職以外に多くの職を兼ねていないかどうか
・会社の役員会等に出席しているかどうか
・会社役員への連絡調整、または職員に対する指揮監督に従事しているかどうか
・会社において、求めに応じて意見を述べる立場にとどまっていないかどうか
・会社より支払いを受ける報酬が、社会通念上労務の内容に相応したものであって、実費弁償程度の水準にとどまっていないかどうか

税務調査の可能性が上がる

会社は個人事業主に比べて、税務署による税務調査が実施される頻度が高いことで知られています。

適切に納税していれば、税務調査を受けても基本的には問題ありませんが、税法解釈の相違によって修正申告を求められることもあります。
また、税務職員への対応そのものに労力を要するため、税務調査の可能性が上がる点は、法人化のデメリットの一つといえるでしょう。

会社のお金は自由に使えない

社長が会社の株式(持分)を100%保有していても、あくまでも会社と社長は別人格です。したがって、会社の財産は会社のものであり、社長が会社の財産を自由に使うことはできません。

「役員貸付」という形で、会社から社長に資金を貸し付けることは可能です。ただし、役員貸付については以下の点にご留意ください。

・金融機関から融資を受けようとする場合、役員貸付は審査上マイナスに働く
・役員貸付を受けた場合、社長は会社に対して利息を支払う必要がある*1
・長期間返済しないと、役員賞与とみなされる可能性がある(社長には所得税・住民税が課され、会社の側では損金不算入となって法人税等が課される)

まとめ

副業が軌道に乗ってくれば、独立も視野に法人化を検討するという方が多いようです。

しかし、法人化は必ずしもメリットばかりでありません。仮に独立するとしても、状況によっては個人事業のまま続けた方がよいこともあります。
必要に応じて専門家のアドバイスを受けながら、ご自身にとってもっともよい形をご選択ください。

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この記事を書いた人

阿部 由羅

ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。公式サイト→https://abeyura.com/

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