「備えずに防災」という考え方 「フェーズフリー」の商品や例にはなにがある?

「備えずに防災」という考え方 「フェーズフリー」の商品や例にはなにがある?

公開日:2023/06/22

日本は自然災害が多い国として知られていますが、個人的な対策はまだ十分とはいえません。

そこで注目されているのが、日常と非日常を切り分けない、「フェーズフリー」。ふだん使っている商品やサービスを災害時に役立てるという考え方です。

災害時にはバケツになるバッグや、計量カップとしても使える紙コップなどの商品だけでなく、フェーズフリーのコンセプトを取り入れた公園や施設もあります。

日本の災害と災害対策の状況を把握した上で、フェーズフリーのコンセプトを解説し、商品・サービスをご紹介します。

自然災害と防災の現状

まず、日本の自然災害と災害対策の状況をみていきましょう。

自然災害の状況

下の図1は自然災害の発生件数と被害額の推移を表しています。*1:p.398

本の自然災害発生件数と被害額の推移

図1 日本の自然災害発生件数と被害額の推移
出所)経済産業省中小企業庁「中小企業白書2019」p.398
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/05Hakusyo_part3_chap2_web.pdf

緑の折れ線で発生件数をみると、ある程度の変動がみられますが、全体としては増加傾向であることがわかります。

次にオレンジのバーで被害額をみると、阪神・淡路大震災(1995年)、東日本大震災(2011年)の発生時には大規模な被害が記録されています。

では、日本ではどのような自然災害が多いのでしょうか(図2)。

自然災害の発生件数・被害額の災害別割合

図2 自然災害の発生件数・被害額の災害別割合
出所)経済産業省中小企業庁「中小企業白書2019」p.398
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/05Hakusyo_part3_chap2_web.pdf

まず、図2の上の方の構成比グラフで発生件数をみると、「台風」が 57.1%と最も多く、次いで「地震」、「洪水」が多いことがわかります。

次に下の方のグラフで被害額をみると、「地震」が82.8%で圧倒的に高く、「台風」(14%)がそれに続いています。

自然災害への個人的な対策

こうした状況の中、災害に対する対策はとられているのでしょうか。

国土交通省「国民意識調査」によると、防災・減災の実現に重要と考えることとして回答者が上げているのは、「ハザードマップや避難場所・経路の確認」が最も割合が高く54.9%、次いで「食料・水等の備蓄や非常持ち出しバッグ等の準備」が52.5%となっています。*2:pp.49-51

では、実際にそうした対策をとっている人はどの程度、いるのでしょうか。
下の図3は、被災経験の有無別に、最近2年から3年に行っている自然災害への個人的な対策を示したものです。

最近2年から3年に行っている自然災害への対策(被災経験の有無別)

図3 最近2年から3年に行っている自然災害への対策(被災経験の有無別)
出所)国土交通省「国土交通白書2021 第2章第2節>4.防災に関する国民意識」p.50
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r02/hakusho/r03/html/n1224000.html

「何もしていない」と回答した人(ブルーの折れ線)は全体で39.5%ですが、被災経験がある人(赤の折れ線)は23.9%、被災経験のない人(グレーの折れ線)は44.4%に上っています。

これらの数値は「10年前に行っていたこと」と比べると、いずれも減少してはいるものの、被災経験のない人は災害への対策が必要だと考えているものの、実際にはその対策が不十分な傾向にあることがわかります。

フェーズフリーとは

上でみたように、自然災害が多いとわかっていても、それに備えることは案外、難しいことです。
そこで、フェーズフリーに注目が集まっています。

フェーズフリーのコンセプト

フェーズフリーとは「身のまわりにあるモノやサービスを、日常時はもちろん、非常時にも役立てることができるという考え方」のことです。*3

これまで防災用品は、ふだんはしまっておいて、非常時のときだけ取り出して使うというイメージでした。

一方、フェーズフリーは、ふだんの生活で便利に活用できるだけでなく、もしもの際にも役立つ商品・サービス・アイデアを指します。

フェーズフリーの5原則

フェーズフリーの商品・サービスは、以下の5つの原則に基づいて開発されます(図4)。*4

1.常活性:どのような状況においても利用できること
・「いつも」はもちろん、もしもの際にも快適に活用できるという、不可欠な原則

2.日常性:日常から使えること、日常の感性に合っていること
・いつもの暮らしの中で、その商品やサービスを心地よく活用することができるという、重要な原則

3.直感性:使い方、使用限界、利用限界がわかりやすいこと
・使用方法や消耗・交換時期などが分かりやすく、誰にも使いやすく利用しやすいこと

4.触発性:気づき、意識、災害に対するイメージを産むこと
・フェーズフリーの商品・サービスを通して、多くの人に安全や安心に関する意識を提供すること

5.普及性:参加でき、広めることができること
・安心で快適な社会をつくるために、誰でも気軽に活用・参加することができること

フェーズフリー認証マーク(PF認証マーク)制度

フェーズフリー認証を受けた商品・サービスであることを表明できる「フェーズフリー認証マーク(PF認証マーク)」制度があります。*5

この認証は、上述のフェーズフリーの5原則に基づく審査基準にしたがって、フェーズフリー協会の「基準・認証委員会」で審査しています。

フェーズフリー認証マークがついた商品

図4 フェーズフリー認証マークがついた商品
出所)一般社団法人フェーズフリー協会「フェーズフリーに参加する」
https://phasefree.or.jp/sanka.html#cf_top

