DXを成功に導く組織とは?組織タイプ・リーダー・文化・事例を紹介

DXを進めたいとは思っているものの、どの部署にDX推進のミッションを与えるべきか、DX推進部署を新設すべきかどうか、悩んでしまいなかなか取り組みが進まない方もいらっしゃるのではないでしょうか?
この記事では、DX推進を担う組織のタイプや、DX推進に必要となるリーダーや文化、組織事例を紹介します。
推進組織にお悩みの方は是非参考にしてください。

1. DXとは?

1. DXとは?

そもそも「DX(=デジタルトランスフォーメーション)」とは何を意味するのでしょうか?
経済産業省は、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。
要するに、「企業存続のためにこれから起こる変化に柔軟に適応することが必要であり、適応できるようなビジネスモデルや人・組織に変えること」と言えます。

しかし、これまでシステム部門が主に対応していた、社内システムのモダナイゼーションや業務の自動化などをDXと捉えてしまっている方が多いのも事実です。単なるデジタル化とははっきりと区別し、DXとは企業存続をかけた経営課題そのものであると正しく理解することがまずは重要です。

DX推進には専門組織が必要

では、DXを成功させるためには、どのような部署に推進させるのがいいのでしょうか?
システム部門でしょうか?経営企画部でしょうか?
IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が実施した東証一部上場企業を対象にしたアンケート調査によれば、DXの成功には、既存の組織にDX推進のミッションを与えるのではなく、DX推進の専門部署を設置することが有効とされています。

この調査では、DXの成熟度レベルと推進組織の相関関係が明らかになっています。
 (成熟度レベル)
  レベル0:未着手
  レベル1:一部での散発的実施
  レベル2:一部での戦略的実施
  レベル3:全社戦略に基づく部門横断的推進
  レベル4:全社戦略に基づく持続的実施
  レベル5:グローバル市場におけるデジタル企業

  

成熟度レベルが3以上に達している企業の割合を見ていくと、DX専門組織とシステム部門が協同する企業の場合で約64%、システム部門のみで推進している場合で9%、DX専門組織がなく既存の組織にもミッションを与えていない場合はたったの6%という結果になりました。DX専門組織の有無による効果の差は歴然です。

DX専門組織を設置することで効果が出る理由としては、推進に必要なリソースが充当されるだけでなく、承認や根回しといったプロセスなく意思決定できるため(然るべき権限が与えられていることが前提になりますが)、スピーディに進められることが考えられます。

DX組織の6タイプ

しかし、いざDX専門組織を設置しようにも、会社全体の中でどの位置に設置するべきか迷うことも多いでしょう。
IPAが示すDXの6つの組織タイプについて、その特徴・メリット・デメリットを紹介します。

●組織新設型

まず先に示すのが、DX成功の効果が高いとされる、専門組織を新設する3つのタイプです。

①独立事業部門型
独立事業部門型は、新たに部署を新設して、その新設部署にDX戦略策定、施策策定、施策の実行など、一連のDX推進活動を主導するミッションが与えられます。

(メリット)

  • 既存の事業部門への負担が少ない
  • 既存事業の強みを残したままDXに取り組むことが可能
  • 集中して取り組むことができる

(デメリット)

  • 既存事業との連携が弱くなりがち
  • 新規事業が既存事業の競合となる場合もあり、社内の抵抗を招きやすい
  • すぐには成果が現れないため評価が難しい

②全社企画・支援型
全社企画・支援型は、新たに部署を新設する点では①と同じですが、ミッションが異なります。全社的な戦略立案は行うものの、具体的な施策の策定や実行は各部門に任せ、それをサポートする役割を担うのです。
実際には①と兼ねているケースも多く、全社で取り組むべき施策は専門組織が主導し、各部門で完結する施策については、各部門に任せるという風にハイブリッドで進めることも考えられます。

(メリット)

  • 全社一丸となってDXを推進しやすい

(デメリット)

