定年後の賢い働き方は?業種別の仕事や雇用形態などをデータで見てみよう
公開日:2023/06/21
少子高齢化の影響で労働生産人口が減少していることもあり、近年では定年後も働く人が増えています。
総務省のデータでは、2020年の高齢者の就業者数は2004年以降、17年連続で前年に比べ増加し、906万人と過去最多になりました。
60歳〜64歳で働いている人は71%となっています。*1
そこで本記事では、定年後の働き方として、再就職・再雇用・起業などの例を挙げながら、高齢になっても元気に働けるビジョンについて解説します。
1.高齢になっても働き続ける日本
高齢化が進む日本ですが元気に働ける人が多いため、60歳以上になっても働き続ける人が珍しくありません。
ここでは、高齢者の就業率や一般的な定年年齢について解説します。
65歳以上の就業率(2020年度)は25.1%、9年連続で上昇
下図1は、総務省が調査した「高齢者の就業率の推移」をまとめたグラフです。
参照すると、2020年における65歳以上の就業率は25.1%となり、9年連続で前年に比べ上昇しました。
60〜64歳で働いている人は71%を占めており、10年前と比較すると約14%上昇しています。70歳以上でも働いている人は17.7%です。
男女別では男性のほうが女性より働いている割合が多く、60〜64歳で働いている男性は82.6%(2020年)存在します。男女ともに還暦を過ぎても、働く人は年々増えていく傾向です。
図1)出典:総務省「2.高齢者の就業」図6
https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1292.html
定年の年齢で一番多いのは60歳(72.3%)
わが国では、定年制を定めている企業割合は 94.4%(令和4年)となっており、そのうち、定年の定め方は職種などに関係なく「一律に定めている」が 96.9%を占めています。*2
下図2は、一律定年制における定年年齢の状況を表したグラフです。
参照すると「60歳定年」とする企業が一番多く、全体で72.3%となりました。
次に多いのは「65歳定年」の21.1%で、5年後と区切りの良い年齢で規定されています。
業種別で見ると、60歳定年で多いのは複合サービス事業(90.4%)、金融業・保険業(88.4%)、情報通信業(83.2%)卸売業・小売業(82.6%)などです。
65歳定年では、運輸業・郵便業(34.0%)、教育・学習支援業(30.4%)、宿泊業・飲食サービス業(27.2%)、建設業(26.2%)となっており、定年の年齢には業種ごとに違いが見られます。
図2)出典:厚生労働省「 一律定年制を定めている企業における定年年齢階級別企業割合」 P2 第15表
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/22/dl/gaiyou02.pdf
定年後は再雇用制度のみの企業が63.9%
下図3は、 一律定年制における「定年後の勤務延長制度および再雇用制度の実施状況」を表したグラフです。 一律定年制を定めている企業のうち、勤務延長制度などの制度がある企業割合は94.2%となりました。ほぼ9割の企業が、勤務していた会社で定年後も働ける制度を設けています。
一番多いのは「再雇用制度のみ(63.9%)」です。再雇用制度のみの会社は、会社の規模が大きいほど高い傾向があり、「1,000 人以上」の会社では79.8%、「300~999 人」が76.8%となっています。
なお、勤務延長制度とは「定年で退職とせず、引き続き雇用する制度」であり、再雇用制度 は「定年でいったん退職とし、新たに雇用契約を結ぶ制度」です。*3
図3)出典:厚生労働省「 第16表 一律定年制を定めている企業における勤務延長制度、再雇用制度の有無別企業割合 」 P3
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/22/dl/gaiyou02.pdf
2.再就職・再雇用・起業の違い
定年後に働くスタイルとして挙げられるのが、再就職・再雇用・起業の3つです。
ここでは、それぞれのスタイルについて解説します。
再就職
再就職は、今まで勤めていた会社ではなく、別の会社で新たに就職することです。つまり、転職を指しています。厚生労働省が調査した「令和2年転職者実態調査の概況」によると、「機会があれば転職したい」と答えた人の割合は、60歳~64歳で15.0%、65歳以上で5.0%となりました。(下図4)
60歳以上では「今の職場で今後も働きたい」という人が6割を超えているのと比較すると、新しい会社で再スタートを切りたい人は少ないといえます。(下図4)
図4)出典:厚生労働省「定年後は再就職、それとも再雇用? ジョブ・カードで見えてくる!」60歳以上で転職したい人の割合は?(中央付近)
https://www.job-card.mhlw.go.jp/column/incumbent/afterretirement
再就職のメリット・デメリット
再就職のメリット・デメリットは以下の通りです。
デメリット:改めて就職活動を行う必要がある *4
心機一転、やりたかった仕事に就ける可能性があるのはメリットですが、改めて就職活動をしなければなりません。
