NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)と、英国ロンドンに本社を置く日本法人Blue Prism株式会社(以下、Blue Prism社)は2020年10月、デジタルワーカーサービスでの協業を発表した。今後は年度内にサービス提供を開始し、幅広い分野においてデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)を強く推進していく。同サービスの強みや、協業を通じた今後の展開などについて両社の担当者に語っていただいた。
<お話を伺った方々>
- Blue Prism社:パートナー営業本部 本部長代理 大崎正嗣さん
- NTTリミテッド・ジャパン:ICTインフラサービス部クラウドサービス部門 古田あやかさん
- NTT Com:プラットフォームサービス本部データプラットフォームサービス部 関百合恵さん
将来はNTT Comならではのデジタルワーカーを提供へ
デジタルワーカーとは、パソコン上での単純作業を自動化するRPA(Robotic Process Automation)の機能をベースに、画像からの情報抽出やAIによる文章理解、人とコミュニケーションするチャットボットなどのインテリジェントな機能を加えたもの。RPAよりも高度で複雑な業務を自動化できる。例えば、デジタルワーカーの稼働状況を学習し、稼働の平準化、最大化を自動制御するようなことも可能だ。
Blue Prism社のパートナー営業本部 本部長代理を務める大崎正嗣さんによれば、こなせる業務の高度化に加えて、投資対効果の高さもデジタルワーカーの強みという。
「従来は自動化といえば、従業員が使うパソコンにインストールするRDA(Robotic Desktop Automation)が主流でした。従業員がパソコンを使わない時間に、そのユーザーの認証情報を用いて、その人の業務の一部を代行するような形です。これに対してクラウド型のRPAでは、端末の空き時間に限定されることなく、複数の従業員のさまざまな自動化業務を次々に実行可能です。RPAにAIを組み込んだデジタルワーカーなら、さらに多様な業務を人間に代わって行えるので、稼働率が上がり、投資対効果も高くなります」
DXを推進するNTT Comとしても、デジタルワーカーはいち早く提供したいプロダクトだ。NTTリミテッド・ジャパンの古田あやかさんは「RDAやRPAの市場は、世界でも国内でも急速に拡大しています。2020年は新型コロナウイルス感染症の広がりを受けて、多くの企業でリモートワークや働き方改革の検討が加速したこともあり、業務を効率化できるRPAやデジタルワーカーのニーズがより高まりました。デジタルワーカーは、NTT Comが提供するSmart Data Platform(以下、SDPF)においても重要な要素になるはずです」と話す。
今後は、年度内にSDPFにおいて、デジタルワーカーの開発・運用プラットフォームを提供する予定だ。これは、Blue Prism社のSaaS型デジタルワーカー「Blue Prism Cloud」(以下、BPC)を再販する事業モデルである。
さらに将来は、BPCをベースに「COTOHA®」や「corevo®」などNTTグループの技術を投入したデジタルワーカーをNTT Comで開発し、デジタルワーカー自体を販売するモデルも検討する。テクノロジーとの連携のみならず、NTT Comで手掛けているITサービスの運用やシステムマネジメントなどのノウハウを習得させるなどして、NTT Comならではのデジタルワーカーを作製できる見込みだ。
プラットフォームサービス本部データプラットフォームサービス部の関百合恵さんは、年度内のサービスインに関して次のように語る。
「社内でまず推し進めるべきは、営業のマインドやスキルセットの準備だと思っています。現在RDAやRPAをご利用中のお客さまの業務プロセスに、デジタルワーカーがどう貢献できるのかを営業担当者がしっかり理解することが、Go To Marketに効いてくるはずです。一方で、どのようなサービスモデルであればNTT Comのお客さまに響くのか、営業からサービス企画へもフィードバックを受けながら、サービスを作っていきたいと思います」
協業の決め手は技術的な親和性とビジョンの一致
Blue Prism社は、RPAやデジタルワーカーに早くから注力してきた。同社は2001年の設立で、創業時のビジネスは、金融グループの英Barclays社にRDAを提供するものだった。その後、2005年にはRPAの提供を始め、「RPAの元祖」として市場をリードしてきた。顧客は世界で2500社以上、年間売上高は日本円に換算して約140億円(2019年実績)、従業員は約1200人だ。2017年に日本法人を設立し、2020年11月から日本市場でもBPCの提供を始めた。
「デジタルワーカーを提供するための技術要素に関し、当社は一日の長があります。例えば、クラウド上で多様な業務を次々にこなすデジタルワーカーを実現するには、さまざまなツールやデータを利用するための多くの認証情報の管理など、特有の技術が必要です。既にRDAの路線から完全に撤退し、デジタルワーカーに特化している当社は、そうした技術面で他社より優位だと言えます」(大崎さん)
NTT Comがデジタルワーカーサービスを提供するパートナーにBlue Prism社を選んだ理由は、このような技術的な強みのほかに2つある。
