通常時には“働き方改革”、被災時には“事業継続”の基盤
災害などの事業継続リスクへの備えは欠かせないものの、いつ災害が襲ってくるかは予測できません。いつ来るかわからないリスクのためだけに、多額の予算と時間を投じることに躊躇している企業も少なくないのではないでしょうか。
ただ台風や大雪などといった自然災害は毎年のように発生しており、これによって自社の事業に重大な影響が生じることは十分に考えられます。こうした災害によって事業が停滞するといったことになれば、その後のビジネスに大きな影響が生じることにもなりかねません。
そこで注目されているのが、テレワーク環境の構築です。通常時は“働き方改革”の実現手段となるだけでなく、被災時には“事業継続”を支えるIT環境としての役割を果たすことができます。現実に被災した場合には、オフィスや設備の被害、交通網などのマヒなどで出社できない可能性があります。しかし、そうした状況下においても、テレワーク環境が整っていれば、従業員は自宅や安全な場所で業務を継続することが可能となります。テレワーク環境の構築という働き方改革の施策でありながら、事業継続リスクの対応策としても有効です。
テレワークの仕組みをBCP対策に活用
テレワーク環境とは、外出先や在宅勤務などにおいて、社内と同じように業務を行うための環境のことですが、使用するPCなどの端末を、社内の業務システムに接続できるようにすればいいという単純なものではありません。
社外で端末を利用する際の情報セキュリティ上の懸念を払拭しなければならないうえに、端末のキッティングを担当するスタッフを用意する必要がありますし、導入のための予算も確保しなければなりません。まさに全社的なプロジェクトとして推進する必要があるため、導入ハードルは決して低くありませんでした。
テレワークを実現するためには、従業員が自宅など社外で使用する端末を用意し、セキュリティも確保した上で、業務に必要となる情報にアクセスし、他の従業員との情報共有やコミュニケーションが行える環境を整えておく必要があります。
このような負担はありますが、テレワーク環境があれば従業員は自宅で業務を遂行できるため、台風や大雪などで公共交通機関がストップし、オフィスに出社することが困難になっても業務を遂行することが可能になります。これにより、災害時の事業継続、つまりBCP対策としてもテレワークは有効です。
また感染症の流行、あるいはパンデミックが発生した際、従業員がオフィスに出社して業務を行っていると感染症の拡大につながりかねません。もし多くの従業員が感染症に罹患すれば、業務を継続することが難しくなることも十分に考えられます。しかしテレワーク環境があり、それぞれの従業員がオフィスに出社せずに自宅で業務を行うことができれば、感染リスクの低減を図れるため、事業を継続できる可能性を高められます。
業務専用PCでセキュアに運用する
まず、「情報セキュリティ」「IT人材不足」「予算」といったリモートワーク導入の課題を軽減するソリューションとしては、NTTコミュニケーションズの「テレワーク・スタートパック」が有効です。
「テレワーク・スタートパック」は、ウイルス対策や情報漏えい対策を施したノートPCがキッティング済みで提供されるため、指紋認証登録さえ行えば最短10分で利用可能です。端末価格や月々のモバイルネットワーク費用もリーズナブルな価格に設定されています。
一度リモートワークの仕組みを構築しておけば、施設が被災してオフィス機能を失った際にも、クラウド上の業務システムへ自宅などからアクセスできます。つまり、そのままBCPのためのプラットフォームとして活用できるわけです。
業務に必須の電話環境をクラウド上で運用する
ビジネスでのコミュニケーションの手段として「Microsoft 365」や「Google Workspace」などSaaS型クラウドサービスを活用する企業が増加していますが、いまだ多くの企業では業務上のコミュニケーションツールとして、電話が占める役割は大きなものがあります。その電話環境をクラウド化する「Arcstar Smart PBX」は、クラウド上のIP電話サーバーがPBX機能と内線機能を提供するサービスです。
PBXの仕組みをクラウド化することで、PBXやビジネスホンといった従来オフィスに設置していた設備を所有せずに使用することができます。クラウド上のPBXは融通性や拡張性に優れたオフィス電話の機能を提供するだけでなく、被災時に本社などの拠点がオフィス機能を失った際や交通網の麻痺になどで出勤できない状態でもインターネット環境さえあれば在宅でもスマートフォンなどから、オフィスと同様に電話を利用することができます。
場所を問わずにオフィスと同様に電話が利用できるだけではなく、電話不通による業務遅延なども防ぐことができ、被災した設備の復旧を待つ必要もないためクラウドPBXが維持する音声コミュニケーションはスムーズな事業復旧に貢献します。
BCP対策のためにテレワークを導入した事例
