2024年3月26日
日本電信電話株式会社
NTTコミュニケーションズ株式会社
光電融合技術とオープン標準を用いた複数社製品による400Gbps/800Gbps IOWN APNをOFC2024で動態展示
~光のまま低遅延・低電力で分散型データセンタを接続~
発表のポイント:
- 光ネットワーク技術の世界最大級の国際会議「OFC2024」展示会で、最先端技術のデモ環境「OFCnet」にて、IOWN(※1)APN(※2)の動態展示を実施
- 革新的データセンタエクスチェンジサービス実現に向け、IOWN Global Forum(※3)およびOpen ROADM MSA(※4)との連携により、マルチベンダでの400Gbps/800Gbps相互接続動作を実証
- 大容量サービスを低遅延、低消費電力で遠隔地まで提供できる光電融合デバイス技術、監視技術が実現され、サービス提供の効率が大幅に向上
日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)とNTTコミュニケーションズ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:丸岡 亨、以下「NTT Com」)は、IOWN Global Forum(IOWN GF)にて制定が進んでいるAll-Photonics Network(APN)のアーキテクチャに準拠するとともに、400Gbps/800Gbps光電融合デバイスを活用した革新的データセンタエクスチェンジ(DCX)のマルチベンダでの動態展示を世界で初めて一般公開します。本動態展示は米国サンディエゴで2024年3月26日~28日(米国時間)に開催されるThe 2024 Optical Fiber Communication Conference and Exhibition(OFC2024)にて実施します。
図1 マルチベンダでDCXをデモンストレーションする展示構成
1.背景
インターネットやスマートフォンの普及に加え、AIを利用したサービスの台頭により、データセンタのコンピューティングリソース間の通信データ量、および通信設備の消費電力が急増しています。NTTグループは、このような通信量・消費電力の急激な増加に対処するため、光電融合技術(※5)を活用した低消費電力で大容量・低遅延の次世代インフラであるIOWN APN(All-Photonics Network)の実現と普及を進めています。また、都市部に集中していたデータセンタを電力やスペースの確保が容易な郊外へ分散配置する分散型データセンタの構築を計画しています。
分散型データセンタをIOWN APNで接続する際、複数のデータセンタ拠点があたかも単一の拠点として利用できるような情報処理が必要となります。この機能の実現には、分散配置される遠隔のデータセンタを大容量・低遅延・低消費電力なエンド・ツー・エンド光波長パスにより自在に接続するデータセンタエクスチェンジサービス(以下DCX)機能が必須です。遠距離に配置されたデータセンタ拠点を接続するDCXでは、伝送距離と監視範囲を拡大する必要がありますが、現状の伝送網では電気終端点が存在してしまい、低遅延化、省電力化に課題がありました。IOWN APNでは電気終端を適用せず光電融合デバイス間を光のままエンド・ツー・エンドで接続し、限界まで低遅延化、省電力化を進めることをめざしています。
NTT、およびNTT ComはこれまでIOWN Global Forum(IOWN GF)の規定するAPNアーキテクチャを利用してDCXを実現するため、APNに必要となる光伝送技術、デバイス技術、ソフトウェア技術の研究開発とフィールドでの実証実験を進めてきました[1]。また、オープンな光網を実現するため、IOWN GFとOpen ROADM MSA、TIP(※6)という関連フォーラムを連携させることにより、DCXにおいて遠隔拠点を監視・制御するためのネットワークアーキテクチャの標準化を進めています。
2.展示の内容
本展示はOFC2024展示会のブース912「IOWN Networking Hub」にて、IOWN APNのユースケースであるDCXを複数社の製品を用いて動態展示します。IOWN APNによるDCXは光・電気変換を接続ネットワーク内で行わず、光のままの回線である光波長パスを低遅延、低消費電力で提供することにより、遠隔地への大容量回線提供の効率を大幅に向上させます。本展示は、このような遠隔拠点へのサービス提供の課題である遠隔回線監視と、長距離伝送のために必要となる伝送路解析と伝送パラメータ最適化に対する解決方法を示すものです。
