CASE of Re-connect X 01
複雑な化学プラントの運転を支援する
「AI プラント運転支援ソリューション」
化学プラントの技能伝承が課題
日本の化学業界では、グローバル化の進展や環境問題への対応に伴い、単一品種大量生産から、多品種少量生産・変種変量生産へのシフトが進んでいます。その結果、化学プラントでは既存の自動制御技術では対応できない高度な制御が求められ、一部では運転員による手動操作が欠かせません。日本は厳しい国際競争の中で、より高度な生産技術が求められる、高機能製品の生産に移行しています。しかし今後は、少子高齢化の進展により運転員確保の困難が予想され、化学プラントにおける技能の伝承は、日本の化学産業の強みを維持する上で重要な課題となっています。
熟練運転員の挙動をデジタルツイン化
NTT コミュニケーションズは2007 年以来、化学プラントのSmart Factory 化に向けて、プラントの現場を熟知する横河ソリューションサービスとの協業を重ねてきました。当初、操業中のデータに機械学習を適用することにより、既存の自動制御技術では対応できない箇所のデジタルツイン化を試みましたが、反応器内部の動きは非常に複雑で、操業中のデータのみを用いた再現は困難とわかりました。
次に取ったアプローチは、化学プラント運転員の挙動のデジタルツイン化でした。具体的には、自動制御が困難な工程において、過去に運転員がさまざまな状況下で行ったオペレーション時の各種データを用いて、イミテーションラーニング(模倣学習)によりAI モデルを作成しました。作成したAI モデルと運転員のオペレーション精度を比較する実証実験では、その内容が非常に高い精度で一致することが確認され、2022 年4 月、AI による手動運転のサポートを実現する「AI プラント運転支援ソリューション」として商用化が実現しました。
本ソリューションはすでに複数の化学メーカーから引き合いがあり、実用化試験の段階に入ったケースもあります。今後もNTT コミュニケーションズでは柔軟かつアジャイルに本ソリューションの改善に努め、化学業界をはじめとする日本の産業の持続的な発展に貢献していきます。
-
イノベーションセンター テクノロジー部門 スマートファクトリー推進室
伊藤 浩二「AIプラント運転支援ソリューション」は、AIの予測値の根拠が提示されるため、支援を受ける運転員が納得感を持って制御可能であり、若手の育成という観点においても効果が期待できます。AIが獲得した知見の十分な精度が確認された上で、これを実際のプラントにできるだけ早期に適用し、さらには自動化にもつなげていくことは喫緊の目標です。その先には日本の強みであるオペレーターとしてのスキルを海外に輸出するといった方向性も考えられるでしょう。
しかしながら「AIプラント運転支援ソリューション」の改善をどれだけ重ねても、そこに人の介在を必要とする場面が残る限りは、技術やノウハウの伝承、運転員の確保といった根本的な課題の解決には至りません。人のデジタルツインである本ソリューションでは、人を超える制御の実現は困難です。人とAIの対話の中で、AIが自ら運転技術を磨いていくようなソリューションの実現など、これからも私たちはデータを取集し、それを蓄積・分析することでデータと価値をつなぎ、社会のために活用することでSmart Factoryの実現を目指します。
※本記事の内容は2022年12月現在の事実にもとづくものです。