スポーツワーケーションで企業の生産性が向上!実証実験から見える可能性とは
公開日:2023/3/15
現代のビジネスパーソンにとって、身体的・精神的・社会的に満たされた状態である「ウェルビーイング」を高めることは、良い仕事をする上で重要な課題の1つとなっています。
そのような中で、長野県野沢温泉村や北海道北見市・北海道斜里町では、「スポーツ」も「バケーション」も「仕事」も充実させる「スポーツワーケーション」の実証実験が行われました。
今回は、ウィルビーイングを高める新しい働き方「スポーツワーケーション」について紹介します。
スポーツワーケーションとウェルビーイング
スポーツワーケーションとは、「ワーケーション」と「スポーツ」を掛け合わせた造語で、旅行先などの普段とは異なる環境で働きながら、軽い運動やスポーツを取り入れた余暇活動を行うもののことです。
スキー場での「ゲレンデ×ワーケーション」、海の近くでの「サーフィン×ワーケーション」「ダイビング×ワーケーション」など、そのスポーツが観光資源となっている地域では、旅行会社や宿泊施設からもさまざまなワーケーションプランが提示されています。
これまで、自然の中で行うアウトドアスポーツは、週末や長期休暇にしか実施できない人がほとんどでした。
しかしスポーツワーケーションが増加することで、登山やクライミング、スキーやスノーボード、サイクリング、釣り、スカイスポーツなど、地域固有の資源を活用したスポーツでも日常的に実施することが可能になります。
「好きなスポーツで体を動かし、リフレッシュしながら働く」という新しい働き方は、忙しいビジネスパーソンのウェルビーイングを高めていくことでしょう。
スポーツワーケーションの実証実験
スポーツワーケーションには、どのような効果があるのでしょうか。
実際に、スポーツワーケーションの効果を調べた事例を2つ紹介します。
・長野県野沢温泉村(スキー/スノーボード)
・北海道北見市・北海道斜里町(カーリング/トレッキング)
長野県野沢温泉村
2022年3月に、野沢温泉村と一般社団法人野沢温泉観光協会、東日本旅客鉄道株式会社長野支社、株式会社日本総合研究所が「野沢温泉村のウェルビーイングビレッジ推進における連携協定」を締結し、スポーツワーケーションによる効果を検証しました。*1
被験者は、スキーかスノーボードを1日1時間以上実施した後、リラックス時間を確保した上でワークへのパフォーマンス向上効果を確認するためのテストを実施します。*2
その他の時間は、仕事をしたり、温泉に入ったり、地元村民と交流や対話をしたりして過ごしました。
活動量・集中力・創造性が向上
実証実験の結果、スポーツワーケーションには「活動量の増加」「フロー度(自己効力感・タスクへの集中)の向上」「創造性の向上」の効果があることが分かりました。*3
図1 実証実験の効果概要
引用)日本総研「スポーツによるフロー状態の実現と創造性の向上~2021野沢温泉スノーワーケーション実証結果を踏まえて~」
https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=102543
実証後のアンケート調査でも、「高い集中力で仕事ができる時間が増えたか」との問いに対し、「とても感じた」「まあまあ感じた」と回答した被験者が8割を超えました。*2
モチベーションの向上に関しては、全ての被験者が「とても感じた」「まあまあ感じた」と回答しています。
さらに労働時間短縮への効果も、7割以上の被験者が実感したようです。
つまり仕事の前に体を動かすことで、仕事へのモチベーションを高め、高い集中力や創造的な思考力を発揮し、仕事の質が向上することが示されたのです。
北海道北見市・北海道斜里町
ANAあきんど株式会社、損害保険ジャパン株式会社、株式会社ワイズスタッフの3社は、スポーツワーケーションの客観的な効果検証についての実証実験を、大学・日本労働科学学会のサポートを得て実施しました。*4
実証実験は、スポーツワーケーション実施組9人と通常勤務組35人の2群に分けて、それぞれストレスおよび生産性への影響に関するデータを計測します。
スポーツワーケーション実施組は、5人が北海道北見市に宿泊して余暇にカーリングを体験、ほかの4人は北海道斜里町に宿泊してトレッキングを楽しみました。
図2 スポーツワーケーションの様子
引用)ANA「地方における『スポーツワーケーション』の産学官連携による先端技術を用いた効果測定実験の結果報告」
https://www.anahd.co.jp/group/pr/202203/20220330.html
仕事のパフォーマンスが向上
実証実験の結果、「ワーク・エンゲイジメント」に対するスポーツワーケーションのポジティブな効果が示されました。*5
ワーク・エンゲイジメントとは「仕事に誇りとやりがいを感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得て、いきいきとしている状態」であり、企業の労働生産性の向上につながることや、離職率の低下に関連することが明らかにされています。*6
つまりスポーツワーケーションが、仕事のパフォーマンスや帰属意識に寄与する可能性が示唆されたのです。
