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2023年4月から給与デジタル払いが解禁!
専門家に聞く、導入の背景と
メリット・デメリット

2023年4月から給与デジタル払いが解禁!専門家に聞く、導入の背景とメリット・デメリット

2023年4月から、給与デジタル払いが解禁されます。その概要やメリット・デメリット、企業はどう対応すべきなのかについて、消費生活ジャーナリストの岩田昭男さんにお話を伺いました。

目次

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1.給与デジタル払いが解禁された背景や対象となる電子マネーは?

2023年4月より解禁される給与デジタル払いとは、銀行口座を介さずにバーコード決済などの資金移動業者のサービスを活用して給与を振り込めるサービスです。資金移動業者とは、銀行以外で現金ではない資金の移動サービスを提供する業者のことを指します。

2022年11月、厚生労働省は、給与デジタル払いの導入に関する労働基準法の改正省令を公布し、いよいよ今年4月から施行されます。まずは、給与支払いに対応した資金移動業者の申請と審査が開始します。

はじめに、給与のデジタル払いが進められている背景から、岩田さんに伺います。

消費生活ジャーナリスト 岩田 昭男氏
消費生活ジャーナリスト 岩田 昭男氏

「まず原則として給与は、労働基準法によって労働者に通貨で支払うことが定められています。そのうえで労働者との同意が得られた場合は、銀行振込が認められているのです。そこに今回、『○○ペイ』といったバーコード決済をはじめとする電子マネーでの給与支払いも追加されました。

その背景としては、電子マネーの普及にともない、給与の一部を電子マネーで受け取りたいというニーズに応えるため、銀行口座をもたない外国人労働者の雇用機会を増やすため、といった理由があると言われています。なにより、中国や韓国といったアジア圏などと比べ、まだまだ遅れている日本における電子マネーの普及を後押ししようという狙いが大きいでしょう」

とはいえ、今回のデジタル給与払い解禁に関しては、まだまだ不確定な要素が多いと岩田さんは言います。たとえば、実際にどのような電子マネーで給与の支払いが可能になるかはまだ決まっていません。

「デジタル給与払いの対象となる資金移動業者は4月から申請が始まり、審査を得て決定されます。今のところ、交通系電子マネー、流通系電子マネー、さらには後払い方式の電子マネーは対象外とされています。対象となるのは、QRコードやバーコードを使ってやり取りする資金移動業者による「コード決済」で、一度入金しても、また現金として出金できるものが対象です。そのうち携帯事業者が展開するサービスがどうなるかは、今のところまだ判明していません」

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2.給与デジタル払いによる企業・従業員にとってのメリットは?

未定な部分も多い給与デジタル払いですが、ここからは企業がデジタル給与払いを採用すること、またそれによる従業員のメリットについて岩田さんに伺います。

「企業にとっての一番のメリットは、給与振込のためのコストを抑えられることでしょう。バーコード決済をはじめとする『○○ペイ』といった資金移動業者のサービスは、銀行振込より入出金のコストがかからないためです。とくに日払いなどで大勢のアルバイトを雇っている会社などは振り込み件数も多いので、コスト削減効果は大きいと思います。

他にも、銀行口座を持たない外国人労働者の雇用機会が増える可能性もあります。また、給与デジタル払いの活用をうまくアピールすれば、デジタル化に積極的な会社、従業員の多様な要望に応える会社として、企業イメージの向上につなげることができるでしょう。

従業員側のメリットとしては、銀行口座から決済アプリにお金をチャージする手間が省ける、銀行口座から現金を引き出す手間や手数料が不要になる、といった点が考えられます。すでに電子マネーを利用してポイントを活用していて、使い慣れている人にとって魅力的ですね。さらに、『毎月の給与のうち10万円をデジタルで受け取る』、『ボーナスは銀行口座へ振り込んでもらう』、といったように振込み方法を指定できるので、家計管理がしやすくなることもメリットでしょう」

3.給与デジタル払いによる企業・従業員にとってのデメリットは?

このようなメリットがある給与のデジタル払いですが、デメリットもいくつかあります。それは、導入の手間やコストが増えることだと岩田さんは言います。

「今回、デジタル給与払いが解禁されたからといって、いきなり全社員の給与を全額電子マネーで支払うような企業はまずないでしょう。デジタル払いを導入するうえでは、これまでの銀行振り込みと併用するかたちになるはずです。デジタル給与払いをはじめるには、従業員の同意を得たり、電子マネー口座の情報を収集したりする必要があり、振込先が今までより増えます。よって、給与支払いのための手間は確実に増えます。既存のシステムと連携させるとなれば、そのためのコストも発生するでしょう。

従業員側にとっても、いくつかデメリットがあります。前述したように、基本的には現金として出金できるものが対象とされているため、自分が希望する電子マネーで給与を受け取ることができない場合があるでしょう。また、資金移動事業者の入金額の上限は100万円に制限されているため、口座残高が100万円を超えないよう、銀行口座などに資金を分けておく必要がある点にも注意したいです。

その他、セキュリティ面にもまだまだ不安があるのは事実です。資金移動事業者が経営破綻したり、電子マネーが不正利用されたりする恐れもゼロではありません。そのような際の補償も制度が整えられているようですが、スマホを失くしたり、盗まれたりして一時的に電子マネーが使えなくなる、といったリスクがあることは強く認識しておいたほうがよいでしょう」

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4.給与デジタル払いの普及によって、多様な人が多様な働き方ができる社会へ

以上が今年、解禁される給与デジタル払いの概要とメリット、デメリットです。
ちなみに従業員から電子マネーでの給与払いを求められたとしても、企業が必ずそれに対応しなくてはならない義務はありません。逆に従業員に給与デジタル払いでの受け取りを強制することは違法です。給与デジタル払いを導入する際には、従業員の同意を得たり、労使協定を締結したりしたうえで、就業規則の改定を行う必要があります。

「給与デジタル払いに関しては、4月から資金移動業者の申請がはじまるタイミングのため、具体的なサービスも未定です。よって、現段階でいつごろから企業で導入されるのか、といった明確な時期を提示することは難しいでしょう」

給与デジタル払いを利用できるようになるまでには、下記のような流れが必要になるそうです。

①資金移動業者からの申請

②指定資金移動業者の決定

③各企業、事業所にて労使協定の締結

④企業から従業員へ説明

⑤従業員から企業へ同意書の提出

⑥給与デジタル払いの開始

「利用できるようになるまでかなりの手間があるので、私は早くとも2024年度からのスタートになるのではないかと考えています。企業の担当者の方には、今後も情報収集を続けながら、タイミングを見計らって対応を検討していただきたいと思います。

ただし、社会全体でのDX化の大きな流れのなか、将来的に給与のデジタル払いが普及し、当たり前になっていくであろうことも確かです。デジタル給与が普及すれば、日払いや時間払い、前払いなど、支払いのタイミングも柔軟に運用できます。その結果、多様な人が多様な働き方ができる社会が実現します。今回のデジタル給与払い解禁は、そのための最初の一歩なのだと考えていますね」

●岩田 昭男氏プロフィール

岩田昭男

消費生活ジャーナリスト。1952年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。同大学院修士課程修了後、月刊誌記者などを経て独立。流通、情報通信、金融分野を中心に活動する。主力はクレジットカード&電子マネーの研究で、すでに30年間に渡って業界の定点観測をしている。ウェブサイト「岩田昭男の上級カード道場」のほか、YouTubeチャンネル「岩田昭男のキャッシュレス道場」を運営中。

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