2021年09月16日

“活躍の場”は自分でつくる
喜連航平さんがチャレンジするセルフマネジメントを伝えるという道

今、企業・組織の在り方、一人ひとりの働き方があらためて根底から問い直されています。自分の生き方やキャリアについて、次の一歩をどう選び、進んでいけばいいのか――。本記事では、NTTコミュニケーションズ シャイニングアークス東京ベイ浦安(以下、シャイニングアークス)の選手としてプレーする傍ら、NTTコム エンジニアリング(以下、NTTコムエンジ)の人事育成担当として新入社員にセルフマネジメントを伝えている喜連航平さんの取り組みを通じて、自分らしく働くためのヒントを探してみたいと思います。

喜連 航平(きれ こうへい)

喜連 航平(きれ こうへい)

1995年、兵庫県伊丹市生まれ。4歳でラグビーと出会い、学生時代から司令塔(スタンドオフ)として全国大会優勝などを経験。2018年、NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)に入社(シャイニングアークス入団)し、グローバル事業推進部に所属。翌年、NTTコム エンジニアリング株式会社(以下、NTTコム エンジニアリング) 事業推進部 ヒューマンリソース部門へ異動し、人事育成を担当している。シャイニングアークスでは、選手会長、日本ラグビーフットボール選手会 理事も務める。

ありのままの自分で仕事ができることを大切に 新入社員に指南

2021年6月23日、NTTコムエンジの新人研修で、喜連さんは「セルフマネジメント」をテーマに講師を務めました。

「自分を知ることが、セルフマネジメントの始まりです。将来どうなっていきたいか、これからどんなふうにキャリアを築いていくか。それを知っているか否かで差が出てきます。周りの人が考える活躍ではなく、ありのままの自分で仕事ができることを大切にしてほしい」

6月に実施したセルフマネジメント研修(中央が喜連さん)

6月に実施したセルフマネジメント研修(中央が喜連さん)

目的と情熱をどのように成功に結び付けていけばいいのか、自分を押さえつけるのではなくコントロールするスキルをいかに身に付けていくか。自己対話→自己分析→行動→自己承認→習慣化のプロセスや、why・how・whatの3つの円で構成されるゴールデンサークル理論、自分の強みや弱みと向き合うSWOT分析など、大学で学んだ経営学の知識も交えながら、実際にシートに書き込んでもらったり、フィードバックを挟んだり、ワークをふんだんに取り入れた研修となりました。

上司である辻出幸担当課長は、喜連さんが講師を務めることになった経緯をこう説明します。

NTTコムエンジ 事業推進部人事部育成担当 辻出担当課長

NTTコムエンジ 事業推進部人事部育成担当 辻出担当課長

「去年からのコロナ禍で、従来通りの新人研修が実現できなくなり、社員からリモートワークで孤独を感じるという声も上がっていました。現場で新入社員をどうサポートするかいろいろ話し合う中で、より身近にコミュニケーションを取りながら学び合い、支えていけるメンター制度を取り入れることにしたんです。

喜連さんがセルフマネジメントについて知見を持っていることは知っていました。それを新人研修にも大いに生かしてもらえると感じていましたので、まずはメンター研修で、若手社員にインプットしてもらいました」

メンターを対象にした研修は2021年5月に実施。そこで喜連さんは、セルフマネジメントの考え方、どういったアドバイスやフィードバックを新入社員にしてあげる必要があるのかを伝えました。

ラグビーと歩んできた道、成長の軌跡

では、なぜ入社4年目の喜連さんが、セルフマネジメントを社内のメンバーに伝えられるほど知見を得るに至ったのでしょうか。生い立ちから現在まで、ラグビーと共に歩んできた道のりについて、お話を伺いました。

ラグビーとの出会い きっかけはマジック?!

ラグビーを始めたのは4歳です。幼稚園にマジックを見せに来てくれる面白いおじいちゃんがいて「このマジックのタネが分からないならラグビーをやれ」、と。僕は足が速かったせいか、何度も熱心にスカウトされました。みんなと一緒にマジックに夢中になるうち、いつの間にかジャージを着て走っていたという感じです。そのおじいちゃんが、後に僕が入ることになる「伊丹ラグビースクール」の創始者・垂 優(たれ まさる)先生です。先生は「仲間を大切にしなさい」「自分で考えて突き進みなさい」ということを繰り返し教えてくれました。それは、今でも僕の原点となっています。

