高齢者雇用安定法の改正内容とは?
2013年、高齢者が能力発揮・活躍できる社会の必要性を予見し、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)」が施行されました。この法律では従業員の希望に応じて、定年後も雇用を継続する制度(継続雇用制度)の適用年齢を段階的に引き上げる経過措置が設けられていました。
その経過措置が終了し、2025年4月から「65歳までの雇用確保」が完全に義務化されます。これにより、高年齢者雇用安定法第9条第1項にもとづき、定年を65歳未満に定める企業は65歳までの安定した雇用を確保する措置を講じる必要があります。企業には3つの選択肢が用意され、いずれかへの対応が義務付けられます。
①65歳までの定年の引き上げ
②希望者全員の65歳までの継続雇用制度の導入
③定年制の廃止
あくまでも「65歳までの定年延長」が義務化されるわけではなく、継続雇用制度の変更も含み、「65歳まで雇用の機会を与える」義務化であることを理解しておきましょう。この改正に先駆け、2021年に施行された改正で「70歳までの就業機会の確保」などが努力義務になっており、これからも引き続き70歳までの定年延長、定年制の廃止などの実施に努める必要があります。
この法改正の背景には、少子高齢化が進む日本における労働力人口の減少があります。労働力人口とは、15歳以上の働いている就業者と働く意思を持つ完全失業者の合計数であり、国の経済力を示す指標の1つです。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構「2023 年度版 労働力需給の推計」によると、労働力人口は2022年の6,904万人から、2030年に6,556万人、2040年に6,002万人に減少すると見込まれています。これに対し、国や企業による経済・雇用政策の取り組みが進むことで成長分野の市場が拡大し、高齢者などの労働市場への参加が進展すれば、労働力人口は2030年に6,940万人と増加し、2040年には6,791万人と減少するものの、かなり減少幅を抑えられると試算されています。
※労働参加率:生産年齢人口(15歳~64歳の人口)に占める労働力人口(就業者+完全失業者)の割合
※出典:「2023 年度版 労働力需給の推計(速報)労働力需給モデルによるシミュレーション」
(独立行政法人 労働政策研究・研修機構)
つまり、これからは高齢者などにも労働市場に参加してもらい、労働力人口を底上げしていく継続的な取り組みが重要になってきます。とりわけ人生100年時代を迎えた今、まだまだ元気な高齢者は貴重な労働力といえるでしょう。
2022年の厚生労働省「就労条件総合調査結果の「定年制等」」によると、定年制を定めている企業は94.4%です。そのうち一律の定年制を定める企業において60歳定年は72.3%であるのに対し、65歳定年は21.1%にとどまっています。今回の法改正により、65歳定年の比重底上げが加速されていくでしょう。
海外の定年制度はどうなっている?
世界の定年年齢は国によりさまざまです。アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、 イギリスでは、年齢による差別を禁止する法律が成立しており、定年制度が原則的に禁止され、一定の職業を除いては制限しない仕組みになっています。ドイツやフランスは日本と似ており、年金支給が始まるタイミングと定年年齢を合わせるスタイルがとられています。アジア圏では韓国やタイ、マレーシアが60歳、シンガポールが62歳、フィリピンで65歳です。日本と同様、世界的にも年金支給年齢を引き上げる傾向があり、定年を後ろ倒しにして高年齢まで働くのが一般的になりつつあるようです。
2025年の4月までに企業が準備しておくこと
「65歳までの雇用確保」が完全義務化されることに向けて、企業側での見直しや取り組みが必要なことは少なくありません。人事部などの担当部署が準備を進めておきたいことは、大きく「就業規則の見直し」「賃金・労働条件の見直し」 「人材配置・支援体制の見直し」「継続雇用の意思確認及び申出書の準備」の4つです。順に解説します。
①就業規則の見直し
退職に関する決まりは就業規則への記載が義務化されています。法改正に応じて雇用継続制度・定年延長・定年制撤廃を導入する際には就業規則の変更・修正が必要です。「本人の希望があれば65歳まで継続雇用する」など、変更内容を就業規則に明記しましょう。加えて、労働基準監督署への届け出も必要になります。
②賃金・労働条件の見直し
