2022年6月にデジタル田園都市国家構想の推進事業に採択された、京都府のけいはんなサステナブルスマートシティプロジェクト。舞台となるけいはんな学研都市(正式名称:関西文化学術研究都市)は、京都、大阪、奈良にまたがる緑豊かなサイエンスシティで、総面積は約1万5000ha。12の文化学術研究地区があり、150を超える研究施設、文化施設などが立地する。その一方で、高齢化による移動困難者の増加や高いマイカー依存など、複合的な課題が顕在化している地域でもある。
けいはんな学研都市でサステナブルスマートシティ事業を展開
京都府は、こうした地域の課題解決に向けて、デジタル技術やビッグデータを活用した新たなICTサービスなどを導入していく考えだ。
京都府 文化学術研究都市推進課の籾井隆宏さんによると、主要事業は2つある。
「1つは、『スマートライフ事業』。住民にスマートウォッチを使ってもらって、計測したバイタルデータに応じて個人に最適化された健康情報を配信したり、健康ポイントを付与することで行動変容を促し、健康増進と消費促進を図ります。もう1つは、『まちなかプラットフォーム事業』です。デジタルサイネージを域内に複数台設置してインフラとして利用します。スマートライフ事業とも連携し、スマートウォッチを着けた住民がサイネージに近寄ると、スマートウォッチが持つデータに応じたコンテンツをサイネージに表示させるといった一体運用も行います」
参加企業には、ヘルステック・ベンチャーのミツフジ、BLEビーコンとWi-Fiセンサーを一体化したデバイス(AIビーコン)を手掛けるアドインテといった企業などが名を連ねる。その中でNTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)は、データ連携基盤「Smart Data Platform for City」(以下、SDPF for City)の提供と運営・保守を担っている。
京都府とNTT Com、京都リサーチパークでのスマート街区実証などで関係構築
地域の課題解決のためICTサービスを社会実装するという全国に先駆けたプロジェクトに参加できることは、Smart Worldの実現をめざすNTT Comにとってまたとないチャンスだ。関西支社の伊藤大樹主査は、プロジェクトでの取り組みを次のように語る。
「現在、京都府と直接やり取りしながら、自治体や住民、ステークホルダーのニーズや課題をくんでソリューションに反映しています。価値のあるサービスを提供していくには、とても大切なやり取りであり、身の引き締まる思いです」
なぜ京都府は、データ利活用のパートナーにNTT Comを選んだのか。籾井さんは「2年前からさまざまな実証事業などに参画いただき、コミュニケーションの積み上げができていた点が大きい」と説明する。
京都府は2018年に、スマートシティの実現を目的に、オープンイノベーションを促す「京都ビッグデータ活用プラットフォーム」を開設した。160を超える産官学の多様なプレーヤーが集まり、いくつものワーキンググループに分かれ活動している。その中でNTT Comは2020年に、京都リサーチパークの敷地内を実証フィールドとする「スマート街区ワーキング」に参加。後にSDPF for Cityとなるデータ連携基盤を提供して、センサーで取得した情報をサイネージに表示させるなど、スマートシティの縮図のような実証を街区レベルで行った。
その後も京都府の実証事業に数多く参画。政府のスーパーシティ構想に応募する際は、約60社のプロジェクトメンバーにも名を連ねた。
「スーパーシティ構想の推進事業には採択されませんでしたが、数々の実証や検討を重ねて練り上げてきた本提案を何らかの方法で実現したいと考えていました。ちょうどその時に、デジタル田園都市国家構想推進事業の公募が始まったんです。検討を進めるにあたって、スーパーシティなどで既に提案いただいていたNTT Comにデータ連携基盤の活用方法について相談させていただきました。京都府のさまざまなプロジェクトで連携実績があり、府の取り組みや地域の課題をよくご理解いただいていたのもお声掛けした理由です」(籾井さん)
“共助モデル”で人口減少時代の住民生活を豊かに持続可能に
データ連携基盤を構築して納めた後もプロジェクトは続く。京都府にとっても、NTT Comにとっても、むしろこれからが本番だ。
籾井さんは「運用フェーズでもベンダーに伴走してもらい、基盤に乗せるサービスを一緒に検討したりしながら、共助モデルの構築に力を貸してもらいたい」と企業との連携に期待を寄せる。
共助モデルとは、住民サービスなどの利用者が利用料を支払って、サービスやシステムの運用コストをまかなっていく仕組みをいう。人口が減り、税収も減る中、行政による公助だけでは支えきれなくなった住民サービスを持続可能にする有効な手法として注目が高まっている。今回のプロジェクトで共助モデルが導入されれば、都市経営の面においても全国に先駆けた事例になる。
関西支社の神崎担当課長は、京都府における共助の仕組みを次のように解説する。
「地方の市区町村は、DXやスマート化で地域の課題を解決したいという考えはあっても、成果が未知数のものに大きな投資はできないという悩みを抱えています。そこで、京都府のような広域自治体が国の支援も取り付けながら初期投資をし、データ利活用のための基盤を築いて基礎自治体に提供する。ランニングコストは、基盤を利用するサービス事業者からの利用料で一部まかなっていく計画です」
受益者負担は、ユーザーが利益を実感できてこそ成り立つものだ。伊藤主査は「今後は、市民生活の利便性を高めるようなデータ連携のユースケースを1つでも2つでもつくっていくことが重要です。住民が不便を感じているのはどんな部分か、自治体としっかり連携して課題の解決に取り組んでいきたいと思います」と意気込む。
データ連携基盤を軸に、さまざまなICTサービスの提供事業者と共創しビジネスを構築していけるのは、NTT Comならではの強みだと言える。観光・交通分野でいうMaaSのように、複数のICTサービスがつながることで、市民生活がより便利で優しいものになる日がやってくるはずだ。
NTTドコモのスマートライフ事業の強みを生かしたサービス提案も
プロジェクトの今後に対する考えを、神崎担当課長、伊藤主査、そして京都府の籾井さんに語ってもらった。
「京都府とのプロジェクトはここからがスタートです。NTTドコモとも連携しながら、市民生活に価値を生むアプリケーションも提案し、市民へのよりよいサービスの提供につなげていきたいと思います。さらに、精華町や木津川市だけでなく、周辺の自治体にもデータ連携基盤を利用してもらえるよう支援していきます」(伊藤主査)
「当社は2022年7月の法人事業統合により、自治体とのコンタクトチャネルが増えました。京都府との取り組みの成果を全国の自治体との共創でも生かしながら、京都府の産業振興につなげるとともに、Well-Beingで持続的な社会の実現にも貢献したいと思います」(神崎担当課長)
「行政が進めるデジタル化やスマートシティはまだまだこれからです。特にデータ連携基盤を含むデータ活用は、今後検討が加速する領域であるため、庁内外を問わず、理解を得るのが難しいのが本音です。不得意なところをサポートしてもらえるという意味でも、NTT Comは大切なパートナーだと思っています。
『データ連携基盤ができました!』ではピンとこない人も、『マイナンバーカードでこんなことができます、こんな風に使えます!(実はデータ連携基盤で実現できます)』なら、その価値を理解してもらえます。今後は、府内市町村が住民向けに提供するサービスを、このデータ連携基盤で支援し、データを使った新しいビジネスの創出も促すとともに、地域の課題解決にも貢献できればと思っています」(籾井さん)
古都京都から発信される先進的な街づくりプロジェクトがどのような成果を生み出していくのか、今後に注目したい。