既成概念にとらわれない銀行業務の変革を
20年12月に創業100周年を迎える横浜銀行。ブランドスローガンとして「Afresh あなたに、あたらしく。」を掲げ、既成概念にとらわれない、新たな銀行の姿を目指している。
最新の中期経営計画(19〜21年度)においては、基本方針の一つに「デジタル技術の活用と利便性・生産性の向上」を掲げ、他業態とのサービス融合も視野に入れながら、従来の金融サービスの進化にとどまらない、新たなビジネスモデル構築へ向けた方向性が示された。
そんな横浜銀行が、デジタル化への推進部署として19年4月に新設したのがデジタル戦略部だ。デジタル戦略部 戦略企画グループ グループ長の小糠純氏は、その役割について、このように語る。
「私たちのミッションは、『店頭・業務・オペレーション改革』『決済・キャッシュレス改革』『AI/フィンテック・デジタル技術を活用した新たなビジネスモデル』の3つを柱としています。これらの取り組みによって、ネット経済の伸長に対応できるデジタルトランスフォーメーションを実現させたいと考えています」(小糠氏)
店頭・業務・オペレーション改革といった背景を受けて、横浜銀行は最初のアクションとして19年3月に住所・電話番号変更手続きをWebページ上で完結できる仕組みを導入した。従来からインターネットバンキングを介した住所変更の手続きは可能だったが、インターネットバンキングの契約がなくても手続きが可能になった。
インターネット調査を手掛けるマイボイスコムが、20年1月1日から5日に実施した調査によると、国内金融機関におけるインターネットバンキングの利用率は63.9%と決して高くない。さらに、「口座情報の照会・明細の確認」「振り込み・送金」が、利用するサービスの8割前後を占めており、いまだ住所変更などの手続きの多くが銀行の店舗で行われている状況がうかがえる。
さらに19年2月に全国銀行協会が公開した「よりよい銀行づくりのためのアンケート(報告書)」を見ると、インターネットバンキングを利用しない理由のトップは「インターネットで取引することにセキュリティ面で不安を感じるから」というものだった。そこに「必要性を感じないから」「申し込み手続きが煩雑そうで面倒だから」「パスワードなどの設定が面倒だから」といった理由が続く。
こうした調査から見えてくるのは、オンライン上で銀行の手続きを行ってもらうには、セキュリティは当然ながら、手続きが簡潔であることも求められるということだ。小糠氏は、店舗でもインターネットバンキングでもない、「Webページからの手続き」を新たに導入した背景についてこのように説明する。
「住所変更や電話番号変更などの諸手続きの大半は店舗の窓口で取り扱っていますが、銀行の窓口は平日の日中しか開いていないため、お仕事をされている方は手続きをしにくいという課題がありました。そこで、来店しなくてもWebページ経由で簡潔に済ませられるようにしたいと考えたのです」(小糠氏)
事前登録なくアクセスできるWebページを、住所や電話番号の変更手続きの入口にすれば、顧客の利便性が高まるとともに、銀行業務の効率化にもつながる。しかし、横浜銀行が住所変更手続きのオンライン化を進めるにあたって、一つのハードルがあったという。それが、本人確認の問題だ。
スマートフォンが実現する、最高レベルの本人確認
住所変更などの手続きをオンラインで完結させるうえでは、IDやパスワード、生体認証などにより「通信先が本当にその人本人なのか」の確認が必要だ。
小糠氏は、「一般的に採用されているログインID・パスワードによる認証では、記憶のみに依存するものですから、セキュリティ面に不安がありました」と明かす。ログインID・パスワードを知っていれば、本人ではない第三者による“なりすまし”の可能性も考えられる。そのような問題を解決すべく横浜銀行が19年12月に導入したのが、ドコモが提供する「本人確認アシストAPI」だった。
本人確認アシストAPIは、ドコモが携帯電話回線の契約時に本人確認した氏名や住所、生年月日、携帯電話番号などの情報を、導入企業と連携し、本人確認を迅速・低コストに実現させるものだ。
ドコモの本人確認アシストAPIは、回線契約時に対面で公的身分証を使った、最高レベルの身元確認の情報を活用している。これにより、自己申告や公的身分証の郵送といった方法に比べて、より確からしさを担保できる。
さらに「本人であることの確からしさを確認する」という側面から見ると、本人確認アシストAPIは、複製できず世界に1枚しか存在しないSIMカードを「所持」し、「通信」ができる状態であり、加えて暗証番号などの「知識」による認証を経て、初めてサービスを利用できる。複数要素により携帯電話契約者(通信の相手方=取引の相手方)の確認をすることで高いセキュリティを実現している。
これはオフラインの世界では、銀行のATMと同じ論理だ。キャッシュカードを「所持」し、暗証番号などの「知識」による多要素を使った認証を行っている。今回横浜銀行が利用したのもこの方法だ。一般的なIDとパスワードに依拠する方式よりも、高いレベルで本人であることを特定することができるといえる。
「当行では犯罪収益移転防止法により、ドコモさまでは携帯電話不正利用防止法により、それぞれが厳密な身元確認を行っています。この両者の情報を結びつければ、より確かな身元確認が可能となります。さらに、本人確認アシストAPIを使えば、本人のデバイスからでなければ手続きを行うことができないので、なりすましリスクは低くセキュリティは十分と判断しました」(小糠氏)