「一つは、Beyond RPAの世界をつくろうというビジョンを、Blue Prism社と共有できたこと。もう一つは、BPCとNTT Comが提供している各サービスの親和性が高いことです。クラウドサーバー側とお客さま側をつなぐ閉域網のアーキテクチャーなど、BPCに求められるテクノロジーをNTT Comは得意としているので、強固なパートナーシップを確立できると考えました」(古田さん)
Blue Prism社にとっても、この親和性、相補性は協業の決め手になったという。大崎さんは次のように説明する。
「NTT Comは日本発のグローバルなプラットフォーマーであり、BPCに不可欠なネットワークのプロバイダーです。かつ、BPCのクラウド基盤である『Microsoft Azure』のデリバリーを手掛けておられます。グループでRPAの『WinActor』を提供されていて、RPAを熟知されている点も頼もしい。グローバルでは当社とNTTデータやディメンションデータ(現 NTT Com DD)などNTT Comグループの各社が既に協業していることもあり、日本市場のパートナーはNTT Com以外に考えられませんでした。また、DXを加速させる技術領域において、COTOHA®などの新しいテクノロジーを生み出してきた研究開発力や、DXの推進、スマート社会の実現に対する熱意にも感銘を受けました」
聞けば、両社のミーティングで次回までの課題を設定すると、NTT Com側は毎回必ず期限を守ってクリアしたという。担当部門のスピード感を持った取り組み姿勢を通じて、NTT ComのDXやスマート化への熱意が伝わっていたようだ。
多岐にわたるデジタルワーカーの使い道、社内でも引き合い多数
グローバルでは既にデジタルワーカーの導入事例が生まれている。例えば、英国のある病院では、入力したデータを複数システムに登録する業務をデジタルワーカーで自動化している。新型コロナウイルス感染症のPCR検査の結果などを現場の担当者がスマートフォンから一度入力すれば、デジタルワーカーがデータを成型し、院内の各システムに反映させる仕組みだ。
病院では予約業務にデジタルワーカーを導入した例もある。予約の3日前になると、患者にメールやチャットなどで、受診の意向(キャンセルがないかどうか)を確認。キャンセルが出た場合は、受診すべきタイミングが近づいている他の患者に受診を勧めて空きを極力なくし、病院の稼働率の維持・向上に努める。
NTT Comでもさまざまな分野でのユースケースを想定している。関さんによれば「入力されたデータの前さばきなどは、デジタルワーカーを使って自動化しやすい部分。自動化・効率化によるメリットも大きいはずです」とのことだ。
「例えば、コールセンターの初期対応。問い合わせやクレームの電話をデジタルワーカーが受け、緊急度を判断して優先順位を決めた上で担当者にエスカレーションする仕組みが作れます。デジタルワーカーには、電話の内容はもちろん、お客さまの声のトーンなども加味した判断が可能です」
同様に、運用・保守部門の夜間業務をデジタルワーカーに任せて、異常があれば初期対応はデジタルワーカーが行い、3つ目や4つ目のステップから人手を介在させるような仕組みも考えられる。
「実現すれば、日勤帯だけ人が働くという新しいシフト体制が生まれ、働き方が大きく変わると思います。また、ITオペレーションに特化したデジタルワーカーを開発できれば、お客さまへ運用プロセスを自動化するデジタルワーカーを提供することも可能になります」(関さん)
デジタルワーカーサービスは、Blue Prism社との協業発表を控えて社内に周知していた2020年秋ごろから、社内やグループ内で注目の的だった。古田さんいわく「新しいサービスやソリューションをこれまでにもいくつか発表してきましたが、今回は過去最多レベルの問い合わせや具体的な引き合いがありました」。こうした引き合いのいくつかは既に案件として動き出しており、2月ごろをめどに実装を予定しているものもある。
Blue Prism社としても、NTT Comグループでの導入に期待を寄せている。「NTTグループに、ぜひ日本のBPCユーザーのお手本になってもらえたらと思います。海外に目を向ければ米Amazon.comや米Uber Technologiesが業務の自動化で先行していますが、BPC導入で社内業務のDXや従業員の働き方改革が進み、NTTが変わればGAFAにさえインパクトを与えられるのではないでしょうか。広範な市場への戦略的なデリバリーを準備中のNTT Comの皆さまにもBPCをご利用いただき、デジタルワーカーの価値をご実感いただければ、営業に説得力が増す意味でもありがたいと思います」(大崎さん)
Blue Prism社メッセージ「人を幸せにする意識で」
最後に、Blue Prism社の大崎さんから、NTT Comグループの皆さんに向けてメッセージを頂いた。
「人材派遣のように、外国語に堪能であったり、業務アプリケーションの操作に長けていたりするデジタルワーカーを企業に派遣する未来がきっと訪れます。そのときには、NTT ComとBlue Prism社でデジタルワーカーの世界最大のエコシステムを築いていたい。
デジタルワーカーは業務効率化、コスト削減という文脈で語られがちですが、その先には従業員の幸せがあります。デジタルワーカーを導入し、人手による作業時間を短縮しながら企業としてのパフォーマンスを上げられれば、報酬は据え置きのまま週休3日制に移行することも夢ではありません。単にモノを売るという意識ではなく、世の中を変える、人を幸せにする気概を持って、NTT Comの皆さまと共にこの事業に取り組んでいきたいと思っています」