能登半島地震が突き付けた企業防災の重要性
2024年1月1日16時10分、1年の始まりである元旦に石川県の能登半島地下16 kmで発生した内陸地殻内地震、いわゆる能登半島地震は、多くの日本人に「天災はいつ起こるかわからない」といった教訓を改めて感じさせる出来事でした。気象庁の発表によれば、この地震のマグニチュードは7.6、内陸部で発生する地震としては日本でも稀にしか発生しない大きさだったといいます。
すでに能登半島地震の発生から半年以上が経過していますが、建物の解体の遅れといった多くの課題が残ったままです。石川県内では6月24日の時点で2万865棟の公費解体の申請が出されていますが、これに対して解体・撤去が完了したのは911棟とわずか4%にとどまっています。被害の規模の大きさと半島の先に位置する被災地の交通の便の悪さなどが、撤去の妨げになっているようです。
能登半島地震では、企業にも大きな影響が出ています。帝国データバンクの調査によると、能登半島地震による自社の企業活動への影響について、「影響がある(見込み含む)」と回答した企業は全国平均で13.3%、影響があると回答した企業からは「社屋の一部が損壊した。一部配管漏えいや防煙ガラス破損、部材転落などの被害があった」という地震による直接的な影響を示す声に加え、「材料が納入できなくなり工期延長が発生した」「取引先の工場が被災して納品時期が不明とのことで、別製品に切り替えることになった」といった被災した地域以外でも、サプライチェーンなどへの間接的な影響がみられます。
地域別では、被災地の北陸で「影響がある(見込み含む)」の回答が43.2%と突出しています。石川県の企業からは「人的、物理的被害は甚大であるが、震災による自粛・萎縮マインドにともなう地域経済活動の停滞も心配。災害復興の継続支援のほか、風化させない取り組みが必要」といった声も出ています。
さらに、企業の94.9%が今回の地震を機に「企業防災」の大切さを改めて実感しているようです。
企業として改めて大切だと考えた防災対策を尋ねたところ「飲料水、非常食などの備蓄」(39.2%)がトップ、次いで「社内連絡網の整備・確認」(38.3%)になっています。企業からは「自然災害の強力な破壊力に対し、何かをするというより、起きた後の社員と社員の家族の生活を、どのように安定させるかということを真剣に考えるきっかけになった。備蓄をどのように進めるかをしっかり検討していきたい」(情報サービス、岡山県)や「危機管理の重要性を再認識した。今回のように長期休暇中での災害は安否確認などに時間がかかる。緊急連絡網の整備と災害時での対応を常に議論することが重要だと実感した」(建設、栃木県)といった声が上がっています。社員と社員の家族の健康、安全を確保する基本的な企業防災対策に優先的に取り組みたいという、企業の強い意思が感じられる調査結果といえるでしょう。
一方で「BCP自体の策定・見直し」(20.6%)という回答も上位にランクインしたものの、まだ8割弱の企業はBCPの策定や見直しの重要性に対する認識が薄いようです。今回の能登半島地震では企業防災の大切さを多くの企業が改めて実感しましたが、その取り組みの延長線上にBCPがあることを、まず認識しておきたいところです。
過去最高のBCP策定率の一方、
策定に二の足を踏むケースも
BCPとは、災害などの緊急事態における企業や団体の事業継続計画(Business Continuity Planning)の頭文字をとった言葉です。しばしば、BCPと防災の対策は混同されてしまいますが、明確な違いがあります。防災対策は地震、火事、大雨などの災害による被害を未然に防ぎ、被害の拡大を最小限にとどめて復旧を図る取り組みです。一方、BCP対策は、それらの災害に加えて、システム障害、感染症の拡大、資金調達難など、あらゆるリスク・トラブルを想定して対策を講じるものです。つまり防災を包含する、より大きな範囲で事業を継続させる取り組みがBCPになります。
BCPの主な目的は、緊急事態において企業や団体が事業を継続するために必要な手順を、総合的な見地から事前に計画することです。具体的には緊急事態が発生した場合に事業が直接的に受ける被害を最小限に食い止める、被害を受けた後で事業を継続して迅速に復旧するという2つの観点があります。
帝国データバンクの調査によると、能登半島地震などを受けてBCP「策定意向あり」と回答した企業が4年ぶりに5割に達し、BCP策定率は19.8%で過去最高を記録しました。事業継続に対して想定するリスクは「自然災害」(71.1%)がトップとなっており、リスクへの備えとしては「従業員の安否確認手段の整備」(68.9%)、「情報システムのバックアップ」(57.9%)、「緊急時の指揮・命令系統の構築」(42.6%)など、先の調査と同じように防災に重点を置いた備えが上位を占めています。
一方でBCP を未策定の企業に理由を尋ねたところ、「策定に必要なスキル・ノウハウがない」(41.6%)、「策定する人材を確保できない」(34.3%)、「策定する時間を確保できない」(28.4%)が上位を占め、BCP 策定には「スキル」「人手」「時間」の3 要素が企業の規模に関係なく大きな障壁となっているようです。
とはいえ、日本は世界的に見て自然災害の多い国です。毎年のように地震、台風、豪雨といった被害が絶え間なく続いています。とくに大規模地震については最大限の警戒が必要です。政府の地震調査委員会の2024年1月の調査によると、南海トラフ巨大地震が発生する確率は10年以内で30%程度、30年以内で70〜80%程度、50年以内では90%程度もしくはそれ以上の確率で発生すると発表しています。また首都直下型地震は、東京都防災会議が発表した2022年の報告によると、今後30年以内に70%の確率で発生すると予測されています。まだ先のこととは考えず、「〇〇年以内」とは、いつ起こっておもおかしくない状況のため、BCPをはじめとした早急な対策が求められています。
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防災を軸にしたBCP策定の準備、
できるところから始めてみる
人材、スキル、ノウハウがないといった理由からBCP策定を思いとどまる企業であっても、策定に向けた必要最低限の準備は必要です。まずは社員や社員の家族を守る防災を軸に、できるところから始めてみてはいかがでしょうか。
たとえば、先に挙げた企業防災対策の1位「飲料水、食料などの備蓄」は、スペースが確保できればそこまで難しいことではないはずです。「社内連絡網の整備・確認」や「災害時の社内対応ルールの策定」などについても、インターネットやスマートフォンが普及した現代では、そこまで導入のハードルは高くないでしょう。まずは、ここからです。
企業のBCP策定の準備に欠かせないものは災害時でも確実につながる通信手段の確保です。まずは社員用のスマホ、モバイルバッテリーの確保、デュアルSIMによるモバイル冗長化といったできることから始めてみてはいかがでしょうか。
その上で能登半島地震の被災地の支援実績※を持つドコモビジネスの災害に強い衛星電話サービス「Starlink Business」「ワイドスターⅢ」、大地震が発生した際に自動で安否確認依頼を配信し、回答を自動集計する「Biz安否確認/一斉通報」といったサービスの導入をご検討ください。
※ドコモビジネスでは、能登半島地震の被災地への支援として無料Wi-Fi(スターリンク含む)、無料充電サービス(マルチチャージャー・モバイルバッテリーの貸し出し)、ドコモ公衆ケータイ(無料携帯電話)などを提供。緊急時の被災地において飲料水、食料に次いで大切な連絡手段のサポートを行いました。
BCP策定のフレームワーク構築を視野に、まずは防災の観点から社員の安全確認のための仕組みづくりから始めてみてはいかがでしょうか。たとえ小さな一歩でも、未来のBCP策定を踏み出す大切な一歩になることは間違いないはずです。