生成AIの次はAIエージェントの時代?
2022年のChatGPTリリースを機に、国内外の企業におけるAI活用が本格化しています。総務省の調べによると、欧米などに比べて割合は低いものの、日本企業の4割以上が生成AIを活用する方針を固めているようです。この生成AIの進展を受けて、これからのAI活用は、より高度な問題解決能力と自律性を持つAIエージェントへ移行すると予測されています。AIエージェントとは、自律的に判断・行動し、与えられた目標を達成する人工知能システムのことです。コンテンツ生成・出力に特化した生成AIとは異なり、 AIエージェントは生成AIの出力を利用して、さらなるアクションを行う点が大きな違いです。
生成AIの活用方針策定状況
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調査会社マーケッツアンドマーケッツによると、世界におけるAIエージェントの市場規模は2024年から2030年までに9倍以上になると予測しています。AIエージェントの最大の特長は、人間が指示を出さなくても自ら目的を理解し、必要なタスクを考えて実行できることです。言語生成やデータ処理といった一部の用途に特化した生成AIに対し、より広範な業務での活用による効率化にAIエージェントは適しているため、さまざまな領域への拡大が期待されているのです。
これから進んでいく生成AIからAIエージェントへの移行は、より高度なAIシステムへの進化といえるでしょう。2023年、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツは「今後5年間で、一人ひとりが自分専用のAIエージェントを持つことになる。エージェントが耳元で頻繁に声をかけてきて、休暇の旅行先の決定から交友関係の管理まで、あらゆることを助けてくれる」とAIエージェントが実現する未来のイメージを語っています。間違いなく仕事や生活を取り巻く環境は一変するでしょう。AIがより実用的かつ幅広い応用分野で活躍する、すぐそこまで迫っている未来に向けて、押さえておきたいポイントを解説していきます。
具体的に生成AIとAIエージェントはどう違う?
生成AIとAIエージェントはどちらも同じAIのカテゴリーに含まれますが、先に述べたように生成AIの進化した姿がAIエージェントです。両者は似て非なるもので、その違いをまとめると以下のようになります。
生成AI | AIエージェント | |
---|---|---|
特長 | ユーザーからの指示で受動的にコンテンツを生成できる | ユーザーとのやりとりを通じて能動的に業務を自動化できる |
用途 | 文章や画像、動画、音声などのコンテンツ生成に限定される | データ分析、意思決定の支援など多岐にわたる用途で活用できる |
運用方法 | ユーザーからの指示が必要 | 自律型のため細かな指示は不要 |
活用例 | ChatGPT、Gemini、Claude、DALL-E など | カスタマーサポート、自動運転、チャットボット、音声アシスタント など |
それぞれ得意領域があるため、生成AIとAIエージェントを組み合わせることで、問題の発見から解決までのスピードや効率性・柔軟性を向上させるといった取り組みが進んでいく可能性もあるでしょう。
AIエージェントの仕組みと拡大する活用領域
AIエージェントは「知覚」「推論」「行動」「学習」という4つのステップで自律的、能動的に思考して行動します。
ステップ1の「知覚」では、テキストや音声、映像・画像など構造化・非構造化を問わずデータを収集し、目的達成のための現状を把握します。ステップ2の「推論」では、機械学習モデルを使用して収集したデータを分析、最適な行動プランを決めます。ステップ3の「行動」では、推論で決めた行動プランをもとに必要なアクションを実行します。具体的には顧客からの問い合わせ対応、リクエストの処理、複雑な問題を人間にエスカレーションするなどです。そして最後のステップ4の「学習」では、継続的な学習によりアルゴリズムを改良して精度と有効性を向上させます。この継続的な学習機能により、AIエージェントの業務処理は高度化されていきます。まるで人間のアシスタントのように、働くほどスキルアップしていくわけです。
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AIエージェントには、タスクや環境に最適化されたいくつかの種類があります。それぞれの特長を活用例と合わせて紹介します。
①反射エージェント
もっともシンプルな仕組みのAIエージェントです。事前に定義された条件と行動のルールにもとづいて動作する単純反射エージェント、過去の経験(データ)をもとに現在の状況に応じた判断や行動を行うモデルベース反射エージェントがあります。前者はチャットボット、後者は動画配信サービスのレコメンド機能などに利用されています。
