境野 哲Sakaino Akira
経歴
1990年、日本電信電話株式会社に入社後、社内基幹業務システムの開発を担当。1995年に埼玉法人営業部へ異動し、官公庁向けコンサルティング、公共施設建設プロジェクトに携わる。1998年からはNTT再編成プロジェクトで基幹業務システムの更改を、2000年からは異業種協業による新規ビジネスインキュベーションを担当。2004年からは、ネットビジネス事業本部にてネットビジネスのパートナー営業や協業アライアンスなどに携わり、2011年からは技術開発部でエネルギーマネジメント、M2M/IoTソリューションの開発に従事する。このときの知見から2015年にIoT分野のエバンジェリストに任命。現在は、IoTだけにとどまらず、グローバルデータスペースのエバンジェリストとしても活躍している。現職は、NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com) イノベーションセンターの担当部長で、スマートインダストリー推進室とスマートシティ推進室を兼務。
趣味は芸術鑑賞。身内が現代音楽に携わる仕事をするなど、幼少期からアートに触れる家庭環境で育ち、今でも絵画や彫刻の展覧会に家族と足を運ぶことが多い。音楽もバロック音楽からポップスまで幅広く楽しみ、最近も家族とライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団&聖トーマス教会合唱団やロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏会、FUJI ROCK FESTIVALなどに足を運んだという。1967年生まれ、東京都出身。早稲田大学 政治経済学部 経済学科卒業。
活動履歴
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講演動画
サステナブルで強靭な国際サプライチェーンを実現するセキュアな企業間データネットワークの共創
~Gaia-X/Catena-X活用支援サービスのご紹介~
インタビュー
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01
エバンジェリストとしての得意分野とミッション
エバンジェリストとしての得意分野は「グローバルデータスペース」です。耳慣れない言葉かもしれないので、簡単に説明しましょう。
「データスペース」とは2010年代に出てきた新しい考え方で、世界中のサーバーやプラットフォームに散らばっているデータの形式を目的に応じて標準化して、信頼できる相手とグローバルかつ円滑にデータを共有できるようにするデジタルエコシステムです。これまでのプラットフォームよりも一段、高いレイヤーの概念と考えてください。
技術的にはコネクタというコンテナ型のソフトウェアを使って、データを共有したい相手と通信を行います。コネクタには、自分のIDや属性情報、提供可能なデータの属性情報、通信可能な相手といった情報が保持され、データを持っている会社や事業所が誰なのかを通信相手が識別できるようになっています。このコネクタを使い、世界中でバラバラになっているデータサーバーやプラットフォーム上にあるデータを共通のインターフェイスで検索し共有できるようになれば、あたかもひとつのデータ空間が出現したように見えます。このデータ空間のアーキテクチャは、ドイツのフラウンホファー研究所が構想し、「データスペース」と呼ばれています。そして、データスペースを国境を越えてグローバルにつないでいく仕組みが「グローバルデータスペース」です。近年、各国で経済安全保障などの観点からデータの越境を制限する動きが広がっていますが、このデータスペースの仕組みを使えば信頼できる相手と国境を越えてセキュアにデータを交換できると考えています。
私自身は、「グローバルデータスペース」の技術開発の専門家ではありません。むしろ、技術を開発したり、現在のプラットフォームに問題意識を持っていたりする専門家の方々をつなぎ、未来のデータネットワークを共創する場をつくっていくのが私の役割だと思っています。そういった意味で、エバンジェリストとしての私のミッションは、NTTグループや日本だけでなく、世界中でデータを安心安全につないで利活用しようとしている人たちが集う場をつくること。最終的には、それぞれの国、地域、企業が自分の権利を守って相互接続できるように、通信基盤、技術、法律などを踏まえた国際ルールを策定し、新しいポストインターネットの世界をつくりたいと考えています。
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02
これまでの活動を代表するプロジェクト
これまでの活動を代表するプロジェクトを一つ上げるなら、2019年から現在に至るまで取り組んでいる「SDGsのためのグローバル企業間データ連携」です。グローバル企業間データ連携とグローバルデータスペースは、ほぼ同じ意味合いと考えてください。
