2018年ダイアログ
私たちは、さまざまなステークホルダーとの対話の機会を設け、コミュニケーションを深めるべくダイアログを実施しています。
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CSR活動を通じたSDGsへの貢献
いまグローバル社会において、国連が掲げた全世界共通の目標「持続可能な開発目標(SDGs)」が、企業経営の1つの大きな軸として浸透しつつあります。SDGsと既存の事業やCSR活動との関連づけを行う企業は珍しくなく、一方で「その先のステップ」への対応が課題となってきています。グローバル社会の要請に対して、NTTコミュニケーションズは「グローバルICT企業としてのその先」を見据えてどのように向き合い取り組んでいくべきなのか――CSOネットワーク黒田かをり氏をお招きし、今後の課題や展望について語り合いました。
- 田中:
- 黒田さんをお招きして対談をさせていただくのはこれで3年連続となります。思えば、この3年というのは、日本国内においてSDGsが徐々に浸透していった期間でもありました。SDGs推進に取り組む政府の立場からすると、地方自治体あるいは中小企業などに対する訴求はこれからという見方があるようですが、全体としてSDGsに対する認知度、理解はこの3年間でぐっと高まってきたのではないでしょうか。
- 黒田:
- 特に日本の大企業はSDGsへの貢献を目標に掲げるところが増えています。またSDGs達成に向けた優れた取り組みを提案する自治体を「SDGs未来都市」に選定し、国が補助金を交付するといった事業にも注目が集まっています。今後、日本におけるSDGsはますます本格化する機運が高まっていくようで、個人的にもうれしく思っています。
- 田中:
- 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を控え、2025年には大阪・関西万博の開催が決定するなど、国内においてもグローバルを意識する機会が増えてきます。特に大阪・関西万博については、「SDGsが達成される社会を目指すために開催する」と明言されています。真正面からSDGsを受け止めつつ、その達成期限である2030年を見据えた日本の取り組みを世界中に共有していただくような万博になるのではないでしょうか。
- 黒田:
- 実は東京2020オリンピック・パラリンピックにおいても、SDGsが掲げる目標に沿った大会運営を目指すべく、「脱炭素社会の実現に向けて」「資源を一切ムダにしない」「多様性の祝祭」といった具体的なテーマが設定されています。こうした取り組みが世の中に周知されることで、一般社会における認知度もより一層高まっていくことを期待します。NTTコミュニケーションズにおいても、CSR活動の重点領域ごとにSDGsの各目標が関連づけられていますが、社内における浸透具合はいかがですか。
- 田中:
- NTTではグループを挙げてSDGsへの参画を表明しており、当社においても折に触れてSDGsと事業との関係性を自問する機会に恵まれました。その結果、当社のCSR活動の重点領域ごとにSDGsの各目標を関連づけるところまではできたのですが、そろそろ次のステージへと動いていかなければならないということが、社内的にも課題となってきているところです。
- 黒田:
- 昨年のダイアログでは、CSR活動を推進する上でグローバルスタンダードを意識した取り組みの強化を行っていくとおっしゃっていましたね。
- 田中:
- 我々はグローバルICT企業として、日本はもとより海外における社会課題の解決についてもどのような貢献ができるのか、もう一歩踏み込んで考えていくべき時期に差し掛かっていると言えるでしょう。一方、海外マーケットでこれまで以上にプレゼンスを高めるには、グローバルなスタンダードに準拠したCSR活動を進めていくべきだと考えており、それがひいては事業リスクへの対応になるものと捉えています。たとえば2015年に制定された英国現代奴隷法は、ロンドンに支店を構える我々にとっても法令遵守が求められるグローバルスタンダードであり、これをきっかけに当社においてもサプライチェーン上の労働や人権への配慮といった観点からの取り組みが加速することとなりました。当社では2013年に「サプライチェーンCSR推進ガイドライン」を制定しましたが、2018年度以降に新たにサプライヤーとして加わる方々に対しては、労働や人権への適切な配慮について、取引開始時の審査基準として盛り込むこととしました。加えて既存のサプライヤーに関しても「サプライチェーンCSR推進ガイドライン」の遵守を契約書に盛り込んで、同様の配慮を求める仕掛けを新たに構築し、特に大手サプライヤーについてはアンケートを行って、確実に遵守してもらえるように取り組んでいます。
