2020年ダイアログ
私たちは、さまざまなステークホルダーとの対話の機会を設け、コミュニケーションを深めるべくダイアログを実施しています。
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不確かな未来を切り拓く
NTTコミュニケーションズのサステナビリティ
NTTコミュニケーションズグループにとって、現在進行形のコロナ禍は、ICTリーディングカンパニーとしての自らのビジョン、社会的な役割を改めて考えさせられる機会となりました。この不確かな未来をICTの力でいかにして切り拓いていくべきなのか、NTTコミュニケーションズが目指すサステナビリティについて、SDGパートナーズ代表取締役CEOの田瀬和夫氏との対話を通して課題や展望を深堀りしました。
- 安藤▶
- NTTコミュニケーションズは、2019年7月に創立20周年を迎えました。私たちはこの節目を第2の創業と捉え、この先10年、20年を見据えてどのように社会的役割を果たし、そのために何をしていくべきなのかを明らかにすべく、全社員参加型で意見を募り、約1年をかけて新たに企業理念、信条、タグラインを設定しました。こうした流れの一環として、CSR基本方針、CSR重点領域およびCSR重点活動項目(マテリアリティ)についても、SDGs/ESGの進展などのグローバルな動向や昨今の社会環境の変化も踏まえつつ、現在、改めて全般的な見直しに向けて検討を進めているところです。
情報通信の分野は変化が激しく、私たち自身も常に変わることを意識していなければなりません。この20年の間にグループ社内にCSRの考え方も浸透し、ICTを通じて社会課題の解決を目指すCSVの考え方も根づきつつあります。しかしながら今後、NTTコミュニケーションズグループとしてのCSR活動を、全社的なパワーをもった社会課題解決に向けた取り組みとしてグローバル社会に投げかけていくためには、さらなる意識の高まり、具体的な取り組みが必要と考えており、そこに課題や悩みがあると感じています。
- 田瀬▶
- NTTコミュニケーションズは2011年の時点でマテリアリティ分析を行うなど、かなり先進的に素晴らしい取り組みをされてきたものと理解しています。現在、マテリアリティを含めた全社的なCSRの指針を5年ぶりに見直そうと取り組まれているとのことですが、タイミング的にもスパン的にも非常に意義のある対応だと思います。
そもそもCSR(企業の社会的責任)という考え方は1990年代以降、それまで企業が経済を優先させてきたことで社会に与えた負の影響に対する贖罪という意味合いを色濃くもって立ち上がり、それが年を経るとともに企業の持続可能性といった考え方へと拡張されてきた歴史があります。今でもCSRという言葉は欧米でも使われていますが、2015年のSDGsの発表を契機にサステナビリティの定義が世界的に確立されたように考えています。端的に言えば、“現在のニーズを満たすために将来を食いつぶすことはあってはならない”という明確なメッセージであり、これまでCSRという言葉で表現していた企業の持続性という言葉を包括する考え方として、広く受け入れられるようになったのです。
一方、マテリアリティとは自社にとっての優先課題を指すもので、投資家を中心としたステークホルダーが関心を持ち、かつ自社に関係のある部分を特定し、開示してきたものです。しかしながらマテリアリティの定義にも考え方がいくつかあり、近年のESG投資の情報開示ルールのあり方を先導するSASB(米国サステナビリティ会計基準審議会)では、“業界が決まれば、マテリアリティは自動的に決まる”という業種別スタンダードの開示を提唱しています。
加えて、マテリアリティに関しては、ここ数年の間に時間軸を考慮した開示の必要性が指摘されてきました。財務/非財務の2つの方向性を認めるダブル・マテリアリティや、社会の変容に併せて随時内容の見直しを行っていくダイナミック・マテリアリティの概念がその代表例であり、活発に議論が進められています。例えば、現在「脱炭素」は多くの企業にとってサステナビリティ推進の証となるキーワードとなっていますが、数年後には「生物多様性」に焦点が移行する可能性が高いといわれています。なぜなら脱炭素を推進できなければ生物多様性が失われ、その結果、困るのは人間だからです。マテリアリティは社会課題のより深い部分に焦点を当てる流れになってきており、ESG情報開示のあり方は今後も社会の変容に伴って変わりゆく可能性が常にあるといえるでしょう。