フェーズフリーの商品・サービス・施設

ここからはフェーズフリー認証を受けたものを中心に、フェーズフリーの商品と施設をご紹介します。

商品

フェーズフリーの商品にはさまざまなものがありますが、そのうち3点ご紹介します。

バケツ・救命胴衣になるバッグ・リュック

まずご紹介するのは、撥水機能を生かし、バケツとして水も運べるバッグです。*6
撥水、撥油に優れ、ヨゴレにくい上に速乾性があり、不使用時は、折りたたんでコンパクトにまとめられます。

また、ふだんは通勤・通学に使いつつ、水害時にはポンチョが取り出せ、貯水タンク・救命胴衣としても使えるリュックもあります(図5)。*7

本の自然災害発生件数と被害額の推移

図5 水害時にも役立つリュック
出所)株式会社三和製作所「製品情報 命を守るリュックシリーズ」
https://www.sanwa303.co.jp/product/7761/

軽量カップとしても使える紙コップ

次にご紹介するのは、災害時に計量カップとして使える紙コップです(図6)。*8

災害時に計量カップとして使える紙コップ

図6 災害時に計量カップとして使える紙コップ
出所)フェーズフリー認証「フェーズフリーデザイン事例集 紙コップ メジャーメント」
https://dcs.phasefree.net/design_case/003/

この紙コップは「ml/cc」「合」「カップ」の目盛を内側から透かし見ることで計量が可能です。

停電やガス不通時は、哺乳瓶の消毒ができません。そんなときこの紙コップがあれば、避難所などで粉ミルクの計量ができ、消毒しないで授乳に活用することができます。
これは使い捨てという紙コップの特性を逆手にとった使用法だといえるでしょう。

また、お米や水量を計ることができるため、炊き出し調理時にも活用できます。

目印灯になるLED電球

通常はLED電球として点灯し、非常時には目印の灯りになるLED電球もあります(図7)。*9

非常時に目印灯になるLED電球

図7 非常時に目印灯になるLED電球
出所)株式会社ヤザワコーポレーション「蓄光LED電球40形 昼白色」
https://www.yazawa.co.jp/products/item/41240/

この電球は蓄光タイプなので、消灯後もほのかに光り、暗所での目印となります。

公園・施設

最近はフェーズフリーのコンセプトを取り入れた公園や施設も登場しています。

防災公園

まず、東京都豊島区の公園をみていきましょう(図8)。*10, *11

非常時に目印灯になるLED電球

図8 「としまみどりの防災公園」
​出所)IKE SUNPARK
https://ikesunpark.jp/

2020年12月、豊島区の造幣局東京支局跡地に、区内で最大の公園が誕生しました。
火災の延焼を防ぐシラカシによる防火樹林帯を備えた同公園は、平常時は区民の憩いの場ですが、災害が発生した場合は区の防災拠点となります。

ヘリポートや救援物資の受入・集配場所等として機能する他、防災倉庫や災害用トイレ、震災対策用応急給水槽や深井戸などの防災施設があります。

防災拠点型複合庁舎

小清水町防災拠点型複合庁舎は、カフェやフィットネス、ランドリーや「にぎわい広場」を備えた複合庁舎です(図9)。*12

小清水町防災拠点型複合庁舎の内部

図9 小清水町防災拠点型複合庁舎の内部
出所)小清水町「ワタシノ」
https://watashino-koshimizu.jp/

ふだんは訪れた人々でにぎわうこの庁舎は、災害時にはフィットネスのシャワーやジムスペースは一時避難のために利用され、カフェや「にぎわいひろば」は備蓄や炊き出しに、ランドリーは清潔さの保持のために活用します。

温泉熱で温められる施設全体は、冬季に災害が生じた場合にも安心です。

おわりに

現在はフェーズブリーの考えを取り入れたさまざまな商品が開発されています。関心をおもちの方は、以下のウェブサイトが役立つかもしれません。*13

一般社団法人フェーズフリー協会「イツモノ」

万一の事態がいつ生じるかわからないにもかかわらず、防災のための行動はつい1日延ばしにしてしまいがちです。
ふだん使いの商品が災害対策にもなるフェーズフリーという考え方はそのブレークスルーといえるのではないでしょうか。

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この記事を書いた人

横内 美保子

博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。
高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。
パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。

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