  • 各部門に企画能力・実行能力がない限り、成果が出ない
  • 各部門とDX推進部門の責任範囲が曖昧となるケースがある

③DX企業新設型
DX企業新設型は、DXを推進する組織を丸ごと別会社として切り出すケースです。DX推進への意識が高い大企業に多く見られ、自社/自グループの子会社として設置するケースや、複数企業と共同でジョイントベンチャーを設立するケースなどもあります。
戦略策定から施策の策定・実行と一連の活動にミッションを持ち、比較的自由な権限でイノベーティブな施策の策定・実行が求められます。
また、社内人材をマネジメントに送り込むことで既存ビジネスと連携できるようにすることを出島モデル、マネジメントも外部人材で固めより自由度を持たせるタイプを黒船モデルと言います。

(メリット)

  • 既存の企業の制約や抵抗に捉われずに新事業の創造が可能
  • 異業種連携の手段としても機能
  • 外部から取り入れたデジタル人材に、自由に活躍する機会を提供できる(古い組織体質では、やりたいことを実行に移せず組織への貢献度が下がるケースもあり)

(デメリット)

  • 企業設立のための資金力や時間が必要
  • 子会社のガバナンスが難しい
  • 子会社の有スキル者が高待遇で社内に囲われていることで、内部人材のモチベーション低下に繋がる恐れがある
  • 本体と新会社の社員の間にDXへの危機感に対する意識レベルの差が生じてしまいかねない

●既存組織推進型

これまで専門組織を設置することの有効性を説明してきましたが、DXのスタート地点に近いところに立っており、専門組織にどんなミッションや権限を与えるべきかまだ見えない状況では、既存組織にDX推進のミッションを一時的に与え推進方法を探ってみることも有効です。
ここでは、既存組織にDX推進のミッションを持たせる場合の組織タイプを3つ紹介します。

④企画部門推進型
企画部門推進型は、その名の通り、経営企画部門等がDX推進を担当します。DX専門組織を設置していない企業のうち約3割の企業において、企画部門がDX推進に参画していることが分かっており、この方法をとる企業は多い状況です。

(メリット)

  • 各部門の状況を俯瞰的に把握、企業の経営戦略と密接に連携をとりながら進められる
  • 試行的な取り組みに効果的

(デメリット)

  • 経営企画部門はスキームの構築をミッションとしているケースが多く、実行や長期的な運用には向いていない

⑤IT部門推進型
社内のシステム部門がDXの推進を担う体制であり、DX専門組織を設置していない企業では最も多く見られるパターンです。与えられるミッションは新規事業創造や企業文化の改革といったDXのゴール自体ではなく、その過程で必要となる、既存業務の効率化や高度化に重点が置かれる傾向にあります。

(メリット)

  • 既存システムのストラクチャを考慮した、実現可能性が判断しやすい
  • リスクも考慮しながら、社内のITシステム全般の最適化ができる

(デメリット)

  • 技術視点になりがちで、ビジネス視点から変革するのにはハードルが高い

⑥その他部門推進型
研究開発部門や新規事業開発部門、マーケティング部門といった、経営企画部門・IT部門以外がDXを推進するケースも少なからずあります。

(メリット)

  • 先端技術の活用であれば研究開発部門等、DXの目的に沿った部門で実施可能

(デメリット)

  • 全社レベルでの成果の活用や波及が必要

最終的に、経営課題としてDXに取り組む場合には、DX推進をメインミッションとする専門組織が不可欠ですが、自社のDX推進状況から最適な組織タイプを選択し、随時見直しを図ることが重要となるでしょう。

2. DX推進組織を率いるリーダー・役職とは?

DXの成功には、専門組織のみならず、DXを成功に導く強いリーダーシップが欠かせません。
一般的にDXを推進するリーダーにはどのような種類があり、どのような役割をもつのでしょうか?

CDO(Chief Digital/Data Officer)/ CDXO(Chief DX Officer)

DXを推進するリーダーとして近年設置が増えているのが、CDO(チーフ・デジタル/データ・オフィサー)/CDXO(チーフ・DX・オフィサー)です。CDO/CDXOは、幅広いデジタル戦略を統括し、組織を横断して改革を推進する、いわゆる”攻めのIT”に責任を持つことが特徴ですが、日本においてCDOの設置状況は、わずか6.5%ということが分かっています。

経済産業省によれば、CDOの役割は主に3つあると言われています。
(1)DXの戦略策定
(2)DXの戦略を推進するための全社的なコーディネーション
(3)DX推進のための企業文化の変革

