BCMとは
BCMとは「Business Continuity Management」の略称であり、日本語では「事業継続マネジメント」と訳されます。大規模災害やテロ、感染症などの緊急事態における、ビジネス上の被害を最小限にするための包括的なマネジメント活動を指します。
BCMとBCPの違い
事業継続性を確保する手段として、BCMのほかにBCPがあります。その違いにはどのようなものがあるのでしょうか?
BCPとは「Business Continuity Plan」の略称であり、日本語では「事業継続計画」と訳されます。大規模自然災害やテロ、感染症の発生、サプライチェーンの途絶といった不測の事態においても事業を継続する、もしくは速やかに復旧するための方針や体制、手順を示した具体的な計画のことです。
BCMが事業継続のための計画・改善・教育などを含むマネジメント活動全般であるのに対し、BCPは上述のとおり事業継続のための具体的な計画を指します。つまり、BCMの取り組みの一つとして策定されるのがBCPです。
BCMの取り組みには、BCPの策定や維持・更新に加え、それらを実施するための予算やリソースの確保、取り組みを浸透させるための教育訓練、継続的な改善などの諸活動が含まれます。
企業が緊急事態における事業継続性を確保するためには、BCPを策定するだけでは不十分です。BCPの実効性向上に向けた諸活動を組織的かつ継続的に行うために、BCMとして策定後のBCPの維持、更新を含めたマネジメントを行わなければなりません。
BCMの全体プロセス
本章では、BCMの全体プロセスを、内閣府防災担当が公表している「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」にもとづき紹介します。
同ガイドラインには、新型コロナウイルス禍での経験を踏まえた最新のBCMに関する情報が含まれています。令和5年3月の改定では、テレワークの導入など、オンラインで意思決定を行う仕組みの整備などの内容が新たに盛り込まれています。また、BCMを行う上で必要となるプロセスが網羅的に紹介されており、BCMの全体プロセスを把握する際に役立つでしょう。
出典:内閣府防災担当「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」15ページより引用
【BCMの全体プロセス】
①方針の策定と体制の構築
②事業影響度とリスクの分析・検討
③事業継続戦略・対策の検討
④事業継続計画(BCP)の策定
⑤教育・訓練
⑥定期的な見直し
①方針の策定と体制の構築
まずは、BCMの実施方針を策定します。自社の事業内容にもとづき、自社が果たすべき責任や自社にとって重要な事項を明確化します。これらは基本方針として経営レベルでとりまとめ、経営会議や取締役会などで決議を得る必要があります。
また、BCMの実施にあたっては体制の構築も必須です。BCMの責任者は、社長もしくは担当役員など経営レベルであることが望ましいとされています。
②事業影響度とリスクの分析・検討
事業継続計画を立てるために、具体的な事象を想定し、それらの事象が自社にどのような影響を与えるかを分析します。その際には、利益や売上、マーケットシェアへの影響や従業員の雇用、契約やSLA遵守への影響、自社の社会的な影響などの項目を洗い出し、それぞれの影響度を分析する必要があります。
次に、影響度分析の結果を踏まえ、「事業の復旧にかけられる時間」と「どの水準まで復旧させるべきか」の2つの観点から、優先的に継続復旧すべき事業を整理します。
たとえば、サプライチェーンを構成する業務であり、早期に再開させないと影響が甚大となる事業であれば、可能な限り早期の復旧が望まれます。一方で、タイムリーな対応は必要なく、時間的な猶予がある事業であれば、早期復旧は必須ではありません。
③事業継続戦略・対策の検討
事業影響度分析の結果を踏まえ、具体的な戦略をまとめます。事業継続戦略は個別の事象をターゲットに検討するのではなく、どのような事象が発生しても対応できるように考慮することが重要です。
具体的には、地震や感染症のような原因を前提とするのではなく、原因から発生する事象(自社拠点Aが使用できなくなる、従業員が自宅から勤務することになるなど)を対象に戦略の検討をします。
戦略策定においては、製品サービスの供給維持といった観点だけではなく、企業や組織の中枢機能の維持方法や、情報システムの対応なども含めた検討が必要です。