完全オンライン完結を実現し、人的コストを解消
一方、デジタル戦略部 戦略企画グループ 副調査役の大塚涼太氏は、コストや業務効率化の側面から、本人確認アシストAPIに期待した点を説明する。
「当行では、Webでの住所変更手続きの仕組み自体は、19年3月にリリースしていました。ただ、Webから手続きをいただいた情報をもとに電話をかけ、お申し出内容の確認と本人確認を実施していたため、2〜3日程度時間がかかっていました」
「また、専門のオペレータを複数名配置していましたが、申込件数は毎月変動する一方、人件費は一定で発生するので、非効率な部分がありました。その点、本人確認アシストAPIは認証回数に対する従量課金制で、申込み件数に応じたコスト体系になっているので、無駄がありません」(大塚氏)
デジタル技術を用いた本人確認の方法は複数存在する。身元確認であれば公的身分証の画像をアップロードしてもらう、本人認証であればワンタイムパスワードや生体認証を用いる方法も考えられる。これらの方法と比較した場合の、本人確認アシストAPIのメリットはどうなのだろうか。
「複数の認証方式を導入すると、人によって違う認証方式を使うことになります。そのため管理コストが上がり、お客さまの利便性を損なうと考えられます。携帯電話回線は多くの方が利用しており、ドコモさまは日本人の半数近いシェアをお持ちですから、幅広いお客さまをカバーできるという意味でも本人確認アシストAPIを導入するメリットはあると思います」(小糠氏)
「住所変更は一生のうちに何度もあるものではありません。滅多にない住所や電話番号の変更をするためだけにアプリをインストールしていただいたり、ワンタイムパスワードカードなどをお渡ししたりすると、利便性が損なわれてしまいます。本人確認アシストAPIであれば、専用のアプリを起動する必要はなく、手元のスマートフォンから利用でき、シームレスに当行のWebページからワンストップで完結できるので、導線としてもとてもスムーズです」(大塚氏)
銀行の外と連携し、新たな銀行の姿を描く
横浜銀行では、本人確認アシストAPIを導入してから、この認証方式により1日あたり30〜40件、月間で1000件、全体の2割超の住所・電話番号変更手続きがなされているという。導入後の効果について、大塚氏はこのように語る。
「Web上での住所・電話番号変更手続きの利用件数が増えるにつれ、オペレータの負担や人件費が課題としてあがってきました。本人確認アシストAPIを利用されるお客さまについては、セルフで完結していただいており当行への問い合わせもないので、Web上での手続きととても相性が良いといえます」(大塚氏)
ドコモのネットワーク暗証番号を入力するだけなので、ユーザー側も操作に慣れており、コールセンターへの問い合わせもない。また、新システム導入に対するQ&Aの作成やオペレータの教育なども不要なため、付随する追加のコストも発生しない。
新型コロナウイルスの世界的流行にともなって社会的に非対面取引へのニーズはいっそう高まっている。横浜銀行では住所・電話番号変更手続きのオンライン化に加えて、銀行業務の非対面化を推し進めている。今後の予定について、小糠氏はこのように締めくくった。
「横浜銀行では、住所・電話番号変更手続きを皮切りに、今後も非対面取引の拡充を進めていく予定です。氏名変更やキャッシュカードの新規発行・再発行、各種証明書の発行、解約手続きなど、本人確認さえ正確であれば、非対面取引にできるものは少なくありません。本人確認アシストAPIによりお客さまの利便性を高めながら、銀行業務の効率化も同時に進めていきたいですね」
「これまで、銀行の業務は基本的に組織の中に閉じて運営されていましたが、今回のドコモさまとの取り組みから、他の企業と組むことで、解決できることが広がることを実感しました。フィンテックなど、金融の各領域に素晴らしいソリューションを持つ企業がいらっしゃるわけですから、さらにこうした動きを広げていきたいと考えています」(小糠氏)
横浜銀行は、デジタルの力によって顧客体験を変え、新たな価値を創出しようとしている。人々の生活に欠かせない銀行のデジタルトランスフォーメーションが進み、社会生活がより向上することに期待したい。
サービス担当者の視点
横浜銀行さまに本人確認アシストAPIを採用いただけたことは、とても大きな出来事でした。
令和元年版情報通信白書によると、世帯のスマートフォンの保有率は79.2%と約8割の家庭でスマートフォンが利用されています。各企業さまが提供するオンラインサービスにおいても、デバイス別のアクセスでは、今後スマートフォンの割合が増えていくと想定される中、横浜銀行さまに取引相手を確認する手段としてドコモのサービスをご利用いただき、企業側では利用率の向上、事務稼働や問い合わせ稼働の削減、利用者側では完結までの手続き時間の短縮や認証の簡便さを評価いただけたことは、うれしい想いでいっぱいです。
新しい認証技術を導入する際は、セキュリティ面に重きを置きがちですが、すでに多数の方が実際に利用しているということも重要です。セキュアで、普段使いされている認証方法にご興味がありましたら、是非お問い合わせください。
転載元:ITmediaビジネスオンライン
※2020年7月16日掲載記事より転載
本記事はITmedia
ビジネスオンラインより許諾を得て一部改変し掲載しています