NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)グループには、日々の業務を精力的にこなしながら、さまざまな活動をしている人たちがいます。
今回は、浄土宗の僧侶であり、神社仏閣の文化を広める活動をしている関西支社の河村英昌さんにお話を伺いました。
大学時代に僧侶に、就活の軸は“先端技術”
河村さんは京都・伏見で800年続く浄土宗の大光寺に生まれた。住職であるお父さんがお経をあげるのを、まだ文字も読めない頃から隣に座って聞いていた。「記憶力がいいうちに聞かせてもらって良かった」と今では感謝している。
河村さんはお寺に育ち、お寺が当たり前の生活をしてきたが、小学校・中学校・高校とさまざまな同級生と話をする中で、いかにお寺が身近でない存在なのか、興味を持ちづらい存在なのかがよく分かったという。
大学では2年生から浄土宗の修行を始めて、3年生の冬、知恩院で受戒(じゅかい)した(僧侶になった)。修行は3週間、お寺にこもってお経を読み、浄土宗の教えについて自ら語れる域まで学ぶというもの。それを5回繰り返す。
就職活動には坊主頭で臨んだ。志望先は「IT技術や先端技術を持った会社」が中心。「お寺の界隈はIT化が遅れていて、当時(2015年ごろ)は私がうちのお寺のホームページを作っただけでも驚かれるぐらいでした。これはまずいと思って、先端技術に接する仕事をしようと思いました」(河村さん)。インターンも経験して、株式会社NTTドコモに就職が決まった。
お寺のことも神社のことも発信したい!
キャリアは鳥取支店でスタートした。かねて思い描いていた“お寺やお坊さんのことを発信する活動”をいよいよ始める。具体的には、僧侶である自分が「京都検定」や「神社検定」に挑戦する様子をブログでレポートするというもの。
「当時はお坊さんの発信というと、法話を紹介するものが多く、いわばアウトプット型がほとんどでした。それなら私は“インプット型のお坊さん”として認知されるようになりたいと思いました」
浄土宗の僧侶が神社検定を受けるのも、かなりユニークな試みだ。
「京都検定の勉強をする中で、京都には非公開でも素晴らしいお寺や神社がたくさんあることを知り、神社に興味が湧いたんです。勉強してみると実に面白くて、仏教と神道が支え合う関係にあることが理解できました」
いわゆる神仏習合の思想は平安末期から盛んに。仏様が民衆を救うために神様に姿を変えて現れるという考え方(本地垂迹・ほんじすいじゃく)で説かれてきた。
「目に見えるところでいえば、寺院の灯籠が左右対称に配置されるようになったのは神社の狛犬を倣ったものですし、逆に、神社で現在のような形で御朱印が押印されるようになったのは寺院の影響です。日本の仏教と神道はお互いの文化のいいところを取り入れながら発展してきた。日本の仏教にとって神道は欠かせないものだと私は思います」
会社経営やアニメコラボなど、夢をぐいぐい実現
そこで、仏教や寺院のことだけでなく、神道や神社のことも伝える動画配信活動を始めた。これがやがて「神社仏閣オンライン」というプラットフォームに発展。2020年6月には株式会社神社仏閣オンラインを立ち上げた。
「お寺や神社がみんなにとって身近なものになって、社会にいい形でつながっていくこと。それが目標です」
活動の柱は4つ。1つは、創業前から続けている動画配信。住職や神職に河村さんがインタビューした動画をYouTubeで配信している。
2つ目は企業と仏教・神道のコラボ事業。例えば、アニメのキャラクターがあしらわれたお守りやおみくじなどを制作し、全国の指定の寺院で販売した。
「私はアニメが大好きで、テレビアニメは毎クール10~15本ほど追いかけます。私ぐらいの年代の人がお寺や神社に訪れてくれるのかなと想像していましたが、意外と中高生が親御さんと一緒に参拝に来てくれたりしました。『この御朱印帳ってどう使うの』『それはね』という感じで、親子で会話が弾んでいる光景がまたうれしかったですね」
3つ目は旅行会社とのコラボで、神社仏閣と絡めたツアーを企画・プロデュースすること。例えば、宮大工に神社仏閣の建物の造りを解説してもらえるツアーなどが実際に提供された。最近は官公庁の補助金で、お寺で弟子入り体験をする「Deshi-Iriツアー」をつくっている。
そして4つ目は寺院や神社、一般企業向けの広告代理店事業だ。
