2021年09月16日

DX2.0の世界に挑む戦略とは? 大きなビジョンで“場”をつくれ
C4BASE STUDIO LIVE Season 2
~A step toward Smart World 第2回~

7月14日、2年目を迎えたNTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)C4BASE STUDIO LIVE の第2回が開催されました。今回のテーマは「共創成功の鍵はスケールフリーネットワーク」。株式会社東芝 執行役上席常務 最高デジタル責任者の島田 太郎氏をゲストにお招きし、サイバー・フィジカル・システム(CPS)戦略や現在進行形で手掛けていらっしゃる数々のデジタル事業、将来に描く大きなビジョンからSDGsに至るまで、大いに語っていただきました。その示唆に富んだウェビナーの模様をご紹介いたします。

オープニング

はじめに、C4BASE Managing Directorの戸松 正剛部門長が登場。C4BASEの新しい試みとして、オンラインではなかなか知る機会のない会員の皆さんの“横の情報”をシェアする「C4BASEリサーチ」を紹介しました。C4BASEリサーチでは、アンケートをもとに、業種、職種、新規事業における役割などの「属性」をグラフ化。約半数の方がDXや新規事業に関わっており、“新しいモノ・コトに対する価値観”や“DX・新規事業への意識”の高さなども知ることができます。また、C4BASEが共に新規事業にこぎ出す(航海)コミュニティーであることから、会員の方のビジネスにおける特性や役割を“船大工タイプ”“操舵手タイプ”など8種に分け楽しめるコンテンツの紹介もありました。

共創成功の鍵はスケールフリーネットワーク 島田 太郎氏 講演

島田氏は、ボーイング777の設計や飛行艇US-2の外形などを手掛けるなど、飛行機の設計からご自身のキャリアをスタートさせました。その後、同業務に関連したソフトウェアを扱う企業、米国Structural Dynamics Research Corporationに転職。同社がドイツ企業・シーメンスにより買収された後は、シーメンスPLMソフトウェア株式会社日本法人の社長、米国本社副社長などを歴任し、ドイツの製造業を根本から変革するインダストリー4.0にも尽力。帰国後、氏いわく「ちょっと変わったヤツだから」と誘われて東芝へ…と軽やかに自己紹介されました。

1.DX2.0、世界に挑む戦略とは

DX1.0と呼ばれるこれまでの約10年、覇者として君臨したのはGAFAに代表されるようなIT企業群でした。「その特徴は“スケールフリーネットワーク”を使って、プラットフォーム化しているということ。ところが、実はもうPCやスマホからのデータ取得は限界に達しようとしています」と島田氏は言います。

オンラインでモノを買うEC化率は20%にとどまり、約8割の情報はつながらないままでハードウェアの中に埋もれている。そこでサイバーとフィジカルが結びつく場をつくることができれば、過去10年20年で米国や中国に起こったことを、今度は日本から起こすことができるのではないか、と熱く語ります。

これからの20年は、サイバーとフィジカルが融合する世界「DX 2.0」。そこで、今東芝が進めているのが「CPS戦略」である、と島田氏は説明します。CPSとは実世界(フィジカル)におけるデータを取集し、サイバー世界でデジタル技術などを用いて分析し、活用しやすい情報や知識にして、さらにそれをフィジカル側にフィードバックをすることで、付加価値を創造する仕組み。島田氏によれば、その実現に必要なステップは「理解」→「施行」→「展開」であり、東芝ではすでに本格展開の段階に入っているとのこと。

東芝のDXの定義は、共創する「プラットフォーマー」になることであり、CPSテクノロジーカンパニーになるためには、DXだけでなくデジタルエボリューション(DE)も必要だと強調。目指すのは、既存のバリューチェーンをデジタル化することにより効率化するDEと、プラットフォーマーを目指すDXの両方を推進して成長する企業であるとし、DEからDXへの進化の段階とタイミング、手段が重要だと説きました。

2.イノベーションを生み出す「スケールフリーネットワーク」

では、プラットフォームに必要な仕組みである「スケールフリーネットワーク」とは具体的に何でしょうか? 島田氏は次のように説明しました。

「エコシステムもそうですが、自然界も世の中も予測不可能なカオスにより形成され変化していくものであり、予測不可能でかつ偏りのあるものです。例えば、Web上のリンクを可視化したグラフは正規分布ではなく、“ベキ乗の分布”になります。つまり、多数のリンクを持つごく少数のサイトと、ほとんどリンクのない大多数のサイトで構成されています。このような、人間の行動の特徴を示すようなモデルを、スケールフリーネットワークと呼びます。

さらに、このスケールフリーネットワークが形成されると起こるのが“パーコレーション”、すなわちある一定の範囲で充填(じゅうてん)率が高まると一気に変化する、という現象です。これがネットの世界で起こりました。イノベーションは臨界点を超えると起こるのです」

