2021/10/19

インタビュー 未来のICTを実現するNTT Comの技術戦略とIOWN®構想

現在、インターネットの活用が急速に普及し、より大容量なデータを、より速く届けることが求められています。しかしそれを実現するには、今のインフラ環境ではいずれ限界が来てしまいます。そこでインフラ環境自体を刷新し、よりよい通信環境を整えようとしているのが、NTTの掲げるIOWN 構想です。IOWN 構想の技術面を支えるNTT Comの技術戦略と今後の社会について、イノベーションセンターIOWN推進PT長 山下達也が解説します。

IOWN 構想とは

IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想とは、最先端の光関連技術、および情報処理技術を使った大容量、低遅延、低消費電力の通信・コンピューティングインフラと、そのインフラ上で提供されるさまざまな新サービスの構想です。

IOWNの起源は、NTTが発明した2019年4月に発表した世界最小の消費エネルギーで動く光トランジスタですが、この光デバイスの開発はさらに発展し、2020年には、世界初の超高速と低消費電力を両立した全光スイッチ、世界初の光の干渉だけで任意の論理演算ができる超高速光論理ゲート、世界最高速の帯域100GHzを超える直接変調レーザなどの発明を成し遂げ、光技術の可能性を格段に広げることができました。そして、今後、光の演算処理をチップの中に内蔵する「光電融合型プロセッサー」を実現することを目指しています。

IOWN構想では、NTTの画期的な発明である「光電融合技術」を用いて、低消費電力化・大容量化・低遅延化を兼ね備えた革新的なネットワーク基盤の構築を目指しています。

現状のネットワーク基盤では何が不十分なのか

今、インターネット環境はめまぐるしい発展を遂げています。新型コロナウイルスの影響によるリモートワーク、オンライン学習の増加など、かつてないパンデミックに直面しています。そのような中、今後も持続可能な社会の発展に向けさらに大容量かつ高速なネットワークが求められるようになってきています。それに応えようと、さまざまな企業が高性能なICTリソースを生み出しており、例えば通信規格は今4Gから5Gへ、さらにその先のBeyond5Gまで目指されています。また、TeamsやZoomをはじめとしたオンライン会議システムもよく利用されるようになってきました。その結果、データ量は2010年から増加の一途を辿っており、2025年には約90倍になるといわれています。【図1】

【図1】

(参照元:https://www.rd.ntt/iown/0001.html

しかし、現在のネットワーク基盤ではそれを支えられるだけの余裕がありません。大容量のデータ通信が行えず、通信速度の低下、消費電力の増加など、いずれ限界が来てしまうのです。そこで、NTTでは2030年ごろを目途にIOWN構想の実現を目指しています。既存のネットワーク環境からIOWN構想への進化は、自動車でいえば排ガスによって地球温暖化が進み過ぎる前に電気自動車や水素自動車へシフトチェンジするのと同じです。

IOWN 構想実現にあたっての課題

一番の課題は消費電力を抑えることです。経済産業省によると、現在、IT機器の消費電力量は爆発的に増えており、2006年から2050年には、12倍もの電力量の増加が見込まれています。
(参照元:https://www.rd.ntt/iown/0001.html

より快適で便利な社会の実現のために、ICTリソースを増やすことはもちろん可能ですが、それだけでは消費電力やコストの面でマイナスが生まれてしまいます。より競争力があり、社会に貢献するためには、低消費電力化を実現したICTリソース、ネットワーク基盤が必要です。そこでNTTの光電融合技術を使うことにより従来の電気配線に比べ、大幅に消費電力を抑えられると考えています。

消費電力の次に課題と考えているのが、大容量化と低遅延です。
圧倒的な大容量化、低遅延を実現するため、NTT Comでは中継系ネットワークに使われている光伝送をエンド・ツー・エンドに拡張し、ユーザーや用途ごとに光のままで超高速・大容量通信を実現する技術「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」について、NTT研究所と連携して実施していく予定です。

IOWN 構想が実現すれば、電力効率はこれまでの100倍※1、伝送容量は125倍※2、遅延は1/200※3になると予想しています。

※1フォトニクス技術適⽤部分の電⼒効率の⽬標値
※2光ファイバー1本あたりの通信容量の⽬標値
※3同⼀県内で圧縮処理が不要となる映像トラフィックでの遅延の⽬標値

IOWN 構想の実現によって目指す世界

IOWN 構想を通して、NTTでは「Beyond Human」「ソーシャルネットワーク型」「リモートワールド」の3つを達成した社会を目指しています。

まず1つめの「Beyond Human」では、人間をまねるAIから、人間ではできないことをするAIへの進化を目指しています。現在のAIの多くは、その出力を人間が利用することを前提に作られている、つまり、人間が認識できる内容、あるいは人間が認識できる速度にフォーカスを当てているものが大半であると言えると思います。

例えば、映像であれば1秒間に30フレーム、音であれば20Hzから20,000Hzが人間の認識できる範囲です。しかし、IoTなどの機械なら映像であれば例えば1秒間に120フレームの、音であればイルカ並の150,000Hzの音まで認識することが可能です。従って、AIがこういった人間の知覚を遥かに超えた情報を処理することができるようになれば、事故や自然災害などの現象が起きる前にその予兆を見つけて未然に防ぐことも可能になり、これまで以上に安心・安全に暮らせる社会が実現するでしょう。

