2024年12月に紙の健康保険証が全廃される
最近よく話題に上がる「マイナ保険証」についてご存じでしょうか。これはマイナンバーカードを自身の健康保険証として利用することで、医療機関の保険資格を確認するものです。日本政府は2024年12月2日にマイナンバーカードと保険証を一本化し、紙の健康保険証の廃止を決定しています。以降、紙の健康保険証は発行されなくなり、病院・薬局などではマイナ保険証の利用が必須となります。
病院・薬局などの医療機関では、患者が加入する医療保険の資格確認が必要です。これまで医療機関の受付で紙の保険証を提示して記号・番号・氏名・生年月日・住所などの資格確認の作業には大きな手間と時間がかかっていました。これからはマイナ保険証をカードリーダーにかざすだけで「オンライン資格確認等システム」によりオンライン経由で直近の資格情報を照会できるようになります。
マイナ保険証が浸透することにより、薬の処方履歴や健診結果などから正確なデータにもとづく診察や薬の処方が受けられる、救急医療で患者の健康・医療データの活用ができるといった医療の質向上に加え、顔認証による本人確認でなりすましを防げるといった医療DXの推進が見込めます。
医療DXとは保健・医療・介護の各段階で発生するデータを、全体最適された基盤クラウドなどを通して、保健・医療、介護関係者の業務やシステム、データの保存の仕方などの方法を外部化・共通化・標準化してすべての国民が良質な医療やケアを受けられるよう社会や生活のかたちを変える仕組みのことです。
マイナ保険証の利用率向上が医療DXを加速させる
総務省によると、2024年8月14日時点でマイナンバーカードの有効申請受付数は、人口の81.9%に達したと発表しています。一方で厚生労働省が発表した2024年6月に実施した18 歳以上のマイナンバーカード保有者を対象にしたWeb アンケート調査によると約4人に1人がマイナ保険証の利用経験があり、4人のうち3人が今後も利用したいと回答しています。
一方で政府側もマイナ保険証を普及させる取り組みを強化しています。2024年5月より厚生労働省は「マイナ保険証利用促進集中取組月間」としてチラシの配布、ポスター掲示を条件に病院や薬局に支援金を支出しました。さらに2024年度の診療報酬改定で新設された「医療DX推進体制整備加算」では、2024年10月から「マイナ保険証利用実績に関する基準」が適用されます。これはマイナ保険証の利用率に応じて医療機関に点数がプラスされる仕組みとなっています。こうした取り組みにより、マイナ保険証の利用率は伸びていくと考えられます。
それでは、医療DXが進むことで、いったい私たちにどんなメリットがあるのでしょうか。
医療DX推進が私たちにもたらすメリット
ひとことに医療DXといえど、その取り組みは多岐に渡ります。日本政府が2023年6月2日にまとめた「医療DXの推進に関する工程表」をベースに解説していきましょう。
具体的な施策としては「マイナンバーカードと保険証の一体化加速」を起点に、「全国医療情報プラットフォームの構築」「電子カルテ情報の標準化」「診療報酬改定DX」の3つの施策のロードマップが示されています。
全国医療情報プラットフォームの構築
クラウド技術などの活用により全国の医療関係者間で必要なデータを共有できるプラットフォームの構築が進みます。これにより、ユーザーはかかりつけの病院や薬局に縛られることなく、マイナ保険証を提示すれば初診の煩雑な手続き不要で、よりスムーズに全国の医療機関が利用できるようになります。
電子カルテ情報の標準化
医療機関同士などでスムーズなデータ共有・交換を行うため、安全性や効率性の高い電子カルテの標準規格を定め、普及させる取り組みです。この標準化が実現すれば、ユーザーは診療に関わる信頼性や正確性の向上、診察にかかる時間の短縮といったメリットを全国の医療機関で享受できるようになります。
診療報酬改定DX
2年ごとに実施される診療報酬改定の短期間での対応を目的として、ベンダーや医療機関などに生じる大きな業務負荷、コスト負担を軽減する取り組みです。実現すれば医療従事者が本来の業務に集中できるようになり、システム改修の財務負担が削減されて先進医療に向けた院内設備への投資が進むことが考えられるため、ユーザーはより手厚い医療サービスが受けられるようになるでしょう。
現在、マイナンバーカードの電子証明書を所定の手続きを行えばスマホに搭載できるスマホ用電子証明書搭載サービスがスタートしており、将来的にはスマホに搭載したマイナ保険証を医療機関の窓口で利用できるようになる予定です。つまり医療DXが浸透することでスマホ1台あれば手軽に診療が受けられるようになり、診療内容が全国の医療機関で共有されることで、かかりつけの病院に縛られることもなくなります。出張先や旅行先で急に体調が悪くなった際などにも適切な診療が受けられるようになります。
医療DXの推進は医療機関に多くのメリットが生じる一方、取り組みを進める上での課題もあります。まず、医療従事者の年齢層によってデジタル格差の発生が懸念されることです。このため、私たちが医療DXの恩恵を受けるためには、医療現場でのデジタル人材の教育・育成が重要なポイントになります。続いて、私たちの個人情報を守るための厳重なセキュリティ管理も必要です。昨今、医療機関を標的としたランサムウェア攻撃が増えています。医療DXの推進により全国の医療情報プラットフォームを構築する際には知見のあるパートナーの選定など、より厳重なセキュリティ管理が必須となります。そして、院内システムの整備にかかるコストも課題ですが、これは国による医療機関向けの各種補助金制度の拡充がカギとなります。これらの課題がクリアできれば、私たちが医療DXを享受できる日もそう遠くはないでしょう。
このように医療DXの推進では医療現場の人材不足を解消するアプローチが欠かせません。つまり、医療現場の稼働増、人材が不足する状況を打開する働き方改革の推進で担当人材を確保することも重要になります。マイナ保険証、オンライン資格確認等システムや電子カルテにとどまらず、積極的なITの導入、利活用による業務効率化は医療現場の働き方改革を後押しする追い風になります。たとえば、ドコモビジネスでも医療現場のDX化を推進するさまざまなソリューションを提供しています。スマホが病院内の内線として活用できる「オフィスリンク」、医療現場の情報連携を加速するチャットツール「LINE WORKS」、勤怠シフト管理のペーパレス化を実現する「KING OF TIME」などは、すでにいくつかの医療機関で導入されています。
いつか病院を訪れたとき、PHSではなくスマホで会話する看護師さん、タブレットでカルテを記入するお医者さんなどをよく見かけるようになったら、きっとそれは医療DXの取り組みが実を結び始めているということです。しっかりマイナ保険証を用意して、いまから新たな医療サービスの到来に備えておきたいものです。