- 黒田:
- 契約書の中に組み入れるというのは、簡単なようで非常に難しいことだと思います。御社はサプライヤーに対して一方的に求めるだけでなく、自らのサプライヤーとしての信頼性や透明性の向上を目的に、世界的なCSR評価サービスを提供する「EcoVadis」に登録して「Silver」の評価を受けるなど、大変筋の通った活動を推進されている印象があります。実際に人権問題がサプライチェーンの先でありそうだとわかった場合には、どのような対応をされているのですか。
- 田中:
- まだ発覚事例はありませんが、契約違反ということになれば、事案の軽重も斟酌しつつ、相応のペナルティ―を課したり、解決に向けて共に考えていくことになると思います。我々にとってもサプライチェーンのマネジメントは非常に難しい領域でした。今後も改善の余地はあると思いますが、英国の法律や取引先からの要請をきっかけに、海外でビジネスを行っていく上で基盤的な部分は整ったものと考えています。
- 黒田:
- 2017年にはフランスで人権デューデリジェンス法、2018年末にはオーストラリアで現代奴隷法が制定されるなど、企業の側に人権尊重への対応が求められる流れは今後も加速していく見込みです。本来、SDGsのベースは人権尊重にあり、169のターゲットのうち9割以上が人権や労働者の権利、すなわち適正な労働慣行という部分に関わっていますが、企業における議論の中では、この人権に関する視点が抜け落ちていることがままあります。そういう意味では、御社の姿勢は素晴らしいですし、今後も他社をリードし、良い刺激を与えていくような取り組みに期待しています。
- 黒田:
- グローバル社会への貢献を意識したCSR活動という観点では、どのような進展がありましたか。
- 田中:
- 2018年より本格化したグローバルCSR活動として、フィリピンの教育課題解決に向けた取り組みがあります。当社にとってこの取り組みが特長的なのは、NPO法人とのパートナーシップによる活動であることです。そもそもこの取り組みを始めたのは、海外で事業を展開する企業として目に見える形でポジティブな社会貢献をやりたいという思いがあったからです。しかし、実際問題として、我々自身が日々の業務をこなしながら海外の社会課題と常時直接向き合うというのは難しいところがあります。そ こで、すでに現地で優れた活動をしているNPOとリンケージを組み、そこに我々の力をミクスチャーすることで、これまでにない新しい運動を生み出せるのではないかと考えたのです。
- 黒田:
- SDGsでいえば、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」に該当する試みですね。活動の場にフィリピンを選んだのには、どのような理由があったのですか。
- 田中:
- フィリピンでは貧困による教育格差が大きな社会問題となっていますが、教育の分野は我々の持つICT関連の技術が生かしやすいということがまず第一にありました。またフィリピンには我々のパートナー会社があり、現地でのバックアップがしやすいというメリットもあります。こうした背景を鑑み、パートナーにふさわしいNPOを探していたところ、アジア14カ国で映像教育の提供によって教育課題の改善に尽力してきたe-Education様が候補に挙がり、お声がけしたところ快諾を得ました。基本的な考 え方としては、e-Education様の教育支援活動をサポートする形でフィリピンの教育課題の改善につながるICTソリューションを提供していくというものですが、具体的な活動方針を固め、支援体制を立ち上げるにあたっては社内で希望者を公募にかけました。うれしいことに「こういうことがやりたくてこの会社に入ってきた」というような熱い思いをもった多数の社員が手を挙げてくれて、最終的に約30名の人間がかかわるプロジェクトとなったのです。
- 黒田:
- 率直に素晴らしい取り組みだと感じます。CSR活動の1つというだけでなく、まずフィリピンの教育課題解決という大きな目標があり、そこにモチベーションの高い社員の方々が自主的に参加されているということも含めて、社会的なニーズに応える形で目指す目標を設定する「アウトサイドイン」のアプローチの好例と言えるのではないでしょうか。
- 田中:
