「メタバース」認知率8割も利用率は1割未満 活用の意味や失敗の理由をわかりやすく解説

「メタバース」認知率8割も利用率は1割未満 活用の意味や失敗の理由をわかりやすく解説

公開日:2023/04/26

インターネット上の仮想空間「メタバース」。

様々な業界で活用が広がり、ニュースなどでも見聞きする機会が増えてきました。
一方で、「よくわからない」「聞いたことはあるが使ったことはない」という方も、まだまだ多いのではないでしょうか。

「メタバース」とは何か、どのような変革をもたらすのか、私たちの生活に定着する可能性について考えます。

メタバースとは

メタバースは、「超」を意味するメタ(Meta)と「宇宙」や「世界」を意味するユニバース(Universe)を組み合わせた造語です。

新しい分野であるが故に確立した定義はなく、解釈はさまざまです*1。
有識者で構成する総務省の研究会は、「ユーザー間でコミュニケーションが可能な、インターネット等のネットワークを通じてアクセスできる、仮想的なデジタル空間」と定義づけ、仮想空間は以下の4つの要素を備えているとしています*2。

・臨場感・再現性
・自己投射性・埋入感
・インタラクティブ
・誰もが仮想世界に参加できるオープン性

メタバースと、XR、VR、MR、ARは何が違うのか

メタバースと混同しやすい言葉に、「XR」「VR」「AR」「MR」があります。

XR(クロスリアリティ)は、現実世界と仮想世界を融合して、メタバース空間を実現するための技術の総称です*3。

そのXRを構成する技術がVR、MR、ARです。
メタバースへのアクセスに用いる技術によって、現実の物理空間との関係がより弱く仮想的か、より強く現実的かの違いが生じます(図1)。

VR/MR/ARの関係

図1 VR/MR/ARの関係
(出所: NTTデータ「実用化段階に入り、現実への染み出しも注目されるVR」)
https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2016/010701/

2030年、市場は約17倍に拡大

2022年は、メタバース元年*4と言われるほど、ビジネスでも一気に活用が広がりました。

2021年に388.5億米ドルだったメタバースの世界市場は、2030年には6788億米ドルと、約17倍に拡大すると予想されています(図2)。

世界のメタバースの市場規模の推移及び予測

図2 世界のメタバースの市場規模の推移及び予測
(出所: Statista(Grand View Research)、総務省作成「令和4年 情報通信に関する現状報告の概要」)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/html/nd236a00.html 第2部第6節

メタバースの活用例(1) バーチャルオフィスで誰もが働きやすい環境づくり

では、どのようなシーンで利用されているのでしょうか。
いくつかの例をご紹介します。

まず導入が広がっているのが、メタバースを利用した仮想オフィス「バーチャルオフィス」です。

例えば製薬大手の英アストラゼネカ日本法人は、バーチャルオフィスを導入し、全国67カ所の営業所を廃止しました。
営業所に立ち寄る必要がなく、医師との面談もオンラインに切りかえたことで、社員は時間にゆとりが出来、子育てとの両立がしやすくなるなどのメリットが生まれています*5。

同じくバーチャルオフィスを導入したエン・ジャパン株式会社が、入社2年目以内の社員に効果を尋ねたところ、上司や同僚などへの相談が気軽にできるようになったという回答が大半を占めました(図3)。
オンライン環境で失われがちな“雑談”がしやすくなり、コミュニケーションの活性化にもつながっています。

世界のメタバースの市場規模の推移及び予測

図3 どのように仕事がしやすくなりましたか?
(出所: エン・ジャパン株式会社「バーチャルオフィスの活用促進による、 社内コミュニケーションの活性化事例」)
https://www.g-soumu.com/ecg/applications_1/071_%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%82%99%E3%83%A3%E3%83%8F%E3%82%9A%E3%83%B3%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E4%BC%9A%E7%A4%BE.pdf P5