DXとは、これまで慣れ親しんだビジネスモデルやプロセス、企業文化を変革することであり、時に痛みを伴う意思決定も必要となります。反抗勢力がある中で変革を推し進めるためには、CDOに経営トップと対等に対話できる環境と、強い権限を与えることが重要です。

CIO(Chief Information Officer)

ガートナーによれば、CIOのミッションは「企業のIT組織内の人、プロセス、およびテクノロジーを監督して、ビジネスの目標をサポートする」ことであると記されています。
社内のIT活用を効率化・高度化することで、各部門の戦略や施策の実行を後押しする、”守りのIT”を役割とするイメージが強いCIOですが、日本情報システム・ユーザー協会が提唱する、目指すべきCIO像によれば、CIOの役割は、

(1)情報活用による経営戦略の創造
(2)全社横断のビジネス変革
(3)ITガバナンス確立

と、攻めのITにも責任をもつことを理想として語られています。
デジタルの世界がビジネスの主戦場となりつつある時代において、データの管理だけでなく、データの活用にまで責任範囲が広がることも不思議なことではないでしょう。

CDOとCIOは部分的に役割が重複しており、実際にCIOがCDOを兼任するケースもありますが、CIO兼CDOを設置するにしろ、CDOとCIOをそれぞれ設置するにしろ、役割と権限を明確に定義することが重要となるでしょう。

DXの推進には役職として定義されたCDO/CDXO/CIOの設置が有効

JUAS(一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会)が発表した「企業IT動向調査報告書2021」では、CDOの設置状況とデジタル化レベル(単純自動化 < 高度化 < 創造・革新)の相関関係が明らかになっています。

CDOを設置している企業の約4割が、「創造・革新」のフェーズにあるのに比べて、未検討の企業は3割と差が開いています。CIOの設置状況とデジタル化レベルの相関関係を見ても、役職として定義されたCIOがいる企業ほどデジタル化レベルが高くなっているという結果が分かりました。

デジタル技術を活用した新しい観点と、ビジネス視点をもつDX推進リーダーを設置することは必要不可欠と言えるでしょう。

3. DX組織に求められるカルチャー

3. DX組織に求められるカルチャー

DXを推進するハコ(組織)を準備し、リーダーを決め、人材を集めたとしても、外部環境に柔軟に適応できる組織になるためには、文化の形成が欠かせません。
具体的には、どのような組織文化を形成していく必要があるのでしょうか?

アジャイル

加速度的にテクノロジーが発展するこれからの時代では、変化を俊敏に感知してビジネスに適用し、短サイクルで改善を行い続けるアジャイル方式が有効です。
綿密に計画を立てたり、関係部門にお伺いを立てたりしているようでは、時代のトレンドから置いていかれてしまいます。DX推進部署に一定の権限を持たせるだけでなく、マインドの形成を促す施策も必要になるでしょう。

トライ

外部環境の変化にスピーディに適応していくためには、挑戦を促し失敗から学ぶ文化の醸成が必要です。とはいえ、方針や想定結果が曖昧な状態でのトライからは何も生まれないので、何を検証するのかを事前に明確にしておくことは重要です。
評価制度やリーダーからの発信によって、戦略的な失敗を是とし、心理的安全性を確保していくことが必要になるでしょう。

データドリブン

多様化する顧客のニーズを把握し、それに応えていくためには、主観を排除したデータに基づく経営判断が必要になります。経験や勘といった主観では、顧客の多様化を理解できないだけでなく、自分の予想の範疇でしか結論を導き出せません。企業側が良いと思わないものでも、市場では大きな需要があるということも珍しくないのです。データを基準にして施策を決定していくというマインドの醸成が欠かせません。

コラボレーティブ

同じような境遇・考えをもつ人ばかりが集まっていては、新たな知見や別の視点がもたらされません。むしろ「エコーチェンバー(反響室)」を作り出し、現在の偏った考え方が正しいという過度な自信をも抱くようになり、有効な意思決定の弊害となる恐れがあります。できるだけ多様なメンバーが共同で推進し、それぞれの考えや意見を尊重する文化が必要になります。