②目標ベースエージェント
特定の目標を達成するために予測と推理を行い、最適な方法を選択して行動してくれるAIエージェントです。現在の行動から導かれる将来的な結果を予測して意思決定を行うため、より柔軟なアプローチができます。倉庫内で最適なルートを選択するシステムなどに活用されます。
③効用ベースエージェント
単純な目標達成だけでなく、複数の選択肢からもっとも成果のある行動を選択してくれるAIエージェントです。成果の最大化に向けた判断と行動ができる特長を活かし、収益の最大化を追求するとともに、リスクも考慮して最適な投資判断を行うトレーディングボットなどに採用されています。
④学習エージェント
経験から学んで自己改善を行い、利用を重ねるほどにパフォーマンスが向上していくAIエージェントです。プログラムされたルールに依存せず、自己発見的なプロセスで最適な行動パターンを導き出す強化学習ができる特長を活かし、将棋やチェスといった対戦型ゲームのAIプレイヤーなどに実装されています。
そのほかにも、AIエージェントの活用領域は以下のようなものがあります。
- ITサポート:パスワードの再設定やVPN接続時のトラブル対応など
- カスタマーサポート:よくある質問への回答やトラブルシューティング、返金処理など
- 営業・マーケティング:顧客の行動や購入履歴の分析による適切なタイミングでの提案など
- 人事:履歴書のスクリーニング、面接のスケジュール調整、従業員のパフォーマンス追跡など
- サプライチェーン管理:在庫レベルの監視、配送ルートの最適化、需要予測など
- 生産現場:生産ラインの最適化、設備の故障や生産停止のリスク減少など
- BCP対策:ユーザー位置の効率的な割り出し、自然災害発生時の人命救助など
- ヘルスケア:予約管理や病気・ケガに関する質疑応答など
- 自動運転:障害物の識別、他の車両や歩行者の動向解析など
このように、AIエージェントは国内外さまざまな領域での活用が広がりつつあります。最近では複数のAIエージェントを連携させる取り組みも進んでおり、異なる専門性を持つAIエージェントの連携により、さらに複雑な問題解決や高度な意思決定が可能になっていくでしょう。AIエージェントを進化させた次世代AIシステムの登場も間近かもしれません。
AIエージェント実装の一歩を踏み出すために
2025年に国民の5人に1人が後期高齢者(75歳以上)の超高齢化社会を迎えた「2025年問題」などの影響で、人材不足に陥っている企業にとって、AIエージェントの導入はビジネス飛躍の鍵になり得るメリットを生みます。さまざまな業務を自動化・効率化することで、人件費の削減に加えて見落としや勘違いから生じていた人的ミスの削減、24時間365日のフルタイム業務の実現、従業員の特性や好みに合わせたサポートといったこともできるようになるでしょう。
とはいえ、AIエージェントを実装するためには正確なデータ処理と定期的なデータの追加、プライバシー保護とセキュリティ対策、IT人材の確保といった事前の準備や検討が必要となるため、さすがに一足飛びでは難しいかもしれません。
将来的なAIエージェント活用を見据え、ビジネスでさまざまなAIサービスを導入して使い方に慣れておくことも重要です。
ドコモビジネスでは、チャットボットや音声通話サービス、セキュリティ関連サービスなど、AIを活用したさまざまなサービスをラインナップしています。さらに生成AI/GPU向け高発熱サーバーに対応したデータセンターも運用しており、AIに精通したプロフェッショナルがお客さまの経営課題を解決するDX化のご提案を行っています。
AIはすでに人間と同じように、目標に対して必要なプロセスを洗い出して自ら実行できるまで進化しており、人とともにAIが働く未来がすぐそこまで迫ってきています。また、AGI(汎用型AI)、ASI(超知能AI)といって人間を凌駕するAIも近い将来実現しようとしています。AIをはじめとした先進技術はもちろん、身近なDXからでもお気軽にドコモビジネスにご相談ください。
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用語解説:AGI(汎用型AI) / ASI(超知能AI)とは
AI(Artificial Intelligence、人工知能)は、人間に近い知的活動を行う人工的な仕組みを指し、一般的にはその役割を果たすコンピュータープログラムを指します。AIには、従来型のAIに加え、AGI(汎用型AI)、ASI(超知能AI)があるのはご存知でしょうか。今回は、AIの進化や、それぞれの違いについて説明します。