2つめの「ソーシャルネットワーク型」とは、データインフラの整備に伴うシステムの設計の考え方の変化のことを言っています。これまでは、いわゆる「サイロ型」、つまり防犯カメラは防犯のため、車両感知器は渋滞解消のため、と各センサーデータは主に単一の目的ために使用されてきました。しかし、これからは「サイロ型」から「ソーシャルネットワーク型」に進化することで、さまざまなセンサーデバイスの情報を組み合わせ、複合的な情報から近未来を予測し最適化するAIアプリを実現することができる様になると考えています。

具体例を挙げると、これまで監視カメラは一台ずつ店内に配置し防犯のために使用されてきました。しかし、カメラのレンズだけを店内に配置して、カメラの映像を管理・分析・制御する基盤が別にあれば、防犯のためだけでなく商品配置の最適化など、複数の目的で使用できるようになります。また、これまで監視カメラの性能が上がるとカメラ本体をすべて取り替えなければなりませんでしたが、このような形態になれば、レンズはそのままに、脳となる基盤だけを刷新すればよいためとても効率的です。さらに、監視カメラ一台一台を作動させるには多くの電力を消費しますが、レンズだけなら電力消費を抑えられるため、エコにもつながります。

3つめは「リモートワールド」です。リモートでできることがより高度になっていくことで、会社や学校、サービス業やエンターテイメントなどが、これまで以上に対面からリモートに置き換わっていくでしょう。そのリモート化の進行において重要な点は、臨場感と一体感が感じられることはもちろん、従来できていることをそのままリモートに持ってくるだけではなく、リモートでしかできないことを付け加えることで、オフラインよりも、より付加価値の高い体験ができる様になることだと考えています。

IOWN構想実現のために、NTT Comが取り組んでいること

新型コロナウイルスによる新しいライフスタイルにより、人は家で過ごす時間が長くなりました。
自宅がオフィス化、学校化することで、自宅でリモートワークをしている家族とオンライン学習や動画再生している子どもが互いに帯域を奪い合うような状況が増えています。こうした中、ユーザー自身が手動で4G/5GやWi-Fiを使い分けるのではなく、利用状況に合わせ最適な通信環境が自動で提供される仕組みが求められています。
現在NTTの研究所では、この様なシームレスな無線アクセスを実現するための無線制御技術(Cradio®(クレイディオ))の開発について取り組んでいます。

そして、このCradio®(クレイディオ)の様な画期的な技術を活用した新サービスを、IOWN構想で実現する次世代の通信・コンピューティングインフラ上で提供していくために、高速なネットワークや大量のデータを制御し、迅速なICTリソースの配備と構成の最適化を実現するのが「コグニティブ・ファウンデーション®(Cognitive Foundation®)」です。
「コグニティブ・ファウンデーション®(Cognitive Foundation®)」の肝は、マルチオーケストレータです。マルチオーケストレータは、データを分析するインテリジェント機能、リソースの状態を収集管理するマネジメント機能、そしてさまざまな他システムのインターフェイスとして連携を管理するオーケストレーション機能の3つによって複雑な制御を実現することを目指しています。

APN、コグニティブ・ファウンデーション®(Cognitive Foundation®)、無線制御技術(Cradio®(クレイディオ))については、TOPページ後半の各事例の記事をご参照ください。

なお、IOWN構想は、「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」「コグニティブ・ファウンデーション®」のほか、実世界とデジタル世界の掛け合わせによって未来予測などを実現する「デジタルツインコンピューティング(Digital Twin Computing®)」の3つの技術分野から成り立っています。

読者に向けてのメッセージ

IOWN実現に向けての想いは、NTT Comのコーポレートメッセージにも表われています。

Corporate Message

今日と未来の間に。
人は一生で、どれだけ多くのコミュニケーションを
重ねながら生きていくのだろう。
ことばを交わし、想いをつなげ、社会と共鳴しながら、
人間は、新しい進化を生み出し続けてきました。

そんなコミュニケーションの無限の可能性に挑み、
想像を超える未来を切りひらくこと。
それが私たちNTTコミュニケーションズの使命です。

あらゆる垣根を越え、想いや情報をめぐらせ、
未知なる豊かさを、社会や世界に届けてゆく。
私たちは、今日と未来の懸け橋となり、
まだ見ぬコミュニケーションを創造し続けます。

(参照元:https://www.ntt.com/about-us/we-are-innovative/vision.html

このコーポレートメッセージは、一昨年NTT Comが創立20周年を迎えたときに、社員が自ら考えたものです。NTT Comでは、このメッセージにある次世代のコミュニケーション基盤を作り上げるとともに革新的なサービス提供を目指すため、IOWN構想の実現に取り組んでいきます。

「IOWN®」、「Cognitive Foundation ®(コグニティブ・ファウンデーション®)」、「Cradio®(クレイディオ®)」、「デジタルツインコンピューティング®(Digital Twin Computing®)」は日本電信電話株式会社の商標または登録商標です。
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