企業と顧客の情報伝達を、紙とデジタルのハイブリッドで支援
企業にとって、顧客とのコミュニケーションはビジネスの根幹だ。これまで、対面や電話、文書など、さまざまな方法でコミュニケーションが取られてきたが、技術革新や新型コロナウイルスの影響を受け、急速にデジタル化、非対面化が加速している。
そうした中、インフォメーション領域に強みを持ち、顧客企業の業務効率化や生産性向上をトータルサポートするトッパンフォームズは、アナログ・デジタルの双方向から新たな価値創出に取組んでいる。「デジタルハイブリッド企業」とうたう同社の取組みについて、企画販促統括本部 RCS推進本部 RCS推進部 推進グループマネージャーの三田貴之氏は、このように説明する。
「社名に『FORMS』(帳票)とあるように、トッパンフォームズは企業と顧客の情報伝達に使われる、申込書やダイレクトメール、利用明細などの印刷物を生業としてきました。しかし、ご承知のとおり今は多くの企業さまがデジタル化を進めています。紙にとらわれない情報伝達が求められており、我々も時代の変化に合わせなくてはならない。そこで、印刷物に代わる媒体としてみんなが持っているスマホを使った、企業と顧客の橋渡しに取組んでいます」(三田氏)
三田氏が在籍する部署「RCS推進部」は、2019年に新設された。部署名にある「RCS」とは「Rich Communication Services」の略語であり、「SMS(Short Message Service)」の拡張を目的としたメッセージングサービスの国際規格としても知られる。
日本では18年5月に、ドコモ、KDDI、ソフトバンクがRCS規格に準拠したサービス「+メッセージ」を提供開始している。同サービスにより、これら3社の携帯電話番号を持つ人同士で、最大全角2730文字のテキストや写真、動画、ファイルなどを送受信することが可能となった。
トッパンフォームズが20年6月30日にリリースした、共通手続きプラットフォーム「AIRPOST」は、+メッセージを基盤としている。AIRPOSTについては後ほど説明するが、そもそもなぜ+メッセージを基盤としたのだろうか? 企画販促統括本部 RCS推進本部 RCS推進部 企画グループマネージャーの長原優氏はこう語る。
「+メッセージは、回線契約時に本人確認が行われている携帯電話のSIMにひも付いています。さらに+メッセージには公式アカウントサービスがあり、審査を通過した企業のアカウントには認証済みマークが付くので、信頼感をもって、企業と顧客が情報伝達できます。これまで安全面や信頼性の面からSMSなどのメッセージサービスを使えなかった企業も、+メッセージならあんしんしてメッセージをやりとりできると思います」(長原氏)
「日本の手続きを、ひと続きに。」を実現させるAIRPOST
それでは、トッパンフォームズが手掛けるAIRPOSTとはどのようなサービスなのだろうか。長原氏は、AIRPOSTのコンセプト「日本の手続きを、ひと続きに。」と絡めて説明する。
「生活のなかで、住所変更や口座振替などさまざまな手続きに手間がかかることがあります。住所変更ひとつ取っても、いろいろな窓口やWebサイトなどで同じような手続きを行う必要があって、ひじょうに面倒です。このような問題を解決するため、AIRPOSTは、安全かつ手間なく、住所変更などの諸手続きを、スマホだけでワンストップで完結させようとしています」(長原氏)
たとえば、引っ越した際などは、電気ガス水道などのインフラをはじめ、自治体や各種金融機関などに引っ越しの手続きを行う必要がある。これをスマホからの変更操作で、“ひと続き”に変更できるようにしようというのが、AIRPOSTだ。
AIRPOSTを利用するには、まず+メッセージアプリを開き、公式アカウントからAIRPOSTを選び、届いたワンタイムURLをタップすると、AIRPOSTにアクセスできる仕組みだ。ここから、住所変更を行う場合は情報を更新したい企業を選択し、更新する情報の項目を選んで送信すれば、まとめて住所変更の手続きを完了できるという流れだ。
