あなたの上司はサル派?ゴリラ派?似て非なるリーダーの姿を動物の群れに学ぼう

あなたの上司はサル派?ゴリラ派?似て非なるリーダーの姿を動物の群れに学ぼう

公開日:2023/07/05

サルやゴリラは、人間に近い霊長類です。群れを作り、その中にはリーダーが存在してメンバーを統べています。
この図式は人間社会、企業組織も同じことでしょう。

しかし、サルとゴリラでは組織の様子は大きく異なります。人間社会はゴリラよりもサルに近づいているといいます。

もし、あなたの周辺に「ダメ上司」がいたら、それはゴリラではなくサル化が進んでいる人なのかもしれません。

生後7日目のほほえみ

京都大学の霊長類研究所が2016年に、ニホンザルの赤ちゃんの「自発的微笑」を捉えたことを公表しています。

自発的微笑とは睡眠中に唇の端が上がる動きのことです。外部からの視聴触覚の刺激によらずに生じるため「自発的」とされています。ヒトとチンパンジーでは生後1か月までの新生児期やそれ以降の乳児期にも自発的微笑が見られることはわかっていましたが、ニホンザルについては体系的な研究はなかったということです*1。

「最初の笑顔:ニホンザルの赤ちゃんにおける自発的微笑」京都大学

出所:「最初の笑顔:ニホンザルの赤ちゃんにおける自発的微笑」京都大学
https://www.kyoto-u.ac.jp/sites/default/files/embed/jaresearchresearch_results2016documents160803_101.pdf p1

人間の社会では、笑顔は楽しいという感情を表すものであったり、またコミュニケーションを円滑にする重要な道具でもあります。

しかし論文では、ニホンザルの赤ちゃんの自発的微笑についてこのように考察しています*2。

自発的微笑は養育者の育児に対する態度を変化させるために存在するという説があります。養育者が赤ちゃんの自発的微笑を見ると、その幸せそうな可愛らしさから、より育児に積極的になるのかもしれません。しかし、この説はニホンザルの自発的微笑には当てはまりません。 いったい、どういうことでしょうか。

ニホンザルの「厳しい縦社会」とゴリラの世界

論文は、ニホンザルの赤ちゃんの自発的微笑の存在は、ひとつには「頬の筋肉の発達を促す」ために存在するという可能性があるとしています。

じつは、ニホンザルやチンパンジーは、笑顔を見せるときには頬の筋肉を動かす必要はありません。しかし笑顔に似た「グリメイス」という表情を見せることがあります。グリメイスは恐れや相手に対する服従を意味する表情で、この時に頬の筋肉が必要になるのです*3。

京都大学の前総長でゴリラ研究の第一人者、山極寿一氏によると、グリメイスにはこのような意味合いがあるといいます。

ニホンザル社会には完全なヒエラルキーがあります。優位なサルは肩の毛を逆立て、尻尾をぴんと上げてのしのしと威張って歩きます。
また、劣位なサルは、自分が劣位であることをいつも態度で示します。優位なサルににらまれたら、口を開けて歯茎を出す表情を浮かべます。人間から見ると笑っているように見えますが、これは「グリメイス」というサルに独特の表現方法で、劣位なものが優位なものに対して、「自分はあなたへの敵対心を持っておらず、恐れています」という気持ちを示しています。
<引用:山極寿一「『サル化』する日本社会」p53>

劣位のサルは優位のサルと目が合っても最初から白旗を上げることで、優位のサルとのトラブルを避けているというわけです。

そして山極氏によれば、サルの群れでは目の前にエサがあったとき、このようなことも起きるといいます*4。

真ん中のサルが一番弱い。餌に手を出そうとしたら、目の前に自分より強いサルがやってきたため、餌に手を出せない。でも、ふと右手を見ると、目の前のサルよりも強いサルがやってくるから助けを求めます。そうすると、右の一番強いサルにとって、目の前で自分より弱いサルが強そうな態度を示していたら、自分の社会的地位が脅かされるので、それを追いかけます。そうすると、結果的に一番弱い真ん中のサルが餌をせしめることができるというわけです。これがサル知恵なのです。 部下は上司とそもそも目を合わせない、あるいは最初から突っかかるつもりもない。だまって白旗を上げている。ただ、チャンスがあれば自分より立場の強い人間を利用してエサをせしめる。