■エンド・ツー・エンド光網
IOWN Networking Hubに配備された光電融合技術を利用したトランシーバを光波長パスの送受信端とし、OpenROADM MSAおよびOpenLab@UTD(※7)により隣接ブース916に構築されるOpen ROADM光網に対して400Gbpsおよび800Gbpsという大容量回線を接続します。両ブースの連携により、IOWN Networking Hubのトランシーバから中継区間となるROADM光網を介した、遠隔ユーザ拠点間のエンド・ツー・エンド光網の実演をします。
■伝送路解析と光波長パス自動最適化
遠隔のデータセンタ拠点に配備された機器の遠隔監視を実現するソフトウェア技術であるリモート制御エージェント機能と、光信号のパワーレベルをエンド・ツー・エンドで可視化するDigital Longitudinal Monitoring(DLM)[2]を利用し、最新の市中技術で構成されたエンド・ツー・エンドのマルチベンダ光伝送網上で最適な光波長パスを提供する技術を実演します。
■オープンなマルチベンダネットワーク
エンド・ツー・エンドデモに必要な光ネットワーク設備はOpticaの提供するネットワークデモ環境OFCnetと、OFS、アンリツ、VIAVIの提供する光ファイバと光測定器を活用して構築します。加えて、光通信装置・光トランシーバのリーディングベンダであるCiena、富士通株式会社(以下、富士通社)、Molex、NECの最新製品を接続し、NTT研究所およびNTTコムウェアの光網運用監視システムを活用し統合的なデモを実現します。なお、ブースではNTT ComによるIOWN APNの将来のオペレーション像のプレゼンテーションが予定されています。
IOWN GFとOpen ROADM MSAという光通信業界のリーダシップをとる主要フォーラムが連携してオープンなアーキテクチャが示されると共に、光電融合デバイス等の必要なキー技術の商用化が進んだことにより、IOWNによるDCX実現の通信機器市場のオープンなエコシステムが成熟してきました。このため、市中製品にNTTグループが提供する監視技術・最適化技術を適用した光ネットワークを構築することでオープンなDCXの構築が可能となりました。
3.今後の展開
今回展示したDCXを実現するIOWNの分散型データセンタのマルチベンダ接続は、IOWN GF、Open ROADM MSA、TIPといったオープンフォーラムが連携した標準化成果を最大限に利用して実現されています。NTTグループはこれらのフォーラムと連携を進め、ネットワークの高度化と共に、ネットワークのオープン化をめざしていきます。
NTT Comでは、光電融合技術を活用した新しい通信設備を2025年度に導入することで、さらなる大容量・低遅延・低消費電力のAPN通信サービスを実現し、データセンタ接続などを行う予定です。また、遠隔回線監視、伝送路解析などの技術の適用について検討を進めています。
NTTグループは、今回の展示を実現した業界内連携を基に、ますます重要となる社会インフラであるデータセンタの接続への、省電力・大容量・低遅延なIOWN APNの適用を加速していきます。
その他
デモの一部(リモート制御エージェント機能)は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の助成事業(採択番号50201:オール光ネットワークのサービス機能向上技術及び遠隔制御対応光トランシーバ構成技術に関する研究開発プロジェクト)で実施されます。
【参考】
[1]ニュースリリース「データセンタエクスチェンジの実現に向けAPNを活用した光波長パス設定技術を確立し実証」https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/10/13/231013a.html
[2] T. Sasai, M. Nakamura, E. Yamazaki, S. Yamamoto, H. Nishizawa and Y.Kisaka, "Digital Longitudinal Monitoring of Optical Fiber Communication Link," Journal of Lightwave Technology, vol. 40, no. 8, pp. 2390-2408,2022.
