コンタクトセンターの“いま、そこにある危機”
昨今のコンタクトセンターの運営において、重要な課題となっているのは運営の効率化です。国内のコンタクトセンター・コールセンターの実態検証や市場動向の調査を行い、その結果をまとめた「コールセンター白書 2022」では、さまざまな運営上の課題が挙がっています。
コールセンター運営課題(複数回答あり)
同白書で「コールセンター運営課題」についての結果は、昨年より大きく伸ばして「オペレータの採用・育成」が55.2%でトップ、続いて「品質向上」(54.0%)、「呼量の削減」(50.0%)、「オペレータ1人あたりの生産性の向上」(49.4%)の順になっています。その他にも「スーパーバイザーの採用・育成」(40.8%→47.1%)、「オペレータの定着率向上」(28.5%→41.4%)が昨年よりも伸びており、全体的に採用難・人手不足を反映した結果になっています。
そうしたなかでも、もっとも深刻な課題として挙がっているのが「オペレータの採用・育成」(19%)」、次いで「呼量の削減」(16%)です。コンタクトセンター市場は成長軌道に乗りつつも、解消する見込みの薄い人手不足が暗い影を落としています。そこでデジタルシフトを加速し、呼量を削減して、限られた人員でオペレーションできる体制づくりが求められており、そこで期待されているのがAIです。
事実、AIソリューションを導入・導入検討した理由としてもっとも多かったのは「人手不足対策のため顧客対応を自動化/あるいはオペレータ対応の生産性を上げたい」でした。またAIの活用分野として期待が大きいのは「チャットボットなどコミュニケーションの自動化」や「FAQなどのナレッジ検索の精度向上」、そして「音声認識機能を利用したモニタリング自動化など品質管理の仕組み」「VOCの分析、活用」であり、問い合わせのセルフサービス化や業務負荷の軽減、応対品質の向上など、さまざまな領域でのAI活用が模索されていることが分かります。
AIソリューションを導入・導入検討した理由(複数回答あり)
AIを導入/導入検討しているソリューション分野(複数回答あり)
5年後を見据えたコンタクトセンターのロードマップ
AIは呼量の削減、オペレーター応対の生産性高める技術として期待されていますが、実際、AIを利用することでコンタクトセンターはどのように変わるのでしょうか。具体的な利用イメージを見てみましょう。
オペレーター業務のAIによるサポートで、まずイメージするのは問い合わせ応対の自動応答化ではないでしょうか。あるいは顧客自身による自己解決をサポートするチャットボットにも注目です。
音声のテキスト化やテキストマイニングも期待されており、通話内容を自動でテキスト化できれば、コール後のシステム入力といった作業の負担を軽減できるほか、コール内容の分析、あるいは応対内容の自動学習によるFAQの整備など、幅広い用途での応用が可能になります。またCRMなどとの連携も容易になるため、VOCの有効利用といったマーケティング戦略の観点でもメリットがあります。このようなAI活用を進める際、そのファーストステップとしておすすめしたいのが、顧客自身での自己解決をAIで支援するソリューションの導入です。
顧客の自己解決を支援するFAQページとAIの活用
コンタクトセンターにおける呼量の削減に向け、多くの企業で取り組まれているのがWebサイトにFAQを掲載することです。これを見て顧客自身で自己解決できればわざわざ電話をかける手間がなくなり、またコンタクトセンターとしても問い合わせ応対の負担を軽減することが可能です。
こうした取り組みを進めるうえでポイントとなるのは、FAQページへの顧客の誘導です。もっとも簡単な方法として、まず考えられるのはIVRを使った音声ガイダンスでの通知です。自社のWebサイトにFAQページがあることを説明し、Webサイトに誘導する方法です。
この音声ガイダンスによる誘導はすでにIVRが導入されていれば簡単に実現できますが、顧客自身がWebブラウザを立ち上げ、音声で流したURLを入力する、あるいはWebサイトのリンクを辿ったり検索したりする必要があり、顧客側のハードルが高いのも事実です。そこで次のステップとして検討したいのが、スマートフォンのSMS(ショートメール)を使ったFAQページへの誘導です。
