「無茶振り」で嫌われる人、なんとなく許される人 その違いを生む「ピグマリオン効果」とは

「無茶振り」で嫌われる人、なんとなく許される人 その違いを生む「ピグマリオン効果」とは

公開日:2023/04/12

「それは無茶振りでしょ・・・」
部下からこのように思われる指示を連発する人がいます。

しかし不思議なことに、このような「無茶振り」について部下の受け止めは、「またこの人が無茶言ってるよ」「この人の言うことなら応えよう」という2つに分かれます。

この両極端な受け止め、一体何が違うというのでしょうか。

「助けてくれー、誰かおらんか〜!」

筆者が会社員のときの話です。

「おーい、助けてくれ〜!誰かおらんか〜!!!!」

分単位・秒単位を争う報道フロアのど真ん中で、自分が追い込まれると大声でこう発する編集長がいました。

放送時間の直前は、大抵の局員が忙しくしています。そんな最中に、何の用件かもわからないのに「誰かいないか」と言われても困ってしまいます。
また、自分が助けになれるかどうかもわかりません。

筆者の隣にいた先輩は、半分冗談だとは思いますが、

「始まった!隠れろ!」

とまで言い出す始末でした。

「無茶振り」には種類がある

「そう言われても無理があるでしょう……」という「無茶振り」は、時には必要なことかもしれません。
しかし実は、部下がそれに対して辟易する無茶振りと、そうではない無茶振りがあります。

上述の編集長の場合、具体的に何かを指示しているわけではありませんが、じゅうぶんに部下が辟易する「無茶振り」のように感じられてしまいます。

「ああ、またか…」

誤解を恐れずに言えば、自ら手を挙げてまで関わりたくはないと感じさせてしまうものです。
自分の時間をどれだけ削れるかもわからないからです。
しかし一方で、部下のモチベーションを上げる無茶振りもあります。

これは、いったいどういうことでしょうか。

まず、部下のモチベーションを上げる「無茶振り」とはどのようなものなのか。
「ピグマリオン効果」についてご紹介したいと思います。

「ピグマリオン効果」と「無茶振り」の関係

期待の声をかけられると、その人のパフォーマンスが向上する。
教育心理学で「ピグマリオン効果」と呼ばれる現象です。

ピグマリオン効果については、実際にこのような実験結果があります。

ある大学で、250人の新入学生を大きく2つのタイプのクラスに分けて行われたこの実験は、片方のクラスにのみ
「年度末に行われる学習成果全体発表会でよい報告ができるように、一年間頑張ってください。大いに期待しています」
と声を掛けるというものです。

そして、A、Bクラス両方にこうした声をかけるのか、片方だけにするのかは年度ごとにランダムにして、経過を見ています。

その結果は下のようなものでした。

二地域居住とは

期待する旨の言葉をかけたクラスとかけなかったクラスの成績の差異
(出所:胡琴菊「ピグマリオン効果は本当なのか?―教育現場での6年間の実験的研究結果からみる―」中部大学)
https://confit.atlas.jp/guide/event-img/edupsych2017/PD22/public/pdf?type=inp372

Aクラスの動向を見ると、期待の声かけがあった年となかった年で結果が大きく異なっていることがわかります。

さて、「無茶振り」を考えた時、「部下がワンステップ上のことにチャレンジする機会を与える」というものであれば、ピグマリオン効果を発揮する可能性があるのです。
ただ、注意が必要です。
チャレンジしてみてほしいという意味合いの言葉をかけること、そして万が一のときは自分が責任を取るつもりでいることを忘れてはなりません。

自分のキャパシティオーバーによる無茶振り

もうひとつは、相手の事情など考えていない無茶振りです。辟易されるどころか、断りづらいという理由で部下が応じ続けると、無駄に消耗してしまい、ひいては離職に至る可能性があるものです。

そしてやっかいなことに、筆者が見る限り、このパターンの無茶振りをする人ほど、自分が無茶振りをしていることに気づいていないことが多くあります。
しかし、パワハラに対する見方が厳しい今、そのようなことでは組織は壊れるだけです。