バーチャルオフィスは、障がいなどがあり外出が難しい人や、他人と顔を合わせることに抵抗がある人などの就労支援にも活用されています。

自分の分身であるアバターを使用してメタバース上の空間に参加することで、顔を出したり、相手の顔を見る必要がなくなることがメリットになるのです。
就労訓練を受ける利用者からは「他人との会話に苦手意識を感じずに取り組める」といった声が聞かれます*6。

メタバースの活用例(2)バーチャル旅行で高齢者健康改善

旅行観光業で積極的に活用が広がっているのが、「オンラインツアー」や「バーチャル旅行」です。VRゴーグルを装着して360度、旅先の風景や史跡を楽しむことができます。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングが、オンラインツアー参加者を対象にコロナ収束後の参加意向を尋ねたところ、「コロナ収束後もオンラインツアーに参加する」と答えた人が 7 割を超えました。
さらに、約1割は「リアルの旅行よりもオンラインツアーを選択したい」 と回答し、コロナ収束後の「オンラインツアー」の需要も確認されています(図4)。

コロナ収束後、「オンラインツアー」に参加してみたいと思うか

図4 コロナ収束後、「オンラインツアー」に参加してみたいと思うか
(出所: 三菱UFJリサーチ&コンサルティング
政策研究レポート「オンラインツアー」の現状および市場規模について)
p11

VRを活用したバーチャル旅行は、高齢者の健康維持にも効果が出ています。
東京大学先端科学技術研究センターが、認知症の方を含む高齢者施設居住者に、VRを活用した疑似体験旅行を1回30分、週3回のペースで4週間実施したところ、認知症などを引き起こす可能性がある視空間能力と、頸椎可動域に改善が見られました(図5)。

バーチャル旅行で、昔懐かしい場所を訪れたり、ヘルパーや家族とのコミュニケーションがさらに深まったりと、高齢者のウェルビーイング向上にもつながっています。

視空間能力と頸椎可動域角度の変化量

図5 視空間能力と頸椎可動域角度の変化量
(出所:東京大学先端科学技術研究センター「高齢者施設でのVR旅行で視空間能力と頸椎可動域を改善ー視空間機能障害のリハビリテーションに役立つ可能性ー」)
https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/news/report/page_01489.html

メタバース活用例(3)バーチャル診察で高い水準の医療を提供

メタバースの導入は、医療の分野でも進んでいます。

順天堂大学は、これまでのオンライン診療にMRの技術を加えた「バーチャル診察」を行っています。
メタバースを利用することで身体動作の評価がより的確に行えるほか、専門医の診察を居住地に関係なく受診できるため、医療格差が是正されるとその効果が注目されています*7。

さらに同大学では、「バーチャルホスピタル」の研究も始まっています。
患者がアバターでバーチャルホスピタルを訪問し、医療従事者やほかの患者らと自由に交流することで、病気や受診時の不安の軽減などを図るのがねらいです*8。

認知率8割超も、利用率は1割未満

メタバースはその他にも、経済や教育、経験格差の是正や地方創生などにも活用されています。住んでいる場所や心身の状態などに左右されない、インクルーシブな空間を創出できる可能性を秘めています。

しかし、利用者は限られています。

三菱総合研究所が16 歳から 89 歳の男女10,000人を対象に行いまとめた研究レポート「メタバースの認知・利用状況に関するアンケート結果」によると、日本国内におけるメタバースの認知率は2022年12月時点で83%に達しています。
一方で、認知してる83%のうち、実際に利用したことのある人は、全体のわずか5.5%でした(図6)。

メタバースの認知率・利用率の推移

図6 メタバースの認知率・利用率の推移
(出所:三菱総合研究所「国内のメタバースの認知・利用に関する研究成果を発表」)
https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20230330.html

また、主要なアクセス手段は、スマートフォン、タブレットの比率が高く、VR の利用比率は2割程度と、専用機器の利用は限られているのが現状です(図7)。

メタバースへの主要アクセス手段

図7 メタバースへの主要アクセス手段
(出所:三菱総合研究所実施「生活者市場予測システム(mif)」および他機関の公開情報から三菱総合研究所作成「メタバースの認知・利用状況に関するアンケート結果」)
https://www.mri.co.jp/knowledge/column/dia6ou0000054w41-att/mtr_20230330.pdf P6