NTT Comの「ナビダイヤル」は、オプションサービスとして「SMS送信サービス」を提供しています。これはナビダイヤルへ発信された携帯電話からのコールに対し、即座にSMSを送信してWebサイトへ誘導することができる機能です。たとえばピークコール時や休日時間外など、オペレーターが応対できない状況の際にSMSを送信し、FAQページへ誘導するといった使い方が考えられます。一般的なSMS送信サービスは、通話料に加えてSMS送信料が必要となりますが、ナビダイヤルの通話料は発生せず、SMS送信料のみの負担で安価に利用可能です。この方法であれば、SMSに記載されたURLをタップするだけなので手間なく目的のページに誘導できます。
より積極的にお客さまの自己解決を支援したいと考えるのなら、AIを組み込んだチャットボットの活用を視野に入れたいところです。NTT Comの「COTOHA Chat & FAQ®」は、独自のAI技術である「セマンティック検索」と呼ばれる機能を組み込んでおり、手間をかけずにチャットボットを構築できます。
たとえば顧客がアメリカへの通話料について知りたいとき、その質問の文章は「アメリカへの通話料が知りたい」「アメリカに電話するといくら?」など複数の表現が考えられます。一般的なキーワードマッチング式のチャットボットの場合、こうした文章をそれぞれ登録しなければならず、構築の手間がかかるのが難点です。しかしCOTOHA Chat & FAQ®であれば、1つの表現の質問を登録するだけで、システム側で自動的に意味や文脈を解釈し、ほかの表現の同じ趣旨の質問にも自動で対応できます。これにより、構築の手間を大幅に軽減できることがメリットです。
また顧客からの質問を自動的に体系化して分析する機能もあり、その結果を活用することでFAQの拡充につなげられるほか、顧客の問い合わせニーズや、表面化しづらい顧客の声を把握できるといった利点もあります。
音声認識で実現する効率的な通話分析
AIを活用した音声認識も多くのコンタクトセンターに広まりつつあります。こうした音声認識ソリューションは以前からありましたが、昨今のAIの進歩によって、大幅に認識精度が向上しました。
その具体的な用途の1つとして、通話内容をリアルタイムにテキスト化し、その内容をスーパーバイザーがチェックするといった使い方が考えられます。複数のオペレーターの音声を同時に聞くことは困難ですが、テキストであればまとめてチェックできます。NGワードを検出してアラートを発出する機能を備えたソリューション「ForeSight Voice Mining」なら、迅速に応対中のオペレーターへのサポートが可能です。テキスト化した内容を元に、顧客からの質問内容に対する回答案をオペレーターの端末上に表示するといった使い方も考えられます。オペレーターは目的の情報にすばやくアクセスでき、コール時間の短縮、あるいは回答の迅速化による顧客満足度の向上が期待できます。
小規模なコンタクトセンターでも導入しやすいNTT Comのクラウドサービス「COTOHA Voice Insight®」もあります。40年以上蓄積されたNTT研究所の技術を用い、高い音声認識率を実現しているほか、コンタクトセンター向けのチューニングが行われていることが特徴で、さらにクラウドサービスのために設備費用も不要です。このサービスでは音声認識の結果をテキストデータとして取得できるため、キーワード検索でクレーム対応のモニタリングや通話内容のコンプライアンスチェック、優秀なオペレーターのトークスクリプトの抽出といったことを容易に実現することが可能です。
実用段階に入ったAIによる自動応答
さらなるコンタクトセンターの効率向上や、呼量が増大する中での放棄呼率の低減を目指すのであれば、AIによる電話の自動応答も視野に入るでしょう。
昨今では顧客からの注文受付をAIで自動化する事例が登場しています。自然な会話ができるAIを使って、お客さまからの注文を受け付け、さらに注文内容をシステムに自動で登録してくれます。業務の多くの部分を自動化することで、オペレーターの負荷が大幅に削減できます。
顧客応対時のやりとりと後続処理(システム入力等)をAIがまとめて自動化
24時間受付の実現、そして多言語対応が可能になることもAIを利用する大きなメリットです。ライフスタイルの多様化により、時間を問わずに問い合わせしたい、あるいは注文したいといったニーズが増加しているほか、在日外国人の増加から、日本語以外での対応が求められるケースも珍しくありません。AIであれば、こうした状況にも対応するサービスが増えてきています。
コンタクトセンターを取り巻く環境の変化を踏まえると、現状と同じ体制で運営するのは難しくなってきています。今後も顧客接点の最前線にコンタクトセンターを位置づけるのであれば、AIを活用したデジタルトランスフォーメーションを真剣に検討すべきではないでしょうか。