住所などの一括更新手続きは20年9月下旬以降のサービス提供が予定されているが、すでに、口座振替の申込みはAIRPOSTを通じて行うことができる。本人確認も含めてオンライン上で手続きが完結するため、口座振替手続きにつきものの申込用紙への手書き記入や印鑑は不要だ。
「AIRPOSTで引落とし口座を選択し、支払先の企業が発行したQRコードを読み取って必要事項を入力すると、口座振替の申込みが完了します。QRコードを生成する機能も当社が提供し、たとえばスポーツジムの入会受付のときにお客さまにQRコードを提示して、その場で口座振替の申込みをしてもらう、といった使い方ができます。いずれ、窓口に行かずともオンラインで口座振替の手続きを完結できるような仕組みも提供したいと考えています」(長原氏)
現在、AIRPOSTを使った口座振替登録のサービスを提供しているのは、三菱UFJ銀行と武蔵野銀行の2行だ。トッパンフォームズはAIRPOSTのサービス提供企業の拡大を進めており、今後、JCBや東京海上日動、ゆうちょ銀行などで、AIRPOSTを通じたさまざまな手続きが可能となる。
住所変更や口座振替といった手続きは、デジタル化が進む現代においても、印鑑や紙の用紙を使って行われることが一般的だ。これらの手続きを、AIRPOSTがオンラインで完結できる理由のひとつに、「本人確認」の仕組みを取り入れている点がある。AIRPOSTを使って金融機関などの企業と情報を連携する際は、運転免許証や利用者の顔を撮影する犯罪収益移転防止法が定めるeKYCを採用することで連携情報の信頼性を高めている。
さらに、企業は、自社が保有する情報と、AIRPOSTに登録されている情報をマッチングさせた上で本人確認を行えるため、より本人確認の確からしさが向上する。AIRPOSTの導入にあたって、専用端末やシステムの開発コストも必要ないため、住所変更や口座振替などの手続きにおける、新たなチャネルとして導入しやすい。
携帯3キャリアの橋渡しから生まれる新たな「本人確認支援サービス」
トッパンフォームズでは、AIRPOSTのほかにも「本人確認」に着目したソリューションを開発している。ドコモやKDDIなどの携帯キャリアの本人確認サービスを取りまとめて、本人確認をオンライン上でスムーズに行うサービス(以下「本人確認支援サービス」)だ。
「お客さまのデジタル化を進めることが我々RCS推進部のミッションであり、本人確認は重要な要素と考えています。現状は、企業ごとに郵送などで本人確認が行われているのが一般的ですが、この手間とコストがビジネスの阻害要因となっていると感じていたんです。
そこで、本人確認のソリューションを調べていたとき、ドコモがいち早く、『 本人確認アシストAPI 』を提供されていることを知りました。本人確認アシストAPIを使えば、多くの方が持つスマホを活用して本人確認ができるということで、非常にいいと思いました」(三田氏)
ドコモの本人確認アシストAPIは、ドコモが携帯電話回線の契約時などに、携帯電話不正利用防止法に準拠して本人確認した氏名や住所、生年月日、携帯電話番号などの情報を活用して、企業の本人確認を支援するサービスだ。本人確認アシストAPIを利用する企業は、オンライン上で迅速・低コストで本人確認業務を行えるようになる。
また、KDDIも本人確認を支援するサービスを提供しており、トッパンフォームズでは、これら携帯キャリアの本人確認サービスを取りまとめて企業に提供する本人確認支援サービスを開発している。
「本人確認を必要とする企業やユーザーの視点から考えると、カバーできる人数が多いほど便利ですよね。たとえば大手携帯キャリアのユーザーを合わせると、シェアからいって全体の約9割の本人確認をカバーできる計算です。運転免許証の保有率が約7割ということを踏まえても、非常に魅力的です。
そこで我々が橋渡し役となって、携帯キャリアの違いによらず、統一されたインターフェースで本人確認を行えるサービスを提供したいと考え、本人確認支援サービスの開発に至りました」(三田氏)
企業が扱う印刷物を手掛けてきたトッパンフォームズが、オンラインプラットフォームや本人確認のソリューションを開発する。これは一見して大胆な新規事業のように見える。この点について、三田氏はこのように答える。
