有給休暇の条件や給与の金額はどう決まる?なぜ日本では取得率が低い?

有給休暇の条件や給与の金額はどう決まる?なぜ日本では取得率が低い?

公開日:2023/06/22

筆者はイタリア在住です。日本は梅雨シーズンのころですが、イタリアでは早くも夏がやってきました。

空は真っ青で地中海の太陽は強く照りつけ、サングラスなしでは外を歩けないほど、あらゆるものが輝いています。

学校は6月初旬から夏休みに入り、大人たちも気持ちが高揚し、楽しい季節です。

この時期の挨拶は「Vacanza(ヴァカンツァ)はどこへ行くの?」。バカンスはイタリア語では「ヴァカンツァ」といいます。

ところで、皆さんは有給休暇を取られていますか?

最近、「疲れがたまっているなぁ」という方は、今年のヴァカンツァについて考えてみてはいかがでしょうか。

そもそも有給休暇とは

年次有給休暇とは、一定期間働いた労働者に与えられる休暇で、心と体の疲れを癒し、ゆとりのある生活を保障するためのものです。

この休暇は「有給」と呼ばれ、つまり休んでも賃金が減らされない休暇です。

厚生労働省によると、「年次有給休暇は、法律で定められた労働者に与えられた権利」です*1。

1.半年間継続して雇われている
2.全労働日の8割以上を出勤している

上記2つの条件を満たした場合、労働基準法では労働者に10日間の年次有給休暇が与えられると規定されています。

日本の有給休暇取得率は世界ワースト2位

総合旅行ブランドのエクスペディアが行った「有給休暇の国際比較調査」によると、日本では2022年に年間で支給される有給休暇の日数は20日間ですが、そのうちの12日間が実際に取得され、有給休暇の取得率は60%となりました*2。

この結果から見ると、日本は他の地域と比較して有給休暇の取得率が低く、ワースト2位に位置しています。

Expedia_Vacation-Deprivation-2022-1.pdf

出典)Expedia_Vacation-Deprivation-2022-1.pdf
https://www.expedia.co.jp/stories/wp-content/uploads/2023/04/Expedia_Vacation-Deprivation-2022-1.pdf

日本の労働者の有給休暇の取得率は、2015年以降は45%から50%の範囲で推移していました。しかし、2021年から再び取得率は60%に回復しています。

Expedia_Vacation-Deprivation-2022-1.pdf

出典)Expedia_Vacation-Deprivation-2022-1.pdf
https://www.expedia.co.jp/stories/wp-content/uploads/2023/04/Expedia_Vacation-Deprivation-2022-1.pdf

状況は改善されつつありますが、日本で有給休暇の取得率がこれ以上あがらない理由は何なのでしょうか。

その背景と解決策を考えてみましょう。

日本の労働者が有給休暇を取らない背景

日本の労働者が有給休暇を取得しない理由を考えると、さまざまな要因が関わっていることが分かります。

労働文化の影響

日本の労働文化では、長時間働くことや忍耐強さを尊重する考え方があります。自己犠牲を美徳とする傾向もありますので、有給休暇を取ることに躊躇してしまうのでしょう。

実際、労働者の約3分の2が年次有給休暇の取得に迷いを感じています。その主な理由は、「みんなに迷惑がかかると感じるから」というものです*3。

制度の概要│厚生労働省│都道府県労働局│労働基準監督署

出典)制度の概要│厚生労働省│都道府県労働局│労働基準監督署
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/sokushin/summary.html

有給休暇は労働者の権利でありながらも、上司や同僚の前で休むことが難しいと感じることもあります。休みにくさを感じている人は多いのです。

企業文化の影響

もう一つの問題は、労働者と企業文化との関係にあります。企業によっては、上司や同僚が「有給休暇を取ると仕事への貢献度が下がる」と考えている場合があります。

「職場の雰囲気で取得しづらい」と感じたり、「上司がいい顔をしない」という理由で、有給休暇を取ることをためらう労働者もいます。

有給休暇を取ることに罪悪感を感じたり、周囲の競争的な雰囲気に押しつぶされそうになったりすることもあるでしょう。

このような状況下では、有給休暇を取得することは容易ではありません。

経済的な要因

さらに、経済的な要因も関係している可能性があります。

有給休暇を取得すると昇進や給与評価に悪影響があると感じて、経済的な不安から有給休暇を取ることが難しくなることもあります。

実際に、賞与の査定時にマイナス評価を受けるケースも存在します*4。

会社側は「有給休暇を取らない人は多く働いているので、差が出るのは当然」と回答していますが、厚生労働省の見解は以下の通りです。

労働基準法に定められた年次有給休暇の取得に対する不利益取扱いの禁止について、
労働基準法附則第136条は、使用者は年次有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならないということを規定しています。