- 安藤▶
- ESGに関するさまざまな社会要請に対して、持続可能性の確保に向けて少なくとも地球環境や社会に負の影響を与えてはならないという考え方は、今日的には狭義のCSRというべきと理解しています。NTTコミュニケーションズグループに照らし合わせてみれば、狭義のCSRはもとより、ICTを通じて社会課題を能動的に解決していくことが求められており、そうした取り組みとともに、新しい価値を生み出していくというストーリーの展開、いわば、広義のCSRの展開ともいうべきものが、これからの地球環境や未来社会にとって一層重要であり必要なのだと思います。サステナビリティとCSRの関係性でいえば、弊社においても、広義のCSRという意味合いでサステナビリティという言葉を使えるのであれば、その方がスッと入っていくような感覚はあります。
- 田瀬▶
- もう少し踏み込んだことを言わせていただくと、ここ数年、資本主義社会においては、企業経営に伴う利益とプラスの社会的インパクトを両立しないと生き残れない世界の構築に向けたルールづくりの検討が、意図的に、そして急速になされてきています。これは社会、環境に配慮し、プラスの貢献をしなければ利益を得ることができない仕組みであり、“グレート・リセット”、“サステナビリティトランスフォーメーション”などと称されています。企業にとっては、狭義のCSRの考え方では到底解決できない難題であり、相当真剣に取り組んでいかないと両立は不可能ではないでしょうか。
- 安藤▶
- 非常に示唆に富んだ情報をありがとうございます。NTTコミュニケーションズとしても、事業活動を通じて社会により良い影響を残す――そうした取り組みが継続してできなければ持続的に成長することはできないという危機感は浸透しつつあると感じています。新たなCSRマネジメント体制の立ち上げに向けては、しっかりとこのような考え方を組み込んだ形で打ち出していきたいと思います。
- 田瀬▶
- 現在進行形のコロナ禍における企業の対応は、企業の持続可能性を問う意味で非常に重要なターニングポイントになったと感じます。NTTコミュニケーションズでは、この未曽有の事態に対してどのような受け止めをなされているのでしょうか。
- 安藤▶
- 今、世界は新型コロナウイルス感染症の拡大が引き起こす全く新しい社会変容の中にあると捉えています。いわゆるニューノーマル(新常態)の世界に向け、生活者・ビジネス・社会が求める世界観、価値観が大きく変化しようとしています。それはある意味、私たち人類が地球という乗り物の上で、未来に向けて自然と共生しつつサステナブルでよりよい世界やより充実した生活を実現していくうえで、本来必ず克服せねばならなかった変容の一部を強制的に前倒しで経験しているような状況と言えるのかもしれません。今まさに全世界的に行われているリモートを前提とした分散型社会の実験は、地球温暖化、環境保全、ワークライフバランスといった社会課題の解決に向けて重要な役割を果たす可能性があります。コロナ禍が終息した後も、人と人とのコミュニケーション、ワークスタイル、ビジネス、そして、企業や社会のあり方もそれ以前とまったく同じには戻らないでしょう。2020年10月にNTTコミュニケーションズが発表した新しい事業ビジョン「Re-connect X」は、まさにこの新型コロナが引き起こした社会変容に対して、私たちが先導していく役割を明確に示したものです。それは、すなわち、リモートによって分散化された社会において、これまで通信によってつなげてきた価値を再定義し、企業理念に掲げた「人と世界の可能性をひらくコミュニケーションの創造」とお客さまやパートナーの皆さまとの共創によって、「すべて(X=everything)」を安心・安全かつ柔軟に「つなぎなおす(Re-connect)」ことで未来を拓くことであり、NTTコミュニケーションズにしかできないサステナビリティへの貢献と言えます。
