資格を学びのモチベーションに!
技術革新やビジネスモデルの大きな変化に対応するために新しい知識やスキルを身につける「リスキリング」や、学校教育を離れた社会人が学び直しをする「リカレント教育」など、いま「学ぶ」ことの重要性が高まっています。
「日本人は勤勉といわれますが、大人になってからの学びには、実はあまり熱心ではないというデータがあります。そこで役立ててほしいのが資格です」 そう話すのは、年間60個以上のペースで資格を独学で取得し、これまで860以上の資格を取得してきた“資格マニア”で、資格や勉強法の専門家でもある鈴木秀明さんです。
「なにかを学ぶといっても、専門書を読むだけの勉強はなかなか続きません。それより試験に申し込んで、合格するぞというミッションを立て、そしてクリアすることが、学びのモチベーションやベンチマークになるんです。新しい世界に飛び込むことを目的に資格を取るのはもちろん、学びを続けるために資格をうまく活用することもおすすめしています」
コロナ以降の資格試験は、オンライン試験が増えて以前よりも気軽に受けられるものが増えたとのこと。また、以前は資格といえば簿記や税理士、社労士などカタいものばかりのイメージでしたが、昨今では趣味の知識を深めたり、趣味を仕事につなげたりするために受ける検定や資格も増えてきたそうです。
「たとえば、各種ご当地検定は旅行業界で働くときに意外と評価されるなど、本人さえその気になれば、趣味の検定が仕事の武器になるケースもあります。一方、苦労して難関資格を取得しても、仕事に結びつけられない人もいます。いまは国家資格でも民間資格でも、取るだけで人生が保証されるというものは少なく、取ったあとの本人の生かし方次第で、価値が決まるものがほとんどですね」
そう話す鈴木さんに、「半年以内の勉強で取得する」ことも夢ではなく、かつ本人の活用法次第では「仕事の武器になりうる」資格と、その取得のポイントを教えてもらいました。
※各資格の表は、★が多いほど「合格率」が高く、短い「勉強時間」で合格の可能性があり、「独立・転職」がしやすいことを示しています。
狙い目は国家試験になったばかりのタイミング
資格① FP(ファイナンシャルプランナー)3級
【概要】FPはおカネにまつわる相談を受け、アドバイスを行うスペシャリスト。もともと「金融財政事情研究会(きんざい)」と「日本FP協会」が主催していた民間資格でしたが、国家資格となった現在は両団体が運営を継続しています。その入門的な位置づけである3級FP技能検定に合格すると、国家資格の「3級ファイナンシャル・プランニング技能士」の資格が取得できます。
試験範囲は入門クラスの3級でもかなり広く、「ライフプランニングと資金計画」「リスク管理」「金融資産運用」「タックスプランニング」「不動産」「相続・事業承継」の6分野に及びます。
「全範囲を完璧におさえようとすると大変な試験ですが、過去問を中心にポイントをおさえた勉強をすれば、1カ月程度の準備期間でも合格の可能性はじゅうぶんあります。おカネは誰の人生にも必ず関係しているもの。年金や税金など身近な話題も多く、『試験勉強で学んだ知識があったから、もらえる年金が増えた』など、いつかその知識が人生で役立つこともあるでしょう」
FPは知名度が高く、試験範囲が広いぶん、さまざまな業界で活用できる資格。とくに金融業界や不動産業界とは直結していて、3級でも大いに仕事に役立つといいます。また3級合格者が受験できる2級や、さらにその上の1級の試験に進んで、本格的にプロのFPを目指すのもひとつの手でしょう。
資格② 賃貸不動産経営管理士
【概要】アパートやマンションなど賃貸住宅の管理業務について豊富な知識を持った専門家の資格。賃貸物件の管理をメイン業務としながら、管理受託契約時に重要事項の説明をおこなったり、修繕計画の提案をオーナーに対しておこなったり、賃貸住宅にかかわる幅広い仕事をします。2007年にスタートした資格ですが、2021年から国家資格に。2年目となった2022年は受験者数も伸び、人気資格として知名度が上がっています。
