1.話題の「メタバース」って、そもそも何?
「メタバース」という言葉を、ビジネスシーンで聞いたことがある人も多いかもしれません。
メタバースとは、メタ(meta=超越した)とユニバース(universe=宇宙)を組み合わせた造語で、仮想空間に構築された、現実世界とは異なる3次元の仮想空間、およびその空間で提供されるサービスのことを指します。簡単にいえば、オンライン上のバーチャルな空間で、実世界の離れた場所にいる複数の人たちと交流できるサービスのことです。オンラインゲームをやったことがある人であれば、イメージしやすいかもしれません。
メタバースに取り組んでいる企業は国内・海外問わず増えています。直接対面する機会が減ったビジネスシーンにおいて、よりリアルなマッチングの場として利用されつつあります。いくつか例を挙げてみましょう。
①小売・流通業による仮想店舗の運営
仮想空間上で実際の店舗を再現し、商品を販売するという方法です。ECサイトなどと比較し、アバターを活用することで、場所や時間にとらわれない接客を行うことが可能です。
②ショールームとしての活用
製造業の展示会や、不動産業において、3Dモデルを活用したプレゼンが広まっています。ウェビナーなどと比べ、触る、動かすといったインタラクティブな体験を顧客に提供することができます。
③従業員教育
製造設備の利用方法や接客、勉強会などをメタバース空間で行うことで、実際に現場に集まらなくても五感を活用したトレーニング体験が可能になります。
こうした動きは拡大しており、経済産業省でも、2021年7月に同省が発表した「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業 報告書」(※)にて、「コロナ禍で現実空間が行き来できないこともあり、メタバースを含む仮想現実のメディアが広がりつつある」と、メタバースの勢いを指摘しています。
(※) 経済産業省「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業 報告書」
(※) 経済産業省「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業 報告書」を基に編集部で作成
2.なぜメールやチャットでもコミュニケーションできる時代に「メタバース」なのか?
しかし、実際に人と会わずにコミュニケーションを取るのであれば、何もメタバースでなくとも、メールやチャット、Web会議でも可能です。テクノロジーを活用したコミュニケーション手段がすでに存在しているにも関わらず、なぜメタバースが人気を集めているのでしょうか?
理由のひとつとして、メタバース内の映像および体験が“リアル”である点が考えられます。
多くのメタバースでは映像が立体的でリアルなため、VRゴーグルを着用すれば、まるで自分がその世界に入っているような体験が得られるという特徴があります。さらに、複数のユーザーが同時にその世界で活動しているため、ユーザー同士のやりとりも、リアルタイムで行われます。つまりメタバースでは、仮想空間の中に在りながらも、現実のようにリアルにコミュニケーションできる仕組みになっているのです。
特に、視覚的なリアリティを重視する取り組みは、現在も進化し続けています。たとえばドコモビジネスでは、仮想空間上のアバターで表情や体の動きを再現する技術を開発しています。この技術は、センサーで口元や関節の動作を検知することで、現実世界の体の動きをほぼリアルタイムでメタバースに反映します。つまり、メタバース内でも表情やジェスチャーでコミュニケーションが取れることになります。
こうした現実世界の情報をトレース(写し取る)する技術が進化することで、メタバースでのコミュニケーションは、現実世界のものに徐々に近づいていくことが予想されます。
3.仮想空間で取引された1億6000万円の土地に、所有権は発生するか?
とはいえ、新しい技術にはトラブルがつきものです。経産省ではメタバースなど仮想空間でのコミュニケーションが進化することで、権利の保護や侵害、違法情報の流通といったトラブルが発生することを懸念しています。
経産省ではその一例として、先に挙げた「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業 報告書」にて、あるゲームの中の土地が1億6,000万円で売買が成立したケースを紹介。こうした仮想空間内で作成した仮想オブジェクトに対する権利の保護は、現行法は著作権での保護となり、所有権や占有権といった特権性は認められないとしています。
しかし同報告書では、このことを「現行法に課題がある」とし、今後仮想空間の活用が拡大した際には、仮想オブジェクトを販売した企業に対し、顧客の所有権を保護するなどの対応が求められる可能性がある、としています。
同報告書ではこのほかにも、仮想空間内における違法・有害情報の流通やチート(不正)行為、青少年の利用トラブル、詐欺行為などの問題を指摘しています。仮想空間でのビジネスに参入する事業者に対しては、法律による対応だけでなく、そもそもこうしたトラブルが回避できるようなアーキテクチャ(設計思想)を取り入れるべきと指摘しています。
(※) 経済産業省「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業 報告書」を基に編集部で作成
もちろん、先に挙げたようなマイナス面がクリアできてしまえば、世界中の人々が安心してメタバースに参加し、仮想空間でリアルなコミュニケーションを行うことが可能になります。エンターテインメント業界の参入はもちろん、医療、教育業界も参入すれば、メタバースはより我々人類の暮らしに欠かせない存在になることでしょう。
日本でもメタバースを活用したバーチャルイベントが度々開催されています。機会があれば今から参加してみて、その可能性を体感してみてはいかがでしょうか。