自分はそういったタイプの無茶振りをしていないか?辟易されていないか?
立ち止まって考える材料として、「インフォーマルパワー」というものをご紹介したいと思います。

インフォーマルパワーとは、ミシガン大学のマキシム・シッチ准教授が提唱しているもので、自分の「価値」を客観視し、自分が周囲に価値を与えている存在かどうかを測るものです。

その計算方法は以下のようなステップです。

①自分の仕事をまっとうするために必要な10人の名前を書き出す。自社の人でも社外の人でもかまわない。

②書き出した10人のそれぞれについて、どの程度頼りにしているか、なくてはならない存在かを考えて、1点から10点までの点数をつける。大きな価値を提供してくれている人や、ほかの人に代えがたい人には高い点数をつける。提供される価値としては、キャリアに関するアドバイス、感情面でのサポート、日常的な活動の手助け、情報提供、役に立つリソースや人の紹介など、さまざまなものがあることを忘れないように。

③同じ事を逆の視点から行う。今度は相手の立場に立って、あなた自身が頼りにされている度合いを想像して点数をつける。あなたが提供する価値の大きさや、他の人が代わりを務める難しさを考慮して点数をつける。過大でも過小でもなく、正直な自己評価に基づく点数をつけることが大切。

<引用:「肩書きに頼らず組織を動かす方法」ハーバード・ビジネス・レビュー 2021年4月号 p90-91>

そして結果をこのように評価します。

まず、ステップ①の「10人」についてです。
この10人が、自分と同じチームや部署、部門、同じビルで働いている、と物理的に近い人の数が多いほど人脈が狭いことを意味します。
同時に、業務や肩書きを超えて頼りにされる価値を生み出す能力に乏しいとされます。

この10人が部下ばかり、というのも考えものではないかと筆者は思います。相手に依存しすぎ、悪い意味での無茶振りに走っている可能性が高いでしょう。

次に、ステップ②、③についてです。
ステップ②、③のスコアを比較して、相手から提供されている価値以上のものを相手に提供できているかを確認します。

相手から提供されている価値以上のものを提供している人の場合であれば、時々の「無茶を承知したお願い」は受け入れてくれるかもしれません。
しかし、自分に価値を提供してくれていない人からのそのようなお願いは「普段、他の人にロクに恩恵を与えていないのに何を言っているんだこの人は」と思われるだけです。

ただし、この場合にも注意が必要です。

最終的に責任を取るのは上司であるあなただということです。部下になすりつけるのは論外でしょう。

そして、もうひとつ注意すべきなのは「優先順位」をつけた指示が重要だということです。

アメリカで毎年25,000人を指導する「世界一のメンター」と呼ばれるジョン・C・マクスウェル氏は、著書「人を動かす人の『質問力』」の中で、「人生では『投げかけた質問』の答えしか返ってこない」としたうえで、このように綴っています。

「底の浅い質問しかできない人」は「底の浅い答え」しか得られず、自信も欠如している。意思決定はお粗末で、優先順位も曖昧、未熟な対応しかできない。
一方、「深い質問」ができる人は、「奥深い答え」が得られ、人生に自信が持てる。賢い意思決定で最優先事項に集中でき、大人の対応ができる。

<引用:ジョン・C・マクスウェル「人を動かす人の『質問力』」p23>

仕事をしていれば、無茶振りをせざるを得ない場面もあることでしょう。
しかし、一瞬だけ立ち止まって自分に「質問」し、優先順位を示すことは重要です。
かつ、「困ったらいつでも連絡してきて」という環境を与えることで、部下は安心して働いてくれるというものです。
また、時には「何かを捨てる」勇気も必要です。その勇気がなければ、優先順位はつけられません。指示を与える側がその勇気を持たなければ、部下は何をどうしていいのかわかりません。

また、「優先順位」は、無茶振りをされた場合の対応としても重要です。必ず確認すべきポイントです。
「なぜこんな無茶を頼まれたのか?」ということへの理解があって初めて、合理的な行動で多くの要求に応えることができるでしょう。

「何かを得るということは、何かを捨てるということ」。
筆者の知人の、ある経営者の言葉です。

そのような覚悟がない「無茶振り」は、嫌われるだけのものでしかありません。

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この記事を書いた人

雨宮 紫苑

ドイツ在住フリーライター。Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。

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