雇用継続後や定年延長後の従業員には給与額、退職金の支払いタイミング、雇用形態、業務内容、時短・フレックス勤務日数など、さまざまな条件を見直す必要があります。継続雇用される本人だけでなく、一緒に働く他の従業員も納得できる内容にすることが重要です。すべての従業員が高いモチベーションで働ける内容にすることを心がけましょう。
③人材配置・支援体制の見直し
適材適所の人材配置などに配慮した労働環境の整備も必要です。さらに支援体制としては身体機能の低下、健康維持、生活習慣などに関する安全衛生研修はリスク低減・事故防止につながります。また、雇用継続前と違う仕事に従事する場合には業務研修の支援を行うなど、60歳以上の従業員がストレスなく、いきいきと働ける体制を築きましょう。
④継続雇用の意思確認及び申出書の準備
原則的に「希望者全員」が継続雇用制度の対象です。定年を間近に控えた従業員に継続雇用制度の内容、継続雇用後の処遇などの説明を行い、本人に継続雇用の意思を確認する必要があります。
これら一連の取り組みにおいて、もっとも重視したいのは対象となる従業員との合意形成に向けて時間を割くことです。親身になって新たな雇用制度の説明をすることはもちろん、役職が変わることで生じるストレスのケアを含め、本人の人生設計やライフスタイルにフィットする働き方を一緒に考えていく必要があります。
65歳までの雇用確保の完全義務化は、企業にさまざまなメリットを与えます。人材確保が困難な状況で「会社のことを深く理解する」労働者を確保できる、豊富な知識経験を持つシニアに若手育成やメンターなどの新しい役割を持たせることで生産性の維持・向上が図れる、いずれ高齢者になる若手・中堅従業員のモチベーションが向上できることなどです。一方で、人件費増加になってしまうことも意識しておく必要があります。人件費確保の手段として、厚生労働省の「65歳超雇用推進助成金」も活用できます。続いて、社内制度の見直し、環境整備を効率化するサービスについて解説します。
役職定年を廃止する日本企業が増えている?
世界でも定年制は存在しますが、役職定年の制度が広く普及しているのは日本だけかもしれません。1986年、高年齢者雇用安定法により、定年が55歳から60歳へ延長することが義務化されたことを受けて、再雇用で賃金を引き下げて人件費負担を抑える役職定年を導入する企業が増えたためです。しかし、制度導入から約40年を経て、役職定年を廃止する動きが広がっています。年齢により賃金・役職が上がる年功序列の維持を困難と判断した企業が、実力主義・成果主義の人事評価制度へ転換していることなどが理由として考えられます。これにより高齢の従業員に対する人件費負担がなくなり、さらに役職定年で権限や給料が減ることがなくなった従業員本人の働く意欲を維持できるようになります。
年齢に関係なく、誰もがいきいきと
働ける企業を目指す
2025年4月のタイムリミットが間近に迫っています。改正施行をスムーズに迎えるためには社内制度の見直し、適材適所の人材配置などの準備と合わせて、高齢者の雇用に向けたITなどのサービスを有効活用することも重要といえるでしょう。ドコモビジネスでは、高年齢者雇用安定法の改正への対応をサポートする幅広いサービスをご用意しています。
たとえば、多様な雇用形態に合わせた適切な勤怠・労務管理が必要なら「dx勤怠・労務管理」がおすすめです。労働時間の集計や各種申請、承認業務から有休や残業時間の管理まで従業員の情報をまるごと一括管理できます。とりわけ、災害時の安否が心配されるシニア従業員の連絡手段として「Biz安否確認/一斉通報」を活用してもよいかもしれません。あるいは、シニア従業員の健康管理を強化して健康経営を推進するなら、健診およびPHR(日々の体重や歩数)データを分析してITで生活習慣の改善を支援する「あなたの健康応援団」を導入してみるのも一手です。
従業員の健康管理に加えて研修プログラムなどの福利厚生を充実させるのであれば、ビジネス系・IT・資格・DXといった幅広い講座の受講によって柔軟な人材育成が図れる「gacco Training」、全国の宿泊施設・レジャー・ショッピング・グルメ・フィットネス・育児支援などの手厚い福利厚生を実現する「ビジネスd福利厚生」などもご用意しています。
65歳までの雇用確保の完全義務化は好機ともいえます。これから企業は雇用確保の義務化をポジティブにとらえ、企業一丸となって年齢に関係なく、誰もがいきいきと働ける環境を整備していく必要があります。すべての従業員が高いモチベーションを維持し、企業を発展させていく未来に向けて、いまから準備を進めてみてはいかがでしょうか。
※ 本記事は2024年11月現在の情報をもとに作成されています。最新・正確な情報は各省庁や自治体のWebサイトをご確認ください。