今回の悩み
「私が若い頃はよく仕事後に上司に飲みに連れていってもらい、その席で仕事のノウハウや考え方を学んだり、失敗の愚痴を聞いてもらったりしたものです。そのおかげで仕事の仕方を身につけたところもあると思っています。しかし、今の20代、30代の部下たちはお酒を飲まず、送別会などの参加でさえあっさり断ってきます。さすがに歓送迎会などは、部署としてなるべく全員参加でやるべきだと思うのですが、仕事時間外なので強制もできません。どうしたらいいでしょうか?」
宮原さんの回答
ご相談ありがとうございます。
コロナ禍で大勢の人と集まっての飲食が忌避され、仕事やプライベートでも飲み会が減ったという人は多いのではないでしょうか。新型コロナウイルス感染症が5類に移行しても、大人数の飲み会を敬遠する動きはまだまだ多いかと思います。
しかし、同時にそうした会合が減って、ホッとしているという人の声もよく聞きます。
もともとお酒を飲めなかった人や半強制的だった会社の会合などの場を好ましく思わない人、そして家庭などプライベートでの時間を大切にしたい人など、子育て世代だけではなく、それぞれの事情を抱えている人は多かったと思います。
コロナ禍を経て、もう我々の世代が“飲みニケーション”を重視してきた時代は終焉を迎えたといっても過言ではありません。
この際、新たなコミュニケーション手段を持ってみませんか。
飲みニケーションにさよなら、新しいコミュニケーションを強みに
国税庁の「酒レポート」(2022年3月発表)によると、成人1人当たりの酒類消費数量は近年減少傾向が続いています。
テレワークが増えたことで、仕事帰りに同僚とちょっと飲みに行く、という機会も減っているでしょう。ましてや会社が主催する飲み会はコロナ禍で大きく減少しました。
お酒を武器にしたコミュニケーション、いわゆる飲みニケーションは、もう曲がり角を迎えているのです。
特に減少幅が著しいのが、ビールです。昔でしたら、乾杯は全員ビールで、というのが常でしたが、この減少幅を見ると絶句しますね。アルコールも実に多様化しています。
最近は、学生も新入生歓迎やサークル交流のいわゆる“コンパ”の場も減り、お酒を入れないことも多いと聞きます。乾杯に選ぶ酒類も“カクテルで”というのも聞いたことがあります。
かつてアルコールをコミュニケーション手段の一つとしていた管理職は、別の方法を探す時にきてしまいました。
これまでもたばこ部屋でのお付き合いや仲良い男性だけの飲み会、またはゴルフで仕事の重要事項が決められることもあったといわれてきた会社文化は、女性たちへの仕事の障壁としても問題になってきました。
そもそも就業時間後に男性だけで夜遅くまで飲みに行けたのは、専業主婦である妻が家庭の一切合切を担ってきたからです。少子化が進展するなか、女性の社会進出や男性の家事・育児参画を国として推し進めている以上、新しいコミュニケーション手段への転換は不可逆的な流れといえましょう。
就業時間内にみんなでカフェブレークや送別会を
テレワークも普及し、会社に毎日行かなくてもよくなったからこそ“会社に行きたくなる”演出が必要だといわれています。
会社内にカフェテリアや談話できるフリースペースのあるところが大手企業を中心に増えてきました。仕事の合間や休憩時間に、気軽に対話を楽しむこともできます。
以前聞いた話だと、始業前に社内カフェタイムを設け、自由参加で交流の場にするという会社がありました。ドリンク類は会社が支給するため、うれしいサービスだと思います。
また、フィンランドでは送別会などを就業時間内で30分から1時間程度で実施していると聞きました。
コーヒーとケーキは会社支給で“コーヒー送別会”ともいわれています。こうすれば就業時間後に改めて時間を取る必要もありませんし、子育て中の従業員やプライベートを重視する従業員も気兼ねなく参加しやすいですよね。
ファミリーデーや飲食会を福利厚生でサポート
日本では“コーヒー送別会”を実施する会社は少ないかもしれませんが、一方で会社が飲食を通したカジュアルな雰囲気を奨励するケースもあります。ただ飲み会を開くということではなく、その時間が仕事にプラスになるための情報共有や新しいアイデアが生まれる場として設置するという発想です。
自分の家族を夏休み期間中などに会社に招待する“ファミリーデー”はその役目を果たしていると思います。海外では従業員とその家族を招いてのクリスマスやハロウィーン、BBQなどを会社主催で行うこともあると聞きます。費用も会社が全額負担し、原則自由参加。出入りも自由に楽しめるので、従業員への負担が少ないです。自分のプライベートを他の従業員に紹介することで、その後の仕事のしやすさにもつながると思います。
具体的に展開している企業をいくつか紹介しましょう。
情報・通信サービスのサイボウズでは、リラックスした雰囲気の中でまじめに仕事の話をする5人以上の場に会社が補助金を出して飲食費を支援するという制度があるそうです。
同じくソフトウェアITサービスのSansanでは、異なる業務に当たっている従業員が社内交流のために3人1組で食事をするときに出る補助金制度もあると聞いています。
普段は交流の少ない別の部署の人などと話すことで、新たなアイデアやイノベーションが生まれることもあります。
新しいコミュニケーション手段は、新しいマネジメント手法に
部署全員が就業時間後に集まり、自らのポケットマネーで会費を払って飲むというパターンは、今後はかなり少なくなるかもしれません。今のZ世代などは自分のお金を払ってまで上司の説教を聞きたくないでしょう。転職が当たり前になりつつあるなか、終身雇用を武器に従業員を拘束する時代はもう終わりを告げたといっていいでしょう。
これからの管理職は、飲み会に代わるコミュニケーション手段を新しいマネジメント手法として持っておく必要があります。昨今、大手企業を中心に導入されている“1on1ミーティング”がその役目を果たしていると思います。お酒抜きで気軽に、そしてカジュアルに趣味の話などをできることは今後の管理職に求められる姿です。
かつては多くいた、昼間はこわもてで多くを語らず、夜になってからお酒の力を借りて武勇伝を語るという管理職は、希少動物になるでしょう。日頃から笑顔を絶やさず、口角を上げる練習など、鏡の前でトレーニングしてみてはいかがでしょうか(笑)。
若手から相談されやすい上司になることで、コミュニケーションは円滑になります。若者との距離をいかに近くするかが、これからの管理職にとっては必要です。世代間のコミュニケーションを円滑にする“ジェネレーション・ダイバーシティー”は今後さらに大事なテーマになることでしょう。
この記事はドコモビジネスとNewsPicksが共同で運営するメディアサービスNewsPicks +dより転載しております 。
構成・編集:岩辺みどり
写真:鈴木愛子
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)