莊司 哲史Tetsufumi Shoji
IOWNは社会が求めているものが着実に実現されていく、ネットワークの正常進化。IOWNの技術は人と人、人と物、物と物の空間的な距離を縮め、結び付きを強くします。
IOWNの技術開発やビジネス化の動向について、分かりやすく情報を発信していきます。
経歴
1991年、日本電信電話株式会社入社。電子応用研究所(武蔵野)にて自動光ファイバー切り替え装置、光モジュール組み立て装置などの研究開発に従事。通信エネルギー研究所(厚木)で携わったシリコンフォトニクスの研究は、IOWNの光電融合デバイスの源流となった。2007年よりマイクロシステムインテグレーション研究所(厚木)では、IOWN APNの主要な光部品の一つである波長選択スイッチの開発に携わった。NTTコムソリューションズを経て2021年よりNTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)。IOWN推進室/ソリューションサービス部兼務、2024年にエバンジェリストに就任。IOWNと共に創る未来を広く伝えている。
趣味はロードバイク、ジョギング、農地の開墾。週末のロードバイクは100km走行も珍しくない。ススキだらけの耕作放棄地を自然農の畑によみがえらせるべく、仲間と共に農地を開墾中。気温や土壌水分量の計測器を工作し、自宅から遠い畑の様子をいつでもスマホでチェックできるようにしている。アウトドアの趣味が多いことから天気に興味を持ち、気象予報士の資格も取得した。
活動履歴
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主な講演活動 |
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主な執筆活動・論文など |
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講演動画
IOWNの拓く未来へ
インタビュー
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エバンジェリストとしての得意分野とミッション
専門はIOWN、その中でもAPN(オールフォトニクス・ネットワーク)を得意分野としています。分かりやすくいうと光を使った超高速通信です。入社してから複数の研究所に所属し、光に関する技術開発に長く携わってきました。その経験を生かし、研究所が取り組んでいることについて、研究者用語を分かりやすい言葉に翻訳して皆さんにお伝えする「橋渡し役」になることを意識しています。IOWN がNTTドコモグループの将来にどんな影響を与えるのか、お客さまのビジネスや社会にどんなインパクトを与えるのかを、自分の言葉で広く伝えています。また長い時間をかけて新しいビジネスモデルを構築したいと考えているお客さまに対し、IOWNが可能にする未来を提示し一緒に構想を練ることもミッションだと考えています。
NTTには1991年に入社し、光関係のハードウェアを扱うNTT電子応用研究所の配属となりました。日本全国に光ファイバーを敷くFTTH(ファイバー・トゥ・ザ・ホーム)が途方もない計画だと言われていた時代に、その技術開発の一端を担いました。その後、1999年からNTT通信エネルギー研究所でシリコンフォトニクスの研究に携わりました。当時は日米間の半導体摩擦の影響もあり日本の半導体業界全体がシュリンクし、NTTのLSI(大規模集積回路)研究も縮小傾向にありました。その中で「それならLSI加工技術の強みを光に転換できないか」という議論があり、光を研究している人間としてLSIの研究部に呼ばれました。その時にLSIのシリコンの中に光を通す「シリコンフォトニクス構想」の基本的な要素技術を開発し、IOWNの源流となるシリコンフォトニクスの実用化に向けた研究が始まりました。その後も波長選択スイッチなどIOWNで活用されることになる技術の研究に携わってきました。
さまざまな職場を転々としてきましたが、振り返ると多くの場所で「光」が柱になっています。実は、大学では光ではなく、機械工学科で流体力学を研究していました。空気や水の流れをレーザー光線で測る中で光の面白さを感じたのです。「これから光をやるなら光通信。光通信ならNTT」と思って入社し、これまで取り組んできました。
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02
