DXの成功にはビジョン・戦略の明確化が欠かせない|策定方法とDX予算確保の考え方

DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の重要性が叫ばれて久しく、今やデジタル技術を事業に取り入れることは当たり前という風潮が強まっています。しかし、中にはDXを進めるように上役から命令されたものの、どこに向かって進めればいいのか分からない方や、何から手をつけていいか優先順位が分からない、という方もいるのではないでしょうか?
この記事では、DX推進に欠かせないビジョンや、ビジョンを達成するための戦略の描き方、DX戦略を実行するための予算確保の考え方について説明します。

1. DX推進にビジョン設定と戦略策定が欠かせない理由

1. DX推進にビジョン設定と戦略策定が欠かせない理由

企業がDXを推進する目的とは?

そもそも企業がDXを推進する目的とは何でしょうか?DXを推進する目的を一言で言えば、「高度デジタル化社会においても、企業を存続し、価値を提供し続けられるようになるため」と言えるでしょう。商品やサービスそのものによる差別化が難しい現代において、価値の源泉はデジタルの領域へと移っています。また、予想もしないところからテクノロジーを味方につけたライバル(=デジタルディスラプター*)が登場し、これまで提供してきた価値を横取りされる恐れもあります。デジタル領域においても価値発揮できるビジネスモデルへの変革が必要となっているだけでなく、外部環境が変化しても柔軟に対応できるような、システム基盤や、人・組織へと変革することが必須となっているのです。

*デジタルディスラプター:デジタル技術を駆使して、既存のビジネスモデルを破壊する新規参入者。UberやAmazonなどが典型的な例。

DXにおけるビジョン・戦略立案の重要性

前述の通り、DXとは企業のあり方から変えていくという、企業変革そのものに他なりません。これまで行ってきた社内システムのリプレイスや既存業務のIT化はDXの一部に過ぎず、DXのグランドデザインに基づいて実行されなければなりません。つまり、システム部や一部の業務担当者のみで推し進めるものではなく、然るべきリーダーのもと、全社一丸となって同じ方向に向かって取り組むべきことを示しているのです。そのためには、目指すべきゴールとその道しるべが欠かせないのです。この、ゴールと道しるべこそが、本記事で説明したい、DXのビジョンと戦略そのものです。

DXのビジョン・戦略は経営者が主体的に策定すべき

そして、このDXのビジョンや戦略は、経営者が主体となって策定しなければなりません。壮大なテーマであり、外部の専門家に丸投げしたくなるかもしれませんが、それでは自社の企業変革を自分事として捉えられず、推進力に欠けてしまいます。DXを成功させるためには、必要なリソースを十分に確保するだけなく、人事制度の変革や、場合によっては既存事業を縮小させるといった痛みを伴う判断も必要になる場合もあるなど、経営者のコミットが欠かせません。外部の事業者と上手く連携していくことも必要ですが、主導権は決して渡さず、経営者自身が徹底的に納得できて、かつ、実現可能と思えるビジョン・戦略を策定していく必要があります。

2. DXのビジョン設定方法

DXのビジョンとは、DXが達成された後にどのような姿になっていたいのか、”ありたい姿”や”理想像”とも言えるでしょう。このありたい姿は、企業が戦略や施策を考える上で、一貫性のあるものにするために欠かせないものです。どのように設定していくのがいいのでしょうか?

2-1. 基本理念を明確にする

まずは、会社の基本理念を改めて認識していきましょう。基本理念とは、企業が存在する目的や価値基準であり、「事業を通して社会に提供したい価値」のことです。例えば、コーヒーを販売している企業の基本理念は、「美味しいコーヒー豆を提供すること」ではなく、コーヒーを通して「人々の日々を豊かなものにすること」かもしれません。このように、本質的に人々に与えたい価値を改めて定義することが重要で、もし「美味しいコーヒー豆を提供すること」を提供価値にしてしまうと、DXの取り組みは、製造プロセスのデジタル化などといった狭い範囲での改善にしかならない可能性があります。本質的に提供したい価値が明確になることで、それを実現するための最善の方法は何かという抜本的な改革に向けたアイディアが生まれるようになるのです。

