島田 健一郎Kenichiro Shimada
経歴
2002年NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)入社。2014年から本格的にAI開発に携わり、横河電機株式会社とのプロジェクトでは、実際の化学プラントの制御改善に有効なデジタルツインを世界で初めて実現。AIの最新研究動向やビジネス実装などの情報交換・人材交流を目的としたNTTグループディープラーニング連絡会の初期立ち上げに寄与したほか、エバンジェリストとしての講演、コラム記事執筆など、社内外でAI開発をリードしている。2児の父。早朝のジムでライブ映像を鑑賞しながら5〜6kmの走破が日課。1975年生まれ、東京都出身。早稲田大学 大学院修士課程修了。
活動履歴
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主な講演活動 |
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Web掲載 |
講演動画
生成AIを中心とした最新AI技術動向とドコモビジネスにおけるAI関連の取り組みについて
インタビュー
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01
エバンジェリストとしての得意分野とミッション
複数あるAI技術の中で、私が得意とする分野は、AIにデータを学ばせる深層学習。その中でも、物体の動きや温度、音など時間の経過によって状況が変化する“時系列データ”の活用です。この時系列データによるアプローチは、幅広い領域の課題解決に応用できます。現在メインで携わっている化学プラントの他にも、監視カメラ映像を用いた人間動作の解析、データセンタービルの空調温度予測、また製作したデモプラントでの強化学習による自動制御やその後の強化学習シミュレーター開発など、領域を限定することなく技術検証を実施してきました。
私が携わるプロジェクトでは、企業とのコラボレーションにより、現場の知見、貴重なデータを活用したAI技術実装を進めています。扱えるデータの質と量が鍵を握ると言われるAI開発において、このコラボレーションを重視するスタイルが技術者としての大きな強みになると考えています。
また個別のプロジェクトからグローバルに視野を広げると、アメリカや中国と比べてまだまだ遅れている日本のAI市場という実態が浮かび上がってきます。エバンジェリストとしては、AIの社会実装を推進する一助として、メディアでコラムを執筆したり、大学で講師を務めたりなど、情報発信による啓蒙活動も重要な役割です。
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02
これまでの活動を代表するプロジェクト
携わった中で大きな成果を得られた案件の一つが、計測機器メーカーの横河電機株式会社(以下、横河電機)様と取り組んだ化学プラントの制御改善プロジェクトです。ポイントは、現実世界のデータを基に、デジタル空間に双子のような仮想環境を再現する“デジタルツイン”という技術。私たちが得意とする時系列データによる深層学習と、横河電機様のプラント制御シミュレーターを組み合わせて、仮想の化学プラントを構築しました。このデジタルツイン上で検証を重ねることで、それまで匠の技で導いていた原材料の流量調整や冷却タイミングといった制御パラメータ値を、AIで自動探索できるようになったほか、現場担当者の算出した数値と一致するほどの精度まで高めることにも成功。化学プラントの制御改善にデジタルツイン技術が有効であることを確認した、世界初の事例となりました。このことは、属人的な制御作業の自動化、それによる省コスト化や生産安定化の実現、技術の継承に向けた第一歩でもあります。
もう一つは、稼働中のごみ焼却施設における、ディープラーニングを活用した蒸気量予測プロジェクトです。株式会社クボタ(以下、クボタ)様とのコラボレーション案件ですが、AIで蒸気量を正確に予測し、発電量の安定化を目指したものです。実プラントと接続、リアルタイムに予測を行い、現場運転員による評価まで行うこともできました。将来はAIでプラントをより安定的に制御することで、環境問題の解決にも貢献することができると考えています。
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03
NTT Comと共に描く未来
AI開発におけるNTT Comの強みは、企業としての高い信頼性と現場知見の重視です。横河電機様とともに構築したデジタルツインが成果を出せたのも、実際のプラント内のデータを提供してもらい、現場の担当者から生の声を聞くことで、データドリブン型のシミュレーションモデルができたから。このように貴重な生データを預かることができるのは、NTT Comが長年培ったブランド力とデータの扱いにおける信頼があってのことです。最近、NTTグループではアメリカのラスベガスやマレーシアでスマートシティ実現のプロジェクトを受注しましたが、決め手の一つが、街で収集したデータを所有しない“フェアネス”な姿勢です。グローバルにおいても企業としての信頼性を実感できる事例が増えています。
Factory、Healthcare、City、Mobilityなど、NTT Comはあらゆる領域で社会のDXを推進し、「Smart World」の実現を目指しています。無限に広がる社会課題と向き合う中で、AIの技術者としてさまざまな分野の企業とコラボレーションしながら新たな解決策を生み出していくことが私の目標です。
環境に寄与したクボタ様とのプロジェクトのように、AI開発は時にSDGsなど未来を見据えた社会的課題の解決策にもなります。得意分野の技術を高めていくとともに、現場の知見から学び続けることで視野を広げ、次世代によりよい社会を残せる技術者でありたいと考えています。