「トッパンフォームズのイメージからいえば、不思議に感じられる方もいらっしゃるかもしれません。ただ、これまでも私たちは印刷物を提供するだけでなく、お客さまの業務効率化のために顧客接点を全方位的にサポートし、BPO(業務のアウトソーシング)も請け負ってきました。AIRPOSTも本人確認支援サービスも、お客さまが課題とする事務を効率化するという点では、これまで続けてきたことと同じですし、我々の強みを活かすことができます。だからこそ、我々がこれらの取組みを手掛ける意義があると考えています」(三田氏)
スマートな本人確認で、日本の手続きをワンストップに
20年6月30日に公開されたばかりのAIRPOST、そして今後リリースが予定されている本人確認支援サービス。2つのサービスは今後、どのような展開を見せるのだろうか。
「AIRPOSTの当面の予定としては、9月下旬以降に住所などの一括更新手続きの機能の提供を開始します。さらに将来的には、我々と連携いただける事業者や自治体を増やしていきたいですね。住所変更だけでなく、災害時の手続きや相続などの手続きもワンストップにしたいというニーズがあると思いますので、私たちと同じ方向性を持つ企業さまとも幅広く連携しながら、そうした課題解決をめざしたいです」(長原氏)
一方、ローンチに向けた準備が進められている本人確認支援サービスについては、今はAIRPOSTと異なるサービスとして位置づけられているが、今後は両者が連携する可能性もあると三田氏はいう。
「今のところ、AIRPOSTで行う本人確認は、運転免許証を使ったeKYCによる方法のみですが、ここに本人確認支援サービスを用いた選択肢が増える可能性が考えられます。デジタルサービスを展開するうえで、最もたいへんなのは本人確認ですから、ユーザーがあんしんでき、かつ手間のない方法を増やしたいですね」(三田氏)
運転免許証よりもスマートフォンの方が身近になっている今、これまで一般的だった「本人確認=運転免許証」という図式が崩れつつある。ドコモの本人確認アシストAPIなどを活用した本人確認支援サービスが貢献できる領域は、今後広がっていくだろう。最後に、トッパンフォームズがめざす未来について聞いた。
「新型コロナウイルスの影響から、非対面やペーパーレスへのニーズが高まっていることを感じます。このニーズに応えるにはユーザー目線で、企業や業界を横断してサービスを作る必要があります。その一翼をトッパンフォームズが担い、橋渡しのお手伝いをさせていただければと考えています」(三田氏)
本人確認の信頼性やユーザビリティの向上は、オンラインサービスの発展に直結する。トッパンフォームズが手掛けるソリューションが、日本のオンラインサービスにいかなる進歩をもたらすのか、これからの展開に注目したい。
サービス担当者の視点
令和元年の情報通信白書によると、18年における世帯の情報通信機器の保有状況は、「スマートフォン」は79.2%となり、「パソコン」(74.0%)を上回りました。スマートフォンは今、最も普及しており、企業と個人の接点として選ばれやすいデバイスと言えます。
また、オンラインサービスの増加とともに「なりすまし」も増えています。企業側は「なりすまし」の防止のため、ID/パスワード、ワンタイムパスワード、身分証明書の送付、郵送物の送付など、さまざまな手段で「本人だけのもの」を生成しますが、セキュリティが高いものほど、利用者に負荷がかかり、結果としてサービス自体の利用に至らないケースもあります。
本人確認アシストAPIは、ドコモのサービス(たとえばMy docomoなど)を使うときにご利用になる「dアカウント」や「暗証番号」を用いています。そのため利用者が新しく覚えたり設定をしたりする必要がないことが特徴で、導入企業さまにおける高い利用率につながっています。
オンラインでの本人確認を正確にできることで、今後も「AIRPOST」のような便利なサービスが生まれてほしい。また、簡単にできることで、利用者がもっと増えて、世の中が便利に変わってほしい。そのためにキャリアの本人確認済み情報を活用してほしいと思います。
「本人確認」をサービス利用の阻害要因にしない。トッパンフォームズさまの「本人確認支援サービス」やドコモの「本人確認アシストAPI」にご興味をいただけましたら、お気軽にお問い合わせください。