正社員の働き方もいろいろ|限定正社員という選択肢、事例とともに弁護士が解説

正社員の働き方もいろいろ|限定正社員という選択肢、事例とともに弁護士が解説

公開日:2023/04/5

ひと口に「正社員」といっても、その働き方は雇用契約の内容によってさまざまです。
職務内容・勤務地域・労働時間のいずれかを限定する「限定正社員」は、ワークライフバランスを実現できる働き方として有力な選択肢となり得ます。

今回は限定正社員としての働き方を、具体的な事例とともにまとめました。

限定正社員とは

「限定正社員」とは、職務内容・勤務地域・労働時間のいずれかを限定しつつ、会社と無期雇用契約を締結する労働者(従業員)です。厚生労働省は「多様な正社員」と表現しています*1。

従来型の「正社員」は、総合職・転勤あり・フルタイム勤務というのが定番でした。しかし、家庭の事情やキャリアに対する考え方は多様であるため、従来型の正社員としての働き方が合わない人もたくさんいます。

そこで、多様な人材をそれぞれに合った形で登用できるように、限定正社員の働き方が普及しつつあります。

限定正社員として働くメリット

労働者にとって、限定正社員として働くことには以下のメリットがあります。

(1)ワークライフバランスの実現
勤務地や残業時間をコントロールできるため、仕事と生活の両立がしやすくなります。

(2)雇用の安定・処遇の改善
無期雇用によって雇用が安定し、正社員並みの待遇を得ることができます。

(3)キャリア形成
中長期的なキャリア形成を見据えたスキルアップや、特定の職務のスペシャリストとしてのキャリアアップがしやすくなります。
育児・介護などの事情により、転勤やフルタイム勤務が困難であっても、仕事を続けて能力を発揮することが可能となります。

限定正社員を雇用する会社のメリット

会社としても、限定正社員を雇用することによって、以下のメリットを享受できます。

(1)優秀な人材の確保・定着
家庭の事情などによって転勤やフルタイム勤務が困難な従業員の離職を防げます。

(2)多様な人材の活用
多様な人材の受け皿になることで企業としての魅力が増し、さらに優秀かつ多様な人材の採用・定着が促されます。

(3)技能の蓄積・承継
特定の技能を持った従業員が中長期的に定着することで、企業の発展を支えるために必要な人材育成や、技能の蓄積・承継が可能となります。
(4)地域に根差した事業展開
勤務地限定正社員を導入・運用し、地元密着型の人材採用を行えば、地域のニーズに合ったサービスの提供や、地元の顧客確保がしやすくなります。

限定正社員の導入事例

厚生労働省の資料*2では、限定正社員を導入した企業の事例が公表されていますので、その概要を紹介します。

<事例1>製造業
都道府県を跨ぎ転居を伴う異動のない「地域限定正社員」を導入した事例です。

地域限定正社員については、都道府県を3区分した上で100、95、90の賃金レンジ指数を設定しました。全国転勤のある正社員については、地域限定正社員の賃金レンジ指数100に地域手当を加算することで、地域限定正社員との間に一定の待遇差を設けています。

全国型正社員からの転換に加えて、非正規雇用から転換するルートを確保し、地域限定正社員を非正規社員の受け皿としても機能させました。

地域限定正社員の導入により、会社全体として人件費が適正化されたことに加え、労働者個人のニーズに応じた働き方が可能となりました。

<事例2>飲食業
全国転勤のある正社員(全国職)に加えて、一定地域内で転居を伴う異動がある「広域地域職」と、転居を伴わない移動がある「地域職」を導入した事例です。

基本給は全国職100に比べて、広域地域職は約90、地域職は約85とする一方で、広域地域職・地域職には地域手当が支給されます。
昇進スピードに差はないものの、異動の範囲の関係上、広域地域職・地域職には上限が設けられています。

全国職から広域地域職・地域職への転換は、本人の申請により可能とされました。また、広域地域職・地域職から全国職への転換も、本人の申請と評価・面接等により可能とされています。

広域地域職・地域職の導入により、転居・転勤を理由とする退職者数が減少しました。また、地域に根付いた店舗運営ができるようになり、売上向上に繋がりました。

<事例3>小売業
勤務地・職務等に限定のない正社員(全国職)に加えて、転居を伴う異動のない「地域職」と、勤務時間・職種が限定された「短時間正社員」を導入した事例です。

賃金水準は、初任給で全国職100に比べ、地域職は約95とされました。全国職と地域職の昇進スピードは、統轄店長・課長職まで同じとされています。

全国職から地域職への転換は、本人の申出と所属長の申請により認められています。さらに地域職から全国職への転換や、非正規雇用から地域職への転換ルートも、面接試験等による選考を通じて開かれています。

特に地域職の導入により、地元志向が強い従業員にとって生活の安心感が高まり、必要な人材の確保・定着に繋がりました。
また、制度を通じて従業員の働き方に対するニーズ(転勤可能、地域密着の顧客サービスに注力したいなど)を把握することができました。

限定正社員として働く・限定正社員を導入する際のポイント

労働者が限定正社員として働き、または会社が限定正社員制度を導入する際には、互いに以下の各点にご注意ください。

(1)労働条件の明確化
限定正社員については、職務内容・勤務地域・労働時間の限定内容をはじめとして、労働条件を明確化することが非常に重要です。具体的な労働条件を雇用契約書や労働条件通知書に明記した上で、労使双方において確認しましょう。

(2)通常の正社員との待遇比較
限定正社員の待遇は、通常の正社員に比べると幾分劣るのが一般的です。職務内容・勤務地域・労働時間が限定されていることに応じた待遇差は合理的と考えられますが、過度な待遇差を設けることは不当な待遇差別に当たる可能性があります。

会社としては、通常の正社員の待遇を基準に、限定内容に応じた適切な待遇を設定しなければなりません。限定正社員としての勤務を希望する労働者としても、通常の正社員との待遇差について会社側に質問し、不合理な待遇差が設けられていないかどうか確認しましょう。

(3)転換制度の有無・運用
通常の正社員と限定正社員の間で転換が認められていれば、労働者にとってはニーズに合わせたキャリア形成の選択肢が広がります。会社としても、多様な人材を確保する観点からは、転換制度を設けて適切に運用することが望ましいでしょう。

(4)事業所が閉鎖された場合の取り扱い
地域限定正社員については、勤務する事業場が閉鎖された場合の取り扱いが問題となります。
事業場が閉鎖されるとしても、会社が直ちに地域限定正社員を解雇することは、解雇権濫用の法理(労働契約法16条)に抵触し違法・無効となる可能性が高いでしょう。他の事業場への配置転換を提案するなど、解雇の回避を試みる必要があります。

一方、地域限定正社員として働く労働者が会社に解雇された場合には、会社に対して不当解雇の無効を主張することや、退職を受け入れる代わりに解決金の支払いを求めることなどが考えられます。

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この記事を書いた人

阿部 由羅

ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。公式サイト→https://abeyura.com/

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