④事業継続計画(BCP)の策定
続いて、事業継続戦略を踏まえ、具体的な事業継続計画(BCP)に落とし込みます。BCPでは、緊急事態の体制や対応手順を整理しましょう。
まず体制においては、対応する役職の方がその役割を果たせないケースも考慮し、権限移譲や代行者、代行順位を定めます。そして対応手順の策定では、初動段階での対応と、初動対応が落ち着いた後の事業継続対応を定めます。
これらの計画はドキュメント化し、必要に応じて見直し・更新を行います。
⑤事前対策・教育・訓練
BCMにおいては、平常時から行う事前対策についても考慮しなければなりません。事前対策の実施計画を策定し、その計画にもとづき担当部署や担当者は確実に事前対策を実施します。
また、事業継続計画を実行性の高いものにするための教育や訓練も重要です。
講義やeラーニングなどでBCMに関する基本知識を提供するほか、発生事象を想定した訓練の実施なども行うことで、BCMを組織に定着させることができます。
⑥定期的な見直し
BCMは継続的な取り組みとして行うことが重要です。一度作成した事業継続計画も、事業内容や社会の変化に応じて見直しを行いましょう。また、人事異動や取引先の変更などによる修正も適宜行う必要があります。
BCMの活動が浸透している企業では、実施内容の監査を行ったり、規格を取得する取り組みを高度化していくことも有効です。
BCMでも改革が進んでいる「防災DX」とは
DX(デジタル・トランスフォーメーション)がさまざまな分野で進められるなか、防災にもDXを取り入れる動きがあります。防災DXとは、BCMをはじめとした防災対策にもデジタルの力を利用することで、その効果を高めるものです。
たとえば、防災時学習としてVRを活用した津波洪水などの可視化や避難シミュレーション、防災情報のデジタル配信や高度な被災予測、避難生活や復旧の支援などの取り組みが防災DXとして検討されています。
また、デジタル庁と府省庁等が連携する「防災DX官民共創協議会」では、防災分野でのデータ連携推進などを通じた住民の利便性向上を目指し、地方自治体と民間企業が共同で防災分野のDXを進める活動を行っています。同協議会には2023年6月19日時点で77の地方公共団体、261の民間事業者が所属しており、防災DXに向けた課題の整理や官民データ連携基盤の形成などを進めているところです。
このような防災DXの考え方をBCMにも取り入れることで、より効率的かつ高度な取り組みを進められるでしょう。
ICTの活用で効率的かつ強固なBCMの地盤づくりを
防災DXの動きに象徴されるように、BCMを進めていく上ではICTの力を効果的に活用することが重要です。
BCMにおける具体的な実施手段例
ここまでBCMの概要をお伝えしました。本章ではBCMの取り組みがどのようなものか把握しやすいように、具体的な実施手段例として「安否確認システム」について解説します。
安否確認システムとは
事業の継続性を確保するためには、まず従業員の身の安全を確認する必要があります。しかし、通信環境が万全とはいえない災害時の混乱状況下において、一人ひとりに電話やメールで安否確認を行うことは困難です。特に規模が大きい企業の場合は、部署ごとに安否状況を迅速に把握するための集計と可視化の仕組みも必要となるでしょう。
その際に有効なのが、安否確認システムの導入です。例えば、家族の安否確認やメッセージ交換、掲示板・アンケートなどによる情報共有などの機能を備えた安否確認システムの導入により、災害時の迅速な安否確認が行え、業務の復旧や継続に向けた意思決定やアクションをスピーディに実施できるようになります。
ドコモビジネスでは、安否確認ソリューションとして「Biz安否確認/一斉通報」を提供しています。「Biz安否確認/一斉通報」は、震度7の大規模災害時でも安定稼働できるシステムであり、膨大な手間と時間がかかる安否確認の回答情報の収集や集計も迅速に自動集計します。また、未回答の従業員に対しても、自動で繰り返し再送信するなど、キメの細やかな対応も実現します。安否確認方法について検討されている場合は、ぜひお問い合わせください。
参考リンク
- 中央防災会議「防災基本計画」
- 内閣府防災担当「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」
- 防災DX官民共創協議会