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給与デジタル払いが中小企業にもたらすメリットとデメリット

給与デジタル払いが中小企業にもたらすメリットとデメリット

日本のキャッシュレス化推進に伴い、2023年春にも解禁されると言われている給与のデジタル払い。実現するとどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。

目次

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1.キャッシュレスの普及により、注目される「給与デジタル払い」

近年、キャッシュレス決済の普及が拡大しています。2019年の消費増税に伴うキャッシュレス・ポイント還元のキャンペーンや、2020年から続く新型コロナウイルスのまん延により、人や物に直接触るのを避ける人が増えたことなどがその動きを加速させました。2022年6月に経済産業省が発表したデータ(※)によれば、2021年の日本のキャッシュレス決済比率は32.5%と過去最高の水準となりました。

(※) 経済産業省「2021年のキャッシュレス決済比率」

キャッシュレスの普及により、注目される「給与デジタル払い」

キャッシュレス決済の普及は、私たちが抱えているさまざまな課題の解消に役立ちます。たとえば、すでにキャッシュレス化が進んでいる諸外国からの旅行者、いわゆるインバウンド市場の拡大に有効です。ATMなどの現金決済機器にかかるコスト削減を実現することもできます。さらに、少子高齢化によって労働人口が減少するなか、店舗を無人化したり、レジの現金確認作業などの業務負荷を軽減したりすることで、生産性の向上を図ることも可能です。こうしたキャッシュレス決済推進の流れを受けて今、注目されているのが給与デジタル払いです。

給与デジタル払いとは、銀行口座ではなく、資金移動業者のアカウントに給与を振り込む仕組みをいいます。資金移動業者とは、銀行以外で送金サービスができる登録事業者のことで、2022年現在、国内で約80の業者(※)が登録されています。スマホ決済アプリの「〇〇ペイ」や「d払い」などのサービスを提供している事業者と言えばイメージしやすいでしょう。これまで、毎月の賃金は銀行口座や証券口座への振込を例外として、「通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と労働基準法24条で定められていました。しかし最近では、社会全体のキャッシュレス化、デジタル化を推進するために、こうした資金移動業者によるサービスを活用した支払いが議論されているのです。

(※) 財務省関東財務局「資金移動業者登録一覧」

2.約4割が検討する「給与デジタル払い」

公正取引委員会が2020年に発表した報告書(※)によると、「給与がノンバンクコード決済事業者(銀行などの金融機関以外で、コード決済のサービスを提供している事業者)のアカウントに支払われるようになった場合、自身が利用するコード決済アカウントに給与の一部を振り込むことを検討するか」という問いに対し、約4割が「検討する」と回答。一定のニーズはあると捉えることができます。

(※) 公正取引委員会「QR コード等を用いたキャッシュレス決済に関する実態調査報告書」

「検討しない」という人も多いですが、もし実際にデジタル払いの制度が解禁されたとしても、すべてデジタル払いに統一されるわけではなく、当面は今まで通りの方法で給与を受け取るか、デジタル払いで受け取るか、選択できるようになるだろうと考えられています。厚生労働省でも、口座振り込みとデジタル払いを併用し、労働者の同意を得られた場合はデジタル払いにする、といった制度設計を想定しています。

3.給与デジタル払いのメリットとデメリット

給与デジタル払いは、政府内で議論が進められており、労働者にとっても一定のニーズがあることがわかりました。では、中小企業が給与デジタル払いを導入すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。

たとえば、現在、多くの企業は給与を銀行振込で行っていますが、その際に発生する手数料は従業員の人数によっては大きなコストになっています。しかし、一般的に資金移動業者のアカウントへの送金には、銀行振込ほど手数料がかからない場合が多いので、デジタル払いにすることでこの手数料を削減できる可能性が高いでしょう。

その場合は、月1回の振り込みではなく、週ごとの支払いや前払いといった複数回に分けての支払いも検討しやすくなるかもしれません。さらに、日頃からキャッシュレス決済をよく利用している労働者にとっては、給与がキャッシュレス決済のアカウントに送金されれば、今までのように銀行口座などからアプリにチャージして買い物をする必要がなく、利便性が向上します。

給与デジタル払いのメリットとデメリット

加えて、外国人労働者への給与支払いが容易になり、彼らの労働環境の向上にも役立ちます。というのも、たとえば在留期間が短い外国人労働者にとって銀行口座の開設はハードルが高い場合があり、携帯電話の番号や事前に設定したパスワードといったシンプルな情報で送金できるデジタル払いは使い勝手がいいのです。

このように、デジタル払いを取り入れることで、給与の支払い方法を柔軟に対応できれば、企業側にとっても労働力を確保しやすいというメリットも生まれるでしょう。

もちろん、メリットばかりではありません。資金移動業者が破綻した場合の補償はどうなるのか、セキュリティの不備などで不正送金される可能性はないのかといった問題もあります。こうした点について国では、「保証制度等のスキームを構築しつつ、労使団体と協議して制度化を図る」としています。

キャッシュレス決済をはじめとするデジタル化の波は今後も一層進んでいくことでしょう。アメリカなどでは給与振込用のプリペイドカード「ペイロールカード」の普及が進んでいます。銀行口座なしで、給与の支給や決済、ATM出金にも対応できるカードです。こうした世界の流れを見ても、日本でも近い将来、給与のデジタル払いが解禁されることはほぼ間違いないでしょう。

給与は企業経営に大きく関係することがらです。経営者であれば、自社には関係ないと思わずに、一度真剣に目を向ける必要があるかもしれません。

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