- 田瀬▶
- 今、ご紹介いただいた「Re-connect X」のように、企業としてのありたい姿・あるべき姿を、外部に向けた超長期ビジョンとしてお持ちであることがまず素晴らしいことです。漠然としたビジョンを掲げるのではなく、いざという時の経営判断のよりどころとなる超長期のビジョンがあって初めて、企業としてのパーパス(存在意義)が明確になるのであり、それを内外に示すことで従業員の行動基準になり得るのだと思います。
アフターコロナを見据えた事業ビジョンの内容そのものも、非常に重要性の高いものだと感じます。電球が切れたとき多くの人は電球を買いに行きますが、電球がなくても豊かに暮らしていけるのでは?と考える人がいるかもしれない――コロナ禍に多くの人が強いられた在宅ワークやリモート会議は、人間社会が本当にあるべき姿を今一度考え直す貴重な機会になっています。NTTコミュニケーションズの取り組みをお聞きして、非常に心強く感じます。
加えて言うならば、社会全体のDXによってより良い未来を創り上げるという日本政府が掲げる未来社会のコンセプト「Society5.0」に決定的に欠けているのは“inclusive(包括的)”な視点だと思います。IoTやAIの活用を通じて世界を便利にし、人々をみな幸せに――というのが「Society5.0」のメッセージですが、実際のところはそんなに単純な話ではありません。近年、世界はもとより、この日本においても格差が広がりつつありますが、inclusiveな視点の欠如は、デジタルディバイドを拡大させ、さらなる社会格差を助長する可能性があります。「Re-connect X」には、この“inclusive”な視点を持って取り組まれていくことを期待したいと思います。
- 安藤▶
- NTTグループでは中期経営戦略において「Smart Worldの実現」を掲げています。その一環としてNTTコミュニケーションズで取り組んでいる分野の一つに、「Smart Customer Experience」があります。このスマートカスタマーエクスペリエンスとは、事業ビジョン「Re-connect X」にもとづき、顧客接点業務のデジタル化を通じて、多様な生活者の格差や差別が取り除かれた社会を目指す取り組みであり、SDGsの命題でもある“誰一人取り残さない”にもつながっています。このような取り組みは、先ほど言及された“inclusive”な視点に通じるものがあると感じました。
- 田瀬▶
- それは素晴らしいですね。問題はこれを具体的にどのように実現していくかということです。近年、日本は貧しくなったといわれますが、OECDが行った最新の国際成人力調査(PIAAC)によると、日本の成人は参加国の中で読解力や計算力においてトップを記録するなど、優秀なことには変わりありません。翻って近年の国内雇用の動きを統計的に見ると、スキルがいらない仕事やスキル集約的な仕事の雇用が伸びているのに対し、スキルが中間くらいの仕事が最も失業率が高くなっています。これは本来優秀であるはずの中間スキル層が、DXに乗り遅れた結果、賃金の低いスキルの不要な仕事に流れていっているからだと思われます。その結果、国全体として生産性の低い状況となっているのです。「Re-connect X」は、DXの波に乗れなかった人々を敗者復活戦に導き、雇用ひいては経済を活性化させていくという意味でも、非常に重要な取り組みだと言えます。
- 安藤▶
- NTTグループでは2016年にSDGsに対する賛同を表明しており、その一員であるNTTコミュニケーションズも、SDGsの目標に紐づいたCSR重点活動項目などの推進を通じて、目標達成に貢献しています。また2020年度にはバリューチェーン全体で社会や環境にどのような面で正の影響をもたらして、負の影響の抑制を図る必要があるのか、そして、SDGsと照らし合わせた、社会的課題の解決に向けた取り組みの方向性を明確化しました。今後はNTTコミュニケーションズグループとして、SDGs達成に向けてターゲットレベルで取り組んでいく検討も進めています。その過程において、グループ全体にSDGsの意識と取り組みをより一層浸透させ、達成に向けた活動を加速させていくために、ご助言をいただければと思います。