2-2. 自社のユニーク性を抽出する

次のステップでは、自社のユニーク性=強みを抽出しましょう。市場での競争力を高めるには、元々保有している強みを伸ばしていくことが最も効率的でスケールのある方法になります。注意が必要なのが、この強みは製品やサービスだけでないということです。コーヒーを販売している企業であれば直ぐにお届けできる物流や、フェアトレードで調達するというサプライチェーンかもしれません。また、独自の焙煎方法かもしれませんし、ユーザーファーストでホスピタリティのある組織文化かもしれません。そして、このユニーク性は一つとも限りません。他社が真似することが難しいものは何なのかを明確にすることで、この強みを活かしたビジョンの設定に繋がっていくのです。

2-3. 未来のテクノロジーを予測

10年後、20年後にテクノロジーがどのように発展し、それによって顧客のニーズや業界がどのように変化しているのか、新たな事業機会は何かを予測しましょう。10年後の未来を予測することは難しいかもしれませんが、長期的なビジョンがなければ、未来の環境に備えて今取り組むべきことが明確にならないばかりか、間違った方向に進んでしまう可能性すらあります。これはバックキャスティング方式と言い、世界のさまざまな企業が取り入れています。複数のシナリオを持っておくことも有効でしょう。

2-4. ビジョン(ありたい姿)を描く

最後に、「ユニーク性(強み)」と「テクノロジー」を掛け合わせて、自社がどのように「本質的に提供したい価値」を提供していくのか、ビジョン=ありたい姿を描きましょう。ビジネスモデルや製品・サービスなどの詳細な仕様を決めることは難しいため、概念的なものになるでしょう。どのような市場でどのようなポジションにあるのか、顧客とどのような関係性になっているのか、そのために自社のビジネスモデルや組織はどのような状態になっているのかといった大局的な理想像を描いていきましょう。

3. DX戦略の意味と策定方法

3. DX戦略の意味と策定方法

目指すべきビジョンが明確になったら、いよいよDX戦略を立案していきます。
ここで、「DX戦略」とは何かについて考えてみましょう。経済産業省によれば、DX戦略とは「企業が競争力を維持・強化するために、デジタル技術を活用した製品・サービス等を創出するための行動計画とアプローチのこと」と定義しています。
つまり、前章で述べたビジョンへ到達するために、何を・いつまでに・どのような方法でやるのかを明確に決めることと言えるでしょう。ビジョンとは異なって、具体性が求められるため、ある程度の精度で将来の予測が可能な3年〜5年程度の期間で策定するケースが多く見られます。また、企業変革であることから、中期経営計画などといった経営戦略とも整合性をとっておかなくてはなりません。
それでは、DX戦略を策定するためのステップを紹介していきます。

3-1. 現状把握(DX推進状況)

まず、自社のDX推進状況が一般的にどのようなレベルにあるのか客観的に把握しましょう。これは、戦略期間内にどのレベルを目指し、どのような施策を行うべきかを決定するために必要なプロセスです。
DX推進状況は、「推進ステップ」と「成熟度レベル」で測ることができるでしょう。

【DXの推進3ステップ】
この推進ステップは“変革の度合い”によって分類されていると考えられます。ビジネスの質はほとんど変えることなく物理世界の業務が全体的/部分的にオンラインに移行した状態がステップ1のデジタイゼーションです。まだ紙で管理している業務が多く残っているのであれば、ステップ1にも到達していない状況と言えるでしょう。以下のステップを一つずつ順番に実行していかなければいけないという訳ではありませんが、ハンコの文化やテレワークが実現できていないのに、一足飛びにデジタル体質の企業に生まれ変わるというのは非常に難易度が高いものです。まずは、自社がどのステップにいるのか、部門によってバラツキがあるのであれば、それも正確に捉えてみましょう。

  ステップ 概要
1 デジタイゼーション 紙などで管理しているアナログデータをデジタルデータ化
2 デジタライゼーション データを利用したビジネスプロセスの効率化や高度化
3 デジタルトランスフォーメーション 変化に対応し得る、企業への変革

【6つの成熟度レベル】
成熟度レベルは“戦略の有無”と“適用範囲”によって分類されていると考えられます。全社的な戦略なくしては、DXは成功に近づいているとは言えないことを示しています。日本企業の約70%は、レベル0〜1にあるという調査結果もあるほどですが、自社はDXの成功に向けた戦略を策定できているかどうか、活動がどこまで社内に浸透しているかどうかを把握してください。