大学時代、経営学に関する授業が楽しかったから、自分も会社を起こしてみたいと思っていた。その夢が今、叶っている。兼業許可申請をして承認を受けた。兼業で大企業とのコラボを経験したおかげで、本業の営業先でも物おじせずに話せるようになったと感じている。
「好きな経営ができて、ありがたいですし、楽しいです。リスクを取って初期投資をしてから回収する事業も中にはあるので、実は心臓がバクバクしていたりしますが(笑)、そのおかげもあって、自分が会社(NTT Com)で上長やお客さまに何か提案するとき、これって費用対効果はどうなんだと、経営者目線でシビアに評価できるようになりました」
「お寺ってユルいんですね」と言われてうれしかった
活動の中で難しかったのは、「浄土宗の僧侶である自分が、他の宗派の僧侶や神主に話を聞くこと」だったそう。そこにはやはり一定のハードルがある。そもそも当初、神職の知り合いは1人もいなかった。
「お寺や神社の垣根を越えて活動している人を探して仲良くなり、その方に神主さんを紹介してもらって取材し、その神主さんからまたご紹介を受けて、と徐々に広げていきました。神社仏閣オンラインを名乗っていたけど、神社関連のコンテンツを最初にアップできたのは開設から約1年後でした」
取材したものをコンテンツに仕上げるときも工夫は必要だ。
「私の口から例えば真言宗の教えを説明するとおかしいので、自分はあくまでも聞き手に徹し、取材する方々の主張や信じていることについては、ご自身の言葉で語ってもらうようにしています。一つ一つ丁寧に扱って、教義の比較などは行いません。どちらかが正しそうに見えるとか、その逆があってはいけないので」
活動していて一番うれしく、かつ、よく言われる言葉は、「お寺って(神社って)結構ユルいんですね」というものだ。
「見くびられたとか、そんなふうには思いません。気軽にお寺や神社を訪ねてみてほしいと願っているので、“堅苦しくないもの” “自分たちが気楽に関わっていいもの”というイメージを持ってもらえるのは願ったりかなったりです。開宗以来、850年守られてきた教えなど、核の部分は決して変えてはいけないので、伝え方を変えて、みんなに届きやすくするのが私の仕事だと思っています」
子どもたちが神社仏閣を楽しく訪れてくれる日を夢見て
2022年度のNTTドコモグループ再編によりNTT Comに出向になった河村さん。現在は、自治体のお客さまに教育系のソリューションを提案している。出向するに当たって「教育系がやってみたい」と自ら志望した。
神社仏閣オンラインでも、子どもたちや若い世代に、仏教や神道の面白さを伝えることを、一つのテーマに掲げている。
「兼業では、お寺や神社にまつわる体験を組み込んだ修学旅行を手掛けたり、自分の会社で、小中学生に短期インターンをお願いすることもあります。オンラインでデータをやりとりして、ちょっとした作業を手伝ってもらうことが多いですが、先日は東寺さんへの取材に同行してもらいました」
現在、学生たちと作ったものの一つとして脱出ゲームアプリがある。『神仏DASH』という名前で、実際にあるお寺や神社を舞台にしての謎解きゲームだ。神社仏閣オンラインの取り組みは充実していく一方だ。
今日から使える禅語「好雪片片別処に落ちず」
せっかくなので“仕事や日常に取り入れたい仏教的な考え方”を、僧侶・英昌(えいしょう)さんに紹介してもらった。
好雪片片別処(こうせつへんぺんべっしょ)に落ちず
京都の禅寺の方に教わった言葉です。雪は、降るときは一粒ずつ小さくてバラバラで、何だろうと思ったりするけど、積もると白く平らな形に落ち着きます。人は日々いろんなことをしながら、未来がどうなるかは見通せない。今していることに意味があるのか不安になるけれど、最後はちゃんと何かにつながる――、そんな解釈ができます。過程のあがきはムダじゃないと信じていれば、目の前の仕事に対してモチベーションが上がりますよね。
最後に、この記事を読む皆さんへ、今度は河村英昌(ひであき)さんからメッセージ。
「私の話で皆さんの参考になることがあるとすれば、『複業』の部分でしょうか。いきなり副業を始めるのは難しく感じるかもしれませんが、まずは趣味や自分の関心事について発信してみることをお勧めします。
さらに、好きなものや得意なことを3つ掛け合わせると、独自性が高まってチャンスが訪れるかもしれません。その掛け算された個性を求める人から自然と声を掛けてくれる可能性もございます。気になることがあればお気軽にご相談ください」