国内にある全住宅の3割強を占めるという賃貸住宅。以前はオーナーがおこなうことも多かった賃貸住宅の管理ですが、オーナーの高齢化などの理由で、現在は管理会社に委託するのが一般的となっています。そこで賃貸不動産管理の仕事を請け負うのが、賃貸不動産経営管理士です。「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(2021年6月施行)など法整備が進むなか、賃貸不動産経営管理士が国家資格として認定され、管理会社の間で資格取得者の需要が高まっています。
「民間資格が国家資格化されると受験者数が大幅に増える傾向がありますが、できるだけ早いうちに受験しておくほうが合格しやすいでしょう。合格者数が増えるにつれて難易度が上がっていくのが一般的で、逆に、『年を経るにつれて難易度が下がる』という資格はほぼないです」
試験範囲は宅建士(③参照)と重複するところも多いので、不動産業界での仕事に生かそうと、効率を考えて宅建士の受験と同時に進める人もいるそうです。
資格③ 宅地建物取引士(宅建士)
【概要】宅地や建物の売買に欠かせない、不動産取引法務の専門家資格。宅地建物の売買に際して、登記、敷地面積、インフラなどをきちんと説明し、公正な取引がおこなわれることを目的に作られた資格です。60年以上の歴史があり、毎年20万人もの人が受験する受験者規模トップクラスの国家資格です。
絶大な知名度と世間的評価のわりには難易度は中程度で、多くの受験者がいることで知られる国家資格です。
試験範囲は「宅建業法」「権利関係」「法令上の制限」「税・その他」の4科目、50問。範囲は広いので、もっとも出題が多い「宅建業法」を集中的に勉強するなど、過去問題の出題傾向を分析して、なにをやるか、なにをやらないかをはっきりさせる勉強法が有効そうです。
「すべて4択問題で、記述式問題などは課されないということもあって、戦略的に勉強すれば3カ月ほどの対策期間での合格も不可能ではありません。合格ラインは毎年、若干変動しますが、50点満点で37点前後です」
賃貸不動産経営管理士試験との掛け持ちについても、こんなアドバイスが。
「試験内容はかなり関連しています。覚えた内容を忘れてしまうともったいないので、同時進行とは言わないまでも、あまり間をあけないで2つの試験を受験するのが得策です」
ドローンやAIの資格も
資格④ ディープラーニングG検定
【概要】ディープラーニング(深層学習)とは、AI(人工知能)分野で活用されている技術のひとつで、人間の脳神経回路をモデルにしたアルゴリズムを使って、コンピューターなどの機器やシステムに、大量のデータを自動的に読み込ませて学ばせる機械学習の手法です。ディープラーニングG検定は、これをテーマにした民間検定で、Gはジェネラリストの略。ディープラーニングの基礎知識があり、適切な活用方針を決定したり、事業活用する能力や知識があるかを検定します。
同じく日本ディープラーニング協会が運営しているディープラーニングE資格(エンジニア資格)に比べると入門者向け。AIのことを学ぶならここから、と考える人も多い人気検定です。
「ネットで受験することができるので手軽ながら、難易度はまあまあ高い。AIはどんなロジックで動いているのかとか、AIの最前線はどうなっているのかとか、AIにはどんなことができるのかということを、ざっくり勉強するのにはいい資格ですね」
たとえば会社から「AIの新規事業を始めるから、どんな事業がいいか企画を出すように」などと言われたときに、AIの概要を勉強するのぴったりの資格とのこと。
「オンライン試験なので書籍やネットの情報を参照しながら解くこともできますが、問題数がかなり多いので時間配分が難しいです。短時間で必要な情報にたどり着ける検索のスキルも求められます」
資格⑤ 無人航空機操縦者技能証明(通称:ドローン操縦ライセンス)
【概要】これまでドローンの操縦に関する資格は民間資格のみでしたが、2022年12月から、無人航空機を飛行させるために必要な知識および能力を有することを証明する国土交通省の制度「無人航空機操縦者技能証明制度」が新設され、ドローンについての国家資格が生まれました。一等と二等があり、学科試験と実地試験、身体検査が課されます。たとえば一等では、ドローンの機体認証などと組み合わせることで、これまでできなかった、人がいる場所の上空での目視外飛行などができるようになります。
ドローン分野にはもともといくつかの民間資格がありますが、今回、国家資格が新設されたことでなくなるわけではありません。国家資格では、これまで禁止されていたレベルでの飛行が可能になる一方、民間資格を取得することで国家資格の講習時間が短縮されるなどの優遇措置があります。
