引っ越し前に要チェック!借り主が負担すべき原状回復の範囲は?何をいくら払う?

引っ越し前に要チェック!借り主が負担すべき原状回復の範囲は?何をいくら払う?

公開日:2023/3/15

賃貸物件を退去する時、心配になるのが原状回復費用の精算です。
原状回復の内容は賃貸物件により違いがありますが、入居者側に修繕費用の負担が発生する場合があり、オーナー側とトラブルになることがあります。
無駄なお金を支払わないためには、原状回復で入居者が負担する範囲を理解しておくことが必要です。

そこで本記事では、原状回復で入居者が負担するケースや特約で注意すべきことについて解説します。
引っ越しシーズンの春を迎えるにあたり、特に引っ越す可能性がある方は参考にしてください。

目次

原状回復とは

原状回復をめぐるトラブルはいまだに増加が続いている状況です。
そのため、国土交通省ではトラブルを未然に防ぎスムーズな解決を目指すため、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」で一般的なルールを示しています。

ここでは、原状回復の概要について分かりやすく解説します。

借りた部屋を入居時の状態に戻して貸主に返す義務

原状回復とは、賃貸住宅の賃貸借契約が終了後、借主(賃借人)が退去する際に、借りた部屋を入居時の状態に戻して貸主(賃貸人)に返す義務のことです。

なお、2020年4月1日から「民法の一部を改正する法律」が施行され、賃貸借契約に関する
民法のルールが一部変わりました。*1

「原状回復」について改正民法が適用されるのは、原則として「施行日(2020年4月1日)より後に締結された賃貸借契約」です。それ以前の契約については社会的な混乱を防ぐために、改正前の民法が適用されます。*2

基本的に、借主が通常の使用方法により使用していた状態で、借りていた部屋をそのまま貸主に返せばよいとするのが一般的です。*3

借主が手入れをしない、あるいは不具合を貸主に通知しないなど、管理が悪いため損耗が発生拡大したケースでは、借主に善管注意義務違反等があるとみなされ、借主側に責任が及びます。*4
なお、善管注意義務とは「社会通念上、要求される注意を払う義務」を指しています。

借主の責任によらない損傷については原状回復義務を負わない

2020年(令和2年)4月に施行された改正民法では、借主の原状回復義務及び収去義務等が明確化されました。したがって、借主は通常損耗(日常生活で生じる傷や汚れ)や経年変化(時間の経過とともに住居が損耗)については、原状回復義務を負わないことが明記されています。

したがって、入居した時の状態と完全に同じ状態に戻すということではありません。普通に生活しているうえで生じた汚れについては、貸主から請求されたとしても応じる必要はないのです。次の入居者を確保する目的で行う設備交換や、物件をグレードアップするためのリフォームについては、貸主が負担すべきとされています。

下図1のように建物の価値は築年数が経過するごとに低下していきます。
通常損耗や経年変化についてはすでに賃料に含まれているとみなされ、借主の負担部分とはされておりません。なお、地震など災害による損耗や上階の居住者などが原因による損耗も、借主が負担する必要はないことを覚えておきましょう。*5

国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」

図1)出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」 P9
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf (1.7MB)

退去する際は「払うべき費用」と「払わなくても良い費用」がある

借りていた部屋を退去する際には、貸主から原状回復費用の精算を求められる場合があります。

ここでは、退去する際に「払うべき費用」と「払わなくても良い費用」について事例を挙げながら解説しましょう。

払うべき費用【入居者負担:故意過失】

借主が払うべき費用は、借主の故意過失により発生した居室内の損耗です。
具体的な例としては以下のケースが挙げられます。(下図2)

・畳やフローリングの色落ち(雨が吹き込んだ場合)
・冷蔵庫下のサビ跡
・引越作業で生じたひっかきキズ
壁(クロス)・天井 ・キッチンの油汚れ
・結露を放置したことにより拡大したカビ、シミ
・タバコ等のヤニ、臭い
・壁等のくぎ穴、ネジ穴(下地ボードの張替が必要な程度のもの)
・落書き等
建具(襖、柱など) ・ペットによる柱等のキズ・臭い
・落書き等
設備、その他 ・ガスコンロ置き場、換気扇等の油汚れ、すす(借主が手入れを怠った場合)
・風呂、トイレ、洗面台の水垢、カビ等(借主が手入れを怠った場合)
・日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備の毀損
・鍵の紛失または破損による取替え
・戸建賃貸住宅の庭に生い茂った雑草

