京都大学の入試問題に学ぶ プレゼンや会議の無駄を一気になくす「図式化」の威力とは

京都大学の入試問題に学ぶ プレゼンや会議の無駄を一気になくす「図式化」の威力とは

公開日:2023/04/26

プレゼンを合理的に進めるため、あるいは業務を円滑にするために、ビジネス上で「ものごとを伝える」方法はシンプル・コンパクトでありたいと思うものです。

また、言葉を重ねれば重ねるほど話題の中心がぼやけてしまい、「揚げ足の取り合い」で会話や考え方が滞ってしまうことは少なくないことでしょう。

そのような事態を防ぐのが「図式化」する思考です。
そこで今回は、物事を伝えるだけでなく新しい気づきにもつながる図式化とはどのようなものか、見ていきましょう。

京大の二次試験で出される数学問題

筆者は京都大学理学部の出身です。
そして、京大入試の理系数学の問題は正直「えぐい」と今でも思っています。

現在もその形が受け継がれていますが、180分、200点満点であるのに対し、問題はわずか6問です。しかも問題文はせいぜい3~5行のもので、解答欄は真っ白です。いわゆる「穴埋め問題」などありません。

筆者の時は6問ほぼ全てがいわゆる「証明問題」で、解答用紙と別にA3の真っ白な「計算用紙」が与えられました。そして解答用紙だけでなく計算用紙まで回収された衝撃は今でもよく覚えています。
(なお、「計算用紙の消しゴムで消した部分まで透かして見て、0.1点単位で採点している」という噂が今でもありますが、その真偽の程は筆者にはわかりません。)

受験生は勉強の中でこの手の問題をかなり勉強、というより「訓練」します。そして当時筆者は「数学のセンスがあまりない」と担当教師から言われていました。
教科書や参考書の問題はだいたい解けたほうですが、「センスがない」とはどういうことでしょう。

それは、本当にセンスがある人ほど解答はスッキリしているものだからです。場合によっては同じ問題でも何十行にわたって計算をする人もいれば、「図」で証明してしまう人もいます(中には図1つで終わらせる人もいたことでしょう)。筆者は前者でした。

「図式化」の力がビジネスでも必要な理由

「長い話を図で考える」ことの威力は大きいと筆者は考えています。

まず上述の受験問題の例を挙げれば、何かひとつのことを証明しようとする際に何十行もの計算をしていると途中で疲れてしまい気が散る、ミスが出てしまうといったこともそうですが、泥沼にはまってしまい、証明が目的なのか計算が目的なのかがわからなくなってしまうことがあります。

また、その計算が何分くらいあれば終わるのかの見当もつきません。一方で試験には他の問題もありますし、制限時間もあります。

さて、これは組織の会議などでも起きることではないでしょうか。

「議論すること」が目的になってしまい、いつしか「結論を出す」という最終目的から外れていってしまうのです。そして制限時間がやってきて話は各自持ち帰り、会議の数はこうして増えていきます。
また、このようなことを続けていると「漏れ」「被り」が生じていくものです。「堂々巡り」の要因です。

しかし図形で問題をビジュアル化すると、景色はガラリと変わります。
かつ、ものごとを「図式化」できる人は、全体像が最初から見えているという特徴があります。
プレゼンの中で、フローチャートやピラミッド図、円を重ねた図を使う人はそう珍しくはないかと思います。これは、問題の全体像をあらかじめ明確にするという目的があります。

桃太郎について語るとき

桃から生まれた桃太郎。おじいさん、おばあさんに育てられ、イヌ、サル、キジを仲間にして鬼退治に行く、誰もがご存じの昔話です。

では、

「桃太郎の物語を図で説明してください」

そう言われた時、皆さんはどう考えるでしょうか?

