デジタルマネーによる給与の支払いが解禁|改正労働基準法のポイントを弁護士が解説

デジタルマネーによる給与の支払いが解禁|改正労働基準法のポイントを弁護士が解説

公開日:2023/03/29

2023年4月1日より、デジタルマネーによる給与の支払い*1が解禁されます。キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進む中で、給与の支払方法も多様化が進むことが予想されます。

今回は、改正労働基準法施行規則の変更点に沿って、デジタルマネーによる給与支給の要件やメリット・デメリットなどをまとめました。

給与のデジタル払いの要件

労働基準法では、給与(賃金)を通貨(=現金)で支払うことを原則としつつ、労働者の同意がある場合には別の方法による支払いを一部認めています。

従来は預貯金口座への振込みと投資信託購入資金の証券口座等への払込みに限られていましたが、2023年4月1日以降は新たにデジタルマネーによる支払い(=デジタル払い)が認められます。

給与のデジタル払いをする際に満たすべき要件は、以下のとおりです(改正労働基準法施行規則7条の2)。

(1)労使協定を締結すること
給与のデジタル払いに関して、以下の事項を定めた労使協定を締結する必要があります*2。
・対象となる労働者の範囲
・対象となる給与の範囲、金額
・対象となる決済サービス(指定資金移動業者)の範囲
・デジタル払いの実施開始時期

(2)労働者の同意があること
労働者がデジタル払いを希望しない場合は、現金等による支払いを選択できます。

(3)使用者がデジタル払いを選択すること
労働者がデジタル払いを希望していても、使用者にデジタル払いを行う義務はなく、現金等により給与を支払うことも可能です。ただし、労使協定に別段の定めがある場合は、その定めに従います。

(4)指定資金移動業者が提供する決済サービスのうち、労働者が指定するものを通じて支払うこと
給与のデジタル払いに利用できるのは、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者が提供する決済サービスに限られます。その中から、労働者が指定した決済サービスを利用する必要があります。

(5)指定資金移動業者が講じている措置につき、労働者に対して説明したこと
指定資金移動業者は、厚生労働大臣の指定を受ける際に一定の措置を講ずべきとされています(後述)。
給与のデジタル払いを行う際には、使用者が労働者の同意を得るに当たり、指定資金移動業者が講じている措置の内容を説明しなければなりません。

指定資金移動業者が講ずべき措置等

資金移動業者が給与のデジタル払いについて厚生労働大臣の指定を受けるためには、以下の要件を満たすことが必要です。

(1)給与支払用口座の残高が100万円を超えないようにする(または超えたら速やかに100万円以下とする)ための措置を講じていること

(2)破産等によって残高の払い戻しが困難となった場合に、残高全額の弁済を保証する仕組みを有していること

(3)不正出金など、労働者の責に帰することができない理由で残高の払い戻しが困難となった場合に、損失を補償する仕組みを有していること

(4)特段の事情がない限り、最後の入出金日から10年間以上は残高の払い戻しができる措置を講じていること

(5)入出金が1円単位でできる措置を講じていること

(6)現金による残高の払い戻しができる措置、および少なくとも毎月1回は無償で残高の払い戻しを受けられる措置を講じていること

(7)給与の支払いに関する業務の実施状況および財務状況を、適時に厚生労働大臣に報告できる体制を有すること

(8)上記のほか、給与の支払いに関する業務を適正・確実に行うことができる技術的能力を有し、かつ十分な社会的信用を有すること

上記のうち(1)~(6)の措置については、使用者が労働者に対して説明した上で同意を得なければなりません。

特に重要なポイントは、デジタル払いに利用できる資金決済口座の残高は100万円が上限とされている点です。
したがって、1回当たりの給与振込額は100万円以下でなければならず、振込みの時点で口座に残高がある場合は、さらに上限額が少なくなる点にご注意ください。

もう1点重要なのは、デジタル払いされた決済サービスの残高については、現金による払い戻しが保証されている点です。
したがって、現金化できないポイントや仮想通貨での給与支払いは認められません。また、指定資金移動業者が破産した場合や、労働者に責任のない不正出金がなされた場合などには、残高の保証・損失補償が行われます。

給与のデジタル払いはいつから可能?

給与のデジタル払いを解禁する労働基準法施行規則は、2023年4月1日から施行されます。

ただし、指定資金移動業者の申請が認められるのは施行日以降で、審査には数か月程度が見込まれます。
そのため、実際に給与のデジタル払いが可能となるのは、2023年の後半以降になるものと考えられます。

(h2)給与のデジタル払いを選択するメリットとデメリット
給与のデジタル払いには、会社・労働者のそれぞれにとってメリット・デメリットの両面があります。双方を比較した上で、給与のデジタル払いを選択すべきか否かを適切にご判断ください。

給与のデジタル払いを選択するメリットとデメリット

給与のデジタル払いには、会社・労働者のそれぞれにとってメリット・デメリットの両面があります。双方を比較した上で、給与のデジタル払いを選択すべきか否かを適切にご判断ください。

給与のデジタル払いを選択するメリット

<会社にとってのメリット>
・銀行振込よりも手数料が安い傾向にあるため、給与支払いのコストを削減できます。
・銀行口座の開設が難しい外国人労働者などを雇用しやすくなります。

<労働者にとってのメリット>
・よく使う決済サービスを指定すれば、資金移動の手間が省けます。
・銀行口座の開設が難しい外国人労働者などでも、決済サービスの口座は開設できる場合があります。その場合は、デジタル払いによって給与の受け取りがスムーズになります。

給与のデジタル払いを選択するデメリット

<会社にとってのデメリット>
・デジタル払いの上限額を超える給与を支払う場合は、銀行振込等を併用する必要があり、給与支払事務の負担が増える可能性があります。

<労働者にとってのデメリット>
・デジタル払いには上限が設けられているため、高額(特に1回当たり100万円超)の給与を受け取っている方には不向きです。口座残高が上限に達した場合、再びデジタル払いを受けるには別の口座を指定するか、または出金して余裕額を確保する必要があります。
・銀行口座や他の決済サービスへ資金を移動したい場合には、資金移動の手間がかかります。
・資金移動業者の信用力は、一般に銀行よりも低いため、破綻によって決済サービスが利用できなくなるリスクがあります。残高は保証されますが、保証会社が破綻するリスクもあります。
・給与受取口座の入出金が10年以上行われないと、残高が消滅する可能性があります。

まとめ

給与のデジタル払いは、労使双方の利便性を向上させる画期的な新制度です。

その一方で、利用できる資金決済サービスが未定であるなど、実際にどのような形で運用されるかについては不透明な部分があります。本格運用が開始されるのは2023年後半以降と思われるため、今後の実務動向が注目されます。

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この記事を書いた人

阿部 由羅

ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。公式サイト→https://abeyura.com/

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