5人に1人が後期高齢者となる「2025年問題」を
解説
内閣府「令和5年版高齢社会白書」によると、日本の総人口である1億2,495万人のうち、75歳以上の人口は1,936万人となっています。2025年、ここに団塊の世代が加わることで2,155万人となり、国民の約5人に1人が後期高齢者、さらに国民の約3人に1人が65歳以上の高齢者という超高齢化社会を迎えることになります。ここで生じる諸問題が「2025年問題」です。
「2025年問題」によって生じる主な社会問題として挙げられるのが、まず「社会保障費の負担増大」です。高齢者に対して、支払われる社会保障費が増加することに伴う、現役世代への負担額増加が懸念されています。続いて「医療・介護体制維持の困難化」です。慢性的な人手不足が問題となっている医療・介護のサービス利用者が増加することで、需要と供給のバランスが崩れると予測されています。そして最後が「労働力人口の減少」です。団塊の世代が大量に離職することに加え、少子化が進むことで生じる労働力人口の減少により、あらゆる業種での人手不足が起こると考えられます。
「2025年問題」の人材難を乗り切るためには?
企業にとって、「2025年問題」の最大の課題は労働力人口の減少です。今後はあらゆる産業で人材不足が慢性化し、従業員の採用競争の激化が予想されます。今後、企業側は従来までの人材確保に加えて、定年を迎えた高齢者や女性、外国人、障がい者など多様な労働者の雇用確保が必須となります。
特に、シルバー人材の活用は政府主導で推進されているため、シニア世代の受け入れは重要です。条件を満たしていれば、「65歳超雇用推進助成金の支給」や「生涯現役支援窓口」といった、助成金の支給や税制上の優遇措置が可能です。
また、高齢化社会において、仕事をしながら家族などの介護に従事する「ビジネスケアラー」への対応も課題として挙げられます。ビジネスケアラーを受け入れるための具体的な解決策は、テレワーク環境や時短勤務といった柔軟な雇用形態の整備などです。
経済産業省が2023年3月に発表した「新しい健康社会の実現」では、仕事と介護の両立ができないビジネスケアラーが増加することで労働の生産性が低下し、2030年には経済損失が約9兆円にのぼると予測されています。
雇用範囲の拡大、ビジネスケアラーへの対応に加え、中小企業においては、既存の従業員の離職を予防することも極めて重要です。労働環境の見直しや給与・待遇の改善、健康経営の実施やキャリアサポート制度の充実など、従業員にとって働きやすい環境を整えることは、離職率を下げることはもちろん、採用競争においても優位に立てるというメリットが得られます。
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経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」
「2025年問題」への対応で追われるなか、企業にはもう1つ、立ち向かうべき大きな問題が待ち構えています。それは、「2025年の崖」と呼ばれるITの課題です。
「2025年の崖」とは、経済産業省が2018年に公開した「DXレポート」で提唱したキーワードです。経済産業省は、日本企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進まず、レガシーシステム(※)を使い続けることで、2025年を目途に経済的な損失が発生すると指摘しています。
※ レガシーシステム…過去の技術や仕組みで構築されている老朽化したシステム
「2025年の崖」は大手企業のみならず、中堅・中小企業にまで幅広く影響がおよびます。レガシーシステムを使い続けると、最新技術への対応が困難になり、競争力低下につながることや、人材不足に伴い維持管理費が高騰するうえ、EOL(※)によりセキュリティリスクが拡大する懸念もあります。
※ EOL(End Of Life)…メーカーによる販売やサポートが終了するタイミング
「DXレポート」によると、約8割の日本企業がレガシーシステムを使い続けていることが判明しています。これは既存のITシステムが長期間の運用で老朽化・複雑化し、保守・運用にリソースを費やしてばかりで、手を付けづらい「聖域」と化しており、新システムへの移行を決断できないという背景があります。レガシーシステムは保守・運営が属人的となるため、継承が困難と考える事業者は6割以上にのぼっています。
仮に、これらの課題を克服できない場合、2025年以降に年間で最大12兆円の経済損失が生じると経済産業省は警告しています。一方で、「DXレポート」に記載された「DX実現シナリオ」によると、「廃棄や塩漬けにするものなどを仕分けしながら、必要なものについて刷新しつつ、DXを実現することにより、2030年実質GDP130兆円超の押上げを実現」というポジティブな予測もあります。
企業が「2025年の崖」を乗り越えるためには、DXの推進は不可欠です。経済産業省は、レガシーシステムが足かせとなっている、あるいはビジネスモデルの変革に踏み切れていない中堅・中小企業に向けて「デジタルガバナンス・コード実践の手引き」を公開しています。