アートディレクターの日高由美子氏は、2種類の表現を紹介しています。

(出所:「『図』と『絵』の違いを説明できますか?」ダイヤモンド・オンライン)
https://diamond.jp/articles/-/248887

桃太郎の話は2枚目の図のようにまでシンプルに落とし込むことができるのです。

もちろん、上のような「絵(アイコン)」の要素が多い表現も、イメージを広げていく際の参考になります。そして話を収束させるときには下のような図が有効、というわけです。

桃太郎の話について2枚目の図を見せられたとき、「あれが足りない、これが余計」ということはあまりないでしょう。ツッコミどころがほとんどないのです。「確かに桃太郎って、結局そういう話だよね」となることでしょう。

このように物事を表現できるスキルは、散らかりそうな話をまとめるのに欠かせないものなのです。

また、いくつもの事例が「最後には同じ図式におさまる」ということも多々あります。こうして教訓や知見がスッキリと引き出しに収まるのです。

潜在的な課題やアイデアを表現するための「図式化」

また、図形を使うことは、先ほどの桃太郎のように話を収束させる時だけでなく、突き詰めていく時にも使えます。

現・鳥取大学の桐山聰氏らが2007年に発表した論文では、ひとつの「思考支援ツール」が紹介されています。

学生が積極的に行動を起こさないのは失敗を恐れるからなのではないか。そのような話がある中で、桐山氏は学生との接点を通じ、違う実感を得たと言います。それは、学生は失敗だけでなく成功さえもイメージできないために本当に何をして良いかわからない、というものだったのです。
しかも、目的と手段を混同する傾向があったといいます*1。

これに対し桐山氏らが考案したのが、「5W1H」を軸にした思考支援ツールで、下のような図式です。

桐山聰、英崇夫「思考支援ツールを使った学生自身によるプロジェクト活動の自己評価」工学教育

(出所:桐山聰、英崇夫「思考支援ツールを使った学生自身によるプロジェクト活動の自己評価」工学教育 55-4(2007) p71)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsee/55/4/55_4_4_70/_pdf

基本パーツの真ん中に目標を書き、その周囲を覆う「5W1H」を埋めていきます。その中で、埋まらなかった項目が目標を達成できない「課題」だというわけです。課題が絞られるのです。

さらに、絞られた課題をどんな5W1Hで解決していくのか?対応していくのか?ということをもっと具体化するために、蜂の巣状に並べて使用することも可能です。

桐山聰、英崇夫「思考支援ツールを使った学生自身によるプロジェクト活動の自己評価」工学教育

(出所:桐山聰、英崇夫「思考支援ツールを使った学生自身によるプロジェクト活動の自己評価」工学教育 55-4(2007) p71)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsee/55/4/55_4_4_70/_pdf

こうした図式化のメリットは、話が見えやすくなるだけでなく、この図そのものを残しておくことができる点です。のちに話の流れを見直すことができますし、原点に戻ることもできます。「漏れ」「被り」がないかを発見することもできます。

このツールによって、そもそも何を具体化すべきか、ということが見えやすくなるのです。優先順位が明確にもなるでしょう。

ものごとは一直線上にあるのではない

いくつか例を紹介しましたが、図式の最大の特徴は「2次元」であることです。会話や議論は「時系列」という一つの軸しか存在しません。その一つの軸の上で「行ったり来たり」をしているだけというのはよくあることです。録音を何度も聞き返さなければどこで話がズレてしまったのか振り返ることができません。しかしそれには時間がかかります。

しかし図式で残すことによって議論の過程は一目瞭然になります。枝葉を切り落とし、「ぱっと見」に収めることができるのです。

また、自分の頭の中を短時間で整理するのにも役に立ちます。
筆者もよくインタビューの際に、「図式」の形でメモを残すことがあります。速記ができるわけではありませんから、相手の話全てを書き残すことはできませんし、後になって聞きそびれたことがあっても困ります。

よって途中でストーリーを構成するための図を描きながら話を聞き、それを完成させるために次に何を質問すべきかを決めていくのです。
あるいは、箇条書きや単語をを矢印で結んだり丸や四角で囲いながら話を聞いています。横に録音開始時間のどのあたりかだけを書いておき、録音を聴き直すのはその部分だけです。

目的なくただ言葉で議論しているだけでは、単なる意見の言いっぱなしになったり、ときに感情が入り込んでのちに「ああいう意図でものを言ったのではない」といったことにもなってしまいます。また、一方向だけへの箇条書きでは論点は整理されません。

時間を無駄にせず勘違いを産まないために、誰の目にもわかりやすい形で情報を整理することは、とても重要なのです。

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この記事を書いた人

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

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