下図2)出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」P25
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf (1.7MB)

貸主側が負担するのは、故意あるいは自分の不注意、管理不足により生じた損耗です。
例えば、引越し作業で生じた引っかきキズやタバコによるヤニや臭い、ペットによるキズや臭いが挙げられます。

借主には善管注意義務が求められるため、居室内や設備が傷まないように、日頃から十分気をつけて生活する必要があります。

法務省「賃貸借契約に関するルールの見直し」

図3)出典:法務省「賃貸借契約に関するルールの見直し」 P4

払わなくても良い費用【オーナー負担:経年劣化・自然損耗】

貸主は借主の責任によらない部分(経年劣化・自然損耗)については、自ら修繕する必要があります。具体的な例は以下のケースです。(下図4)

・家具の設置による床などのへこみ
・畳の変色、フローリングの色落ち(日照、建物構造欠陥による雨漏りなどで発生)等
壁(クロス)・天井 ・テレビ、冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(電気ヤケ)
・壁に貼ったポスターや絵画の跡
・クロスの変色(日照などの自然現象によるもの)
・壁等の画鋲、ピン等の穴 等
建具(襖、柱など) ・網戸の張替え(破損なし)
・地震で破損したガラス 等
設備、その他 ・専門業者による全体のハウスクリーニング(借主が通常の清掃をしている場合)
・エアコンの内部洗浄(喫煙等の臭いなどが付着していない場合)
・消毒(台所・トイレ)
・浴槽、風呂釜等の取替え(破損等はしていないが、次の入居者確保のために行うもの)
・鍵の取替え(破損、鍵紛失のない場合)
・設備機器の故障、使用不能(老朽化)

下図4)出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」P25
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf (1.7MB)

借主が日常生活を送るうえで発生する損耗は負担する必要はありません。
例えば、家具の設置による床のへこみや、冷蔵庫の後部壁面の黒ずんだ電気ヤケは通常損耗に該当します。

鍵の取替えも借主の不注意で破損したり紛失したりしない場合は、貸主側の負担とされています。

法務省「賃貸借契約に関するルールの見直し」

下図5)出典:法務省「賃貸借契約に関するルールの見直し」 P4

入居中に発生した損傷は火災保険で賠償できる場合もある

近年は賃貸借契約を締結する際に、入居者向けの火災保険に加入を求められるケースがよく見られます。

入居者専用の火災保険は自身の家財の補償からオーナーへの賠償もセットされているのが一般的です。そのため、入居者用の火災保険に加入している場合は、入居中に発生した損傷を保険で賠償できる場合もあります。

火災保険は借主が自由に選ぶことができるので、特約に記載されている場合は契約書にサインをする前に管理会社に相談するのも良いでしょう。

賃貸契約を締結するときは「特約」に注意!

原状回復費用については、国土交通省が作成したガイドラインで示されています。
しかし、あくまでも指標であり、法律ではありません。そのため、ガイドラインで示されていても賃借契約書の中に「特約」があると、原則そちらが適用されることになります。

ここでは、賃貸契約書における特約について解説します。

賃借契約書の中に「特約」があるとその内容が原則適用される

貸主は物件を貸す際に、借主と特に決めておきたい内容があるときは「特約条項」として賃貸借契約書に記載することが可能です。下図6の「特約条項」の欄に項目を記載して貸主(甲)借主(乙)がそれぞれサインをし押印します。

例えば、この欄に「退去時における専門業者によるハウスクリーニング費用(3万円)は、借主の負担とします。」と記載されていたとします。ガイドラインの指標では、借主が日常的に清掃を行っていた場合のハウスクリーニング費用を負担するのは「貸主」です。しかし、特約条項に記載され、借主がサイン・押印をした場合は自分が負担するのを認めたことになります。