では、このスケールフリーネットワークをつくるにはどうしたらいいか。島田氏は、アメリカのような巨額な投資も、ヨーロッパのようなデジュール化(標準化団体などをつくって拡大する)方式も、日本にそぐわないと考え「アセットオープン化方式」を提案しています。公開可能なアセットをオープンにし、誰でも使えるようにすることで、スケールフリーネットワークを構築する方式です。島田氏はIBMがAT互換機の仕様を公開した例を挙げ、こう述べました。

「これで他のパソコンメーカーが作った、同じ仕様を持つパソコンが店頭に並ぶことになりました。それは、共通な基盤を用意するための触媒をボーンと入れたようなもので、オープンコラボレーションです。オープンするところとクローズする場所をごちゃごちゃにせず、外に出せる技術をオープン化して、それを鍵にすればいいんです」

3.人のためになるデータ社会を目指して

次に島田氏は、CPS企業になるためには特定の人がDX・CPSに取り組んでも達成は不可能であり、みんなが自分事として捉えることが必要であると述べ、「教育目的も兼ねた社内ピッチ大会で出されたアイデアの中から投資規模が小さいテーマを中心に、2030年度に向けた事業の種を醸成中です」と東芝での取り組みを紹介しました。中でも、IoTをIFとTHENに分けてモジュールにし、その組み合わせによってソリューションが生まれる「ifLink(イフリンク)」は、オープン化することにより100社以上が参加する装置となっています(NTT Comも参加)。

また、レシート情報を電子化する「スマートレシート®」を紹介。流通横断で購買データを収集することを可能にし、さらには連携したAPIで、購買ランキング・売れ筋情報が数時間以内に取得できるサービスの提供も開始しています。これは、スマートシティモデルや地域イノベーションにもつながるといいます。島田氏は、今後導入店舗10万店を目指すとしながらも、あくまでデータは本人に権利があり、重要なのは「人のためになるデータ社会」。データがつながることにより「便利で豊かで安心な社会を目指す」と強調しました。

4.時代はQuantum Transformationへ

島田氏によれば、DX2.0のその先に広がるのは「量子の世界」。東芝はこの量子技術に関して長年の研究開発を行っており、特に量子暗号通信(QKD)は、競合他社に比べて通信速度で実に50倍、通信距離にして1.6倍以上という成果を出しているといいます。「この事業に関しては、2030年までに世界市場が1.4兆円まで拡大すると見込んでいます。結局安全な通信というのが必要なわけで、APIで呼び出せばすぐ使えるようなサービス化を目指しております」

さらに「これは、量子インターネットの世界の第一歩に過ぎない。量子の世界では、ほんのわずかな通信量で、重ね合わせ現象によって大量のデータや数百キロ離れた量子コンピューターのメモリーが、同時に更新される。そういうことが実現すれば、われわれの生活が根本から変わるだろうなということは想像が簡単にできると思います」と続け、それは遠い未来の話ではなく、すでに実用化に向けて動き出していると語りました。

5.優れた企業文化は戦略に勝る

「人間は、6カ月で体が入れ替わるといわれています。それは会社も同じです」と島田氏。「放っておけばエントロピーは常に増大し、何もしなければ、どんどんゴチャゴチャになっていく…。(生物学者の)福岡伸一先生のいう『動的平衡』です。福岡先生のお話で印象的なのは、つくるよりも、たくさん潰さないといけない、という点。この動的平衡の坂を駆け上っていくためには、常に改革は続けていかなくてはならないんです」

また「ただ、身体は入れ替わっても、神経のネットワークは維持され記憶として残ります。」と続け、それを会社に当てはめると「戦略」だと言いつつも、ピーター・ドラッガーの言葉“Culture eats strategy for breakfast.”を引用し、「戦略そのものよりも大事なものは、文化である」と説きました。

そして東芝グループ経営理念『人と、地球の、明日のために。』を挙げ、「こんなに美しい言葉ってあるのかな、と僕は思います。キレイなとか、素晴らしいとか、そういう言葉は一切無いのに、言いたいことが伝わる。これを、われわれの文化の中心に置いて、すべての事業を行っていきたいと考えております」と静かに語って、講演を締めくくりました。

クロストーク

島田氏と戸松部門長とのクロストークでは、講演では聞けなかった島田氏のアドバイスやメッセージも多く語られ、熱を帯びた有意義な時間となりました。


1.「DXの人材不足」はどのように対応するか

戸松部門長: 前回実施したイベントアンケートの「DXについての悩み」で最も多かった「必要なスキルを持った人材が不足している」についてぜひアドバイスいただきたいのですが。

島田氏: まず戦略や、何がやりたいのかということを考えましょう。適切な人材がいないなら、他の場所から連れてくることもできます。自分たちの強みと弱みを知り、手段を徹底的に考えないといけません。

戸松部門長: 他に気になるものはありますか?