2019年には、ドイツのフラウンホファー研究所が中心となって設立したIDSA(International Data Spaces Association)というグローバルデータスペースを作るために必要な技術要素を標準化している団体に参加して、IDSAが提唱するデータ連携のエコシステムに接続するための中核技術「IDSコネクタ」について学び始めました。その過程で「NTTグループだったら、グローバルデータスペースをどう構築し運用すれば良いのか」と考え、ヨーロッパをはじめ世界中のデータスペースと日本の企業をつなぐ方法を思いついたのです。
そこで協力を求めたのが、スイスの民間非営利団体「スイス イノベーション パーク ビール/ビエンヌ(以下、SIPBB)」。SIPBBは、スイスのイノベーションを推進する国家プロジェクト「スイスイノベーション」を運営する組織で、数多くの大企業や中小企業、スタートアップがさまざまな組織に分かれ、研究開発や実証実験、オープンイノベーションを行っています。そのなかでNTT Comは、インダストリー4.0を推進する組織「スイススマートファクトリー」に参画。ここには、50社以上の企業がメンバーとして参画しており、志を同じくする仲間と協力して、IDSコネクタを使用した日独スイス3国間の相互接続テストの実験を行いました。
その後、ヨーロッパでは、ドイツ・フランスの両政府が発表した、セキュリティとデータ主権を保護しつつ、データ流通を支援するためのインフラ構想でコネクタを中核技術として使用する「GAIA-X」の標準アーキテクチャが明らかになってきました。2021年4月にはNTT Comの「Smart Data Platform(以下、SDPF)」の活用を想定し、IDSコネクタを使って企業間で安全にデータを共有できるトライアル環境を日本国内およびヨーロッパのクラウド上に構築。国内外のパートナー企業や団体のシステムを接続することで、国際データ連携基盤の利便性や機能性、実用性を検証しました。現在は、ドイツの自動車メーカーなどが共同出資して運営を開始するデータスペース「Catena-X」とも相互接続が可能な、新たなインターフェイス、国際ゲートウェイの開発に取り組んでいます。
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03
NTT Comと共に描く未来
未来に向けては、NTT ComをはじめとしたNTTグループの技術も生かしつつ、2つのチャレンジを始めています。一つは、ITとOT(Operational Technology)を統合したサイバーセキュリティ対策技術ソリューションの実現。もう一つは、NTTドコモとNTT Comが融合した強みを生かすことです。閉域網とオープン網、固定網とモバイル網をまとめてマネジメントでき、かつ、デバイス、ネットワーク、データセンター、そして、AWSやAzureといったグローバルクラウドを統合的にオーケストレーションできる運用基盤を持っているという強みを最大限に生かして、クローズドネットワークとオープンネットワークをソフトウェアディファインドでマネジメントするSDPFや、その先にある次世代のマネジメントネットワークと、コネクタでデータを連携させるグローバルデータスペースとの統合運用サービスの実現をめざします。また、グローバルな顧客サポートや運用サービスをめざして、NTTデータグループの海外事業会社「NTT DATA, Inc.」やNTT Ltd.とも連携していきます。そういった意味では、NTT Comのエバンジェリストだけではなく、NTTグループのつなぎ役としても貢献していきたいと思います。
「SDGsのためのグローバル企業間データ連携」は、技術的につながれば成功というわけではありません。参加する企業がデータの改ざんや成り済ましをすることなく適正に業務を行っていることを証明する認証制度を整えることも重要です。
そのような認証を取得した企業同士がグローバル企業間データ連携を利活用することで、サプライチェーンを跨いで原材料や製造、輸送など工程ごとのデータを安全かつ正確に共有することが可能になり、フェアトレードやカーボンニュートラルをうたっている製品は、第三者認証機関のお墨付きが得られます。今後は企業が原材料を調達する際も、そのような第三者認証の取得を調達基準に入れるようになるかもしれません。つまり、信憑性の確認が取れた正当な製造流通過程の情報が企業や消費者に届く仕組みが整うわけです。この仕組みこそ、「SDGsのための」に関わる重要な部分です。現在、サプライチェーン全体におけるフェアトレードやCO2削減量の可視化や保証には、非常に高度な技術や煩雑な手続きが必要です。しかし、SDPFやコネクタを組み合わせたセキュアな国際データ連携の仕組み=グローバルデータスペースは、それを早く安く簡単に実現するツールになり得ます。2030年のSDGs達成を実現させるために、なるべく早く実用化にこぎ着けたいと考えています。