進まぬ機器購入で利用率低迷

なぜ、利用者が増えないのでしょうか。

要因の1つに、メタバースの世界を楽しむために欠かせない道具、VRゴーグルなどのXR関連機器が一般に普及していないことが挙げられます。
世界経済フォーラムが主要国を対象に行った調査によると、XRを日常生活で使うことに肯定的な感情を抱いている人の割合は、日本は22%と、調査を実施した29カ国中最低でした(図8)。

OPINION OF EXTENDED REALITY

図8 OPINION OF EXTENDED REALITY
出所: 世界経済フォーラム「HOW THE WORLD SEES THE METAVERSE AND EXTENDED REALITY」
https://www.ipsos.com/sites/default/files/ct/news/documents/2022-05/Global%20Advisor%20-%20WEF%20-%20Metaverse%20-%20May%202022%20-%20Graphic%20Report.pdf P6

購入促進につなげようと、米IT大手のメタ社は日本でVRゴーグルの価格を値下げしましたが*9、それでも5~6万円、上位機種であれば約16万円ほどするメタバース専用のゴーグルを購入するには、一般的にまだまだ高い値段設定です。

加えて世界経済は今、成長鈍化が加速しています*10。
インフレの高進、金利の上昇、ロシアのウクライナ侵攻による一連の混乱などを受け先行きが見えない不安の中、物価の高騰が続き家計が逼迫すると、消費者のVRゴーグル購入の優先順位はますます下がります。

一方の企業側も、低迷する経済の中で、メタバースという新規事業に投資し続けていくことは簡単ではありません。

これまでメタバース領域への投資を先行してきた米ウォルト・ディズニー社は、目立った成果につながっていないとして、同部門の解散を決め、担当者を解雇しました*11。

社名を変え、年間100億ドル以上をメタバースに投資し注力すると発表していた米メタ社も、2022年11月に全従業員の約13%に当たる1万1000人を解雇すると発表しました。
メタバース関連のエンジニアはそれほど削減していないものの*12、VRゴーグルの購入動機となるような商品の開発、研究は難しい状況と言えるでしょう。

「生産の安定期」にむけて求められる手軽さ

米調査会社ガートナーが2022年8月に発表した「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2022年」において、メタバースは「黎明期」にあると位置づけられました(図9)。

先進テクノロジのパイプ・サイクル:2022年

図9 先進テクノロジのパイプ・サイクル:2022年
(出所: 日本経済新聞「ガートナー、「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2022年」を発表)
https://www.nikkei.com/article/DGXZRSP638252_W2A810C2000000/

パイプ・サイクルのグラフは大きく5つの段階にわかれており、「黎明期」「『過度な期待』のピーク期」「幻滅期」「啓発期」「生産の安定期」の順に発展していきます。

メタバースは今、どの辺りにあるのでしょうか。
「過度な期待」のピーク期を過ぎたあたり、もしくは既に「幻滅期」に入っていると考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。

目指すべき「生産の安定期」に向けて、求められることは何でしょうか。

三菱総合研究所は、スマホ・タブレットなどのモバイル系の視聴型デバイスで、メタバースの体験価値を高めることが不可欠だと指摘しています*13。
専用の機器に頼らず、手持ちのスマートフォンで消費者が気軽にメタバースを体験することで初めて、価値を周知でき、市場を顕著化できるからです。

約30年前にインターネットが、そして約10年前にスマートフォンが急速に普及し始めました。その時も同じように価格設定やコンテンツ開発、加えて安全性の議論などがあったことを思い出します。
メタバースも同じく、環境整備やコンテンツの充実はもちろん、やはり手軽さが、将来を左右する要素になると言えます。

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この記事を書いた人

nico

企業広報、ライター。
国内外の田舎をのんびり歩き、風景の写真を撮影するのが好きな2児の母。
元NHK記者。ロンドン大学UCL「社会開発計画」修士課程修了。
大分県中津市出身。

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