【用語解説】
※1:Innovative Optical and Wireless Network (IOWN)
あらゆる情報を基に個と全体との最適化を図り、光を中心とした革新的技術を活用し、高速大容量通信ならびに膨大な計算リソースなどを提供可能な、端末を含むネットワーク・情報処理基盤。NTTニュースリリース「NTT Technology Report for Smart World:What's IOWN?」
https://group.ntt/jp/newsrelease/2019/05/09/190509b.html
※2:Open All-Photonic Network (APN)
IOWN Global Forumにてオープンにアーキテクチャ策定が行われているフォトニクス技術をベースとした革新的ネットワーク。IOWNのユースケースを支えるネットワークとして、必要なときに必要な地点間を光波長パスでダイレクトに接続可能にする。
https://iowngf.org/wp-content/uploads/formidable/21/IOWN-GF-RD-Open_APN_Functional_Architecture-2.0.pdf
※3:IOWN Global Forum
これからの時代のデータや情報処理に対する要求に応えるために、新規技術、フレームワーク、技術仕様、リファレンスデザインの開発を通じ、シリコンフォトニクスを含むオールフォトニクス・ネットワーク、エッジコンピューティング、無線分散コンピューティングから構成される新たなコミュニケーション基盤の実現を促進する新たな業界フォーラム。
https://iowngf.org/
※4:Open ROADM MSA
ROADM(Reconfigurable Optical Add-Drop Multiplexer)システムをベンダ間で相互運用できるようにするためのインタフェースや、仕様を定義しているMSA (Multi-Source Agreement)。
http://openroadm.org/
※5:光電融合技術
電気信号を扱う回路と光信号を扱う回路を融合することで、小型化や経済化に加え、高速化や低消費電力化などの性能向上を実現するデバイス。
https://journal.ntt.co.jp/article/23720
※6:Telecon Infra Project (TIP)
世界で必要とされる高品質な接続性を提供するために数百社を含む多様なメンバーが参画し、オープン化・ディスアグリゲーション化・標準化に基づくソリューションを開発・試験・展開するグローバルコミュニティ。
https://telecominfraproject.com/
※7:OpenLab@UTD
オープンネットワークのイノベーションの創出をめざしテキサス大学が中心に運営される、光ネットワーク相互接続の試験環境を提供する業界団体。
本件に関する報道機関からのお問い合わせ先
日本電信電話株式会社
先端技術総合研究所
企画部 広報担当
nttrd-pr@ml.ntt.com
NTTコミュニケーションズ株式会社
<別紙>技術の詳細
今回の展示では以下のキー技術を使うことでDCXを実現しています。
① OpenROADM/OpenZR+トランシーバによる遠隔光接続
遠隔拠点に配置するトランシーバにはOpenROADM MSAおよびOpenZR+MSA(※8)で標準化された2種類の標準400Gbps信号フォーマットを利用します。複数ベンダのトランシーバが、複数ベンダで構成されるOpenROADM網を介してエンド・ツー・エンドに相互接続できることを確認し、調達上のエコシステムの観点でもIOWNのアーキテクチャが柔軟であることを実証します。
OpenROADM フォーマットに基づく接続では、IOWN GFとOpenROADM MSAで議論が進む光遠隔接続のアーキテクチャを利用し、光監視チャネルを主信号に重畳し、遠隔拠点の通信システムまで監視信号含めて電気終端せずに伝送を行います。今回、富士通社およびNEC社の装置およびトランシーバを利用しマルチベンダで実現しました。
OpenZR+フォーマットに基づく接続では、データセンタ設備と共通化が容易な小型トランシーバであるQSFP-DD(※9)をCiena社およびMolex社の製品間で相互接続を行います。今回利用するトランシーバは、より遠隔地まで光信号を伝送するのに適した、通常より高い信号レベルを持つ製品です。Ciena社とNTTはオープン標準化をリードしており、Ciena社のモジュールはOpenZR+MSAに加えOpenROADM MSA、ITU-T(※10)規格等のオープンフォーラムで規定された14の伝送モードを単一製品で網羅的にサポートし、要件に応じて最適な標準規格の選択が可能です。また、Molex社の400GbpsトランシーバはIOWNの光電融合デバイスを利用して実現され信号光出力+6 dBmの業界最高レベルの水準を達成しています。エンド・ツー・エンドの疎通通信品質は回線の終端点でQSFP-DDを2ポート搭載するアンリツ社の400Gbpsイーサネットテスタを利用し確認試験されます。
