2021年05月18日

【特集】命をつなぐネットワーク episode 3
震災を乗り越え未来をつくる、人の絆
〜NTT Com 東北支店〜

マグニチュード9.0。2011年に太平洋沖で発生した観測史上最大の地震は、東北地方に壊滅的な被害を与えた。NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)のネットワークも例外ではない。東京と東北地方を結ぶ3つの中継ルートのうち2つが寸断され、日本とアメリカ、アジアを結ぶ海底ケーブルも断線。未曾有の危機の中、地元企業をサポートする社員たちは何を思い、どのように対応したのか。特集の最後を飾るのは「NTT Com 東北支店」。東日本大震災から10年を経て、被災した社員たちが、東北の過去と現在、そして未来を語る。

大震災の真ん中で

地震発生時(2011年3月11日14時46分頃)、セールスマネジャーの上田幸宏は東北支店のオフィスで、身体が浮くほどの縦揺れと、ビルそのものがグルグルと回るような横揺れを経験した。気づくと、フロアに立っている物は何一つとしてなかった。「天井のパイプが破裂し、オフィスが水浸しになりました。マシン室に閉じ込められた社員がいたため、ガラスを割って救出したことを今でも覚えています」

一方、セールス担当の丹野貴章は、ICT教育に関する文部科学省の実証実験に立ち会うために山形県の小学校を訪れていた。「地震直後、校舎の壁にビリビリビリと亀裂が入るのを見たんです。さすがにこのときは命の危険を感じました」。丹野は当初、山形県が震源地だと誤解していたと言う。その直後、ニュースで東日本大震災の発生を知るが、それも山形県ではネットワークがつながっていたからこその話だ。上田がいた仙台市では情報網が寸断され、被害状況を知ることさえできなかった。「情報という意味で孤立していました。まさか東北全域がこれほどの事態になっているとは思ってもいませんでした」と上田は首を横に振る。

東北支店でセールスマネジャーを務めていた上田幸宏(現在は第三ビジネスソリューション部に異動し東京勤務)

東北6県の絆

山形県から東北支店のある仙台市までは、平時なら車で1時間30分ほど。しかし、震災で高速道路や信号が機能停止に陥ったため、丹野は10時間かけて戻ることになった。「ようやく仙台市の近くまで来たものの、市内の状況が分からなかったため立往生することになりました。情報がない中で移動するのは危険だと判断し、一緒に仙台に向かった大学教授の自宅に泊めてもらうことにしたんです」

丹野と上田が合流したのは翌日のことだ。仙台市に電力が戻り、震災の2日後にはNTT Comのネットワークも復旧。ここで二人は被害の全貌を初めて知ることになる。上田は即刻、メンバーと共に東北支店のお客さまである全400社の状況確認を始めた。「もはや原形をとどめていないオフィスに戻り、名刺を一枚一枚、拾い上げていきました。幸いにもほとんどのお客さまと連絡が取れたのですが、今何をすべきかを教えていただくつもりが『わざわざありがとう。お互いに無事でよかった』『大変だろうけど頑張ろう』と逆に励まされることが多かったです」。上田はこのとき、東北6県の絆の強さを改めて実感したと言う。「東北はもともと、全国大会で青森県の高校が優勝すると宮城県の人たちも喜ぶような地域。そんな温かな一体感も、震災を乗り越える大きな力になりました」

東北支店でセールス担当だった丹野貴章(現在は第四ビジネスソリューション部に異動し東京勤務)

被災から復旧へ

ネットワークの回復とともに、お客さまの課題も浮き彫りになる。電力や水、ガスなどの生活基盤を支えるインフラ事業者の元には、エンドユーザーから『いつ復旧するのか』という問い合わせが殺到していた。「当社のお客さまのフリーダイヤルもパンク状態でした」と語る上田は、東京のメンバーと連携しフリーダイヤルのキャパシティを急きょ拡張させるなどの対応を取った。

日用品を扱うコンビニやドラッグストアも、重要なインフラの一つだ。地元のドラッグストアチェーンからは、『一刻も早く、津波被害の大きい沿岸部の店舗を再開させたい』という要望が寄せられた。しかし、レジを開こうにも、業務を支える通信回線が寸断されており身動きが取れない。そこで、丹野らは、無線ネットワークの構築をお客さまに提案。沿岸部の店舗を再開するために奔走したと言う。さらに丹野は、東日本大震災が、現在の潮流であるクラウドサービスが普及するきっかけになったとも振り返った。

「当時はまだ、サーバー室のマシンにデータを置くオンプレミスが主流の時代でしたが、『リスク分散のためにクラウド化を一気に進めたい』と要望されるお客さまが増えました」

ネットワークをつなぎ、人をつなぐ

お客さまの事業再開を支える一方、東北支店は地域支援にも乗り出す。震災直後、医療ボランティアによる被災地支援などが進められたが、通信手段の確保が困難だったこともあり上田自身が現地に衛星電話を届けることもあった。このほか、震災の記憶を風化させないための『東日本大震災アーカイブ宮城』や、津波で失った写真を持ち主に返却する検索システムの開発にも関わっている。

