インターネット通信規格「IPv4(Internet Protocol version 4)」のIPアドレス枯渇は、インターネットサービスを提供する事業者にとって避けては通れない問題です。数年後にはIPv4アドレスが完全な枯渇を迎えるとみられており、世界中の各事業者はIPv6(Internet Protocol version 6)への移行の必要性に迫られています。こうした中、ネットワークセキュリティとデータサイエンスを専門に活躍する、NTTコミュニケーションズ株式会社のエバンジェリスト西塚要さんが、楽天株式会社(以下、楽天)で開催されたエンジニアのための社内向け勉強会「Tech Workshop」(2020年10月26日実施)に登壇し、IPv6の最新情報について講演を行いました。講演の様子や楽天社内の取り組みなどを、西塚さんご本人にレポートしていただきます!
楽天エンジニアのためのグローバルな勉強会「Tech Workshop」
私はインターネット技術の標準化団体IETF(Internet Engineering Task Force)で国際標準化活動を行っています。その活動を通じて知り合った楽天のエンジニアにお声掛けいただき、楽天社内で定期的に開催されているエンジニア向け勉強会「Tech Workshop」で、IPv6をテーマに講演しました。
Tech Workshopへの登壇は、昨年に引き続いて2回目です。前回は二子玉川にある楽天クリムゾンハウス(本社)から、インドやヨーロッパなど多拠点を中継して実施されました。今回は新型コロナウイルス感染症対策のため、リモート登壇に。参加者の9割は世界各地にある海外支社のエンジニアで、資料の発表や質疑応答は英語で行いました。
サービス・データセンターのIPv6化を推進する楽天
今回、IPv6をテーマに依頼された背景には、楽天のIPv6導入への注力があります。注力している領域は主に2つ。
(1)アプリケーション/WebサービスのIPv6化
(2)データセンター/ネットワークのIPv6化
IPv4アドレスの枯渇により、複数人で1つのIPv4アドレスを共有する方式が世界的に一般的になりつつあります。日本も例外ではなく、IPv4 over IPv6サービスの多くはIPv4アドレス共有型で提供されています。コンテンツ事業者からすると、アドレス共有によってコンシューマーのIPv4接続品質が平均的に悪化するため、IPv4からIPv6へ移行するインセンティブがあります。とはいえ、アプリケーション/Webエンジニアは何から着手すればよいか、分かりにくいのも事実。講演では、IPv6の仕様や現状について、基礎的なところから丁寧に説明しました。
次に、データセンターのIPv6化は範囲が非常に広いのですが、具体的に2つの取り組みを行っています。
(3)「IPv6 unnumbered」と呼ばれるIPv6のアドレス自動設定仕様を利用したゼロタッチプロビジョニング
(4)データセンター内におけるIPv4アドレス枯渇に対応するためのIPv6 onlyインフラ化
(3)はすでに利用可能ですが、IPv6の仕様を理解していないとどのように通信を行っているのか理解しづらいため、噛み砕いて基礎的な説明を行いました。(4)については今すぐ実現できないものの、近づきつつある課題と聞いています。従来はIPv4プライベートアドレスを使ってサーバーインフラを構築しているそうですが、規模が大きくなるとIPv4プライベートアドレスすら枯渇してしまうのが、現在の大規模コンテンツ事業者の実情です。
サーバーインフラのIPv6化は簡単ではなく、ミドルウエアの対応や、運用ツール類・手順の改修も必要となるため、オペレーションコストの増加を招きます。サーバーインフラのIPv6化によって必要となるかもしれないNAT64技術についても講演で説明しました。NAT64については、JANOG46で発表した「誰でも使えるサーバーサイド Open NAT64実証実験報告(Open NAT64 Experience Report)」の内容を再利用しました。
エンジニアたちの活発に学ぶ姿勢が刺激に
ご存知の通り、楽天では社内公用語が英語です。昨年本社で講演した際も、オフィスには母語が日本語以外のエンジニアが多い印象を受けました。一説によると、世界で英語が話せる人口は15億人といわれています。日本語が話せる人の数よりも圧倒的にパイが大きいため、優秀な人材を集める戦略として英語の社内公用語化は正しいと思います。
講演は質疑応答込みで90分と長めでしたが、発表中も疑問があればその場でチャットし、すぐに解決するスタイルはグローバルなスピード感を感じました。質問内容も、講演内容を理解した上でさらに掘り下げる「良い質問」が非常に多く、優秀な生徒たちを目の前にした先生のような高揚感がありました。
Tech Workshopへの登壇を通じて、楽天のエンジニアたちが活発に学ぶ様子を目の当たりにし、私自身も非常に刺激を受けました。今後もエンジニアに向けて、社内外問わず、IPv6やデータの利活用について情報発信していきたいと考えています。
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