またスポーツワーケーション実施組は、「ハピネス関係度(信頼できる関係)」および「心の資本(前向きな心)」ともに上昇し、参加終了後もその傾向が維持されました。*4
周囲の人とポジティブな関係性を築き、前向きな心で働くことができれば、仕事のパフォーマンスは向上していくことでしょう。
ストレスが軽減
ストレスの計測結果では、スポーツワーケーション実施組は通常勤務組と比べて、就業後のストレスの程度が低い傾向が見られました。*4
またWeb調査では、スポーツワーケーション実施組は心理的にも仕事から離れ、オンとオフというメリハリを持つようになったことや、定期的な運動実施の重要性をより強く感じるようになったことが明らかになりました。
そして、睡眠状況やストレスにも改善傾向が見られたようです。
つまりスポーツワーケーションは、日頃の運動不足を見直すきっかけになるとともに、ストレス発散や睡眠の質向上にも良い影響を与えます。
スポーツワーケーションと地方創生
野沢温泉村の実証前後に被験者にアンケート調査を実施したところ、スポーツワーケーション実施後に観光意欲度や魅力度が非常に高評価となっており、被検者2名においては実施後1か月以内に家族で再訪したようです。*2
図3 野沢温泉村の地域ブランドに関する実施前後アンケート
引用)日本総研「スポーツワーケーションによる地方創生と健康経営の可能性~2021野沢温泉スノーワーケーション実証概要~」
https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=102420
スポーツワーケーションで人が訪れることによって、宿泊や飲食、交通などの消費が生まれ、それに伴う経済波及効果が生まれます。
さらにワーケーションで訪れた人々が、交流や活動を通じてその地域の魅力に気がつき、継続的な関係へとつながる効果も期待できるでしょう。
スポーツワーケーションの実施は、地方自治体にとって地方創生が期待できる取り組みなのです。
まとめ
スポーツワーケーションを行うことで、企業としては「仕事の質の向上」「帰属意識の向上」「人材流出の抑止」「地方創生への寄与」などのメリットがあります。
ビジネスパーソンにとっても、「モチベーションの向上」「アイデアの創出」「生産性の向上」「ストレス軽減」「活動量の増加」などの効果があることが明らかになりました。
ワーケーションを実施する企業は少しずつ増えており、政府も働き方改革としてワーケーションの更なる普及に向けた取り組みを行っています。*7
スポーツワーケーションは、今後も広がりを見せていくことでしょう。
資料一覧
- *1
出所)日本総研「野沢温泉村・野沢温泉観光協会・東日本旅客鉄道株式会社長野支社・株式会社日本総合研究所がウェルビーイングビレッジ推進に向けた連携協定を締結」
https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=102258 - *2
出所)日本総研「スポーツワーケーションによる地方創生と健康経営の可能性~2021野沢温泉スノーワーケーション実証概要~」
https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=102420 - *3
出所)日本総研「スポーツによるフロー状態の実現と創造性の向上~2021野沢温泉スノーワーケーション実証結果を踏まえて~」
https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=102543 - *4
出所)ANA「地方における『スポーツワーケーション』の産学官連携による先端技術を用いた効果測定実験の結果報告」
https://www.anahd.co.jp/group/pr/202203/20220330.html - *5
出所)岩浅巧・榎原毅・水野基樹・吉川徹「スポーツワーケーションが就労者の健康と心理社会的側面に及ぼす効果」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jje/58/4/58_174/_pdf - *6
出所)厚生労働省「第3章「働きがい」をもって働くことのできる環境の実現に向けて」P171、P195、P197
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1-2-3.pdf - *7
出所)国土交通省 観光庁「今年度事業の結果報告」P4、P36
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001477419.pdf
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この記事を書いた人
髙橋 めぐみ
求人情報メディア・人材紹介等の総合的な人材サービスを提供する大手上場企業に勤務。在職中に250社以上の企業を取材し、求人広告の作成等に携わる。その後、教育業界に転職。現在は人材や教育に関する記事を中心に、フリーライターとして活動中。