年次有給休暇の取得を賞与査定のマイナス要素として扱うことはこの規定に抵触することになりますので許されません。

引用)私の会社では有給休暇を取得すると賞与の査定にあたってマイナスに評価されてしまいます。会社は有休を取得しなかっただけ多く働いたのだから当然と言っていますが、これは法律上問題ないのでしょうか。|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyunhou_15.html

また、有給休暇の賃金は基本的に通常と同額が支給されますが、まれに金額が異なる場合があります。そのため、この点が気になる方もいらっしゃるかもしれません。

有給休暇の賃金支払い方法は以下の3つがあります*5。

1. 通常の賃金を支払う方法
2. 平均賃金を支払う方法
3. 健康保険法の標準報酬日額を支払う方法

どの支払い方法が採用されているかは、労働者が選ぶわけではなく、会社が決めます。会社がどの方法を使っているかを知るためには、就業規則を確認する必要があります。

有給休暇取得率の高い企業から学ぶ

有給休暇の取得率が高い企業から学べることがあるかもしれません。

有給休暇の取得率が高い企業のランキングによると、トップの企業はDMG森精機です*6。

NC旋盤・マシニングセンタの大手であり、有給休暇の取得率が3年平均で109.4%と非常に高くなっています。昨年の2位から首位に上がりました。

「よく遊び、よく学び、よく働く」というスローガンを掲げ、有給休暇の積極的な取得を推進しています。

毎月優れた活動をした従業員を「よく遊び」「よく学び」「よく働き」の3部門で表彰し、奨励金を支給する制度もあります。具体的な制度により、従業員の公私の充実を後押ししています。

2位の企業はトヨタ車体で、有給休暇の取得率は3年平均で101.3%です。

「年休カットゼロ」活動を推進しており、有給休暇の失効をなくす取り組みを行っています。1994年度から28年連続で有給休暇の失効ゼロを達成しています。

3位の企業はクボタで、農機関連企業です。

有給休暇の取得率は100.8%で、時間単位の有給休暇制度を導入しています。

高い有給休暇取得率を継続的に達成する企業は、長期間にわたって有給休暇の取得を奨励し、そのための風土や環境整備に取り組んでいると考えられます。

組織内での風土改革や環境改善は時間がかかるものです。このランキングは、長期間の努力の結果と言えるでしょう。

有給休暇の取得率向上に向けた3つのアプローチ

有給休暇の取得率向上は、個人の意識改革と組織・社会の支援が相互に作用することで達成されると考えられます。

個人としては、自らのワークスタイルや健康管理に主体的に取り組むことで、有給休暇を適切に活用できるようになります。

自己啓発やプライベートの時間を大切にすることで、仕事のパフォーマンスや創造性を向上させ、より充実した生活を送ることができるでしょう。

一方、組織としては、有給休暇を取得しやすい環境を整える必要があります。

例えば、上司や管理職は、自らが有給休暇を取得し、その重要性を示すことで、従業員に良い影響を与えられます。

また、競争意識や罪悪感から従業員を解放するために、働き方の多様性を尊重する文化を築くことも大切です。

さらに、社会全体で有給休暇の取得を支援するためには、政府の取り組みが欠かせません。

法的な枠組みや政策の策定を通じて、労働者の権利保護を強化し、有給休暇の取得を促進する必要があります。

例を挙げると、厚生労働省では、毎年10月を「年次有給休暇取得促進期間」として、集中的な広報活動を行っています*7。

10月は「年次有給休暇取得促進期間」です 厚生労働省

出典)10月は「年次有給休暇取得促進期間」です 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11911000/000846530.pdf

有給休暇は働く人々にとって重要なリソースであり、健康や働きの質を向上させるために活用されるべきです。

個人、組織、社会の3つのレベルでのアプローチを組み合わせることで、有給休暇の取得率の向上とともに、より良い労働環境と生活の質の向上を実現することができるのではないでしょうか。

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この記事を書いた人

Midori

2総合広告代理店のアカウントエグゼクティブを経て、国際結婚を機にイタリアに移住。取材・撮影コーディネーターのほか、フリーランスライターとして主にマーケティング、ビジネスに関する記事を執筆しています。

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