- 活動は2018年6月にスタートしました。e-Education様から現地の状況を繰り返しヒアリングする中で、6グループに分かれた当社メンバがワークショップを通じて課題を選定し、具体的なICT改善案を策定するという流れで進めています。現在3つほどの案に絞られていますが、現地のフィリピン教育局の方々と直接意見交換をしながら、具体的な展開を練っていく予定です。それとは別に、2018年11月にはタブレット端末200台の現地教育局への寄贈を開始しました。今後はe-Education様の映像授業・学習管理に活用するほか、我々のICT改善提案モデルの検証等に使用する予定です。
- 黒田:
- 例えば、どのようなアイデアがあるのですか。
- 田中:
- フィリピンでは、貧困により学校に通えない生徒やドロップアウトした生徒を対象に、再チャレンジの機会を与える卒業認定プログラム(OHSP)が国策として実施されてます。しかし、OHSPで教えている先生は基本的に平日は通常授業を受け持っており、平日は仕事で学校に来ることのできない生徒のために土日に無償で授業を行っているため、個々の生徒たちの学習の進捗等が把握しづらいという課題が浮き彫りになっています。そこに我々のICTの技術を活用することで、教えたい人と教えてほしい人のマッチングサービスシステムのようなものができないかといったアイデアがでています。ほかにも、学校が遠くて通えない生徒たちのためにICTを活用した移動教室のようなバスを作ってしまおうとか、AIロボットを使って生徒のモチベーションを上げるというようなアイデアもあります。いずれも、まだ検討途上でアイディア レベルの域を出ていませんが、現地に寄り添うスタンスでデザイン思考にて検討を進めています。e-Education様はアジア各国で支援活動を展開しているNPOですから、最終的にはそのすべての国に広がっていくような取り組みを目指しています。アジア全域ともなると、我々だけでは難しくなるため、例えば独立行政法人国際協力機構(JICA)などとの連携も視野に入れています。ただ、ここで忘れてならないのは、仮に我々がお金を出せなくなったらそこで立ち消えになってしまうようなプロジェクトにしてはならないということです。フィリピンの人たちが、自分たちの未来のために我々のサポートを活用して教育改革を推し進め、自立した形でそれを成し遂げることが最終的な目標であり、それでこそSDGsが掲げる持続可能性のある社会づくりにつながるものだと考えています。さらには、こうした我々の活動が1つの成功事例になることで、他の国や地域でも同じような事例が後に続いてたくさん出てくることを願っています。
- 黒田:
- 「フィリピンの教育環境を改善する」という共通の目標を掲げることで、行政・NPO・企業間の垣根が低くなり、さらに現地のニーズをきちんと汲み取って活動につなげようとしているあたりは、SDGsの理念である「誰一人取り残さない」に立脚したお手本のようなプロジェクトだと思います。SDGsのよいところは、それが世界の共通言語であり、国境や世代、様々なセクターを超えて成立するものだということです。共通のテーマがないと、従来の自社の強みを活かしたインサイドアウト的な発想から発展しないのかもしれません。実は日本では、企業とNPOの連携事例はまだそれほど多くはありません。助成金を出すことはあっても、パートナーシップというところまで形成できた例は珍しいと言えるでしょう。そういう意味では、今回のNTTコミュニケーションズとe-Educationの連携には大いに期待したいですね。今後、アジアの他の地域にというお話もありましたが、3~4年後に一体どういう展開をされているのか今から非常に楽しみです。
- 田中:
- ご期待に沿えるようがんばりたいと思います。フィリピンにおける活動は社員のモチベーションアップの材料にもなっているようです。今後も社内外の色々な人を巻き込みながら、我々のCSR活動全体を大きくレベルアップさせることにつながるような活動に育てていきたいと考えています。
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黒田 かをり 氏 民間企業に勤務後、コロンビア大学経営大学院日本経済経営研究所、米国の民間財団であるアジア財団日本の勤務を経て、2004年にCSOネットワークに入職。2010年よりアジア財団のジャパン・ディレクターを兼任。日本のNGO代表としてISO26000(社会的責任)の策定に参加。ISO20400(持続可能な調達)国内WG委員、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会「持続可能な調達コード」WG委員、SDGs推進円卓会議構成員、一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク代表理事、日本サッカー協会社会連携委員会委員などを務める。 |