「なんでもやります!」という姿勢は、フリーランスや副業の仕事としてアリかナシか

「なんでもやります!」という姿勢は、フリーランスや副業の仕事としてアリかナシか

公開日:2023/05/24

世の中には何をやらせてもそこそこ仕事をこなすが、特定の分野で飛び抜けた能力を持つわけではない「十徳ナイフ」のような人材がいる。
ややもすれば器用貧乏に陥りがちで、「突出したスキルを持つべし」といったことがしばしば語られる今の風潮とは逆のタイプである。

確かに、専門性を持つことが重要であるのは言をまたない。
しかし、筆者が生きるフリーランスの世界では、万能性=使いやすさがむしろプラスにはたらく場合とて、なきにしもあらず。
特に副業や兼業、フリーランスにおいては「十徳ナイフ」としての使い道をより良くすること、つまり自分を都合のいい存在、便利な外注と割り切って考えることが増収につながるパターンは割とある。

そのような人材は時として、能力的には抜群でも何かと扱いが面倒な業界の大御所から仕事の枠を奪うことすら可能である。
実際筆者の周りには、このスタンスで糊口をしのぐどころかしっかり稼いでいる知人・友人が少なくない。
業界の頂きにのぼりつめる力を己の中に見いだせない場合、スキルを上ではなく横に広げ、使いやすさで勝負することは一つの生存手段だ。
ただし、そこには重大な落とし穴もあるため、万人に勧められるスタンスとは言い難い。

では、どのような方にとって薄く広いスキル習得や「都合のいい人」化するのが向いているのかということを、以下筆者の体験をベースに論じてみたい。

クライアントに「楽をさせる」存在になるという生き残りの方法

副業、兼業、フリーランスなどいずれにも言えることだが、一般的にスキルの専門性が高いほど、得られるリターンが大きくなる。
そのため、しっかり稼ごうと思うなら得意分野を伸ばすことに集中すべきなのだが、能力には当然、個人差がある。

言うまでもなく、他の誰にも真似のできない自分だけのスキルを持てるなら、それに越したことはないけれど、誰もがそのような願いを叶えられるかというと否である。
それでも本業だけでは満たされない、副業や兼業で別のことにもチャレンジしたいといった思いを抑えられないなら、どうすべきか。

ここで視野に入ってくるのが、スキルではなく、便利さや使い勝手の良さを売りにするということだ。
筆者は日本の出版社勤務時代、さまざまな分野のフリーランサーに仕事を発注する立場だったのだが、そこで感じたことの一つに、優れた職人技の持ち主は仕事にこだわりがある分、ややこしい方が多いという点がある。

具体例を挙げると、ある分野で名を馳せているライターさんで、原稿の修正をする場合、必ず事前協議を求めてくる方がいた。
それ自体は何ら問題ないのだが、実際には1文字の直しでも先方が納得する場合を除いて修正を認めず、そもそも大半のケースで納得してくれない。

それだけ自分の書いた物に自信と誇りを持っているということだが、雑誌の締め切り間際、徹夜続きの状態でそのお方と喧々諤々やり合うのは、はっきり言って業務全体に支障が出る。
そうすると、面倒な人を使うよりは8割、9割の出来だけれども、人当たりが良くこちらの意図も十分汲み取ってくれる外注さんを使いたくなるのが本音というものだ。

筆者自身も経験のあることだが、どれほどややこしい人だろうが実力が全てだ、という姿勢で全ての外注スタッフを固めると、発注側、つまり自分の身が持たない。
時には外注スタッフ同士がバトルを始めてどちらも譲らず、その間を取り持つこともしなければならない。
スケジュール的にギリギリのタイミングで「そんなことなら自分は下りる」と啖呵を切る人が現れたりと、精神を削られるようなアクシデントが常に起きる可能性がある。
だったら腕前はあと一歩といったところだが、若くて元気で物分りがよく、何より要求の少ない「都合のいい人」を使えばいいんじゃないかーーこういう心理がおのずとはたらくものだ。

そもそもなぜ副業や兼業、フリーランスの仕事が発生するのか。
それはさまざまな理由で人手が足りず、ヘルプを必要としていることもあるが、本来やるべき人が動かない、もしくは楽をしたいがゆえに外の者を使うという事例も少なくない。

