就業時間外の連絡は健康に悪い?テレワークと”つながらない権利”の関係を知ろう

就業時間外の連絡は健康に悪い?テレワークと”つながらない権利”の関係を知ろう

公開日:2023/03/23

コロナ禍をきっかけに「つながらない権利(right to disconnect)」が注目されています。

つながらない権利とは、業務終了後や休日など、就業時間外に仕事上のメールや電話への対応を拒否する権利のことです。

近年では、欧州議会の2021年決議が「つながらない権利」をEU指令として制定することを求めました。*1
現在「つながらない権利」を規定するEU加盟国は、フランス、イタリア、ベルギー、スペインはじめ数カ国に上ります。

つながらない権利は、ウェルビーイングの実現にも関連するものであり、その重要性はさらに増していくことでしょう。

就業時間外に連絡が来たらどうする?

コロナ禍をきっかけに、多くの企業で場所を問わない働き方が急速に進みました。
その結果、地方移住やワーケーションなど、柔軟な働き方も実現できるようになってきています。

しかし、仕事とプライベートの境目が曖昧になる問題も起きています。

NTTデータ経営研究所が行った調査によると、就業時間外において業務に関して緊急性のない電話やメールにも「連絡があれば対応する」と回答した従業員が58.7%に上っています。*2

図1 就業時間外に業務に関して緊急性のない電話やメールに対応することへの考え方
引用)株式会社NTTデータ経営研究所「働き方改革 2022 with コロナ」P10


そして、就業時間外の連絡に対応する理由としては「気になることは早く終わらせたい(61.4%)」「自分のところで業務が滞るのが嫌だから(47.1%)」という結果になりました。

時間や休日を問わず仕事の連絡を取ることを許していては、年中無休のオフィスにいるのと変わりません。

従業員のメンタルヘルスを守り、本来の力を発揮できる環境を整えるためには、つながらない権利を尊重し、会社全体に浸透させることが必要となるでしょう。

就業時間外の連絡は健康に悪影響

近畿大学の論文によると、「ウィズコロナ・アフターコロナ時代において心身の健康を保ちながらテレワークを定着させるためには、心理的ディタッチメントを保つことが必要」だと考えられています。*3

心理的ディタッチメントとは、仕事とプライベートのオンとオフを物理的に分けるのではなく、心理的に分けることに関わる概念のことです。

論文内で「仕事の時間的なプレッシャーが与えられた場合、心理的ディタッチメントが保たれていれば、1年後に心身の不調は生じないが、心理的ディタッチメントが低いと、1年後に心身に不調を来たすことも明らかにされている」と説明しています。

さらに就業時間外の連絡に対する意識と、心理的ディタッチメント・職業性ストレスの関連について調査したところ、「業務の遅れや周りの人に迷惑をかけることを心配する傾向が高いほど、心理的ディタッチメントを低下させ、仕事上のストレスを蓄積しやすい」ことが明らかになりました。

一方で、就業時間外の連絡に対する返事を保留する意識が高いほど、心理的ディタッチメントを保っており、仕事上のストレスが低いことも示されています。

つまり、就業時間外や休日には仕事から離れ、心理的ディタッチメントを保つことが、心身の健康を守るために重要なのです。

世界各国の動き

いち早くテレワークが導入されていた欧米では、コロナ禍の前から「つながらない権利」の保障に取り組んできました。

「つながらない権利」に対する日本と世界各国の動きを確認してみましょう。

日本

日本では「つながらない権利」の積極的な法制化は行われていません。

厚生労働省が発表したテレワークガイドライン内で「労務管理上の留意点」として記述するにとどめています。*4

労務管理上の留意点

■テレワークにおける人事評価制度
時間外や休日等のメール等に対応しなかったことを理由として不利益な人事評価を行うことは適切な人事評価ではありません。

フランス

フランスでは、2017年に従業員50人以上の企業に対して、時間外のメールの取り扱いを労使で協議する義務を設ける法令を制定しました。

罰則は設けられていませんが、それを理由に訴訟を起こすことは可能となっています。*5

ニューヨーク

ニューヨーク州では、2018年に勤務時間外のメール等への返信を労働者に強制することを禁止する条例案を審議しました。*5

従業員10人以上の企業に対し、時間外のメールに返信する必要がない等のルールを文明化して周知するよう義務づけ、返信しないことによる懲罰的な扱いも禁止しています。

市当局が従業員による違反の訴えを認めた場合は、1回につき250ドル(2023年2月現在:約3万3000円)などの罰金を企業に科すことになっています。

ポルトガル

ポルトガル議会は2021年に、企業が就業時間外の従業員に連絡することを原則として禁じる法律を成立させました。*6

違反企業には、売上高に応じて613〜9,690ユーロ(2023年2月現在:約8万8000円~約139万円)の罰金を科す場合があります。

ポルトガルメディアによると、平日の深夜早朝や週末、祝日など就業時間の枠外で電話やメールで連絡することを禁じているものの、緊急時には連絡できるなど例外は設けているようです。

民間企業の事例

NTTデータ経営研究所の「先行事例―働き方改革とつながらない権利についてー」で取り上げられている事例から、4社紹介します。*5

フォルクスワーゲン(ドイツ)

フォルクスワーゲンでは、「勤務時間外に送られてくるメールによって私生活が乱される」という従業員からの苦情を受けて、2013年に物理的にメールを受信できない仕組みを導入しました。

具体的には「夕方6時15分から翌朝7時まで、従業員の仕事用の携帯電話にメールが転送されないシステム」となっています。

ダイムラー(ドイツ)

ダイムラーでも、2014年から休暇中の社員あてのメールが自動的に消去される仕組みを導入しました。

送信者は社員の休暇終了後にメールを再送するか、緊急の場合は休暇中の社員の同僚にメールを転送することになります。

休暇を取得した社員は、休暇から戻った後に大量にたまったメールを処理せずに済むため、「休暇を取ると仕事が溜まってしまう」ということを防ぐことができます。

三菱ふそうトラック・バス株式会社(日本)

三菱ふそうトラック・バスでは、親会社であるダイムラーの施策を受け、長期休暇中に電子メールの受信拒否・自動削除できるシステムを2014年に導入しました。

システムの対象は社内からのメールに限られていますが、長期休暇中にメールを送信した相手には「いただいたメールは削除されます」というメッセージが返信されます。

ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社(日本)

ジョンソン・エンド・ジョンソンでは、2016年から勤務日の午後10時以降と休日に社内メールを自粛することを全社的に呼びかけています。

社員のワーク・ライフ・バランスを推進することを目的とした取り組みのようです。

まとめ

テレワークが普及したことにより、柔軟な働き方が可能となりました。
しかしその反面、仕事と私生活の区切りが曖昧になり、ストレスを抱えている人も少なくありません。

まずは、つながらない権利について自分自身が問題意識を持ち、「休み明けでも間に合うものは返信しない」など、自分らしい働き方につなげていくことが大切です。

そして、自分らしい働き方を実現する社員の就業を阻害することがないよう、社員同士がお互いに十分に配慮できる環境を作ることが、今後の企業の課題となっていくことでしょう。

つながらない権利は、労働者の心身の健康を守るために重要なものなのです。

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この記事を書いた人

髙橋 めぐみ

求人情報メディア・人材紹介等の総合的な人材サービスを提供する大手上場企業に勤務。在職中に250社以上の企業を取材し、求人広告の作成等に携わる。その後、教育業界に転職。現在は人材や教育に関する記事を中心に、フリーライターとして活動中。

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