  成熟度レベル 特性
レベル0 未着手 経営者は無関心か、関心があっても具体的な取り組みに至っていない
レベル1 一部での散発的実施 全社戦略が明確でない中、部門単位での試行・実施にとどまっている
レベル2 一部での戦略的実施 全社戦略に基づく一部の部門での推進
レベル3 全社戦略に基づく部門横断的推進 全社戦略に基づく部門横断的推進
(仕組みが明確化され部門横断的に実践されている)
レベル4 全社戦略に基づく持続的実施 定量的な指標などによる持続的な実施
(同じ組織・やり方を定着させられるだけでなく、それらを継続的に改善していくことも含まれる)
レベル5 グローバル市場におけるデジタル企業 デジタル企業として、グローバル競争を勝ち抜くことのできるレベル
(レベル4の特性を満たした上で、グローバル市場でも存在感を発揮し、競争優位性を確立している)

3-2. 外部環境分析

直近の数年で外部環境がどのように変化し、自社のビジネスにどのような影響を与える可能性があるか予測することも重要です。ここで、外部環境の変化が把握できていないと、戦略を策定・実行したとしても、顧客に受け入れられない、規制上実行できない、市場が縮小していた等ということが起こり得るためです。外部環境の分析には、一案としてPESTというフレームワークを活用することができます。政治・経済・社会・技術の要素が、自社のビジネスにどのような影響を与えうるのか、どのような道に進めば追い風となるのかを判断する手がかりとなるでしょう。
Politics(政治):法的規制緩和、税制の変更など
Economy(経済):為替変動による輸出入市場の変化、シェアビジネスの台頭、競合の動きなど
Social(社会):少子高齢化、地球温暖化など
Technology(技術):技術革新など

3-3. 改革方針・施策の策定(何をするのかを決める)

改革方針の策定
自社の現在地と直近の外部環境が分かったら、あるべき姿を実現するために、重点的に取り組むことを決めるステップに入ります。これは、会社の有限なリソースを集中投下する対象を決めることであり、新たに取り組むべきことを決める一方で、何をやめるのかを決めることでもあります。

新たに取り組むべきこととしては大きく2つの視点で考えるべきでしょう。
一つは、ユニーク性を伸ばすためのものです。「事業」「商品・サービス」「システム」「業務プロセス」「組織、人材」「企業文化・風土」と、どの領域に重きを置くのかは、企業によって異なります。電子機器やソフトウェアなど多角経営している場合は、”ソフトウェア事業への集中”かもしれませんし、おもてなしに強みのある企業であれば、”1to1マーケティングの強化”かもしれません。
もう一つは、脆弱性を克服するためのものです。社員のITリテラシーが全般的に低いのであれば”特定のデジタル知識を身につけた人材の増加”かもしれませんし、技術開発に時間がかかるのであれば”外部との戦略的な提携”になるかもしれません。そして、日本企業の多くに当てはまる脆弱な点として、レガシーシステムの存在があります。既存システムがブラックボックス化していることで、維持管理費の高騰やデータの非活用リスクが叫ばれており、この点を克服しなければ大きな経済損失を被るとも言われています。レガシーシステムが今後自社の脆弱な点になり得るかどうかは是非検討していただきたいポイントです。

改革施策・目標の策定
改革方針に基づいて、施策や目標を具体化していきます。施策を策定するにあたっては、まず、それぞれの改革方針ごとに、どの程度の変革を目指すのか、どの組織で実行するのか、といった戦略期間内の現実的な目標を立てることが望ましいでしょう。(前章で紹介した、推進ステップや成熟度レベルが参考になるでしょう。)
この目標に向かって、具体的な施策を掘り下げていきましょう。”特定のデジタル知識を身につけた人材の増加”を改革方針の一つに据える場合、“基準値C以上の知識を持つ人材は90%以上、基準値B以上のスキルを持つ人材を50%以上、基準値A以上の知識・スキルを持つ人材を10%”以上”というように目標を設定します。この目標を達成するための施策として、“全社員対象のITオンライン研修と達成度テストの実施””IT部門社員への特別研修実施””Aスキルを持つ人材との業務委託契約”などが考えられます。 ここで策定する施策は、戦略の効果を測るために定量的に測れるものであることが望ましいでしょう。

方針・施策の評価
戦略や具体的な施策は、自社独自の基準によって取り組むべきかどうか判断しなければなりません。明確な基準を持っておかなければスピード感を持って推進することはできず、最低でも「収益基準」と「価値基準」は明確にしておく必要があるでしょう。