ラグビーを始めた幼少期の喜連さん

ラグビーを始めた幼少期の喜連さん

中学3年までそのラグビースクールに通い、全国大会で準優勝を経験しました。周りのメンバーも優秀で、当時一緒にプレーした幼なじみには、サントリー、トヨタ、神戸製鋼などトップリーグの各チームで活躍する仲間が何人もいます。僕は身体が小さかったので、そういった中でも試合に出て活躍するにはどうしたらいいのかを考え、もがいていました……。今思えばそういう体験も、セルフマネジメントを学んでいくことにつながっていたのかもしれません。

ケガを乗り越え結果を出してきた学生時代

高校は、大阪桐蔭に進みラグビーを続けました。当時はまだあまり強いチームではなく、僕は司令塔として、小さい頃から学んできたチームプレーの教えを仲間たちに伝えたりしていました。そういったことが実を結び始めて、結果も付いてくるようになり、主将も任されました。優秀なメンバーにも恵まれて、3年生の春には初めて全国優勝を果たしたんです。

ただ、花園優勝を目指そう、と臨んだ最後の冬の大会の初戦で、ケガをしてしまいます。前十字じん帯断裂、半月板損傷でした。みんなに迷惑をかけることになり不甲斐ない気持ちでしたが、チームのみんなが僕に23番*を付けて、試合に出してくれました。

その後、近畿大学でもラグビーを続けましたが、リハビリ生活はしばらく続きました。ノウハウもない中でのリハビリは思うようにいかず、周りを気にしてしまうし、置いていかれる怖さも感じましたね。なんとか1年後に復帰し、最初に臨んだ試合では、関西学生ラグビーの雄・同志社大学に勝利。その後、幾つかの代表にも呼ばれましたし、3年生、そして、キャプテンとして臨んだ4年生の時には関西代表にもなりました。

近畿大学ラグビー部時代

結果に恵まれ、これまでもがいてきたことは無駄じゃなかったとうれしかった。もっとチャレンジがしたい、もっとラグビーに集中したい。大学卒業後は、プロとしてラグビーを続けるつもりでいましたが、まさかのハプニングが起こります。大学最後の試合で、味方のガッツポーズが僕のアゴにクリーンヒット! それで脳震とうを起こしてしまったんです。当時はすでにシャイニングアークスの練習にも参加させてもらっていましたが、紆余曲折あり、プロとしてではなく会社員として入団することになりました。自分にとっては、まったく予期していない流れでした。

* 出場メンバーに登録できるのは先発15人とリザーブ(控え)8人の合計23人。23番は試合に出場できる最後のメンバーということ。

ラグビーで活躍できない自分を受け入れる苦しさ

NTT Comに入社して、正直、面食らいました。自分がラグビーをやってきたのとは違う世界で、バリバリやってきた優秀な人たちに囲まれたからです。それでも、なにかしら吸収できる環境は楽しかった。社会人選手であることを受け入れて、会社員としても、ラグビー選手としても、一生懸命やっていこうと練習に打ち込んでいた矢先、またケガに襲われます。高校の時と同じカ所でした。

それまで、悩みもケガも乗り越えられたし、会社員としても頑張っていこうと思えたはずでしたが、その時は、どうしていいか分からなくなってしまいました。学生時代は、四六時中ラグビー仲間と一緒に過ごせますが、職場ではそうはいかない。2カ月、3カ月、4カ月……と時間が経つにつれて、チームから忘れ去られていくような感覚が膨らんでいき、どんどん追い込まれてしまったのです。とうとうリハビリにも前向きに取り組めなくなってしまった。そんな時、声を掛けてくれたのが、小沼さんでした。

キャリアディレクター 小沼健太郎さん(サポーターズ倶楽部 スペシャルインタビューより)

セルフマネジメントとの出会い

シャイニングアークスの選手たちのメンタルやキャリア形成をサポートしているのがキャリアディレクターの小沼健太郎さんです。自分の気持ちを聞いてもらったりアドバイスをもらったりする中で、セルフマネジメントについての理論的なことをいろいろ教えてもらうようになりました。あぁこれはずっと自分が欲しいと思っていた内容だ、とすぐに感じましたね。中学、高校、大学……と、試行錯誤を重ねてきましたが、こういうことを早くから知っていたら、自分はもっと変われただろうし、ラグビー人生もまた違ったものになっていたかもしれない。それが、セルフマネジメントとの出会いだったんです。