人材の流動化

変化が激しい時代においては、必要となるテクノロジースキルも変化していきます。全てを自前でまかなうことは難易度が高く、必要に応じて外部から素早く人材を調達することが必要となり、そのことに全社的に共通認識を持っておくことが重要です。
また、年功序列的な考え方が根強く人材の流動性が相対的に低い状態では、これまでの会社の成功体験が共通言語として強く語られることも少なくありません。過去の栄光にとらわれることなく、外部人材を積極的に取り入れ新しい風を巻き起こすことが大切です。

学習し続ける

変わりゆくスキルとスキルの陳腐化を考慮すると、個人も組織も継続的に学習する文化が欠かせません。経営層は、新しいスキルを習得することの必要性を発信し続けるだけでなく、習得できる環境の提供も必要となるでしょう。

4. DX推進のための組織編成事例

ここまで、DX推進の組織タイプや、推進に欠かせないリーダー・カルチャーについて紹介してきました。この章では、DXの取り組みが進んでいる企業がどのような組織構造で進めているのか、具体的な事例を紹介していきます。

建設会社(①独立事業部門型)

ある建設会社は、2019 年にDX専任組織である「デジタル戦略推進室」を設置しました。社長直轄のデジタル戦略推進室では、全社デジタル戦略の立案・推進・投資管理などの役割を担うだけでなく、実装機能も備えデジタル施策の迅速化を図っています。
6つの組織タイプで言うと①独立事業部門型が該当します。

この企業では「デジタルゼネコン」への変貌を目指して、明確に3つのコンセプト(ものづくりをデジタルで、デジタルな空間・サービスの提供、ものづくりを支えるデジタル)を示しました。
コンセプトに沿って、AIを活用したコンクリート締固め管理システムの開発、AR技術を活用した施工管理システムの開発、3Dプリントを活用したコンクリート製品の開発、建物OSの開発、グループ全体へのRPA展開など、様々なデジタル施策を実施しました。

商社(②全社企画・支援型)

ある商社では、独立組織である「デジタル総合戦略部」を2019年に設立しています。デジタル総合戦略部は、全体戦略の策定や、各部門が企画・実行するデジタル施策の実行サポートなどを役割としており、6つの組織タイプで言うと②全社企画・支援型が該当します。

2021年3月末累計で、DX検討案件は約210件に上り、そのうち60件が実証化、20件が実運用に至るなど高い成果を出しています。具体的には、IoTやデジタルツインを活用した海洋開発設備の予知保全、AIを活用した船舶の燃料消費予測モデルの構築、D2C型商品の開発など、既存事業の効率化や高度化のみならず、新規ビジネスの開発に積極的に取り組んでいるのが特徴です。

この商社がはじめてDX専任組織をつくったのは2018年のことです。経営企画部内にDX専任チームを設置したのが始まりでしたが、2019年に専任組織であるデジタル総合戦略部を設立してからも、半年に1回程度のペースで体制や役割の見直しを行なっています。
CIOとCDOの機能を統合した「CDIO:チーフ・デジタル・インフォメーション・オフィサー」が、DXの推進を牽引しています。

化粧品メーカー(①独立事業部門型 ②全社企画・支援型 ③DX企業新設型)

最後に紹介するのは化粧品メーカーの取り組みです。この企業は、2021年に大手コンサルティング企業とDXを推進する合弁会社を設立しました。この会社は「デジタルを中心とした事業モデル改革、グローバル標準のITインフラとオペレーションの構築、さらにデジタル・IT領域での人材の強化」に取り組むことを目指しています。
化粧品メーカー本体にも、デジタル戦略部やオムニエクスペリエンス推進部は存在しており、新会社では、よりイノベーティブな戦略や施策が求められていることが伺えます。
①独立事業部門型 ②全社企画・支援型 ③DX企業新設型のハイブリッドタイプであると言えるでしょう。

5. まとめ

この記事では、DX推進に欠かせない、DX推進組織について、6つの組織タイプや組織のリーダー、組織文化、事例を紹介してきました。
事例として紹介した企業が、DXの進行状況に合わせて組織構造やリーダーを見直していることから分かる通り、DXを推進する組織やリーダーの役割は、DXの取り組みレベルによって異なります。DX組織の構築に初めから慣れている人などおらず、みな試行錯誤で進めているのです。
これから新たにDX専任組織を設置する場合には、まずは試行的な取り組みから始め、その経験を元に、見直しを図るアジャイルな手法を活用することも有効と言えるでしょう。

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