  • 収益基準:将来投資に回せる利益を生み出すものか
    (外部環境の変化によって、マイナスの影響を受けないかどうかという観点も含まれる。)
  • 価値基準:企業の存在・目的(=DXを実現した後のありたい姿)に繋がるものであるか

3-4. ロードマップを描く

何をすべきかが決まったら、それぞれの施策をいつまでにやるのかを決めていきます。戦略期間である3~5年後にどのような状態になっているのか、といった目標から逆算することも一つでしょう。直近数年の事業を継続させるために、テレワーク環境を早急に整えるべき企業もあるかもしれませんし、DXへの取り組みを全社に広げるために、クイック・ウィンの施策に先に取り組むべきかもしれません。予算に余裕があるのであれば、全社的なペーパーレス化を進めながら(=デジタイゼーション)、デジタルビジネスのR&Dを進めるという具合に同時並行的に進めることもできるでしょう。自社の推進状況やリソースに応じて描いていきましょう。

3-5. DX戦略は定期的な見直しが必須

DX戦略はビジョンを達成するための中期的な道しるべに他なりませんが、必ずしも頑なに固執して何年もかけて実行するただ一つの計画とは限りません。あまりに簡単に目標を変更してしまっては、それこそ推進力に欠けてしまうため、変更する際には納得し得る理由が必要になりますが、想定していた未来と異なる現実が訪れている場合には、柔軟に見直しを図ることも必要となるでしょう。

4. DX戦略実行のための予算を確保する方法

予算の確保状況とDX成熟度の関係性
戦略を策定しても、戦略を実行するための人材や資金がないのでは、正に絵に描いた餅になってしまいます。経済産業省の調査では、DX銘柄企業の93%はDXに必要な予算が個別に確保できている一方で、DXの進捗が目立たない企業で個別に予算を確保できているのは15%にとどまっています。
特に、新規事業開発や既存ビジネスの変革といった、他社との差別化を目指す部分においては、アジャイル手法が取られることも多く、他の予算に影響されることのない個別の予算が十分に確保できなくては、挑戦し、失敗から学びを得るカルチャーを根付かせることが難しくなってしまいます。

DX予算をどこから確保するか
では、DXの予算はどこから確保するべきなのでしょうか?

●短期での考え方
・既存の予算とは別に特別予算を設ける
まず考えられるのは、既存事業の利益を当てる、または、外部から資金を集めるなどによって、既存の予算とは別に予算を立てるという考え方です。新型コロナウイルス感染症による変化が追い風となっている企業や財務的に体力のある企業であれば、余剰資金を優先的にDX推進に当てることができるでしょう。

・既存の予算配分を変える
とはいえ、コロナ禍によって利益が減っている企業も少なくなく、そのような企業にとっては既存の予算配分を変えてスモールスタートしていくことの方が現実的かもしれません。経営企画予算やR&D予算、IT予算など、直近の取り組み内容に合わせて配分を変える努力が必要になります。ここで重要なのは、DX資金を確保するために、既存投資の何をやめるのかということです。IT予算であれば、一貫性のあるシステム構築に予算を回すため、短期的な視点でのシステム改修は行わない、R&Dでは最大の強みを活かすための市場調査を行うために、大きな成長が見込めない領域での技術開発を最低限にするという具合です。スモールスタートして、成功体験を増やし、少しずつ配分を増やしていくということも考えられるでしょう。

●中長期での考え方
中長期的には、短期的施策によってカットされたコストや、生み出された利益を更に活用していくという正のスパイラルを回していくべきです。特にIT予算については、現在”守りの予算”にコストがかかり過ぎている現状があり、如何にこの守りの予算を攻めの予算に転換できるかが重要であると言われています。また、デジタイゼーションやデジタライゼーションで人力作業がデジタルに置き換わると、その分の人的リソースが浮くために、DXの推進人材として再配置したり、リスキリングによってIT人材化を進めたりすることで、採用コストを減らすこともできるでしょう。

5. 終わりに

この記事では、DXを推進する上で欠かせない、ビジョンやDX戦略の描き方、予算確保の考え方について紹介しました。
既存の業務に固執していたり、リスクをとることを極端に恐れたりしていては、激動の時代を生き延びるための企業変革は実現できません。今なぜDXに取り組まなければいけないのかを改めて見つめ直し、できることから着実に歩みを進めることが重要です。まずは、テレワーク環境の整備を進めつつ、10年後にこうなっていたいと思えるようなありたい姿を描くことから始めてみてはいかがでしょうか?

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