当時、会社の垣根を越えて助け合う“地域の結束”を強く感じたと振り返る上田。ネットワークを復旧させるために、ライバルである他の通信事業者と手を取り合うこともあったと話す。「発災から数日後、われわれの移転先を自らの足で探し出して、『相談がある』と訪ねてきてくれた競合他社の役員の方もいました。平時では考えられないことですが、お互いに『命綱であるネットワークを支えなければならない』という使命感があったからこそできたのだと思います」

さらに上田は、ネットワーク事業の分野では競合であったNTT東日本と地元ケーブルテレビ会社の“懸け橋”としても活躍。二社合同のビジネス創出プロジェクトの立役者として力を発揮した。「当時は『まるで坂本龍馬のようだ』ととても感謝されました。通信をつなぎ、人と人をつなぐこと。それこそが私たちNTT Comの根幹だと改めて感じる瞬間でもありました」

復興を支えた結束力

被災した日から、止まることなく走り続けた東北支店。いったい何が、彼らの原動力になっていたのだろうか。丹野はこう話す。「実は私は2010年に東北支店に異動してきたんです。このタイミングで、震災が起こった。これはきっと偶然じゃない。自分にできることを精一杯にやろう。そんな想いがずっと私を突き動かしていました」

上田も続ける。「正直、そろそろ休みたいなと思うこともありました。でも、その度に自宅待機のはずの社員が陣中見舞いに来てくれるんです。これはもう、やるしかないじゃないですか」。仲間たちが握ってくれたおにぎりが、全国の支店から届けられるカップラーメンが、エネルギーの源泉になった。驚くことに翌年度、東北支店は前年度を超える売上目標を達成している。

「被災を言い訳にしたくなかった。『復旧ではなく復興を』という地域全体の想いも追い風になったと思います」と語る上田の言葉を、丹野が引き継いだ。「東北には、非常に強い結束力があります。知らない土地に異動してきたばかりなのに、孤独感をみじんも感じることがありませんでしたから」

当時、二人が通っていた地元の居酒屋のTシャツ。

上田が東北支店に異動する前に同僚から贈られた寄せ書き入り楽天イーグルスのユニフォーム。
東北支店の壁に掛けられ、復旧・復興に飛び回る上田たちを見守り続けていたものだ

(左写真)当時、二人が通っていた地元の居酒屋のTシャツ。(右写真)上田が東北支店に異動する前に同僚から贈られた寄せ書き入り楽天イーグルスのユニフォーム。東北支店の壁に掛けられ、復旧・復興に飛び回る上田たちを見守り続けていたものだ

被災地から未来を

震災から10年が経った。上田と丹野は東京勤務となった今もなお、東北の行く先をしっかりと捉えている。「震災を乗り越え、今、東北からICTを活用した先進的な事例が生まれるようになっています」と語る上田。事実、会津若松市はスマートシティの数少ない成功事例として大きな注目を集め、南相馬市は世界にも類を見ないロボット研究開発拠点として広く知られるようになった。

「東北には、少子高齢化や過疎化など日本の社会的課題を内包している地域がたくさんあります。今後、日本はICTを活用した地方創生に舵を切っていくと思いますし、私たちの未来になにかしらの解を示せるような地域になってほしい。東北から日本へ、そして世界へ。そんな未来を一緒につくっていけたらと思っています」

丹野も力強く頷く。「まだ完全に震災から立ち直ったとは言えません。しかし、未曾有の震災を経験してもなお、私たちはここまで来ることができたんです。現在、グローバル企業が世界を席巻していますが、東北が発揮したような結束力があれば、日本から世界をひっくり返すようなイノベーションを起こすことだって夢物語じゃない」

東日本大震災が奪い取ったものは計り知れない。しかし、そこで見えた人々の強固な結束力は、未来を灯す希望になった。たとえどんな状況であっても、私たちはつながり、手を取り合い、前進することができる。「NTT Comの根幹はネットワークをつなぎ、人と人をつなぐこと」。特集の最後は、上田の言葉で締めくくりたい。

編集後記

3回にわたった特集「命をつなぐネットワーク」をお読みいただき、ありがとうございました。震災からの10年間、NTT Comは災害対策、防災技術を強化してきました。非常態勢時の対応を統括する危機管理室では、有事の被災状況をリアルタイムに把握するためのDX化を進め、被災地で活躍する災害対策カーを導入。体制も1チームから3チームへと強化し、「リスク・クライシスマネージャ」という人材制度も創設しました。なにが起きても、命をつなぐネットワークは絶やさない。社会的使命へのNTT Comの挑戦は、これからも続きます。

社員メッセンジャー

NTTコミュニケーションズ第三ビジネスソリューション部

上田 幸宏

昨今の風水害に代表される自然災害の激甚化、コロナ禍による社会活動の制約など、われわれが東日本大震災で経験した“明日が見えない危機”が世界規模で起きています。だからこそ「今を大切に」、NTTの技術やソリューションを活用してお客さまやパートナーの方々と共にサステイナブルな世界を創ることに貢献していきます。

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