年齢制限などで応募できる仕事が限られることもあり、就職活動がスムーズに行かない可能性もあります。
再雇用
再雇用とは「定年でいったん退職とし、新たに雇用契約を結ぶ制度」です。
一度退職しますが、今まで勤務していた会社と新たに雇用契約を結んで働き続けます。
下図5は、独立行政法人労働政策研究・研修機構が調査した「定年前後の仕事の変化」のデータです。
参照すると、定年前後の仕事の変化は、「定年前とまったく同じ仕事」が全体の44.2%、「定年前と同じ仕事であるが、責任の重さが軽くなる」が38.4%となり、基本的に定年前と同じ仕事をする傾向です。そのため、これまで培ってきたキャリアを活かして働けます。
業種別に見ていくと、「定年前とまったく同じ仕事」で多いのは、「運輸業( 61.3%)」「医療・福祉(55.2%)」「建設業( 51.0%)」です。
「定年前と同じ仕事であるが、責任の重さが軽くなる」では、「電気・ガス・熱供給・水道業(58.3%)」「一般機械器具製造業( 53.7%)」「その他の製造業( 52.0%)」などがあり、業種によっては同じ仕事でも責任が軽くなるケースが見られます。
図5)出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構 「図表 4-3 定年前後の仕事の変化」 P24
https://www.jil.go.jp/institute/research/2020/documents/0198.pdf
再雇用のメリット・デメリット
再雇用のメリット・デメリットは以下の通りです。
デメリット:賃金、勤務形態、業務内容が変わる可能性がある *4
慣れ親しんだ職場でそのまま働けるので、仕事がしやすいのがメリットです。
一から人間関係を築く必要がないのも嬉しいポイントと言えます。
ただ、再雇用になると、賃金、勤務形態、業務内容が定年前と変わる可能性があり、賃金が低くなるのが一般的です。
役職から外れるなど職場での位置付けが変わることがあり、今まで自分の部下であった人の下で働くこともないとはいえません。再雇用により、自分を取り巻く環境が変化することを確認しておくことも必要です。
起業
定年退職後、再就職や再雇用ではなく、自分で新しいビジネスを起業する人も存在します。
下図6は、内閣府が発表した「高齢者の起業促進」に関する資料です。
参照すると、60歳以上の起業家は、「サービス業(他に分類されないもの)」が最も高いことが分かりました。
特に、今までのキャリアを活かした経営コンサルタントや営業代行などが多く、シニア世代ならではの深い知見やスキルを活用してビジネスをしています。
図6)出典:内閣府「高齢者の起業促進」P2
https://www8.cao.go.jp/kourei/kihon-kentoukai/h29/k_2/pdf/s5.pdf
起業のメリット・デメリット
起業するメリット・デメリットはこちらです。
デメリット:失敗したら自己責任、収入の保証がない、一から信用を築かなければならない*5
近年は、高額な資金を使わずに起業する人が多く、内閣府の資料によると、シニア世代が起業に掛ける費用の1位は「200万円超~500万円以下( 24.7%)」、2位が「~50万円以下(17.4% )」です。*6
起業するメリットは自分のやりたいことができ、上手く軌道に乗れば高い収入を得られること、定年がないので健康な限り働き続けることなどが挙げられます。
ただ、自分が事業主であるため、ビジネスが失敗しても誰も庇ってはくれず、全て自己責任です。
収入の保証もないので、不安定な経済状態になる可能性もあります。新規で立ち上げるため、自分のビジネスとして一から信用を築き上げていかなければならないので、決してラクな道ではありません。
まとめ
人生100年時代に突入し、60歳以上を超えても働き続けることが普通になりました。
政府も働き続けたい高齢者のために、高齢者向けにさまざまな就業促進策に取り組んでいます。
定年後も自分にとって理想的なスタイルで働き続けるためには、定年前から将来的なビジョンを考え、準備をしておきましょう。
資料一覧
- *1 「行政機関も『ChatGPT』 神奈川の市役所では“全国初”業務導入」NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230420/k10014043781000.html - *2 「数千ページのマニュアル改訂『ChatGPT』活用へ 農林水産省」NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230418/k10014042001000.html - *3 「ChatGPT、情報漏洩を防ぐには? データ専門家に聞く」日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC229FO0S3A320C2000000/ - *4 Newton別冊「ゼロからわかる人工知能 増補第2版」p86-87
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この記事を書いた人
清水 沙矢香
2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。
Facebook:shimizu.sayaka/