- 田瀬▶
- SDGsは連鎖反応を起こします。SDGsにターゲットレベルで取り組むことは、決して悪いことではありませんが、取り組みの結果として生まれるアウトプット、アウトカムが、巡り巡って社内や顧客、そして社会にどのようなインパクトを及ぼすのか、そこまで分析、予測しながら進めるべきではないでしょうか。社会的なインパクトを生む因果関係が論理的に考えられた取り組みの実践が、SDGsを経営に取り入れるうえで重要です。
例えば、多くの企業がマテリアリティとして挙げていて、イノベーションの源泉といわれているD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)というキーワードがありますが、その推進にあたって経営トップが確固たる意思をもって進めているのか――サステナビリティに関する企業評価の観点ではそこが非常に重視されることとなります。本来、D&Iと対になるキーワードは心理的安全性であり、それは突飛な意見を言っても受け入れられる社内の風土と言い換えることもできます。“多様性がイノベーションの源泉”とはそういう意味であり、その因果関係を分かった上で推進する取り組みこそが、正の社会的なインパクトを生み出すことができるのだと思います。
社会課題の解決に向けて、SDGsに代表されるアウトサイド・インのアプローチは決定的に重要ですが、ありたい社会像に対して自分たちに何ができるのかを熟知していなければ、目指すゴールにはたどり着けないでしょう。これまでに積み重ねてきたインサイド・アウトの思考もフル活用しながら、その上で確固たる信念をもって目指す未来を引き寄せる方向に貴重な経営資源を投入していくことが、今求められているのだと思います。NTTコミュニケーションズの膨大な実績、ノウハウを活かしつつ、サステナビリティを見据えたRe-connect Xによる大いなる変革をぜひとも実現してほしいと思います。
また、社内にSDGs推進の意識を浸透させるという点においては、安藤様のように社員を引っ張る立場にある方が、新たに策定される基本方針や重点活動項目などに盛り込まれる、社会課題解決に向けた強い思い、熱量というものを、社員のみなさんに直接的に伝えることが重要です。例えばリモート会議であれば、経営層の方が一般の社員の隣に映し出されることもあり、そこで経営層が熱く語りかける言葉は、一般社員との距離を縮めることでしょう。小さなことに思えるかもしれませんが、こうしたきっかけ、接点が増えるほどに社員の思いを1つにし、SDGsの取り組みをさらに加速させていくのではないでしょうか。
- 安藤▶
- 今後「Re-connect X」を推進していく上で、決して欠かせない視点がパートナーとの共創だと考えています。持続可能な未来の構築に向けて、私たち自身の強み、良さを何倍にも大きくしてくれる可能性をパートナーとの共創は秘めています。ICTは今後ますますあらゆる分野に浸透していきます。私たちのお客さま、パートナーもすべての世界におよび、それだけにかかる期待や責任も非常に大きいものと理解しています。そうした声に応えられるよう、社員とも対話を重ねながらICTが持つ無限の可能性をどこまでも追求していきたいと思います。本日はさまざまな角度から示唆に富む、貴重なお話やご助言をいろいろといただき、本当にありがとうございました。
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田瀬 和夫 氏 1967年福岡県福岡市生まれ。東京大学工学部原子力工学科卒、同経済学部中退、ニューヨーク大学法学院客員研究員。1991年度外務公務員I種試験合格、92年外務省に入省し、国連政策課、人権難民課、アフリカ二課、国連行政課、国連日本政府代表部一等書記官などを歴任。2001年より2年間は、緒方貞子氏の補佐官として「人間の安全保障委員会」事務局勤務。2017年にSDGパートナーズを創業。企業のサステナビリティ方針全体の策定と実施支援、SDGsの実装支援、統合報告書の設計支援、ESGと情報開示支援、自治体と中小企業へのSDGs戦略立案・実施支援をリードする。 |