鍵交換代やハウスクリーニング費用(原状回復費)を特約で入居者負担としている物件は少なくありません。

国土交通省「賃貸住宅標準契約書」

下図6)出典:国土交通省「賃貸住宅標準契約書」 P6
https://www.mlit.go.jp/common/001230365.pdf (486KB)

借主に不利な特約は合意しなければ有効とはいえない

特約といえど、契約書に盛り込めば全ての内容が認められるわけではありません。
原状回復に関して借主に不利な内容の特約は、次のような要件を満たさなければならないとされています。

1.特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
2.賃借人(借主)が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
3.賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

借主に不利な特約は、借主がその内容を理解し、契約内容とすることに合意していなければ有効とはいえないとされています。*6

退去するときのトラブルを避けるために気をつけたいこと

賃貸借契約が終了する際には、できれば貸主と揉めない形でスムーズに退去したいものです。ここでは、退去時のトラブルを避けるために気をつけたいことについて解説します。

入・退去時に貸主・借主双方が立ち会い部屋の状況をチェックする

入居時と退去時には、なるべく貸主・借主の双方が立ち会い、部屋の状況をチェックしましょう。
原状回復費用をめぐってのトラブルは、現在ある損傷が入居時からあるものなのか、それとも入居後に生じたものであるのかなど、いつ発生したのかが明確でない場合がよく見られます。

後々トラブルにならないように、部屋を借りる際には管理会社などから渡される「入居時チェックリスト」で、内部の状態をきちんと確認しておきましょう。写真を取っておくのも良い方法です。*7

原状回復についてなど賃貸借契約書の内容をよく読んでから契約する

賃貸借契約は「契約自由の原則」により、基本的に当事者間で自由に内容を決められます。
しかし、契約書をきちんと読まなかったために、退去後、原状回復費用をめぐりトラブルになるケースは少なくありません。

特に、特約に関しては説明を受けても十分理解していないことも多いため、原状回復についてなど賃貸借契約書の内容をよく読んでから契約するようにしましょう。*7

原状回復に関するQ&A

こちらでは国土交通省のガイドラインに記載されている「原状回復に関するQ&A」についてご紹介します。

Q1.不注意で壁のクロスの一部にクロスの張替えが必要なほどのキズをつけてしまいました。部屋全部のクロス張替え費用を負担しなければならないのでしょうか?

A1.入居者の不注意によりキズをつけてしまったものは修理をしなければなりません。
各部位ごとの経過年数を考慮したうえで最低限可能な施工単位(㎡単位)で修理するのが妥当と考えられます。ただ、損傷させた箇所を含む一面分の張替えもしなければならない場合もあります。*8

Q2.原状回復工事を借主が自分で行う、あるいは借主が選んだ業者に行わせることはできますか?

A2.貸主において原状回復工事を行い、敷金で精算する金銭賠償の方式が一般的です。
賃貸借契約書で賃貸人が指定した業者が行うと規定されている場合は、それに従わなければなりません。借主が指定した業者に行わせたい場合は、貸主に相談してから行う必要があります。*9

Q3.物件を明け渡した後、貸主から原状回復費用の明細が送られてきません。明細を請求することはできますか?

A3. 貸主には、敷金から差し引く原状回復費用について借主に説明する義務があります。したがって借主は明細を請求して説明を求めることが可能です。 貸主は賃貸物件の明け渡しまでに生じた未払賃料や損害賠償債務などを差し引いた敷金残額がある場合は、明け渡し後に借主に返還しなくてはなりません。*10

まとめ

賃貸物件を退去する際に、自身の責任において発生した損傷については、オーナーに賠償しなくてはなりません。ただし、それ以外の請求についてはオーナーが負担すべき場合があります。
原状回復費用を請求された際に、本来負担する必要のないお金を支払わないためにも、原状回復において入居者とオーナーがそれぞれ負担する範囲を理解しておきましょう。

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この記事を書いた人

矢口 ミカ

ライター・宅地建物取引士・整理収納アドバイザー。宅建・整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級の資格を取得済み。不動産・介護リフォーム・不動産投資・整理収納関連の記事を複数のメディアで執筆。ライター業の他に、家族が経営する投資用物件の入居者管理もこなす。

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