1.そもそも、下請法とはなにか?
「下請法」とは、正式名称を「下請代金支払遅延等防止法」といい、独占禁止法と同様、公正かつ自由な競争の実現を目指すための法律です。
下請法は、親事業者が下請事業者に対し、その優越的地位の濫用を防ぐための法律です。具体的には、親事業者が下請事業者に対し、物品の製造や修理はもちろん、ソフトウェアなどの情報成果物の作成、運送、情報処理、ビルメンテナンスといった役務の提供を委託した際に、親事業者が下請事業者に対して義務を怠ったとき、禁止行為を行ったときに適用されます。
親事業者が負う義務には発注書面の交付・作成・保存に加え、下請事業者から役務の提供を受けた日から60日以内に、できるだけ早く下請代金の支払いを行うことが定められています。もし支払期日までに支払わなかった場合、60日後から実際に支払った日までの日数に年率14.6%を乗じた金額を「遅延利息」として支払うことも義務化されています。

2.まだまだ、下請法を守っている企業は少ない?
しかし実際のところ、下請法は遵守されているとは言い難いようです。
公正取引委員会が2023年に発表した資料(※)によると、2022年度の同委員会の相談窓口に下請法に関する相談が14,003件にのぼり、このうち同法に基づき親事業者への指導を行った件数は8,665件あったと発表しました。これは同法が施行された1956年以来、過去最高の数値だったといいます。
(※) 公正取引委員会「令和4年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組」
2023年2月には、中小企業庁が下請事業者との取引に関する調査をオンラインで実施したところ、下請代金の支払サイト(取引代金の締め日から支払日までの猶予期間)が60日を超えた手形(記載した金額を、一定の期日までに支払うことを約束した書類)にて支払っていると回答した親事業者の約6,000名に対し、是正を求めた(※)といいます。
(※)中小企業庁・公正取引委員会「手形等のサイトの短縮について」
現行の下請法には、手形による代金の支払いを禁止する規定はありません。したがって親事業者が手形で支払うことで、「下請代金の支払いを60日以内に行う」義務から逃れることが可能にも見えます。
しかしながら、中小企業庁と公正取引委員会では、2021年3月31日に「下請代金の支払に係る手形等のサイトについては、60日以内とすること」というメッセージを発表(※)しており、たとえ手形であっても、60日の支払い義務のルールからは逃れられないことを指摘。それどころか「下請代金の支払は、できる限り現金によるものとすること」と、そもそも支払いに手形を使用しないよう推奨しています。
(※) 中小企業庁・公正取引委員会「下請代金の支払手段について」
中小企業庁と公正取引委員会は2023年2月、前述の親事業者約6,000名に対し、可能な限り速やかに手形のサイトを60日以内に短縮することを要請(※)。さらに2024年を目処に、サイトが60日を超える手形を指導の対象とすることを前提に、下請法の見直しを検討するとしています。
(※) 中小企業庁・公正取引委員会「手形等のサイトの短縮について」
いままでは手形の支払いによる抜け道があるように見えていた下請法ですが、これからは60日の支払いルールをより徹底することが重要になってくるでしょう。
3.親事業者側も下請事業者側も、
ルールに違反していないか確認しよう
下請法には、親事業者の義務だけでなく、親事業者がやってはいけない「禁止行為」についても、11項目に分けて定められています。

たとえば、支払代金を期日までに支払わない、下請事業者に責任がないにも関わらず、下請代金の額を減額することも禁じられています。昨今、物価やエネルギーコストが上昇していますが、それを理由にすることもできません。すでに2021年12月、内閣官房、各省庁、公正取引員会は「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」『労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇を取引価格に反映しない取引は、下請法上の「買いたたき」に該当するおそれがあることを明確化するため、「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」の改正も行われています。
さらに、下請事業者が中小企業庁や公正取引委員会に親事業者の禁止行為を知らせた報復として、親事業者が取引を停止する、支払期日までに金融機関で割引(現金化)が困難な手形を交付することも禁止となっています。いずれ、支払い期日が60日を超えた手形の発行も禁止項目に含まれる予定です。
下請法に違反した際の罰則は、発注書面の交付・作成・保存を怠った場合は50万円、11項目の禁止行為を行った場合は、公正取引委員会から勧告・指導を受けることになります。もし「勧告」を受けた場合は、どのような勧告が行われたのか、その詳細が公正取引委員会のサイトに掲載されてしまうことになり、今後の事業運営に悪影響を与えるおそれもあります。
ビジネスを続けていくうえで、他の会社や個人に発注する、逆に発注を受けることはしばしば起こりますが、そこには下請法というルールが存在します。その発注が本当に下請法に違反していないか、親事業者の立場からでも、下請事業者の立場からでも、改めて考えてみることをおすすめします。そして、互いがきちんと下請法に則った取引をしたという証跡を残しておくことも重要になります。