② 伝送路解析と光波長パス自動最適化
従来、伝送路の品質解析には専用の機器を用いる必要がありました。これに対し、IOWNの光電融合デバイスは光伝送路にある様々なノイズや信号ひずみをデバイスの受信データとして捉えることができます。取得した光波形データに高度な信号処理技術を適用することで、専用の機器を用いることなく、光電融合デバイスの搭載されたトランシーバだけで伝送路の状態を詳しく確認することができます。今回の展示では、800Gbpsの光電融合デバイスで取得した情報を利用し、複数の光ファイバや光アンプで構成される光伝送路を伝搬している信号光に関し、パワーレベ遷移をエンド・ツー・エンドで可視化するDigital Longitudinal Monitoring(DLM)を動態展示します。加えて、伝送路解析により可視化された伝送路状態を基に、最適な設備利用方法を解析・提示する光波長パス自動設計技術を実演します。光波長パス自動設計技術を導入し運用を自動化することで、お客様の環境や利用方法に合わせて、データセンタ間に迅速に光波長パスを提供できるようになります。これら、伝送路可視化と最適化により同じ伝送設備でも通信の効率と品質を大幅に向上させたサービス提供が可能となります。
なお、伝送路可視化技術は富士通社の800Gbps伝送装置上で動作させ、複数段の光増幅が可能VIAVI社の光測定器とOFS社の低損失光ファイバにより構築した伝送系に適用します。OFCnetの提供する会場外のフィールドテストベッドを活用したマルチベンダ伝送の実演も予定しています。
③ リモート制御エージェント
遠隔地に配置する光トランシーバに対し、サービスに必要な監視・制御を行うことは必須の機能です。IOWNの遠隔監視ソフトであるリモート制御エージェントは、データセンタで一般的に使われているKubernetes上のコンテナとして動作し、データセンタ設備に特別な負荷を与えることなく遠隔からの運用を実現可能です。実現プラットフォームとしてNTT研究所およびNTT Comが制定に寄与して策定されたTIP Open Optical & Packet Transport (OOPT)(※11)のPhoenix(※12)に準拠したNEC社オープン光伝送装置、およびオープンNetwork Operating System(NOS)を利用した800Gbps伝送装置を利用し実証します。また、監視システムとしてNTTコムウェア社提供の運用実績のある監視ソフトを利用します。IOWNで提供するこれら分散型データセンタの監視機能は、データセンタで利用されるシステムに親和性が高く、データセンタの本来の運用に対しシームレスに監視機能を提供可能となります。
【用語解説】
※8:OpenZR+MSA
デジタルコヒーレント光通信技術(コヒーレント光受信とデジタル信号処理を組み合わせた伝送方式)に関して、小型のプラガブルモジュールへの実装や相互接続性を考慮した仕様を定義しているMSA。
http://openzrplus.org/
※9:Quad Small Form Pluggable Double Density (QSFP-DD)
データセンタで一般的に使われる400Gbpsプラガブル光トランシーバ規格の一種。
※10:International Telecommunication Union-Telecommunication sector (ITU-T)
国連機関の1つであり、国連加盟国・地域により構成される国際標準化機関であるITUにおいて、情報通信の国際標準化を担当する組織。https://www.itu.int/en/ITU-T/Pages/default.aspx
※11:TIP Open Optical & Packet Transport (OOPT)
光とIPネットワークにおけるハードウェア・ソフトウェア分離とイノベーション加速をめざして、TIPにて設立されたプロジェクトグループ。
https://telecominfraproject.com/oopt/
※12:Phoenix
2018年開催のTIPサミットにおいて発表された、ハードウェア・ソフトウェアを分離した400Gbpsトランスポンダの実現をめざしたプロジェクト。
2024-R031