BCPまで視野に入れたテレワーク環境の構築において、「Arcstar Smart PBX」を活用しているのがメディア企業A社です。同社はBCP対策が喫緊の課題となっている一方、老朽化したPBXを更改する必要もありました。そこでPBXの機能をクラウド上で提供するクラウド型PBXとして「Arcstar Smart PBX」を導入し、テレワーク時でもオフィスと同等の通話環境を実現することにしたわけです。
「Arcstar Smart PBX」を選定した理由の1つとして挙げられたのが、スマートフォンを内線端末として利用できる点です。これにより、A社の従業員はテレワーク中でも自分のスマートフォンを使って内線通話を行ったり、あるいは外部からかかってきた電話に対応することが可能になり、オフィスと同じようにコミュニケーションすることが可能になります。さらに同社は従業員に対して業務用のスマートフォンを支給するのではなく、個人のスマートフォンを業務にも利用することにより、端末コストも削減しています。
A社はこうしてテレワーク環境の整備を進め、仮に大地震などの災害が発生してもオフィスに出社することなく業務を遂行できる環境を整えました。また社外でも手元のスマートフォンを使って社内で働く従業員とスムーズにコミュニケーションできることから、業務効率も高まったと評価しています。
離れた場所からでも安全なコミュニケーション環境を構築する
在宅勤務などのリモートワーク環境で、社内と同様の業務を行うのに欠かせないのがファイル共有の仕組みです。社内や取引先などのメンバー同士でファイルを共有でき、コンテンツの一元的な管理が可能なクラウド型ストレージサービスは、使い勝手の良さもあり、ファイルサーバーの代わりに導入する企業が増えています。その代表格である「Box」は、業務システムとの連携や強固なセキュリティなどの点で優れており、世界中の企業が採用しています。
リモートワークで業務ファイルにアクセスさせる場合は、外部からのデータの漏えいや改ざんが行われるリスク対策をも考慮しなくてはなりません。NTT Comが提供する「Box over VPN」は、VPN経由でセキュアな接続を実現する国内唯一のサービスです。多くの企業が不安視するセキュリティ対策面では、さまざまな第三者認証を取得しているクラウドサービスであり、誰がいつアクセスしたかログで把握できる機能も備わっているため安心してご利用いただけます。スマホなどからもアクセス可能なため、リモート環境においても効率的に業務が遂行でき事業継続の一助となります。
また、有事にも役立つコミュニケーションツールとしてWeb電話帳の活用も有効です。「PHONE APPLI PEOPLE for ビジネスプラス」は、従業員や取引先、顧客などの連絡先をクラウド上で一元管理し、パソコンやスマホから連絡を取ることができるクラウド型Web&スマホアプリサービスです。連絡先の情報や発着新履歴のデータは各端末に残さず、クラウド基盤に保管されるため紛失時のセキュリティリスクを軽減します。
BCP対策で有事の電話対応 回線変更で連絡手段を確保
コンタクトセンターや顧客対応部門をもつ拠点が被災した場合に、他拠点で電話応対を代行させることにより顧客対応力を維持することも重要です。
「ナビダイヤル」は災害時に受け付け先を他の電話受付拠点にすみやかに変更が可能です。そのため顧客や取引先に不安や不便を感じさせることなく事業を継続できます。導入時に新たな回線や設備の入れ替えをせずに利用できるため、柔軟性に優れた音声サービスとしてBCP対策強化を図る企業に導入されています。
普段の業務で使い慣れているITシステムは、被災時の事業継続の際にも力強い味方となります。もし、新しいITシステムを導入する場合は業務の効率化に役立つかだけでなく、災害時対策としての活用も視野に入れると良いのではないでしょうか。今回紹介したリモートワーク関連のサービスは、平時にも緊急時にも効果的な仕組みです。
BCP対策のテレワーク導入における注意点
実際にBCP対策まで視野に入れてテレワーク環境を構築する際、まず注意しなければならないのはセキュリティです。特にリスクが大きいのは、従業員が個人で所有するPCの業務利用です。セキュリティ対策が不十分であることが十分に考えられることから、マルウェアに感染して情報漏えいが発生するといったことが想定されます。そのため、セキュリティ対策を適切に行っているPCを従業員に提供するといったことも視野に入れるべきでしょう。
コミュニケーション環境の整備も欠かせません。特にテレワーク環境での従業員同士の内線通話や、社内外を含めたオンラインでの打ち合わせや会議のための環境整備は、テレワークを実施する際にしっかり検討しなければならないことの1つです。
テレワークを実施すると普段と異なるICT環境を使うことになるため、情報システム部門への問い合わせが増加することも十分に考えられます。これによって情報システム部門の負担が増加することになるほか、問い合わせに対する返答が遅れることになれば、業務が遅延するといったことにもなりかねません。こうした課題への対策として、まず考えられるのはマニュアルやFAQの整備です。また従業員数が多く、平時から問い合わせ対応が負担になっているということであれば、ヘルプデスクのアウトソーシングも検討しましょう。