法定労働時間の原則と例外|多様な働き方を認める労働基準法のルールを弁護士が解説
公開日:2023/05/24
法定労働時間は原則として「1日8時間・1週間40時間」ですが、実は幅広い例外が認められています。
今回は、労働基準法によって認められている多様な働き方をまとめました。
法定労働時間は「1日8時間・1週間40時間」が原則
使用者が労働者を働かせることができるのは、原則として1日当たり8時間・1週間当たり40時間までです(労働基準法32条1項、2項)。
これを「法定労働時間」といいます。
実際には法定労働時間を超える「残業」が広く行われていますが、これは使用者が労働者側と「36協定」という労使協定を締結することで可能となっています。
36協定では、時間外労働(法定労働時間を超える労働)などに関するルールが定められ、36協定の範囲内に限り、使用者は労働者に残業を命じることができます。
幅広く認められている法定労働時間の「例外」
実は36協定以外にも、労働基準法では法定労働時間について、以下に挙げる幅広い「例外」を設けています。
(1)特例対象事業場
(2)変形労働時間制
(3)フレックスタイム制
(4)繁閑の差が激しい一定の業種
(5)裁量労働制
(6)法定労働時間が適用されない労働者
特例対象事業場|1日8時間・1週間44時間
「特例対象事業場」では、法定労働時間が1日当たり8時間・1週間当たり44時間となります。
特例対象事業場とは、以下のいずれかの業種に該当し、かつ常時使用する労働者が10人未満である事業場をいいます(会社全体ではなく、工場・支店・営業所などの事業場単位で判断します)。
(a)商業
→卸売業、小売業、理美容業、倉庫業、その他の商業
(b)映画・演劇業
→映画の映写、演劇、その他の興業の事業
(c)保健衛生業
→病院、診療所、社会福祉施設、浴場業、その他の保健衛生業
(d)接客娯楽業
→旅館、飲食店、ゴルフ場、公園・遊園地、その他の接客娯楽業
変形労働時間制|一定期間の平均に法定労働時間を適用
「変形労働時間制」が適用される労働者については、労使協定で定められた基準期間における1週間の平均労働時間につき、法定労働時間を超えているか否かを判断します(労働基準法32条の2、32条の4)。
たとえば基準期間が4週間で、1週目から4週目までそれぞれ50時間・35時間・35時間・40時間働いたとします。
この場合、4週間の合計労働時間は160時間で、1週間当たりの平均は40時間です。したがって、(1週目の労働時間は40時間を超えていますが)全体として時間外労働は生じていないことになります。
なお、1か月を超える基準期間(最長1年間)を設定する場合には、基準期間が1か月以内の場合に比べて、労使協定で多くのルールを定めなければなりません。
フレックスタイム制|清算期間単位で法定労働時間を適用
「フレックスタイム制」とは、労働者が始業・終業の時刻を決められる制度です。
フレックスタイム制が適用される労働者については、労使協定で定められた清算期間(最長3か月間)に対応する総労働時間を超える部分が、時間外労働となります(労働基準法32条の3)。
総労働時間は、1週間当たりの平均労働時間が法定労働時間を超えないように定めなければなりません。
たとえば清算期間が4週間の場合、総労働時間は160時間以内(1週間平均40時間以内)とする必要があります。
仮に総労働時間が160時間で、1週目から4週目までそれぞれ50時間・35時間・35時間・40時間働いたとします。この場合、実労働時間の合計は160時間で、総労働時間を超えていないため、時間外労働は発生していません。
なお、清算期間が1か月を超える場合には、開始から1か月ごとの週平均労働時間を50時間以内としなければなりません(同条2項)。
繁閑の差が激しい一定の業種|1日10時間まで延長可能
以下のいずれかの事業であって、常時使用する労働者の数が30人未満のものに従事する労働者については、労使協定で定めることにより、法定労働時間を1日10時間まで延長できます(労働基準法32条の5、労働基準法施行規則12条の5)。
(a)小売業
(b)旅館
(c)料理店
(d)飲食店
これらの事業については、日ごとに業務に著しい繁閑の差が生じることが多く、それを予測した上で各日の労働時間を特定することが困難であるため、法定労働時間の調整が認められています。
上記の規定によって法定労働時間を延長する場合、使用者は原則として1週間単位で、その1週間が始まる前に、労働者に書面で各日の労働時間を通知しなければなりません(労働基準法施行規則12条の5第3項本文)。
ただし、緊急でやむを得ない事由がある場合には、前日までに書面で通知すれば労働時間を変更できます(同項但し書き)。
裁量労働制|みなし労働時間を適用
以下の裁量労働制が適用される労働者には、みなし労働時間制が適用されます。したがって、実労働時間が法定労働時間を超えていても、時間外労働は発生しないことが多いです。
(a)事業場外裁量労働制(労働基準法38条の2)
労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときに適用されます。
事業場外裁量労働制が適用される労働者は、原則として所定労働時間(会社が定める労働時間)働いたものとみなされます。
(b)専門業務型裁量労働制(同法38条の3)
19業務*1のいずれかに従事する労働者につき、労使協定に基づいて適用されます。
専門業務型裁量労働制が適用される労働者は、労使協定で定められた労働時間働いたものとみなされます。
(c)企画業務型裁量労働制(同法38条の4)
事業の運営に関する事項についての企画・立案・調査・分析の業務であって、業務の遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるものにつき、労使協定に基づいて適用されます。
企画業務型裁量労働制が適用される労働者は、労使協定で定められた労働時間働いたものとみなされます。
なお、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制については、業務の遂行手段および時間配分の決定などにつき、使用者が労働者に対して具体的な指示をすることはできません。
もしこれらの事項について具体的な指示がなされている場合には、みなし労働時間制が適用されず、実労働時間によって時間外労働の有無が判断されます。
法定労働時間が適用されない労働者
以下の労働者には、法定労働時間の規制が適用されません。
(a)農林・畜産・養蚕・水産の事業に従事する労働者(労働基準法41条1号)
(例)農業従事者、漁師など
(b)管理監督者(同条2号前段)
→権限・待遇・勤務時間の裁量などの観点から、経営者と一体的な立場にあると評価すべき労働者
(例)部下の人事権を有する執行役員、部長など
(c)機密の事務を取り扱う労働者(同号後段)
→経営者または管理監督者の活動と一体不可分の職務を行う労働者
(例)社長秘書など
(d)監視または断続的労働に従事する労働者で、使用者が労働基準監督署長の許可を受けたもの(同条3号)
(例)マンション管理人、警備員など
まとめ
労働基準法では、「1日8時間・1週間40時間」の法定労働時間を原則としつつも、事業の実態に合わせて幅広い働き方(働かせ方)を認めています。
経営者の方はどのような労働時間制を採用するか、労働者の方はご自身の勤務先がどのような労働時間制を採用しているか、今一度検討・確認してみてはいかがでしょうか。
資料一覧
- *1 参考)厚生労働省「専門業務型裁量労働制」
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/senmon/
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この記事を書いた人
阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。