これまでの活動を代表するプロジェクト
2032年のIOWN構想実現に向け、NTT Comでもさまざまな動きが生まれています。その中でも特に期待しているのが、あるお客さまに3~5年先のネットワーク更改の最適なテクノロジーとしてIOWNをご提案している案件です。実際に、IOWNの超低遅延性を活用し、オンライン会議で生じるタイムラグがどう変わるのかを検証していただきました。オンラインでの会話のテンポが現実に近付くと、会話の微妙な「間」を感じることができ、相手との話も弾みます。映像もより高精細になり、相手の表情の動きや額の汗などの細かい部分も感じ取れるほどで、話しやすさを感じていただけています。
もう一つは触覚に関するプロジェクトです。ミライセンス社の「3DHaptics」は、モニターに映る人が手を動かした感覚がそのまま伝わるものです。振動による錯覚を利用し、遠くにいる人が手を右に動かすと自分の手も右に動いているように感じます。机を叩く、人の身じろぎなど、振動で伝わる感覚というものがあると思うんですね。その感覚を実現しようというのが「3DHaptics」です。人間は触覚の遅延に敏感です。その感覚を正確に伝えるためにIOWNの低遅延性が生きてきます。
またIOWNは、こうした「人と人」のコミュニケーションだけでなく「人と機械」や「機械と機械」のコミュニケーションもテーマにしています。遠く離れた場所にいる医師が精密なロボット操作を使用する遠隔医療は、その代表的なイメージでしょう。遅延が大きい回線ではロボットハンドをぎこちなくしか動かせませんが、タイムラグが無くなれば現実と同じようにスムーズに動かせるようになります。自動運転のような遠隔制御、データセンター間の連携などでも、遅延が減ることで大きな可能性が生まれています。
IOWNに関するプロジェクトを推進するにはPoCが重要だと思っています。実際に機械を作ってIOWNの回線を通して体験していただくと、新しいビジネスや課題解決を具体的に考え始めるお客さまが多いです。多くのお客さまが諦めていた、全く考えていなかった未来の体験は、数年先のお客さまのビジネスのイメージを明確にしているようです。
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03
ドコモビジネスと共に描く未来
将来的にIOWNは、増え続けるエネルギー需要への対応にも寄与するでしょう。2050年には日本の人口が約2割減る一方、電力需要は約3割増しになるとの試算があります。主な要因は生成系AIなど高度なサービスを支えるデータセンターです。IOWNの光電融合デバイスは信号伝送を電気から光に替えることで、熱として失われていた電力ロスを減らせるので、データセンターの消費電力を減らす効果も期待できます。
データセンターでは再生可能エネルギーの活用が推進されていますが、課題もあります。代表的な再生可能エネルギーであるソーラーパネルによる大規模な太陽光発電システムは、郊外の広い土地に設置せざるを得ません。一方、データセンターは都市部に集中しているため、データセンターまで引く送電線の整備には多額の費用がかかるとされています。IOWNのネットワークが拡大することで現在都市部に置いているデータセンターを郊外の太陽光発電システムの近くに置くことができれば、送電線に必要な費用が大きく削減されるでしょう。
NTT Comは、社会に対して大きな影響力を持つ大企業や官公庁のお客さまが多く、大規模かつ長期的な将来構想を一緒に考えられる機会が多いことが強みだと思っています。例えば、数千億円かかる都市開発のプロジェクトなどは10年以上の長期的なスパンで進めますが、それがIOWNのロードマップと足並みが揃うんですね。一緒に未来の社会インフラを創っていくワクワク感があります。
IOWNは、社会が求めているものが着実に実現されていく“ネットワークの正常進化”だと思うのです。低遅延性は人と人、人と物の空間的な距離を縮め、結び付きを強くします。いま世の中の分断が問題になっていますが、将来IOWNが文化と文化を結び付ける役にも立てればと期待しています。
AIとの掛け合わせも楽しみです。機械的なアルゴリズムだけでは同質なものしか集まらず、それがエコーチェンバーを生み出しているといえるでしょう。IOWNとAIの組み合わせによって、より広範で多くの情報が結び付き、人類の役に立つ集合知が生まれたらと願っています。
※本記事の内容は取材時のものであり、組織名や役職などは取材時点のものを掲載しております。