島田氏: まず「アイデアの創出」。これは自分たちでだけやろうとすると難しいです。誰かと相談する、外に聞きに行く、ということをまず試してみましょう。「適切なパートナーが不在」という悩みも、自分の周りを超えた外を見ることが大事だと思います。
それから「事業損益を悪化させる」という“悩み”を持っているということは、いいことだと思います。悩みを持つまで考えているということは、何かアイデアがあるということですよね。ここで大切なのは、マネーフローを考えることです。お客さまからお金を全部取ろうと考えたら、だいたいカニバリゼーションして成り立たない。だから自分たちの仕事の範囲を変える、違うところからマネーフローを呼び込むなど、視野を広げて考えてみるべきです。

2.「新たな世の中をつくる」ために

戸松部門長: 島田さんとお話しさせていただいて、常に「社会性」ということを感じます。社会的インパクトが大きいものは当然難易度が高いですが、ある世界観を実現しようとしたときには、時間がかかってもやるべし、ということもあると思います。そこはどう判断されているのですか。

島田氏: これからの世の中、市場や事業が伸びるか伸びないかです。投資家や経営者が常に見ていることです。伸びるものは赤字でも、投資する。
ただ最終的に『人と、地球の、明日のために。』なるのかならないのか、考える必要がある。『人と、地球の、明日のために。』を考えずに、もうかるから取り組む、というのは絶対にダメなんです。新たな世の中をつくる、ということにおいて、法律を遵守するのは当然ですが、それ以上に共通の認識をつくることが重要です。その点において、今われわれが主張している個人プライバシーの考え方は、世界最先端。GDPR(General Data Protection Regulation:EU一般データ保護規則)にも適合し、かつ民主主義の社会においてアクセプトできる唯一の方法だと思っています。

3.「give & give & give」という原点

戸松部門長: 最後に、ESGとかSDGsについて、どのように捉えられているのか。島田さんの思想の背景にあるものについてお話を伺えればと思います。

島田氏: 私の父親は酒屋で「セコいのはアカン」といつも言っていたんです。要するに、世の中を回していくフローが大切であって、自分だけが利益を得ようと思ってはいけないよ、ということだと思っています。お互いに与え合う、“give & give & give”の精神で世の中に貢献するような会社となり、結果として存在意義が大きくなっていくのだと思います。
NTTグループさんと東芝は、社会インフラに携わる会社ですから、ものすごく感覚は似ていると思います。事業を通じてSDGsというものを達成しなければならない。私にとっては、このデータっていうものは、SDGs(17の目標)の18番目なんです。データのプラットフォームをつくることでSDGsへの達成に貢献できると思っています。

戸松部門長: 最後、島田さんの生き方にも通じるお言葉をいただけて、ちょっと染みましたね。ありがとうございました。

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<参加者の声>

アンケート結果(PDF:114KB)

ウェビナー後に寄せられたアンケートでは、前回同様9割以上の方が大変有意義だった、有意義だったと回答。中から一部抜粋してご紹介します。


非常に迫力のあるお話でした。日本の誇る技術の宝の山、東芝を世界最高のCPS企業へと引き続き牽(けん)引していただきたいです!

島田さんの社会へのメッセージ、熱量を、改めて感じました。GAFAではまねできない日本式アセットオープン化でスケールフリーの世界をどう実現していくのか、少し理解が深まったように感じます。

日本企業は自社のたたき上げ社員が役員になることが多く、いまだに社内政治が重要です。そんな中で本日の講演は響きました。エントロピーは増大する。壊す。与え続ける。大事ですね。

泥臭い企業に勤める同年代の者としては、最先端を走られる方のお話は大変刺激的でした。今どき大抵のことはデジタルでできるのだから、何ができるかではなく、何をどうしたいのかを考えろ、といつも部下に言っていますが、そういう私が何も思い付かないので、恥ずかしいかぎりです。とりあえずDEかOAかはともかく、できることから始めていきたいと思います。

社会のためにという観点は、より一層考えていきたいと思いました。人とつながり、より大きいことを考えていく必要があると思いました。

ビジネスとテクニカルの両面で、貴重な実例や理論や思考をご提示、ご説明いただき、大変有意義な知識をご提供いただきました。が、島田氏のビジネス、思考、行動の原動力であろうと推察される哲学を明言されたことが一番印象に残っております。真意とはズレた解釈かと恐縮しますが、‟Culture(人の行動・理念)eat strategy(理論・技術)”なのだと感じました。

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社員メッセンジャー

NTTコミュニケーションズビジネスソリューション本部 事業推進部

穐利 理沙

2021年10月に立ち上げたOPEN HUB運営を担当しています。お客さまと新しい意味あるものを生み出すため、オウンドメディアによる情報発信、Webinarや会員コミュニティーによる共創プロジェクトの推進を行っています。ご興味ある方は、ぜひコンタクトをしてください!

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