そのことを理解した上で発注者の心の機微をうまくとらえつつ、「あれもできます、これもできます」と守備範囲の広さ、使い勝手の良さをアピールポイントとする。
これはある意味、スキルではトップレベルの人々に勝てないが、それ以外の部分を含めた総合的な自身の価値を売り込む「弱者の兵法」「凡人の戦略」というべきもの。
弱者や凡人と言うと何やらネガティブな響きがあるが、そこには自分自身の能力を客観評価した上で、生き残りのためにどうすべきかを真剣に考え、実行に移す強さがある。

筆者の肌感覚で言うと、若い頃に名を上げてしっかり稼いでいたが、やがてプライドと自意識が肥大して扱いが面倒な人になり、なおかつ仕事を選んだりギャラを下げられなかったりして、
「有名だけど最近仕事してないよね」
といった噂が立つ大御所は何の業界でもいるものだ。

スキルは天賦の才能によるところも大きいが、努力や日々の修練がもたらす影響も極めて大であり、仕事をしなくなればどれほど優れていた人でも衰える。
一方、最初は都合のいい人、十徳ナイフ的な存在でも、そのスタンスを生かして仕事をたくさん取り、数をこなしていれば能力が伸びていくこともある。

このように考えると、潜在的に副業や兼業をしたいと願っていながら能力面で諦めている人にも、やり方次第でチャンスは十分にあると言えるだろう。

自分の安売りにはデメリットも?

副業、兼業、フリーランスとは言葉通り「代わりがいくらでもいる」世界。
ゆえに何かしらの強みを持つことが大事だが、スキルの面で勝てないのなら、できることの多さとクライアントにとっての使いやすさを己の優位性とするのもまた一手、といった話をここまでしてきた。

筆者自身もこのスタンスに近く、それは己の能力の限界を嫌というほど自覚してしまっているからなのだが、知人・友人の中には「それでも自分の安売りはやめた方がいい」と忠告してくる者もいる。
そのお方は写真と映像を生業としていて、最初は副業から始め、やがて独立した後には「何でもやります」という姿勢で営業をかけ、現在は世間一般の会社勤めの方よりやや多いくらいの稼ぎを得られるようになった。
筆者から見れば仕事に困っていないし、食えているのだから成功者ではと感じるのだが、本人いわく
「自分の伸びしろを自分で狭めてしまった」
「何でもやると言ったが、あまりにもいろいろなことに手を広げすぎた」
というのが反省であるらしい。

具体的には駆け出しの頃、仕事を受ける時に単価について交渉をせず、来る仕事は何でも受けていたが、安い値段がスタートラインになってしまったため上げていくのに苦労した。
若い頃に世話になった人から今でも安い案件を頼まれるが、これまでの経緯からして断れず、時間を取られてしまう、等々。

つまり、彼は「都合のいい人」からスタートしたが、実力をつけた今、そのスタンスがむしろ邪魔になっているということだ。
この問題についてはさまざまな意見があるだろうが、筆者の持論を述べれば、それでもやはりスキル以外で勝負をする副業、兼業、フリーランスというのはアリだと考える。

彼が言っているのはゼロから始めて本来100になるところ、最初のアプローチのせいで70程度になってしまったという話だが、そもそも大半の人にとってはゼロから1にすることがまず至難の業。
この場合、ゼロから1というのはスキルを収入に変える、副業なりフリー仕事なりで一定の収入を得ることだ。
副業でも兼業でも、フリーランスでも言えることだが、稼ぐにはとにかくまず始めなければ話にならない。

だが、どの業界にもすでに成功している人や、自分よりも優れた者が当然いる。
その中でいかに最初のきっかけをつかむかーーそう考えた時、スキルの高さで負けているなら広さで勝負すること、クライアントにとって何かと便利な存在となることは、現実的な選択肢の一つであると筆者は信じる。

副業、兼業は今後ますますありふれた働き方になっていくことが予測される。
その中で、一流の人を見上げて自分には無理だと諦めるのではなく、スキルで真っ向勝負をしないという方法も頭に入れつつ、自分なりの強みやアピールポイントを模索して果敢に挑戦していただきたい。

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この記事を書いた人

御堂筋 あかり

スポーツ新聞記者、出版社勤務を経て現在は中国にて編集・ライターおよび翻訳業を営む。趣味は中国の戦跡巡り。

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