「まだ始まったばかりで、難易度や取得費用などの詳細については情報が少ない状況です。国家資格には実技試験もあるので、ドローンを飛ばす練習場を持っているドローンスクールなどに通って、まずはスクールが運営する民間資格に挑戦してみることをおすすめします」
また運送業界では、2024年にトラックドライバーが不足する「24年問題」が指摘されています。このタイミングで、トラックに代わる輸送手段として、ドローンの需要が爆発的に高まる可能性もあり、さらに将来的には輸送だけでなく、農業、映像、医療などの分野でも、ドローン操縦スキルの需要増が期待されています。いずれにしても実技試験があるので、実技のトレーニングができる学校にまずは通うのがよさそうです。
資格⑥ ITパスポート試験(iパス)
【概要】情報処理に必要な知識や技能を問う国家試験「情報処理技術者試験」。この試験は4段階のレベルと12の試験区分から構成されますが、そのなかでもっとも取りやすい「レベル1」の入門資格となっているのがITパスポート試験です。社会人として身に付けておきたいビジネス基礎知識も学べるため、社内研修で取得させる会社も増えています。
ITの知識だけでなく、ビジネスの知識も問われる試験だけに、社会人の合格率が高いといわれるこの試験。ほかの国家試験に比べても難易度は低く、とくにITの知識の部分はデジタルネイティブ世代なら基礎知識だけで解ける問題もあるとか。
「多少のITの知識があるならば、難易度はやや上がるものの同じ情報処理技術者試験のレベル2にあたる基本情報技術者試験に挑戦するのも手。こちらはIT技術者向けの資格で、プログラミングなど専門的な内容もかなり入ってきます」
たとえば、IT関連の新規事業を立ち上げて収益モデルの転換を図ろうとしている企業では、IT系の知識を充実させる“リスキリング”を社員に求めることもあるでしょう。そうしたケースのモチベーションとして、一連の情報処理の資格試験を活用するのもおすすめです。
まだある! 意外に役立つ“変わりダネ”資格
実用的な資格だけでなく、趣味の知識を深めるためなどに受ける各種検定もバリエーション豊かです。ときには趣味のために受けたものが、いつのまにか仕事につながっていたり、履歴書に書けるような人気検定になっていた、なんてことも!? そんな役に立つ“かもしれない”資格を番外編としていくつか集めてみました。(編集部選)
番外編① 愛玩動物看護師試験
獣医大学や専門学校などの在学生、卒業生や、5年以上の実務経験者などを対象に、愛玩動物専門の看護師資格が取れる国家試験。予備試験が2022年におこなわれ、第1回本試験は23年2月を予定。受験資格は限られているものの、ブルーオーシャンのうちに狙ってみては!?
番外編② チョコレート検定
チョコレート菓子で知られる「明治」が主催する、チョコレートの知識を問う検定。試験ランクはチョコレートスペシャリスト(初級)、チョコレートエキスパート(中級)、チョコレートプロフェッショナル(上級)の3種類があり、チョコレート好きで知識を深めたい人から、プロを目指す人まで幅広い層におすすめ。
番外編③ 世界遺産検定
人類共通の財産・宝物である世界遺産を通して、国際的な教養を身に付け、持続可能な社会の発展に寄与する人材の育成を目指した検定で、2006年に創設されて以来、じつに30万人が受験しました。現在は文部科学省の後援事業となり、旅行が楽しくなるだけでなく、進学や就活、旅行業界での仕事にも生かせる人気の検定となっています。
番外編④ 眼鏡作製技能検定
2022年に新設された国家資格。眼鏡作製において、「お客様の眼鏡の使用状況・使用目的を聞き取ると共に、視力の測定、レンズ・フレームの販売、加工前作業、レンズ発注・加工、フィッティング、引き渡し、アフターケアを行う眼鏡作製の総合エキスパート」としての資格が得られます。
番外編⑤ 日本ビール検定(びあけん)
日本ビール文化研究会が運営。ビールの歴史・製法・原料・種類などの基礎から、おいしく飲むための方法・うんちくなど幅広い分野の知識を問う検定として知られます。1~3級があり、マニアな知識がビールのつまみになるほか、満点を取るとビール1年分がもらえるユニークな特典も。