このような上司、中間管理職は組織に1人や2人はいそうなものです。しかしそれは、組織としてはいかがなものでしょうか。

優劣の存在しないゴリラの社会

一方で、ゴリラの社会ではこのような光景が見られるといいます*5。

フットボール状の大きな果実をオスのゴリラが取ってきました。その分け前にあずかろうとして、メスや子どもたちが群がっているわけです。そうすると、オスはちょっとずつそれをちぎって落としてやります。それを子どもやメスたちが拾って食べるわけです。これは、絶対サルにはできない光景です。ゴリラやチンパンジーはそれができるということで、優位な立場の者が分け前を取ることを許してやるということに尽きます。そして、向かい合うことによって、強い、弱いというものが反映されない。
サルの社会とは違い「優劣」はなく、エサは「せしめる」「奪い合う」「奪い合いに勝つ、負ける」というものではなく、みんなで一緒に向き合って食事をするという組織です。

サル的上司を生む要因は部下にもある?

このように見てくれば、組織としてはどちらが良いかは明白でしょう。
自分の利益を最優先するサルの群れのような組織では、チームとしての成果を出すのは難しくなってしまいます。しかし部下も諍いを恐れるためにものを申すことはありません。困った上司であり、困った組織です。

しかし、部下の振る舞いが「ダメ上司」を生んでしまっている可能性がある、とする学説もあります。

心理学者のトマス・チャモロ=プレミュジック氏が、企業における管理職の男女比率の偏りについてこのように考察しています*6。

私の考えでは、管理職に占める男女比率がバランスを欠いている主な原因は、私たちが「自信」と「能力」を区別できないことにある。つまり、我々人間は一般に、自信がありそうな人を見ると能力があると間違った判断をしてしまうために、男性は女性よりリーダーに向いていると思い込んでいるのだ。 そして、40か国のさまざまな産業部門から何千人ものマネジャーを抽出して調べたところ、男性は常に女性より傲慢で、操作的で、リスクを冒す傾向にあることが判明したといいます*7。
もちろん全ての男性がそうであるというわけではありませんが、「傲慢で、操作的」というのはリーダーとして好ましくない要素でしょう。

ただ、こうした上司を生む原因は部下の側にもあるというのです*8。

ジグムント・フロイトも、リーダーを生む心理的プロセスは人々(フォロワー)が自分たちのナルシシズム的傾向をリーダーの中に読み取る時に生じる、と論じている。
リーダーに対するフォロワーの愛は偽装された自己愛であり、自分を愛せない人々がおのれを愛する代わりにリーダーを愛するのだ。
「自分の一部を放棄している人は、他者のナルシシズムに強く引かれる。満たされた心理状態を維持できる人々をうらやんでいるかのようだ」
やや難しい言い回しですが、「自分を愛せない人々がおのれを愛する代わりにリーダーを愛する」、つまり自分に自信のない人が、自分の代わりに自信のありそうな人を愛することで自己愛を満たそうとしている、という指摘です。
ニホンザルの優位な個体のように、堂々と歩いている姿の人に惹かれてしまうわけです。

かつ、そういった上位者を愛するのは「自分の一部を放棄している人」でもある、という指摘です。
日本のことわざで言う「虎の威を借る狐」状態とも言えます。部下がそうなると、上司はますますナルシシズムに嵌まり、増長していくことでしょう。そして部下は自信を持てないまま、ヒエラルキーがさらに強くなり、どんどんものを言えない職場になってしまうという悪循環です。

)アイデンティティはどこにあるのか?

このように見ていくと、サル社会のような場所で優位にある立場、逆に優劣の概念を持たず、自分より弱い者に与えることが当然だと考えているゴリラのリーダー、その違いは「アイデンティティの持ちどころ」にあると筆者は感じます。

「地位」にアイデンティティを持ち、それを利用して相手をねじ伏せるのがサル社会であり、自分のアイデンティティを「役割」に持つのがゴリラ社会のリーダーというように筆者には映ります。

また、部下についてもプレミュジック氏の考察を参考にすれば、「強そうな相手に属することで自己愛を満たす」という、自分ではなく自分が誰の部下であるかということにアイデンティティを持っているメンバーがいるという可能性もあるのです。

サルとゴリラ、どちらの社会のほうが組織にとって好ましいのか、また自分のアイデンティティはどこにあるべきか。
これらの話題から考えさせられることは多いのではないでしょうか。

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この記事を書いた人

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

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