労使紛争の解決手段|個別交渉・団体交渉・労基署・労働審判・訴訟の実際を弁護士が解説

労使紛争の解決手段|個別交渉・団体交渉・労基署・労働審判・訴訟の実際を弁護士が解説

公開日:2023/05/30

未払い残業代や不当解雇などを巡って会社とトラブルになった場合、法的にはさまざまな解決手段が用意されています。問題の性質や会社の対応などを踏まえて、適切な手段により解決を目指しましょう。

今回は、労使紛争を解決する手段の概要・特徴や、各解決手段がどのような状況に適しているのかなどをまとめました。

労使紛争の解決手段の種類

労使紛争の解決手段としては、以下の例が挙げられます。
(1)個別交渉
→会社と直接交渉して、解決方法を話し合います。

(2)団体交渉
→労働組合に会社と交渉してもらいます。

(3)労働基準監督署への申告
→労働基準監督署に対し、会社による労働基準法違反(または労働安全衛生法違反)の事実を申告して行政指導などを求めます。

(4)労働局の個別労働紛争解決制度*1
→都道府県労働局長の助言・指導、または専門家で構成される紛争調整委員会のあっせんを通じて、労使間における自主的な紛争解決を目指します。

(5)労働審判
→裁判所で行われる非公開の手続きです。裁判官1名と労働審判員2名で構成される労働審判委員会が、調停(合意)または労働審判(判断)によって紛争解決を図ります。

(6)訴訟
→裁判所で行われる公開の手続きです。裁判所の判決により、労使紛争を強制的・終局的に解決します。

労使紛争の解決手段(1)|個別交渉

個別交渉のメリット・デメリットは、以下のとおりです。

<個別交渉のメリット>
・交渉がまとまれば、労使紛争を早期に解決できます。
・専門家への依頼費用などを除き、費用がほとんどかかりません。
・円満に労使紛争を解決できる可能性があります。

<個別交渉のデメリット>
・会社が交渉に応じないケースがあります。
・労働者が個人で会社に立ち向かう場合、不利な立場に置かれがちです。

個別交渉に向いているケースは、会社に在籍し続けながら、労使関係を改善したい場合などです。

たとえば未払い残業代の支払いや労働環境の改善などを、会社に在籍しながら求める場合には、会社との関係性を良好に保つことが望ましいでしょう。そのためには、個別交渉で円満な解決を目指すことが有力な選択肢となります。

労使紛争の解決手段(2)|団体交渉

団体交渉のメリット・デメリットは、以下のとおりです。

<団体交渉のメリット>
・団結権等を背景とした、労働組合の強い交渉力を活用できます。
・正当な理由がある場合を除き、会社が団体交渉を拒否することは違法とされています。
・労働組合の一員として正当な行為をしたことを理由に、会社が労働者に対して不利益な取り扱いをすることは違法とされています。

<団体交渉のデメリット>
・労働組合がない場合、または労働組合に加入していない場合は利用できません。
・ストライキを行う場合や、会社によるロックアウトが適法に行われた場合には、期間中の賃金が無給となります。

団体交渉に向いているケースは、労働組合に加入している労働者が会社から不利益な取り扱いを受けており、会社が個別交渉に応じない場合です。
このような場合には、労働組合に団体交渉を依頼すれば、会社と対等に戦うことが可能となります。

労使紛争の解決手段(3)|労働基準監督署への申告

労働基準監督署への申告のメリット・デメリットは、以下のとおりです。

<労働基準監督署への申告のメリット>
・申告に費用はかかりません。
・労働基準法違反または労働安全衛生法違反の事実が認められれば、労働基準監督官による行政指導等が行われた結果、違法状態が是正される可能性が高いです。

<労働基準監督署への申告のデメリット>
・労働基準監督官による行政指導等が行われるのは、労働基準法違反や労働安全衛生法違反などが認められた場合に限られます(たとえば不当解雇などは、労働基準監督官による行政指導等の対象外です)。
・労働者の申告に応じて、労働基準監督署が必ず動いてくれるわけではありません。
・労働基準監督署は、会社に対して具体的な請求を代行してくれるわけではありません。

労働基準監督署への申告に向いているケースは、事業場において慢性化している労働基準法違反または労働安全衛生法違反の状態を是正してほしい場合です。
労働基準監督官による行政指導等が行われれば、会社はそれを無視することはできず、違法状態が是正される可能性が高いでしょう。

ただし労働基準監督署は、労働者に代わって会社へ請求を行ってくれるわけではありません。未払い残業代請求など、会社に対して何らかの請求を行いたい場合は、労働基準監督署への申告と並行して、その他の解決手段の利用を検討しましょう。

労使紛争の解決手段(4)|労働局の個別紛争解決制度

労働局の個別紛争解決制度のメリット・デメリットは、以下のとおりです。

<労働局の個別紛争解決制度の申立てのメリット>
・あっせん手続きを利用すれば、弁護士、大学教授、社会保険労務士など、労働問題の専門家である紛争調整委員による仲介を受けられます。
・訴訟に比べると、手続きが迅速かつ簡便です。
・無料で申立てを行うことができます。

<労働局の個別紛争解決制度の申立てのデメリット>
・労使間で合意が成立しなければ、手続きが終了してしまいます。

労働局の個別紛争解決制度に向いているケースは、あくまでも話し合いによる解決を目指したいものの、会社との直接交渉ではまとまらなさそうな場合です。
このような場合には、専門家の仲介によるあっせん手続きなどを利用することで、解決合意が成立する可能性が高まるでしょう。

ただし、合意が成立しなければ時間の無駄になってしまうので、労使の主張がかけ離れている場合には、労働審判や訴訟を利用することをおすすめします。

労使紛争の解決手段(5)|労働審判

労働審判のメリット・デメリットは、以下のとおりです。

<労働審判のメリット>
・訴訟に比べると、手続きが迅速かつ簡便です(審理は原則として3回以内で終結)。
・労使間で調停(合意)が成立しなくても、労働審判によって結論が示されます。

<労働審判のデメリット>
・労働審判に異議が申し立てられると、自動的に訴訟手続きへ移行します。
・申立てに費用がかかります。

労働審判に向いているケースは、労使間で解決を合意できない可能性も視野に入れつつ、迅速な紛争解決を目指したい場合です。調停(合意)が成立しなければ労働審判が行われ、労使紛争について解決案を示してもらえます。

ただし、労働審判に対して異議申立てが行われれば、結局訴訟手続きへ移行して時間の無駄になってしまいます。異議申立てが確実な状況であれば、最初から訴訟を提起した方がよいでしょう。

労使紛争の解決手段(6)|訴訟

訴訟のメリット・デメリットは、以下のとおりです。

<訴訟のメリット>
・確定判決により、労使紛争を強制的かつ終局的に解決できます。

<訴訟のデメリット>
・長期化しやすい傾向にあります(おおむね半年〜1年以上)。
・訴訟提起に費用がかかります。

訴訟に向いているケースは、労使間の主張がかけ離れており、合意による解決が到底見込めない場合です。このような場合には、会社との交渉を早々に打ち切り、訴訟による強制的な解決を目指すべきでしょう。

まとめ

労使紛争を早期に解決するためには、状況に合わせた紛争解決手続きの選択が非常に重要です。

不適切な手続きを選択すると、紛争解決までの時間がいたずらに長引いてしまいます。問題の性質・内容や会社の交渉態度などをよく分析して、適切な紛争解決手続きを選択してください。

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この記事を書いた人

阿部 由羅

ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。

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