ここに書かれていることは、デジタル時代に持続的な企業価値の向上を図るために経営者が実践すべき重要なポイントを取りまとめたものです。具体的な実践のプロセスは、まず経営者が自社の理念などを明確にし、実現したい5年後・10年後の経営ビジョンを描いて解決すべき課題を整理する。デジタル技術を活用して課題を解決し、ビジネスモデルの変革などに戦略的に取り組む流れになっています。
ここで1つ、その実践した中小企業の事例を紹介しましょう。佐賀県の山口産業株式会社は、不安定な世界情勢、パンデミックといった突発的な社会の変化にデジタル技術を駆使して適応してきたことを起点として DX に着手。資材高騰を受けて完成品原価分析システムなどを自社開発し、過去 5 年で 40 種類以上のシステムやツールを導入することで全部門の工程を円滑することで生産性を大幅に向上しています。そのほかにも「デジタルガバナンス・コード実践の手引き」には、中堅・中小企業の事例も多く取り上げられているため、ぜひ、ご一読をおすすめします。
参考:「中堅・中小企業等向け「デジタルガバナンス・コード」実践の手引き」(経済産業省)
ちなみに経済産業省ではデジタル・ガバナンスコードの基本的事項に対応する企業を国が認定する「DX認定制度」を実施しているため、積極的に取り組んでみてはいかがでしょう。認定を取得することで、中小企業にとっては多くの恩恵が受けられます。認定事業者はDXに積極的に取り組む企業として社会的信用やブランドイメージが向上できるだけでなく、DX投資促進税制の適用を受けることができ、条件を満たせば税額控除(最大5%)または特別償却30%の措置が可能です。ただし、適用期限は2025年3月31日までです。なお、日本政策金融公庫により、基準利率よりも低い利率で融資を受けられるほか、中小企業信用保険法の特例により、民間の金融機関からの融資でも、信用保証協会による信用保証が優遇されます。
ITの有効活用が「2025年問題」と
「2025年の崖」解決の近道
そもそも、DXという言葉が差す領域は広く漠然としており、イメージがつかみづらいという方も多いのではないでしょうか。「IoTやAIなどのデジタル技術を駆使して、経営の在り方やビジネスプロセスを創造・再構築すること」といわれても、いまひとつピンときません。もっと平たい言葉にすると、ITを有効活用することで業務の改善、営業力の強化、市場競争力の向上など、企業経営に変革をもたらすこと全般です。社会課題を解決するために、世の中の仕組みを変える新たなビジネスモデルを創出することだけがDXではありません。始めやすいところ、手を付けやすいところから始めてしまえばいいのです。もちろん、「2025年の崖」に向けたレガシーシステムの刷新は重要ですが、それと合わせて「2025年問題」の人材不足を解消する取り組みも一緒に推し進めてみてはいかがでしょうか。
たとえば、より少ない人数、短時間で仕事を回すために業務の自動化、効率化を図ることも有効です。定型業務の自動化、省力化を図るためにRPA(※)の導入を検討する、あるいは従来は紙ベースだった請求書をデジタル化することで押印、郵送といった従来の手間を省き業務負荷を軽減することでも大きな効果が見込めるはずです。
※RPA(Robotic Process Automation)…PC上で行われる作業を人の代わりに自動で実施するソフトウェア
オフィスに縛られない働き方を実現することも人材不足解消の一手です。オフィスと同等の業務が回せるPC、ネットワークといったテレワーク環境の整備、テレワークで希薄化するコミュニケーションを活性化、業務の連携を強化するためにビデオ会議ツール、チャットツールを導入してみてもいいでしょう。働く場所を選ばない環境を実現することで、シルバー人材はもちろん、育児・介護で自宅を離れられないビジネスケアラー、さらには地方在住、海外在住の新たな人材獲得のチャンスを広げることができるでしょう。
多忙なIT部門業務のアウトソーシングを検討してみるのもいいでしょう。たとえば、オフィス、テレワークなどが混在するハイブリッドワーク環境では、日々、さまざまな問い合わせがIT部門に寄せられ、対応に追われることで本来の業務に集中できない状況が生じているケースもあります。そのような従業員からの問い合わせをアウトソースすることで、IT部門の業務負担を軽減することなども検討しましょう。
これは、あくまで一例にすぎませんが、紛れもなくITの有効活用による業務の効率化、働き方改革の推進といったDXは、減少の一途をたどる労働人口への大きな対応策です。DXの実現は「2025年問題」と「2025年の崖」の課題解決の大きな一歩となるでしょう。
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※本記事は2024年6月現在の情報をもとに作成されています。最新・正確な情報は各省庁や自治体のWebサイトをご確認ください。