フレックスタイム制で柔軟な働き方が可能に|制度のポイントを労働基準法に沿って弁護士が解説
公開日:2023/06/28
フレックスタイム制を導入することは、オフィス勤務・テレワーク等を問わず、従業員に柔軟な働き方を認めることに繋がります。今回はフレックスタイム制の概要・メリット・デメリット・導入手続きなどを、労働基準法の規定に沿ってまとめました。
フレックスタイム制とは
「フレックスタイム制」とは、始業・終業の時刻を労働者の裁量で決められる制度です(労働基準法32条の3)。労働基準法に基づき、労使協定を締結すれば導入できます。
労働者の勤務時間が柔軟化し、それぞれのライフスタイルに合った働き方を選択できるため、ワークライフバランスの改善に繋がり得る制度としてフレックスタイム制が注目されています。
フレックスタイム制による労働者の裁量の範囲
フレックスタイム制で働く労働者には、始業・終業時刻の決定に関する裁量が与えられます。その一方で、業務の進め方や時間配分については、通常の労働者と同様に会社の指示に従わなければなりません。
始業・終業の時刻|フレキシブルタイムの範囲内で自由に決められる
フレックスタイム制については、必ず「フレキシブルタイム」が設定されます。フレキシブルタイムとは、勤務するかどうかを労働者が自由に決められる時間帯です。
これに対して、必ず勤務しなければならない時間帯を「コアタイム」といいます。コアタイムは設定しないことも可能です(=スーパーフレックスタイム制)。
フレックスタイム制で働く労働者は、フレキシブルタイムの範囲内であれば、始業・終業の時刻を自由に決められます。
コアタイム:11時から16時(休憩1時間)
フレキシブルタイム:7時から11時、16時から20時
OK例
・7時出勤、16時退勤
・11時出勤、20時退勤
・9時出勤、18時退勤
・11時出勤、16時退勤(労働時間は清算期間単位で管理されるため、1日の労働時間は短くてもOK)
NG例
・12時出勤、20時退勤(11時までには出勤する必要がある)
・7時出勤、15時退勤(16時までは勤務する必要がある)
業務の進め方・時間配分|会社の指示に従う必要がある
フレックスタイム制で働く労働者には、業務の進め方や時間配分に関する裁量が必ずしも与えられているわけではありません。基本的には通常の労働者と同様に、会社から業務の進め方や時間配分の指示を受けた場合は、それに従う必要があります。
業務の進め方や時間配分について広い裁量が与えられるのは、以下の制度が適用される労働者です。いずれもフレックスタイム制とは異なる制度である点にご注意ください。
・企画業務型裁量労働制(同法38条の4)
フレックスタイム制の労働時間管理・残業代
フレックスタイム制が適用される労働者の労働時間は、「清算期間」ごとに管理されます。
清算期間は3か月以内で、フレックスタイム制に関する労使協定において定められます。また労使協定では、平均して1週間当たり40時間を超えない範囲で、清算期間における総労働時間が定められます。
清算期間が4週間の場合、総労働時間は160時間が上限
フレックスタイム制で働く労働者については、実労働時間と総労働時間の差分について、清算期間ごとに以下の要領で精算します。
超過時間数につき、時間外労働の割増賃金(原則として、通常の賃金に対して125%以上)を支払います。
(例)
実労働時間が160時間、総労働時間が140時間の場合
→20時間分の時間外労働の割増賃金を支払う
(2)実労働時間<総労働時間の場合
不足時間数につき、対応する賃金を控除します。
ただし、不足時間数を次の清算期間に繰り越すことも可能です。
(例)
実労働時間が120時間、総労働時間が140時間の場合
→20時間分の賃金を控除する(または、20時間分を繰り越して、次の清算期間の総労働時間を160時間とする)
フレックスタイム制のメリット・デメリット
フレックスタイム制には、メリット・デメリットの両面があります。導入の可否を検討する際には、自社の事業・風土や従業員のタイプなどを十分考慮しましょう。
フレックスタイム制のメリット
フレックスタイム制の大きな特徴は、労働者が働く時間帯を自由に決められる点です。その結果、ライフスタイルに合った働き方が可能となり、働きやすい職場づくりや離職率の改善などに繋がります。
特に専門性の高い人材は、自分の裁量で柔軟に働き方を決めたいと考える傾向にあります。優秀な専門職人材を確保したい場合には、フレックスタイム制を導入していることがアピールの材料になるでしょう。
フレックスタイム制のデメリット
フレックスタイム制を導入すると、会社が労働者の勤務時間を厳密に決めることはできなくなります。
自律的に働ける労働者については問題ありませんが、生活リズムが不安定な労働者や、集中力が不足している労働者については、業務状況等の管理が難しくなる可能性が高いでしょう。
また、労働者の勤務時間がバラバラになることで、労働者間のコミュニケーションに支障が生じるリスクも懸念されます。各労働者のスケジュールを可視化し、モバイル端末を活用するなど、コミュニケーションの円滑化を図る工夫を講じるべきでしょう。
フレックスタイム制の導入手続き
フレックスタイム制を導入する際には、以下の流れで手続きを行います。
(2)就業規則の改定
(3)労働者への周知
労使協定の締結
フレックスタイム制に関する労使協定は、使用者(会社など)と労働者側の以下の者の間で締結します。
→その労働組合
(b)事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がない場合
→事業場の労働者の過半数を代表する者
※管理監督者や使用者の意向に基づき選出された者は、労働者の過半数を代表する者として認められません(労働基準法施行規則6条の2第1項)。
労使協定で定めるべき事項は、以下のとおりです。
・清算期間
・清算期間における総労働時間(後述)
・標準となる1日の労働時間
・コアタイムの開始時刻、終了時刻(コアタイムを定めない場合は不要)
・フレキシブルタイムの開始時刻、終了時刻
・清算期間が1か月を超える場合は、労使協定の有効期間の定め
複数の事業場でフレックスタイム制を導入する場合は、事業場ごとに労使協定を締結する必要がある点にご注意ください。
就業規則の改定
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、フレックスタイム制を導入した場合、関連事項を就業規則に定める必要があります(労働基準法89条1号)。
就業規則を改定する際には、労働組合または労働者の過半数代表者から意見書を取得した上で、それを添付して労働基準監督署に届け出なければなりません(同法89条、90条2項)。
労働者への周知
フレックスタイム制に関する労使協定や就業規則の規定については、使用者が労働者に対して周知する義務を負います(労働基準法106条1項)。
労働者に対する周知は、以下のいずれかの方法で行う必要があります(労働基準法施行規則52条の2)。
(b)書面を労働者に交付する
(c)磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する
まとめ
フレックスタイム制はテレワーク等とも親和性が高く、働き方改革を推進する上で有力な選択肢の一つです。
フレックスタイム制の導入に踏み切る際には、メリット・デメリットの両面を考慮し、自社にフィットするかどうかを十分検討しましょう。
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この記事を書いた人
阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。