一番学んだことは、自分を操るよりも、まず「自分を知ること」。夢とか目標の理由です。なぜアスリートでいたいのか――。僕の場合は、スポーツによって人にワクワクや感動を届けたい。恩師のマジックで感じたあのワクワクを、スポーツを通じて誰かに感じてもらいたいと思っています。また、「今の現実を受け止めること」も学びました。現実と向き合うのはしんどいですが、しっかりと理解することで今を超えていける。セルフマネジメントを学ぶことで、自分の中で混沌としていたものが少しずつ整理されていく感覚がありました。

こうした経験が会社でも役立つかもしれないと初めて感じたのが、NTTコムエンジで参加させてもらった内定者の方たちとの少人数対話会です。参加者の皆さんに「夢は何ですか」と聞いた時、自分の言葉で伝えてくれる人はほとんどいませんでした。みんなが同じような言葉で夢を語っている。それが、ただ「試合に勝ちたい」とだけ言っている選手のように見えてしまったんです。これは決して悪いことではないのですが、そのままでは、いずれ僕のように行き詰ってしまう。ありのままの自分で仕事をすることは難しいかもしれない。だから、自分と向き合い、自分の夢を自分の言葉で語る機会を提供することで、もっとイキイキできる環境、自分らしく働ける場を、一緒につくっていけたらと思ったんです。

実務的なスキルを身に付けたり、キャリアを積んでいく上で、セルフマネジメントは武器になるし原動力にもなります。先に行けば行くほど、差が出てくる。周りの人からの承認やフィードバックもすごく大事なので、メンターの方たちにもセルフマネジメントについて知ってもらいたいし、そういう仕組みづくりもしていきたいですね。

後輩たちにやってあげたいことは、いろいろ考えています。いずれは、みんなをグラウンドに呼んで、ラグビーに触れてもらったり、簡単なゲームを取り入れたりしながら、フィードバックするチームビルディング研修も実現できたらと思っています。

スタッフがつくってくれる「シャイニングアークス」という環境

選手としても去年、ようやく復帰できました。これまで、自分がどういうふうにチームに貢献できるのかを、必死で考えてきました。アークスが掲げる2つの「V」のうち、試合に勝利する「Victory」で力が出せない間は、「Value」の方で役に立ちたい。そう思いながら続けてきたチャレンジが、ラガーマンとしても、会社の一員としても、突き進んでいく原動力になっています。新人研修もその活動の一つ。先日は、チームの拠点・浦安市にある明海大学で、特別授業もさせてもらいました。

明海大学での特別授業の様子

アークスというチームの環境は、特別です。チームを挙げて社会貢献活動に力を入れているだけでなく、内山浩文GMをはじめ運営の方たちが、すごく選手たちの自主性を大事にしてくれるのです。子どもたちや地域の人たちのために何ができるかを、僕らが自由に企画し、運営も任せてもらえる。だから、会社以外のいろいろな方たちとの交流が多く、インプットや経験を増やして、それをチームや会社に還元していけるのです。それは、ホンマに感謝していますね。

続く挑戦の道 アスリートとしての経験を会社員として生かす

ラガーマンはメンタルが弱いって知っていますか? 勝敗のプレッシャー、激しいレギュラー争いなど、大きなストレスに常にさらされる中で、自分や自分の置かれた環境と向き合う機会も多い。だからこそ、語れることがある。ビジネスとは違う角度からアドバイスできることがあるんじゃないかと思います。

僕らラグビー選手が「会社」や「社会」に対してできることは、これからも、自分たちで切り開いていかなければなりません。健康相談とか、メンタルケアもその一つ。自分が経験したことを、何か良いことにつなげられるって、幸せなことだと思っています。

***

インタビュー中、「周りに恵まれていたので」という言葉を、何度も繰り返し話していた喜連さん。行き詰っている時でも、常に周囲で支えてくれる人たちのことを意識し、感謝の気持ちを持ち続けるというのは、なかなかできることではありません。「自分なんてまだまだです」と笑いながら、力強くこれからを語る姿は、とても頼もしく見えました。自分らしく働くことへのヒント。それは、私たち自身のこれまでの歩みの中にあるのかもしれません。

社員メッセンジャー

NTTコミュニケーションズヒューマンリソース部

石神 勝

シャイニングアークスで2020年からビジネスデザイン担当をしています。チームと会社、地域社会とのつながりを広げ、またスポーツ×ICTの可能性を探ってまいります。今後のシャイニングアークスの活動にご期待ください!

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